 | 第363話「血液の色が悪いですよ」 |
コラム一覧に戻る 2022年5月16日 息子がずっと庭で遊んでいます。疲れたので家に帰ろうといっても嫌がります。3時間くらい庭でウロチョロしていました。何が楽しいんだ…。私が失ってしまった何かをまだ彼はもっているようです。私が失ったものってなんなんだ…。むむむ。 とある農場にて初診から重症の肺炎牛を治療する機会がありました。体を揺らし(努力性呼吸)、鼻塞音も激しく、目もギラギラしています。まだ月齢が若く、出荷するような時期ではなかったため、畜主の希望もあり出荷ではなく治療をすることになりました。聴診器をあてると、コメントしようもないほどにひどい肺音でした。相当苦しいだろうな…と牛を見る私もつらくなってきました。月齢が進んでいたのなら真っ先に出荷をおススメするような肺の状態でありました。 静脈注射をしようとやさしく駆血し(強く駆血するとさらに呼吸が苦しくなってしまうため、重度の肺炎牛の駆血にはとても気を使います)、針を血管に通し、陰圧にして血液が注射ポンプ内に帰ってくるのを確認した瞬間、強い違和感を覚えました。 あれ。血液の色が悪いよ。 どうも血液の色が暗いのです。牛の静脈血液は私たち人間のものよりも明るく鮮やかな赤色です。
  (健康牛の静脈血は鮮やかな赤色です) ところがこの牛の血液は少し暗い赤色だったのです。最初は薬剤と混ざったせいかな、と思っていたのですが、改めて採血してみるとやはり暗いのです。

 (この牛の静脈血は暗い赤色をしています) 血液中のヘモグロビンという色素は酸素と結合するとオキシヘモグロビンという鮮やかな赤色に変色します。つまり、色が暗いということは酸素と結合しておらず、肺での換気能(二酸化炭素を出して酸素を取り込む能力)が相当落ちているのではないかと思われます。 パッと見てわかるこの色の暗さ。血液中の酸素濃度は相当下がっているのではないかと思われます。息苦しいのは明白です。血液の色をみて改めて重症だな、と思った症例に遭遇しました。
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