「我々に付く気はありませんか? スウィンバーン殿」
「ベイラムに付く、だと?」
何の臆面もなく問いかける五花海に、スウィンバーンがやや困惑した声色で返す。
「ええ、そうです! 貴方には、ベイラムの英雄になっていただきたい」
まるで、それがごく当たり前のことだと言わんばかりの口調で、五花海は言葉を紡ぎ続ける。
「聡い貴方ならば、今のアーキバスが泥船であることは察しておられるのでしょう?」
「…………」
「要衝である「壁」は取り逃がし、先の封鎖機構戦で部隊長を3人も失い、ウォッチポイント調査の主導権を奪われ……全てが後手に回っています。人員も、正規部隊で戦線が維持できない程減少し、挙句身内から裏切り者を出す有様です」
スウィンバーンは、なおも押し黙っている。
「部外者が、外から見た意見を述べてもこれなのです。会計責任者である貴方は、アーキバスの窮状を誰よりも正確に把握できているのではありませんか?」
「……っ!」
どうやら思い当たる節があったらしい。というより五花海は、アーキバスの金回りをある程度把握した上で言っているんだろうな。
「スウィンバーン殿、貴方は、沈みゆく泥船に相応しい人物ではない! 是非、こちらでその辣腕を振るっていただきたいのです!」
「……私が?」
「ええ、ええ、そうですとも! ここだけの話、
「…………」
「提案を呑んでいただいた暁には、私の権限であなたを会計補佐に推薦いたしましょう……ですがそれは足掛かりに過ぎません……貴方の実力ならば、ゆくゆくは副長、いえ総長にまで至れましょう! この五花海が保障いたします! ベイラムのすべてが、貴方の指導の下で動くことを心待ちにしているのです!」
「私が、ベイラムを指導……だ、だが、ここでスネイル閣下を裏切れば……」
「…………」
若干の沈黙。まるで、しばし考えているような間を作ってから、五花海が続ける。
「……であれば、この戦いの趨勢を見てから決める、というのはいかがでしょう?」
「……どういう意味だ?」
「この場は一旦収めて、戦いを見届けるのです。アーキバスが勝てば、そのまま残ればいい、我々が勝てば、こちらに付けばいい。どう転んでも、貴方の利益となる選択だ」
「……撤退しろ、ということか」
「ええ。この乱戦状態だ、理由は弾切れでも、機体の不調でも、いくらでも作れましょう。ここで貴方が撤退していただけるのならば、我々
「…………」
「いかがいたしますか? いつアーキバス側の増援が来るか分からない、早めにお決めになることをお勧めしますよ」
「私は……」
「おっと、どうやら機体反応が近づいてきているようです、アーキバスの増援では?」
「わ、分かった!
会話を切り上げたスウィンバーンは、弾切れを偽装するために武装をパージする。
「わ、私の指導を胸に、ますます励むことだな!」
「ええ、色好い返事をお待ちしておりますよ、スウィンバーン殿」
「アーキバス・カタフラクト」は踵を返し、来た道を引き返そうとする。
「あ、今ですよ。G14」
五花海が出したマーカーの位置で隠れていた俺は、物陰から飛び出して「アーキバス・カタフラクト」の前面に飛び出す。
「なっ……貴様、話が違」
「いえ、約束は破っていませんよ」
コアユニットに飛びつき、アサルトアーマーを起動。
「G14はレッドガンですが、ベイラム所属では無いのでね」
流石はバルテウスのパルスアーマー。アサルトアーマーを受けても僅かに残ったので、拳を叩きこむ。
「き、貴様ら、どういう教育を受けっ」
拳の一撃でパルスアーマーが割れ、
「お、おあーっ!!」
チャージが終わったチェーンソーを抉り込めば、「アーキバス・カタフラクト」コアに据えられた「ガイダンス」は大穴を空けて沈黙した。
「済みましたよ、出てきてください」
五花海が合図を出せば、狙撃ポイントに隠れていたLC、アーキバスの識別タグをつけたMTが集結する。
「G14、貴方も素晴らしい働きでした」
俺も「アーキバス・カタフラクト」の残骸から離れ、集結する。
「ふむ、コアを挿げ替えれば、引き続き使えそうですね、ヴォルタへの土産にちょうどいいでしょう」
残骸を一瞥し、五花海が言った。
「ちなみに、あいつが寝返りを呑んでたらどうする気だったんだ?」
「……うちの会計補佐は、ヴォルタで間に合っていますからね。総長と副長については、言うまでもないでしょう?」
「…………」
「まあ、あれは所詮ドアインザフェイス。最初に大きな要求を断らせてから、譲歩案を出すというあれですよ」
「……オーケー」
「さあ、次に行きましょうか」
そう話したあたりで、またも通信が入る。
「高速で接近する機体反応! 上です!」
その声を聞いて上を見上げれば、上空を駆ける機体が見えた。
「現第4隊長がやられましたか……裏切り者の前任者と言い、まったく使えない……」
尋常ではない推力で、青い尾を引いて飛ぶそれは、遠目には流星のようにも見えた。
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AAP07A:ARQUEBUS BALTEUS/V.Ⅱ Snail
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「些事に構っている暇は無いですね……」
その機体……「アーキバス・バルテウス」は、こちらを無視して飛んでいく。
その推力に物を言わせ、直接後方部隊を叩いて撹乱するつもりのようだ。
実際それは有効だ。向こうが降りてこない限り、こちらからは手を出せない。
ともかく追いかけるしかないか……
「また、私の出番のようですね?」
五花海が、オープン回線を開く。
「AC2機も相手できずに素通りとは、とんだ腰抜けですねぇアーキバスの第2隊長殿は……まあ、それも仕方のないことではありますが……」
「……何が言いたい?」
「なんせアーキバスは、時代遅れの斜陽グループ、どうしようもない泥船ですからねぇ……!」
またも、詐欺師がその口を回し始めた。