ある暗い一室。
モニターの前に座った男が、何かを話していた。
「カーラ、そちらの状況は?」
「最悪だ、もうクリーナーが全部やられた……!」
「……そうか」
「まったく、どこのどいつだい、有ること無いことぶちまけてくれたのは!」
「こうなったなら、いっそコーラルの危険性を企業に打ち明けて……」
「……ダメだ、先程こっちのデータベースがハッキングを受けて、コーラルに関する資料が全部焼かれた。私でもチャティでも防げないなんて、一体誰が……」
「そっちもか……犯人については、思い当たるものが――」
「安そうな方から片付けよう」
「ボ……ス……」
「……っ!? チャティ!」
「お前が『RaD』の頭目か。あの掃除機ども、あれはまあまあ愉快だったぞ」
「……チッ! ウォルター、戦闘に集中する。もう切るよ!!」
「さあ、お前自身は果たして面白いのか、見せてくれ!」
「こちとら、遊びでやってんじゃないんだよ……!」
「……クソッ!」
バツン、と音を立てて通信が切断された後、男は拳を机に打ち付ける。
「集積コーラルの直接確保は失敗、ザイレムは起動不能、俺たちの存在は完全に露見した。今や全勢力が俺たちの敵だ……! 一体どうする……!」
独り言ちていると、今度は別の相手から通信が入った。
「ウォルター! ねえ、ウォルター!!」
「……621」
「いったい、なにがおきてるの? オーバーシアーって、コーラルを焼くってなに?」
「……あの告発を見たのか」
「ほんとの、ことなの?」
「……ああ、そうだ。俺たちの目的はコーラルを焼き払う事だ。コーラルの爆発的増殖による致命的な破綻を防ぐために」
「―――――――――――!?」
「……今までお前に伏せていたことは、謝罪する」
「……ねえ、ウォルター」
「……どうした」
「わたし……どうすれば、いいの?」
「…………」
沈黙。男は考え込むように、何も話さない。
しばしの時が流れて、ようやく口を開いた。
「今から送る座標に、向かえ」
「……うん」
「そこには、星系外脱出用のシャトルが隠してある。それに乗り込んで、この星系から出るんだ」
「……えっ?」
「星系外に出たら、俺の伝手を頼れ。今、連絡先を送る」
「……まって」
「お前には、この惑星で傭兵として稼いだ金が十分にある。それで再手術を受けて――」
「まって!!」
「……何だ」
「このほしからでて、どうするの? コーラルを、もやすんでしょ?」
「……621」
「もう、いいんだ」
「……どういう、いみ?」
「俺たちの目的はコーラルを焼くことだったが、集積コーラルの直接確保は失敗し、サブプランだったザイレムも完全に潰された。俺たちは、詰みだ……」
「だから、にげるの? なら、ウォルターも……」
「……いいや」
「なんで」
「恐らく、ここにもじきに敵が来る。俺は、それを食い止める」
「それなら、わたしが……」
「……コーラルを焼き、破綻を食い止めることが俺の意味だ。それが不可能になった以上、俺に生きる意味はない。……だが、お前は違う」
「なに、いって」
「お前は、その意味を背負う必要はないんだ。俺はお前に望まぬ意味を押し付け、お前を縛りつけてきた。……それはもう終わりだ」
「……やだ」
「お前を縛るものは、もう何もない。もう、お前は自分のために生きていいんだ。これからはお前自身で選択して、お前自身の意味を見つけろ。……いきなり投げ出す形になってすまない。勝手なことだというのは分かっているが……」
「いやだ!!」
「……621」
「わたし、わかんない、わかんないよ! あなたがいないと、わたし、なんにも……!」
「…………」
「ねえ、わたし、えらべないよ……! あなたがおしえてくれないと、あなたが、導いてくれないと、わたし、なにも、なにもわからない……!」
「いいや、違う」
「なにも、ちがわないよ……!」
「……『レイヴン』、『G13』、『戦友』……『ユーリ』」
「……っ」
「お前にも友人が、大切な人ができたろう?」
「……それ、は」
「出会いは偶然や、俺が引き合わせた結果だったかもしれない。それでも、彼らと関わりを深めたのは、お前自身の選択だ」
「…………」
「例え、彼らと袂を分かつ結果になったとしても。それには、確かに意味があった」
「……でも」
「もうお前は、俺の手綱が無くても、歩いて行ける。どこへだって、飛んで行けるんだ」
「……それ、でも」
「だから、どうか生きてくれ」
「……っ」
「すまない、酷なことを言っていると思う、だが――」
「いやだ! わたしは、それでもあなたが必要なの! あなたといっしょに、いきていたいの!!」
「……すまない。だが、俺はここまでだ」
「やだ、やだよ! おねがいだから、そんなこといわないで!!」
「……もう時間が無い」
【ハンドラー・ウォルターの権限により、強化人間C4-621を休眠モードに移行開始。脳深部コーラル管理デバイスをシャットダウン】
「さよならだ。お前の選択が、お前自身の可能性を広げることを、祈る」
「いやだ!! まって!! いかない、で……」
【休眠モードへの移行を確認。コクピットハッチをロック。オートパイロットを起動】
「パ、パ……」
【目標地点に到達。オートパイロットを解除。強化人間C4-621、覚醒しました】
「レイヴン!起きてください、レイヴン!」
「エア……」
「すみません、脳深部コーラル管理デバイスが落とされてしまっては、私は何も……」
「ここ、は……」
「ウォルターの言っていた、シャトルの座標、です」
「……そっか」
「あなたはこれから、どうするのですか? そのシャトルで、脱出を?」
「……ううん」
「では、何を」
「…………」
「……私は、人とコーラルの可能性を、守りたい。できればあなたにも、協力してほしい」
「………………」
「ですが、あなたがウォルターの意思を継ぐというのなら……それを否定は、しません」
「………………」
「……レイヴン」
「――――わたし、は」