賃上げ率「昨年以上」に期待高まる春闘

日本では賃上げに果たす春闘の役割が非常に大きいので、こうした中、今年の春闘への期待が一段と高まっています。

財界の新年パーティーの場でも、伊藤忠商事が6%、みずほFGが7%程度の賃上げを表明するなど、大手企業からは、連合が求める「5%以上の賃上げ」を表明する企業が相次いでいます。

昨年の春闘では連合集計で3.58%という30年ぶりの賃上げが実現しました。今年の春闘では、「それを超える賃上げ」が合言葉になってきています。

とは言え、連合がカバーする労働者は、大企業を中心に700万人に過ぎず、労働組合のない中小企業などでは、3%を超えるような賃上げは実現していません。

だからこそ、実際の給与支給の結果である現金給与総額が平均で1%台に留まっているのです。

名目賃金が1%台の増加であれば、23年に物価が3%上昇した日本では、実質賃金がマイナスを続けるのは算数式としては当然でしょう。

実質賃金は年後半にプラスに転じるか

実質賃金がマイナスであれば、生活は苦しくなるのですから、消費が増えて経済が成長するような「好循環」が、継続的に起きるはずがありません。

実質賃金をプラスにするためには、名目賃金が上がるか、物価上昇率が下がるかの2つの経路しかありません。

エコノミストの中には、24年の春闘で前年を上回る賃上げが実現する一方、輸入物価や円安の落ち着きで物価上昇率が次第に下がっていくことを通じて、今年後半には実質賃金がプラスに転じると見る人もいます。

政府も経済諮問会議に示した資料の中で、賃上げに加えて、6月に予定されている1人4万円の定額減税の効果によって、来年度の所得増加率は3.8%になり、物価上昇率2.5%を上回って、実質所得プラスが実現するとの見通しを示しています。

マイナス金利解除がゴールではない

日銀の植田総裁は、「実質賃金プラス」は必ずしもマイナス金利解除の条件にはならないとの考えを示しており、春闘での賃上げを見極めれば、金融政策の変更に踏み切る構えです。    

日銀の物価目標は2%ですから、インフレが2%に落ち着くことを前提に、名目賃金が2%以上、上昇する状況をどう作って行けるかが、今年の日本経済の最大の課題です。

その意味では春闘では、大手企業が発表する威勢の良い賃上げ率のヘッドラインだけではなく、働く人々すべての、定期昇給を除いたベースアップの数字こそが、最も重要な賃上げの数字です。

実質賃金プラスが継続する経済こそが、目指すべき「好循環」のはずです。マイナス金利解除は決してゴールではありません。

播摩 卓士(BS-TBS「Bizスクエア」メインキャスター)