621がV.Ⅸになるifルートの話   作:ikos

10 / 52
変革のかたち

 

 

 新しい携帯端末はアーキバスから支給してもらえるとのことだったが、丁重にお断りした。何を仕込まれるか分かったものではない。これは用心と言うよりもはや信頼だ。アーキバスというよりスネイルなら、絶対にやる。

 同じく、機体の通信系修理も傭兵支援組織に依頼して、ようやくウォルターと連絡を取ることができた。

 

《6――! ……いや、気にするな。……無事だったようだな、レイヴン》

 

 随分と心配してくれたようだ。前から思っていたが、ときどき番号が出ている。口癖のように呼んでいたためだろう。こちらは特にどう呼ばれても構わなかったが、本人がそうしたいなら任せるまでだ。

 通信手段が全滅したことを報告し、携帯端末をどのルートで調達するか相談する。

 少し考え、ウォルターが答えた。

 

《盗聴を危惧してのことなら、完全に防ぐことよりも、お前が聞かれても困らない相手を選ぶべきだろう。エルカノか、RaDだな。……俺が用意することもできるが》

「じゃあお願い」

《……もう少し慎重になれ、レイヴン》

「そうは言っても、アーキバスの機密情報を個人端末でやり取りはしないし……バックドアを仕込んでデータを取っても、ほとんどフロイトの独り言で埋め尽くされるんじゃないかしら」

《……そうか。仲良くやっているようだな》

 

 あまりに父親めいた発言だったので、笑いを堪えるのに苦労した。

 昔ボーイフレンドができたときの実父も、確か、こんな感じの口調をしていたような気がする。

 すっかり気持ちが緩んでしまった。切り替えるために、ひとつ息を吐く。

 

「ところで、ウォルター。ウォッチポイントの件だけど、死にかけたわけだから一応聞いておくわ。……あの“事故”、予想はできなかったのよね?」

《……ウォッチポイントはその名の通り、観測と、せいぜいが流量管理を行う施設だった。コーラルを汲み出す性質のものではない。そう判断していたが……あれは、俺の計算誤りだ。すまない》

「ならいいわ。……目的のデータは手に入った?」

《ああ。よくやった》

「そう、なによりね」

 

 それがどういったものなのか、ウォルターは話さない。こちらも、聞くつもりはなかった。

 

「それじゃ、また」

《……ああ。これから企業への働きかけを行う。しばらく仕事を頼む機会はないだろう。ゆっくり休め》

 

 

 

 とはいえ、組織として動いてくるヴェスパーからの依頼がなければ暇なものである。地道に続けている日課の基礎訓練とフロイトとの(実戦まがいの)模擬戦くらいしかない。

 そんな折、持ち込まれたのは、いささかおかしな依頼だった。

 

 

 

 依頼主はずいぶんと胡乱な男だった。ドーザーの酩酊状態だと言われれば納得するし、素だと言われても納得する、そんな具合の男だ。

 依頼内容はRaDを相手にした機密情報窃取武力援護。すでに相手施設へドローンを仕込んでいるという。ドーザー同士の小競り合いかと思えば、内容はなんともアンバランスな作戦だった。

 なにしろ依頼主たるコヨーテスには武器製造能力がない。機密情報を手に入れたところで、金に換えるくらいしか使い道はないはずだ。

 

 ともあれ依頼を受けてすぐ現場に急行したのだが――お粗末なことに、到着した時点で、折角仕込んだハッキングドローンはすべて壊されたあとだった。設置する時点から呼んでおいて欲しいものだ。

 これでは何もすることがない。仕方なしに依頼主へ連絡を取ろうとしたとき、聞き覚えのある声が呼びかけてきた。

 

《誰かと思えば……アーキバスのクソ犬か!》

 

 深緑の二脚機体――レッドガンG5、イグアスだった。何回目かの因縁だ。

 ベイラムのAC部隊とドーザーが組んでいるとはめずらしい。独立傭兵に鞍替えでもしたのだろうか。

 

《ハッ。面倒を押し付けられたもんだと思ってたが……狂犬野郎、テメエを潰せるなら悪くねえ!》

「……もう手遅れみたいだから帰るところだったんだけど。やるの? 別に良いけど」

《そのスカした態度が気に食わねえんだよ!!》

「言ってくれるわね」

 

 そんなつもりはなかったので、ちょっと傷ついた。言い方がまずかったのだろうか。

 ともあれ、新しく組んだ機体の試しには、レッドガンの番号付きは格別の相手だ。盾持ちだからそうそうにやられてしまいはしないだろう。

 少し距離があったので、始まりは流動的だった。小手調べにハンドミサイルを放ちながら、背後に回り込む。

 

《……うるっせえ、んなもん見りゃわかる! ――おい、肩のやつは何だ!?》

 

 脈絡のない叫びに、少しばかり困惑した。

 専用回線のオペレーターと喧嘩でもしているのだろうか。広域通信で叫ばないで欲しい。

 

《オービットか。クソ、めんっどくせえ……!》

 

 盛大にぼやきながらも、イグアスの動きがランスを警戒するようなものに変わった。

 こちらの戦略をすぐに把握したらしい。

 気分が盛り上がってきた。先日戦ったときとはまるで別人だ。あのときは、噛みついてくる割に腰の引けた戦い方だと思っていたのに、今は、警戒しながらも喉笛を食い破ろうとする気配を感じる。

 

《つーかテメエ、毎回コロコロ武器変えてんじゃねえよ!! 頭おかしいんじゃねえか!?》

「え、色々試してみたいじゃない」

《普通じゃねえっつってんだよクソが!!》

 

 フロイトに比べれば変更頻度は低いはずだが――今回の兵装は、たしかにいつにも増して趣が異なっていた。

 ハンドミサイルに実弾オービット、ダブルグレネード。そして、目玉はレーザーランスだ。

 相手のマガジンが空になるタイミングでミサイルを放った。ランスをチャージののち、距離を保つ敵機に狙いを定める。引っ張られるような激しい牽引力に無理やり制動をかけ、武器固有のブーストを馴らすように――全力で、“振り払った”。

 

《――ハア!?》

 

 そう、これがやりたかったのだ。

 人間用の武器の話だが、槍というのは振り回す方が強いと聞いたことがある。同じようなことができないかと思いついてユーザーであるスネイルに相談すると、それはもう、ものすごい顔をされた。

 なにしろランスは武器自体に内蔵ブースターがついている。本来のコンセプトとしては、刺突に特化した突進兵器だ。だが、無理をすれば狙いを物理的に動かせないものではない。

 こちらの制御にかなり細かい操作が必要になるがための、ハンドミサイルだ。そちらを当てるのは誘導に任せ、ランスの操作に集中する。

 そんなお楽しみの最初の相手になったイグアスは、声でこそ困惑しきった反応をしていたものの、こちらの攻撃を掠るにとどめた。

 やはり、反応が速い。ぞくぞくする面白さを感じた。

 

「そこのオペレーターさん、かなり優秀なんじゃない? うちに欲しいわ」

《ふざっけんなよ、この野郎……!》

 

 苛立ちに染まった声が憎々しげに言う。シールドで被弾を抑えているとは言え、相手の兵装は少し火力不足だ。このまま押し切ろうと思えば押し切れてしまうだろう。けれど、それは――勿体ない。

 

 そのとき不意に、耳鳴りがした。

 違和感に眉をひそめる。旧世代型ではよくある症状だと聞いているが、少なくとも今まで、自分の身には起きていなかったのだ。コーラルに呑まれた後遺症だろうか。

 

 威嚇するようなライフルをミサイルの弾幕でいなしつつ、距離をはかった。

 ミサイルとオービットでかなり気を散らせているはずなのに、なかなか隙がない。時折射るように挟んでくるリニアライフルが危険だった。小憎たらしいタイミングで差し込まれてくる。

 ブーストで一気に距離を詰め、今度は頭上からランスを振り下ろした。盾が限界を迎える。すかさず肩のバズーカを打ち込んだ。直撃したのは一発目だけだ。動きが良い。

 フロイトとはまた違ったタイプだ。捕まえるのに手を焼く動きだった。おまけに、段々とオービットの射程圏内を良い具合に避けてきている。

 きっとここで落としてしまうより、続きがある方が絶対に面白くなる。煽るだけ煽っておけばきっとさらに効果的だ。どうにか殺さないよう無力化したい。

 敵機のミサイルを回避したとき、通信が入った。依頼主だ。

 

《ああ、ご友人。……おや失礼、ダンスの途中でしたか?》

「到着時点で作戦は失敗していたわ。ご要望は?」

《なんということでしょう。残念だ……健気に働いていたハッキングドローンたち。私に贈り物は届かない……貴方に支払える報酬は、泡沫の彼方に消えてしまったようです。悲しいことです。本当に、とても、残念だ……》

「……ちょっと待って。びた一文払わないつもり?」

《次はもっとうまく貴方と踊れるよう、私も心に留め置きます。新しいご友人、どうか貴方も、その日まで私のことを覚えておいてくだされば……それはとても、素敵なことだ……》

 

 一方的にポエムを垂れ流し、通信が切られる。

 広域回線でのたまってくれたおかげで、辺りに事情が筒抜けだった。

 

《ハッ!! いいざまだな、狂犬野郎!!》

 

 芸のない煽りがいらっとする。

 八つ当たりを始めそうな気持ちになったが、それをぶつけるよりも、妙な横やりが入る方が早かった。

 遠距離からの青い狙撃が、一秒前までいた場所を射貫く。

 覚えはある。もはや馴染みさえある。いずれも、所属は相変わらずの「不明」だ。

 

《なんだア、こいつら……!? 次から次へと、何が起きてやがる!!》

「とりあえず不明機体を倒すわ。続きはあとね」

《クソッ……お前が決めんじゃねえ!!》

 

 射線を頼りにアサルトブーストで接近し、狙撃機体を2体片付ける。

 違和感があったのは、狙いがこちらではなく、イグアスに向けられていたことだ。

 案外、巻き込まれたのはこちらなのかもしれない。どちらにしろ誤差だ。

 近接2体は動きを見たくて少し距離を取ったのだが、さすがにこの状況では遊びすぎだろう。適当にハンドミサイルを放っているうちにイグアスが仕留めた。

 立っているのが2体になれば、続きを始めざるを得ない。

 お互いにそれを理解していたからこそ、銃口を向け合う。

 

 まるで鞭のようにしなる声が、その場に割って入った。

 

《待ちな。――まったく、相変わらずのクズさだねえ、あの男。

 まあいい。あんたもよく分かっただろう? 次から、組む相手はよく考えるのを勧めるよ》

 

 先ほどの依頼主と同じく、広域回線での通信だ。

 いかにもマフィアもどきのボスといった印象の、気怠げでありながら剣呑な女性の声だった。

 こちらにだけではなく、施設内の部下に聞かせるためのものでもあるのだろう。

 ここで引いても、追撃はしない、と示すための。

 

《ここから先を続けても、喜ぶのはあの変態だけさ。あんたがそれを望んでるなら、こっちとしても続けるしかないが……あんたには1コームも入らないだろうね。それとも、クソみたいな義理で無駄玉を垂れ流す趣味でもあるのかい?》

 

 少し考えて、銃口を降ろした。

 

「……義理はないわね。たしかに、潮時だわ」

《そいつは賢明だ。……あんたとやりあうのは骨が折れそうだからね。ビジターと続きを楽しみたいなら、うちと関係のない場所で頼みたいもんだ》

 

 少し驚いた。イグアスとの戦闘に多少の未練があったことを、この短時間で見抜いたらしい。

 

《おい! 勝手に――》

《ビジター、あんたもだ。うちの依頼や、あんたの会社からの指令は、こいつとの戦闘じゃなかったはずだろ? こいつが手を引くと言った以上、うちは追加報酬なんざ払わないよ。それでもいいなら好きにしな!》

 

 内容と言うよりは、迫力に押されたのだろう。イグアスも渋々といった様子で銃口を降ろした。

 少しばかりの残念さを覚えながら、呼びかけた。

 

「次を楽しみにしてるわ」

《テメエは、絶対に、次で、潰す……!!》

 

 すっかり嫌われてしまったらしい。この上ないほどの片想いだった。

 耳鳴りは、いつの間にか止んでいた。

 

 

 

***

 

 

 

 予定外に仕事が早く終わってしまったので、ぽっかりと時間が空いた。

 アーキバス進駐拠点の屋上で、今日の実戦を踏まえてアセンブリを調整する。ジェネレーター選びに改善の余地がありそうだった。

 今日もなかなか良い天気だ。通り抜けていく風が心地よい。

 

「またここにいたのか」

 

 かけられた声に顔を上げると、フライトジャケット姿のフロイトが階段を上ってきた。あちらも仕事が終わったらしい。

 開いた扉口にもたれたまま、業務用のパネルを相手にも見えるように動かした。

 

「ここが一番集中できるのよ」

「眩しくないか?」

「眩しいくらいがいいの」

 

 隣に立ったフロイトが当たり前のように腰を抱いてくる。表面上あまり変わらなかった関係性の、ささやかな変化だったが、第1部隊の面々は初めて目撃したとき揃って絶句していた。

 とうとう、という悲鳴が何を意味していたのかはわからない。こちらとしては予想外の変化だったのだが、性別が男女だというだけでそう見られるものなのだろうか。

 しかしてそのうち周囲も慣れた。どう見てもいちゃついている構図なのだが、その状態で交わされる会話がまったく変わっていないせいだろう。人前でそれ以外の接触はしてこなかったため、目に余るほどのものでもない。

 

 「あれ、何だと思う?」と、あるときメーテルリンクに相談したところ、「さあ……縄張りの主張とか?」と一緒に首を傾げられた。

 独占欲、手癖、牽制。どれも今ひとつしっくりこない説だ。

 

 パネルを覗き込んだフロイトが、ふと意外そうに首を傾げた。

 

「ん? ……機体名を変えたのか」

 

 目ざとい。

 今回の組み立てを考えた際に機体のフレームを一新して、予定通り派手なペイントもした。メカニックに丸投げしたらまさかの淡紅色(コーラルピンク)が出てきて驚いたが、まあ識別しやすくはなっただろう。白い大きな流線の差し色は綺麗だと思う。

 ついでに、いい機会なので、きちんと機体名をつけたのだ。

 

 AC Unravel(アンラヴル)――ほどく、解き明かすといった意味を持つ名前は、鍵職人(ロックスミス)から連想したものだった。

 フロイトもそれに気づいたらしい。まじまじとこちらを見てくる。

 なんとはない居心地の悪さに顔を背けた。

 とたんに、笑い声が弾ける。

 

「……はははははははっ! お前、可っ愛いなあ!!」

「わっ!?」

 

 まるで大型犬を撫で回すような勢いで、両手でぐしゃぐしゃと髪を掻きまぜられる。

 まさか喜ぶとは思っていなかった。ACに関することだから、テンションが5割増しなのかもしれない。それだけでは感情を発散しきれなかったようで、そのままぎゅうぎゅうと抱きすくめてきた。

 頭に乗った顎が少々痛い。

 

「はー、笑った。こんな笑ったの久々だ」

「……良かったわね。笑うのは健康に良いっていうわよ」

「元病人が言うと重みがあるな」

「でしょう?」

 

 少し日が傾いてきた。

 空が黄味を帯び始めている。まばらな羊雲が黄金に染まっていて、やっぱり、ここから見る景色が一番好きだと思った。

 

「このあと時間はあるんだろう? 一戦やろう」

「いいわよ。今日はちょっと驚いて欲しいのよね……うまく行くといいんだけど」

「言ったな。期待させてくれよ」

 

 何事もなかったかのように抱擁をといて、フロイトが階段を降りていく。

 すっかりぼさぼさになってしまった髪を手櫛で直す。急かす声に笑いながら、屋上を後にした。

 

 

 

 








……だって、思いついてしまったんだ! 生真面目委員長タイプとチンピラ系不良、ラブコメの王道じゃないかってッ!!(ごめんなさい)
カーラがイグアスに手を貸したのは単純に気に入ったから、止めに入ったのは621のことを存在自体は知っていたからです。

あとブルートゥの言い回しが難しくて仕方ないですほんと、誰か添削して欲しい…

ACに名前がつきました。他にももう一つ、重要な意味があります。



▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。