目の前で起きている「インフレ課税」

インフレ時に一番得をするのは債務者、つまり借金をしている人だとよく言われます。

インフレによって、過去に借りた借金の返済負担が実質的に軽くなるからです。

日本最大の債務者は国(政府)なので、最大の受益者は、間違いなく国(政府)になります。

その一方、家計は、住宅ローンの返済が実質的に軽くなるといった恩恵がある世帯はあるものの、物価上昇に賃上げが追いつくまでの間は、実質所得が目減りしてしまいます。

これが「インフレ課税」です。要は、家計から政府部門への所得移転が起きているわけで、それこそが今、私たちの目の前で起きている現象だと言うことができるでしょう。

苦しい家計の消費減少は深刻

「インフレ課税」によって家計が圧迫され、消費マインドは大きく落ち込んでいます。

5日発表された家計調査によれば、5月の消費支出(2人以上世帯)は、実質で前年同月比1.8%もの減少になりました。

実は、消費支出は4月に公立高校の授業料値上げなどで0.5%増と、1年以上ぶりにプラスに転換したのですが、5月はその効果を打ち消すほどの支出減が相次ぎ、再びマイナスに転落しました。

4月にプラスだった「家具・家事用品」」や「被服・履物」がマイナスに転落、食料や旅行関係も大きなマイナスで、「全面節約」と言っていい、苦しい家計の姿が見えてきます。

賃上げの実現で収入が追いついてくれば、消費が拡大する「好循環」が実現すると期待する向きもありますが、その前に景気が腰折れてしまわないか心配です。

税収増というボーナスを何に使う?

こうした中で、上振れする税収という、いわばボーナスを何に使うのか。

財務省は借金返済を優先するという立場でしょう。

国債発行残高はすでにGDPの2倍に達しており、今後、起こり得る金利上昇や一層の円安リスクを考えれば、一刻も早く、そして少しでも、国債発行を減らすことこそがマクロ経済的には重要だという理屈です。

その一方で、賃金が物価に追いつかない中で、ガソリンや電気代などへの補助金や、減税などの家計支援策も重要です。

成長をけん引する新たな分野への支援策も必要でしょう。

ボーナスを何にどのくらい使うのか、文字通り、「ワイズ・スペンディング」(賢い支出)に向けた、知恵とオープンな議論が求められています。

最悪なのは、目先の税収増に安心し、何もしないことです。

すでに役割を終えたもの、無駄だと疑われているものをカットせず、漫然と放置、支出し続けることです。

政治のリーターシップが欠如している時は、往々にして、その可能性が高まります。

税収増というボーナスは、コストの増加に伴う歳出の増加や、金利上昇の伴う国債の利払い費増加という経路で、時間が経つにつれて、小さくなっていくでしょう。

ボーナスがある貴重な時間を無駄にしてはならないように思えます。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)