- 1◆4xa5MmaQeTX524/07/07(日) 03:25:07
「…で行き先はどこなんですか?」
「ニューヨークです」
刹那、長岡龍星の表情筋が面白いほどに引き攣った。喜びをあらわにしながらも、内心では国内旅行だろうと思っていた、悪く言えば高を括っていた節があったのだから仕方ない。日本列島とせいぜい台湾あたりまでしか映していなかった彼の頭の中のマップが、慌ててアメリカ東海岸へと視点を移していく。
フリーズした思考をどうにか再起動して、龍星は念を押してみた。
「マジですか?」
「マジっす」
あまりにもにべもない受け答え。相も変わらずさらりと答える熹一の態度に、龍星の困惑が深まる。
「いや……楽しそうですけど、なぜまた急にアメリカに?」
当然口に出されるその疑問に、いっそう意地の悪い笑みを浮かべて、熹一が語り出す。
「お前も格闘技やってんのやから、名前くらいは聞いたことあるやろ──というかワシがいっぺん話してやったか」
熹一はおもむろに歩き出し、手近な椅子へと歩を進める。そのまま彼は語り出した。
「数年前まで、ある世界的なイベントがあった。世界最高の異種格闘技トーナメントとして全格闘技ファンからお墨付きをいただいてとったが……主催者の一人とその弟が不祥事で逮捕。理由としては麻薬密売組織の元締めやからってことになっとるが、実際それ以上のホコリが叩けばいくらでも出てきたやろな」
「そのトーナメントって……ま……まさか……」
思い当たる節があったのか、驚愕の裏に抑えきれない好奇心を覗かせた表情で、龍星が呟いた。その顔を見た熹一がニヤリとひときわ口角を上げ、ある事実を告げる。
「そんな不名誉な終わり方をしたイベントやったが、最近どっかの物好きが元スポンサーどもに声掛けたらしくてのォ。今年から晴れて復活と相成ったんや」
椅子にドカッと腰を下ろして、熹一は口元を緩めたまま、しかし今度は目に真剣なものを湛えて、話を続けた。
- 2◆4xa5MmaQeTX524/07/07(日) 03:25:33
「こっからが本題やで。ワシは友達にちょっとしたツテがあってのォ……というか、前回もそいつに誘われたんやけどな。まあとにかく、出たかったらそいつを通してスポンサーの一人にちょこっとお願いすればオッケーなんや」
滔々と語る彼の表情に、徐々に懐旧の情が浮き出る様を、龍星は見た。
「出るとしたら日本予選と本選があるが、曲がりなりにもワシは前回”優勝者”。大会自体に変なミソが付いたとこでそれは変わらん。向こうも今更予選から出ろなんて今度こそ言うてくるわけない」
「今度こそって?」
「あっいや、こっちの話……」
ごほんとわざとらしく咳払いして、熹一は話を戻す。
「しかし、ワシにも武道家としてのプライドがある。まあ格闘技の大会なんて所詮ビジネスやし、コネで出場するの自体はええんやけど、そのコネに胡坐をかいて威張るような真似はしとうない。鬼龍やあるまいし。そこでや」
熹一が体を前に傾け、右の拳を差し出して、人差し指をピッと立てた。
「ワシは今回不参加でもいいと……ただ出ないんやったらその代わり、日本予選でも本選でもええ、この灘神影流の宮沢熹一が推薦する枠をひとつ、用意したってくれと。そう伝えた」
そこまで言うと熹一は身体を起こし、両手を広げて大げさな笑顔を見せる。
その芝居がかった仕草に、龍星は思わず苦笑したが、突っ込みはしなかった。目の前の男が”それ”に対して抱く強い思いが、理解できたからだった。
楽しくて仕方ないという感情が、伝わってきたからだった。
「そんで昨日、リキちゃ──友達が返事を持ってきたんや! ワシに関してはむしろ出てくれ言われた、そして推薦枠の件も”予選から”いう条件付きで承諾を得た、ってな。年甲斐もなくはしゃいどったわ」
少しの間くつくつと笑うと、熹一はポケットを漁り、一枚の紙を取り出す。派手な流線形のロゴが記された、骨のように白い紙。
それは招待状だ。
来る戦いの始まりを告げる、小さく、薄く、だがずしりと重たい、特別な紙切れだ。
「ハイパー・バトル。宮沢熹一さんの推薦のもと、長岡龍星クンを日本予選に招待します! ……なんつって♡」
- 3◆4xa5MmaQeTX524/07/07(日) 03:25:50
現れたその一枚を、穴が開くほど凝視して──
龍星はようやく、自分の頬が、いつの間にか緩みきっていることに気が付いた。
「まっ、蹴ってもええけどな。ただ、これを勝ち抜けばニューヨークでの本選に進める。血に飢えた”自称”世界最強のアホどもと、心ゆくまでやり合えるでェ」
「なるほどです。ハイパー・バトルの本選スケジュールは結構余裕があったはず。つまり、試合の合間合間にニューヨーク観光ができるというわけですか」
「そういうことや。ニューヨークはええで~? 華やかで、危険で、楽し~いとこや」
そう言って、虎の子が再び上体を倒す。
そして龍の子の眼前に、招待状を、否──
──挑戦状を、ちらつかせた。
「どや、ワシと勝負せえへんか」 - 4◆4xa5MmaQeTX524/07/07(日) 03:26:15
私は、バーボン・マッスル。
このスレを開いた君は選ばれし者
5000万ドルを掴むチャンスを与えられた強き者
このバトル・キング・マスクはサービスだから、まず着けて落ち着いて欲しい。
単刀直入に言おう
うん、「また」なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、龍星のように謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、このスレタイを見たとき、君は、きっと言葉では言い表せない
”突然変異のときめき”みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういうめちゃくちゃ強い気持ちを忘れないで欲しい
何よりも”心”が大事なんだ
そう思って、このスレを立てたんだ。
じゃあ、腕に自信のある者は今すぐ日本に行け
龍星を失神KOさせろ
急げっ乗り遅れるな
5000万ドルを掴み取るんだ
“ドラゴン・ラッシュ”だ
- 5二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 03:29:25
貴様ーッ
貴様ーッ - 6二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 03:31:05
この有能が
続き気になるから真面目に書いて欲しいと思っちゃうじゃねえか - 7二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 03:31:56
読むからこんな場末じゃなくてハーメルンかピクシブに投稿してくれって思ったね
- 8二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 03:32:05
うわっちょくちょく自然に語録を混ぜ込んでいるやん
あははこれは見事y
貴様ーッ - 9◆4xa5MmaQeTX524/07/07(日) 03:38:33
ちなみにさっきスレ画の語録で何か立ててえなあ…って考えてたら思いついたのを
眠れないついでに2時間ぐらいで書き起こしただけだから真面目に続きは無いらしいよ - 10二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 03:39:25
なんて…なんて懐かしいノリなんだ…
- 11二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 03:41:25
出たな
決勝戦は一般非公開とかいうクソみたいな格闘大会 - 12二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 03:47:02
ふざけんなよボケが
- 13◆4xa5MmaQeTX524/07/07(日) 06:30:07
俺はバーボン・マッスルだあっ
仮眠して見返したら案の定2か所も修正ポイントが見つかるなんて俺自身には失望したよ
読んでて気になっちゃったマネモブにはせめてごめんなさいさせてくれよ - 14二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 07:39:14
- 15二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 09:32:06
あの男はこんなスレを朝の3時半に立てて落とすつもりか…?
- 16二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 09:35:37
久しぶりに見たぜバーボンハウス構文
この至高の釣りスレがこの程度で終わるなんてあまりにももったいない - 17二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 09:44:57
すいません地味にバトキンマスク渡されても着けてるほうが残酷になっちゃって落ち着かないんです
- 18二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 09:49:12
何やってんだはやく続きをかけよ!
- 19二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 09:51:16
- 20二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 15:32:15
許せなかった…
寝る前にこのスレ見つけて ムフッ起きてから時間が出来たらゆっくり読もうね と思って楽しみにしていたのにバーボン・ハウスだったなんて……!!! - 21二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 15:54:01
- 22二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 15:59:29
- 23二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 16:17:27
待てよ
確かに物語はここから面白くなりそうだけど少なく見積もっても
日本予選編→ニューヨーク観光編⇄オリハイパーバトル本戦×3・4回をやらなきゃいけないから
めちゃくちゃキツそうなんだぜ
しかもバトルは全部カットするにしてもニューヨークの知識が絶対いる… - 24二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 22:15:46
うぁあぁうぁうぁぁうぁぁうぁぁあぅう続きをくれぇぇぇぁぇええぇぇぇぇぇぇえ
- 25二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 22:32:49
「勝負、ですか?」
「あぁそうや、ただ渡すのもつまらんしのぉ。それに龍星がいくら強い言うても相手は世界最強クラスの猛者ばかりや、龍星にそいつらと渡り合えるだけの力があるか試させてもらうで」
そう言うと熹一は龍星に手を振って歩き始める、それを追うように歩を進めるといつものプライベート道場へと辿り着いた。
「久しぶりですね!キー坊」
「元気そうじゃねえか」
道場からは龍星の聞いたことのない声色が聞こえてきた。
「えっと・・・彼らは?」
「おうっ ワシの友達のヨッちゃんに朝昇や」
熹一がそう話すと小柄な方が軽く会釈をした。
「もしかして熹一さん、招待状を渡す条件って言うのは彼らと戦えとかそういうことですか?」
「せやな、因みに2対1で戦ってもらうで。世界レベルと戦うならそれくらいのハンデは乗り越えてもらわな困る」
「おいキー坊、お前俺らを随分弱くみてくれてるな」
「いいや恐らく彼を強く見ているんでしょう、どうやらかなり手塩にかけて育てているみたいですから。尤も、手加減するつもりもないですけどね」 - 26二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 23:03:17
なにっ 続きがきてるっ
- 27二次元好きの匿名さん24/07/07(日) 23:17:55
過去キャラの再登場展開…神
- 28◆4xa5MmaQeTX524/07/08(月) 00:24:24
- 29◆4xa5MmaQeTX524/07/08(月) 00:24:40
空気を切り裂く轟音とともに、巨大な合金の鳥が地に降り立ち、同族と肩を寄せ合い翼を休める。
やがてその腹からは、無数の小さな影が吐き出され、それらは瞬く間に鉄と硝子の森を縫って、四方八方に散らばってゆく。ある者らは北へ、ある者らは南へ、ある者らは別の鳥の中へ。
そして、小さな影が出て行っただけ、同じほどの数の影がまた、森の外からやって来る。
二発の凶弾に斃れた男の名を冠し、四本の滑走路と六棟のターミナルを備え、世界有数の空の玄関口として知られるこの施設は、今日も果てしなく忙しない。
アメリカ、ニューヨーク州ニューヨーク市はクイーンズ区、ジョン・F・ケネディ国際空港。
「いやーついに来たのォ合衆国」
「ですねぇ」
その建物の一角から、二つの影が、ゆったりとした足取りで歩み出た。
ご存知、灘の一族、宮沢熹一と長岡龍星である。
「やっぱりアメリカの空港は広いのォ」
「こういった場所に来るとそれだけでちょっと楽しくなってきますね」
大きめのキャリーケースをゴロゴロと引きながら仲良く談笑する姿は、さながら年の離れた兄弟を思わせる。その間に横たわる確執は、近頃はもうずいぶんと鳴りを潜めていた。
「なんや龍星、修学旅行ではしゃぐ中学生みたいに」
「はは、でも分かるでしょ? こういう壮大で賑やかな場所から、未体験の世界に足を踏み入れるワクワク感。”心臓”もけっこう喜んでます」
「確かに浮かれるのは分かるけど……」
そこで一旦言葉を切り、灘の当主が後ろを見やる。
「……誰かさんは大丈夫か?」
「……かなり地に足が付いてない感じです」
彼らの視線の先には、同じく荷物を手にした日本人が二人。
一人はいかにも真面目そうな、ビジネススーツに身を包んだ眼鏡の男性。精悍な体つきをしているが、少しばかり膝が笑っており、キャリーケースを杖代わりにしている。
その傍らに立つは、長くしなやかな白髪を一つ結びにした和装の男性。その左脚をよく見ると、それは派手に光る靴ではなく、物々しい光沢を湛えた義足であるのが見て取れた。
灘神影流の先代当主、”静かなる虎”宮沢静虎と、その実兄、”誇り高き鷹”宮沢尊鷹である。 - 30◆4xa5MmaQeTX524/07/08(月) 00:24:56
「静虎よ、歩けるか?」
「は……はい。なんとか落ち着いてきました」
お前はいくつになっても飛行機に慣れんな、と呆れる尊鷹の口元には、しかし弟を慈しむ小さな笑みが零れている。
一歩一歩、慎重に自分達へと向かってくる二人に、熹一が話しかけた。
「よう尊鷹、なんや遅かったのォ。そんなに親父がビビってたんか?」
「いや、それもないではないが──この足の件で警備員と少々揉めてな」
「あー……」
熹一と龍星が、そろって合点がいったという表情半分、面倒臭いなという表情半分を浮かべた。
「こればかりは仕方あるまい。大物フィクサー・柳場道元の口利きがあるとはいえ、これだけ広い空港の全職員にあらかじめ指示を出せというのは無理な話だ。成田であれほどスムーズに通してもらえただけ、ありがたいと思うべきだろう」
「ったくあのタヌキジジイ、ホンマ最初からチャーター機を出したったらええのに。会場で会うたら文句言ったる」
「ま……まあまあ……。こ……今回は誰もチームDとして出ないからなぁ。ましてや、た……鷹兄ィは”観客”だ」
苛立ちをあらわにする息子を、まだ緊張の解けぬ静虎が宥めにかかる。
「と……とにかく行こう。や……宿はマンハッタンだったな」
静虎のその一言で、とりあえず皆は口を噤んで愚痴をやめ、タクシー乗り場に向かって歩き出した。
一行は問題なくキャブを捕まえ、荷物が多いので二台に分かれて宿へと向かう。
龍星が、カーナビに移る地図をぼうっと見つめていると、熹一が念を押すように呟いた。
「さっきの親父の言葉──」
「え?」
思わず横を見やると、熹一は頬杖を突き、車窓に流れるビル群を眺めているようだった。
「いや、ちゃんと分かっとるかと思て」
「……ええ。……今回、尊鷹さんは”観客”」
改めて、龍星は自分に言い聞かせる。
誇り高き鷹がこの大会に関わらないという事態。それは老いたからでも、足を喪ったからでもない。
「”キング”じゃない」
ただ、それだけが理由なのだから。 - 31◆4xa5MmaQeTX524/07/08(月) 00:25:11
そう、彼──前々回のハイパー・バトルにて圧倒的な強さで勝ち抜き、”キング”の称号を得た男、宮沢尊鷹は。
宮沢熹一に、負けた。
前回大会が決勝戦直後に中止となってしまったため、本来予定されていたエキシビション・マッチで起きたことではないものの、それでも確かな事実だ。
聞くところによればそれは、生涯でたった二度目の全力を振るい、いくつもの殺人術を解禁した、まさに真剣勝負だったという。
そして今回、熹一が参戦するにあたって、尊鷹はスポンサーの一人である柳場道元に接触。このことを打ち明けるとともに──
──片足となった以上、もはや義足なしではあの頃に及ばないだろうという話を伝えた。
そうして”誇り高き鷹”は、自ら”キング”の座を退いた。
・・・・・・ ・・・・・・・
然るべき者に、その座を譲って。
「もちろん、よく分かっています」
その瞬間、後部座席の二人から、どろりと異様な空気が熱を帯びて流れ出す。
緊張、興奮、期待、歓喜。
そして…………わずかな、それでいて確かな、殺意。
「楽しみにしてますよ。”バトル・キング”さん」
「ほう、強気やのォ。ほなまあ、とりあえずこの大会……優勝してもらおやないか」
哀れな運転手が縮こまるのをよそに、龍虎は牙を研いでいた。 - 32◆4xa5MmaQeTX524/07/08(月) 00:25:37
私は、バーボン・マッスル。
この続きを見た君は選ばれし者
5000万ドルを掴むチャンスを与えられた強き者
このラーメン・ジョー・バンダナはサービスだから、まず着けて落ち着いて欲しい。
単刀直入に言おう
うん、”また”なんだ。済まない。
仏の顔もって言うしね、龍星のように謝って許してもらおうとも思っていない。
でも、最初のSSを読んだとき、君は、きっと言葉では言い表せない
”突然変異のときめき”みたいなものを感じてくれたと思う。
殺伐とした世の中で、そういうめちゃくちゃ強い気持ちを忘れないで欲しい
何よりも”心”が大事なんだ
そう思って、ちょっとだけ続きを書いたんだ。
じゃあ、腕に自信のある者は今すぐ日本に行け
龍星を失神KOさせろ
急げっ乗り遅れるな
5000万ドルを掴み取るんだ
“ドラゴン・ラッシュ”だ
- 33二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 00:35:32
神スレ
- 34◆4xa5MmaQeTX524/07/08(月) 00:43:41
ちなみに今日更新の某ジャンプラ漫画読んだら明日はしばらく落ち込んでまともに文章出てこないだろうから
勢いで書き上げちゃって今しがた読んできたらしいよ
ちなみに某ラプタ以外も心を抉る回ばっかで想定外のダメージ受けてるらしいよ - 35二次元好きの匿名さん24/07/08(月) 01:04:34
- 362524/07/08(月) 01:14:00