先日までルビコン解放戦線の防衛拠点であった「壁」は、現在、アーキバスの調査拠点となっている。
同じくコーラルを探すベイラムとしては当然目障りだというのはわかるが、解放戦線相手でも落とせなかった壁をアーキバス相手に落とそうというのは、なかなか骨のある話だった。
襲撃の情報を受けて現着し、状況の報告を受ける。
ベイラムはあいかわらずの物量押しのようだ。人材の補填が容易でない状況下でよくやるものだとは思うが、手応えがあるのはいいことだ。
「MT部隊は敵勢力を防衛部隊と挟撃しろ。俺はACをやる」
《了解》
「さて……少しは楽しませてくれるといいんだが」
ACは街区東部エリアから中央に向かって侵攻していた。意外に押し込まれている。
期待とともに迎撃に向かうと、相手はタンクと2脚だった。
G4ヴォルタ AC「キャノンヘッド」、G5イグアス AC「ヘッドブリンガー」。オペレーターからの報告を口角を上げて聞きながら、交戦する友軍機に声をかける。
「下がって良いぞ、ガイダンス。MT部隊と合流しろ」
《はっ!? し、しかし首席隊長殿、相手は2機――》
「だから面白そうなんじゃないか」
《……んぬあっ!?》
二の句が継げないといった様子のV.Ⅶを余所に射程内へ到達し、ライフルの引き金を引く。
レッドガンの2機が動揺した声を上げた。
《V.Ⅰだぁ!? アーキバスめ、虎の子を出してきやがったか!》
《ちっ、やっぱりロクでもねえ仕事じゃねぇか……!》
《だが落とせば大金星だぜ。気合い入れろよ、イグアス!》
《クソが!》
タンクが張り付いてきた。盾を構えた2脚がその後ろから右へ回る。
ショットガン、すかさずグレネード。回り込んだ2脚からはマシンガンのばらまき。
射線を正確に読み取りながら上下動を交え、最小限の動きで躱した。
《チッ、やっぱタダモンじゃねえな。かすりもしねえ……!》
避ける先を潰すよう、ヘッドブリンガーが背後を狙う。地道に削る作戦だろう。
「セオリー通りだが悪くない連携だ。いかにもレッドガンといった感じだな」
機体を旋回させ、ヘッドブリンガーに狙いを定める。
背後から放たれた分裂ミサイルの軌道は脳裏の予測通りで、一度のバックブーストで対応した。レーザードローンを展開させ、パルスキャノンとライフルで盾を削っていく。
警告と勘に従って視界外からのグレネードを避ける。僚機への射線をきちんと外しているのなら、どのタイミングでどの角度に撃ってくるかはわかるものだ。正規の訓練を受けているからこそ読みやすい。
盾が限界を迎え、ヘッドブリンガーのACSが停止する。レーザーダガーを閃かせて一息に装甲を削った。
《しまっ――》
《イグアス!》
「っと」
後方からショットガンの弾と同時に、キャノンヘッドが体当たりを仕掛けてきた。
そのまま急旋回、割って入るように肩の2連グレネードを放つ。当たりこそしなかったが、少しぞわりと昂揚した。
「いいな。今のはまあまあ面白かった」
《上からモノ言ってんじゃねえ!!》
体勢を持ち直したヘッドブリンガーがリニアライフルのチャージ弾を撃ち込む。狙いが甘い。
飛び交うミサイルを処理しながら笑う。
再び同じコンビネーションを展開しようとしているようだが、もう少し工夫が欲しいところだ。
まあ、
追加したシステムを起動する。モニタにいくつか小さなウィンドウが表示され、数値と図形と映像で状況を教えてきた。
アサルトライフルを撃ちながら回り込む。盾を展開して応戦するヘッドブリンガーを、
《ぐっ……! あァ!? 何が起きた……!?》
《馬鹿野郎、目ぇ離すんじゃねえ!!》
気付かれずにチクチクやるのも面白そうだと思ったのだが、思ったよりもまともに入ったらしい。
個別操作したドローンのコントロールをオートに戻し、意識を取られたヘッドブリンガーの懐へアサルトブーストで取り付く。
肩を掴むと同時、足払いの要領で相手の機体姿勢制御に無茶な数値を入れて引き倒した。肩関節へレーザーダガーを捩り込む。
《がッ!?》
さすがに斬り落とすまでは至らなかったが、思っていたよりも予想通りに事が運んだ。破損し、火花を起こしている。
キャノンヘッドが援護に入る。距離を取るヘッドブリンガーを、捕まえる必要性は感じなかった。
「なるほど、こんな感じか。
《テメエ……! 何のつもりだ!?》
「気にするな、練習だ。次は脚側を狙う。頑張って避けてくれ」
《ふざけんじゃねえぞ、この野郎!》
《やめとけ、イグアス! 挑発に乗るな! こいつはマジでやべえ、この状況で遊んでやがる……!!》
弾が飛び交う中での問答だ。バズーカの爆発範囲を避け、ヘッドブリンガーを間に置く。パルスキャノンがシールドと好相性だ。レーザードローンも含めればあっという間にACSに限界が来る。
こちらもそれなりに衝撃が蓄積していた。パルスアーマーを展開して体勢を立て直す。リニアライフルの弾をその表面で受けた。
迎撃で蹴りを出そうとするのはいい試みだった。だが予測の範囲内だ。ACSを切って機体の膝を畳み、宣言通りに、脚部の関節を横合いから打ち付けた。
ACSを有効化。自分の攻撃の反動を、ブーストを軽く入れて緩和する。
《ふざっ……けんじゃねえぞ!? どういう動きだ!?》
「悪くはないが今一歩だな。もう少し楽しませてくれ」
《クソッ……! 遊びやがって、気に食わねえ……!!》
《イグアス! ――うおッ!?》
距離を取りながら、キャノンヘッドにレーザードローンの射撃を集中させた。同じ位置に正確に――3点から、メインカメラを狙う。こちらもうまく行った。いや、距離が少し遠かったか。要練習だ。
《ちっ……こりゃいよいよ、やべえな……!》
「やりたかったことは大体試してみたんだが、続けるか? このあと用が入りそうなんだ。退くなら早く済むから悪くない」
《テメエ!!》
《構うな、この損傷じゃ勝ち目はねえ。ずらかるぞ! ……こいつ、本当に化け物だ……!》
前回、レイヴンがそれなりに気にかけていた相手だ。それ相応に可能性があるのだと信じて、撤退を見逃すことにした。
別に、ベイラムやレッドガンに敵対心はないのだ。むしろ製品としてはアーキバスより設計思想が好みだった。単純に先に採用されたのがヴェスパーだったというだけで、レッドガンに入る可能性も十分にあった。まあ実際、あの軍隊気質なところに受かったかどうかはわからないが。
ちょうどそのとき、端末に通信が入った。
レイヴンの出撃情報だ。
絶妙なタイミングだった。一気に向上した機嫌のまま副官に呼びかける。
「俺は用ができた。あとの追討は任せる」
《…………またですか、隊長……!》
「お前たちだけで十分だろ? じゃあ頼んだ」
言い置いて、早々に戦場を離れた。
追討戦でやられるほど第1部隊はやわではない。毎回嘆きはするがなんとかしてくれる部下たちに感謝しながら、スネイルの小言に邪魔をされないよう通信チャンネルを切っておいた。ついでに一応、
運の良い日だ。管制室や情報部の何人かを買収したとはいえ、情報が入ってから無断出撃までには、どうしても時間がかかってしまう。
毎回どうにか間に合わせていたのだが、今日は余裕がありそうだった。
- / - -
思えば生来、わりと努力のできるタイプの人間だったのだと思う。
最初から何もかもやってのけるほどの天才肌ではなかったが、コツコツ積み上げれば、何であれいずれは達成できるものだと思っていた。できないのはただ努力が足りないか、やり方が間違っているかのどちらかだと。
そうやってこの年齢まできてしまった。大した挫折もなく来ることができてしまった。
望めば何だってできるという子供じみた錯覚を、いつまで経っても手放せなかった。
その結果がこれなのだと思うと、ちょっとさすがに、過去の自分へ物申したい気分にはなる。
《また来たの?》
レイヴンの第一声だ。
つれない、と言ってもいい口ぶりだった。特に嫌がられてはいないと思うのだが、さすがに少しばかり傷つく。
到着した戦場はすっかりと片付いていた。余裕があるかと思いきや、結構ギリギリだったようだ。
半ば融けた雪の中、MTの残骸が散らばり、ちらつく炎とくすぶる煙の中で灰色のACが立っている。
大した損傷はなさそうだった。記憶ほどではなくとも、なかなかの腕前だ。
「来たら駄目だったか?」
《駄目ではないけど。ヴェスパーの首席隊長って、お金と時間が有り余ってるのかなとは思うわ》
「時間はまあ、それなりに遣り繰りしている。金払いはいいぞ。いつでも転職して来てくれ」
もう毎回言っているせいか、呆れたような気配があった。
《そうね。いつか気が向いたらね》
「いつ向くんだ?」
《今のところ予定はないわ。毎回ウォルターが渋面になっているみたいだから、いいかげん、毎回勧誘してくるのをやめてあげて。……そろそろ始める?》
「ああ。……それ、使ってくれているんだな」
ベイラムの火力型リニアライフル、LR-037 HARRISだ。一通りの武器を試した以前の彼女が最終的によく使っていたので、多分気にいるとは思っていた。
オールマインド経由で一方的に送りつけたので、放置される可能性も覚悟していたのだが。
《せっかく貰ったし……。結構、気に入ったから。でもこれきりにして》
「アーキバス系列の新製品、先に欲しくないか? 今度いいジェネレーターが出る予定だ」
《……欲しいけど。貢がれるのはちょっと》
「お前に似合いそうなのは贈りたくなるんだよな。色々使って俺と戦って欲しい。つまりは先行投資だ」
《……貴方、意外と口が上手いわね……》
「そうか? それは初めて言われたな」
首を捻った。
最近、口巧者のⅣとつるむことが増えている影響だろうか。
「褒められたついでに聞いてみるんだが、一緒に来ないか?」
《行かない》
「……じゃあせめて、メッセージのアドレス」
《悪いけど、ウォルターに止められてるの》
「保護者か!」
《飼い主ね》
「……前から思ってたんだが、その単語ちょっとエロ――」
問答無用で撃たれた。
ついときめくほど、かなりの精度のマニュアル早撃ちだった。
- / - -
ハンガーでロックスミス相手に愚痴るのも、ここのところの恒例になっていた。
最初の頃はぎょっとしたり持て余したりしていた整備班も今ではすっかり見ないことにしておくことに慣れたようで、淡々と修理を進めている。放っておいてくれるのはありがたい。
そんな周囲の状況に目が向くようになってきただけ、自分では、変わったと思っているのだが。
「また振られたか……。なあロックスミス、何が駄目なんだろうな……」
最近の変化はもうひとつある。V.Ⅳがなぜか暇を見つけてはやってくるのだ。多分弱みでも握りたいのだろう。
さすが女
本日も様子を見に来た4番は、女に黄色い声を上げさせている顔に、無駄に完璧な苦笑を浮かべていた。ここで決め顔をして何の意味があるというのか。もう生まれつきその顔なのか。ちょっと構っている余裕がない。
手摺りに突っ伏したまま、呻くようにぼやいた。
「……わからん……前の俺は一体どうやって好かれてたんだ……?」
「前、というのがよくわからないが……ここまでくると、そもそも、本当に好かれていたのかどうかが疑わしくなってくるな……」
「言ってくれる。好かれていたはずだ、(俺を殺して)泣いてたからな」
「むしろ嫌われていた可能性が上がったんだが!?」
思わず、といった様子でⅣが声を上擦らせる。
失言した口を抑えてよそを向くさまを、じろりと横目で睨んだ。間諜のくせに素を出すなと言いたい。
自覚はあったようで、咳払いでごまかそうとしている。無理がある。女相手ならこれでもごまかせるのだろうか。
「……すまない。まあ、聞いている限りでは、今の彼女は貴方に対してフラットというか……少なくとも、悪印象は抱いていないように感じるな」
「そう思うか?」
「一歩間違えばストーカーまがいの行動だと思うのだが、ずいぶんと鷹揚な女性だ……」
「お前だんだん遠慮がなくなってきてないか」
「これでも言葉は選んでいるつもりだ、首席隊長」
「選んでこれか……」
ぐだぐだしながら天井を仰ぎ、ため息を吐く。
とはいえストーカーと呼ばれようと、こうでもしなければ接点など皆無なのだ。引き続き、金にものを言わせるしかない。恥も外聞もあるものか。
そんな決意を口にすると、4番がなんとも言えない顔をした。
「……独立傭兵なのだから不思議はないが……彼女は金銭で動くタイプなのか? どうも、印象がちぐはぐだ」
「そうだな。今は特に、金がいる理由が――」
何の気もなしに答えながら、はたと、とんでもない見落としに気づいた。
そうだ、今の彼女はまとまった金を必要としている。――
顔色を変えたからだろう。Ⅳが訝しげに眉をひそめた。
「どうしたんだ?」
「……助かった。礼を言う」
どうして思いつかなかったのか、自分に舌打ちをしたくなる。
目を丸くする第4隊長を置き去りに、再びロックスミスへ乗り込んだ。レイヴンとの唯一の連絡手段であるACへの通信チャンネルに接続を試みるが、タイミングが悪かったのかいつまで経っても応答がない。焦燥に駆られながら音声メッセージを送った。ずっとコクピットで粘っているわけにもいかないので、個人端末のアドレスもつけておく。
これで折り返しがなければ連日アホのような勢いで呼び出しをかけてやろうと思っていたのだが、幸いにも、2時間ほどで個人端末へ着信があった。
非通知だが、教えている相手などほとんどいない。迷いなく応答した。
「フロイトだ。レイヴンか?」
《……ええ。遅くなってごめんなさい、何かあった?》
どことなく気遣わしげな声音に、焦っていた感情がすとんと落ち着いた。
心配していたはずが心配されている。よほど切迫して聞こえたのだろう。
思わず、深々と息を吐いてしまった。まだ何も解決していないというのに。
「……悪い、焦りすぎた。……確認させてくれ、レイヴン。お前、今、自力で歩けないんじゃないか」
息を呑む気配に、わかっていたことだが正解を察した。
困惑した声がする。
《……どうしてそんなことを?》
「当たりだな。ACの脱出機構の使い方はわかっているか? 射出された後は自力で逃げることを前提としている。戦闘区域から離れられないなら、そんなものはただの自殺行為だ」
《…………》
「一度も撃墜されないことを前提にしているわけでもないだろう。ウォルターはその辺り、何をどう考えて――」
口にしたあと、方向性を誤ったことに気づいた。
思わず舌打ちして、ぐしゃぐしゃと髪をかき回す。
「……今のは忘れてくれ。言いたいのはそこじゃない。とりあえず足だけでもいい、できるだけ早く治すべきだ。金が問題なら俺が出す。アーキバスに借りを作りたくないというなら、ウォルターの方針が知りたい。直接話をさせてくれ。……頼む」
長い沈黙が落ちた。
一番多くを占めるのは困惑だっただろう。それから一匙の不審感と、ほんの少しだけ、何かやわらかな感情もあった。
《……貴方が、「お願い」をするのは……たぶん、とても、めずらしいことなんでしょうね》
予想外の反応に、どうだっただろうかと考えた。
要求を呑ませる前提で口にすることは多いが、確かに、こんな風に懇願めいた気持ちで言うのは記憶にないかもしれない。
《私一人では決められない。ウォルターと相談するわ》
「ああ。そうしてくれ」
《……どうしてそこまで、とは思うけど……心配してくれたのよね。素直に感謝しておくわ。貴方の言うことは、もっともだと思う》
「ならいい。連絡を待っている」
《この端末でいいの?》
「ああ。ついでに、お前の連絡先を教えてくれてもいいんだが」
きょとんとした間ののち、しのぶような笑い声が聞こえた。
甚だ不本意な評価だが、まるで、「いつもの調子だ」とでも言いたげだった。
勉強してみた感じIFFの設定は実際もうちょっと複雑な感じはするのですが、シンプルにするためオンオフ扱いにしています。敵対勢力でも普通に識別名を取得しているので、NCTR機能とかもくっついてるのかもしれませんね。