(時時刻刻)防衛産業に「たかる構図」 ゲーム機・家電・おそろいTシャツ… 海自乗組員、要求リスト

 防衛産業の不祥事が繰り返されるなか、川崎重工業と海上自衛隊をめぐる癒着が明らかになった。潜水艦乗組員らの要求に応じて物品の購入を続けてきた背景には、何があるのか。防衛費が大幅に増えていく局面で、川重の裏金作りが波紋を広げている。▼1面参照

 川重はこれまでも税務調査を受けてきたが、下請け企業を通じた裏金作りが発覚することはなかった。大阪国税局による今回の調査では、乗組員らの要求に応じて数多くの物品が購入されていた疑いが浮上している。

 架空取引で捻出されたとされる裏金は、どのように物品の購入に充てられていたのか。

 複数の関係者によると、各潜水艦の取りまとめ役が乗組員らの希望をリストにして川重の修繕部に連絡していたという。そのリストに基づき、修繕部や下請け企業が裏金を使って物品を購入した後、修繕部から各潜水艦の担当者にまとめて渡していたとみられる。

 川重の広報担当者は取材に対し、購入していたのは「商品券やトルクレンチ、ワイヤロープ、ヘッドライト」などと説明している。国税局が確認したところ、乗組員らが自宅で使うテレビや冷蔵庫、電子レンジなどのほか、家庭用ゲーム機「ニンテンドースイッチ」や釣り道具など多岐にわたる物品が含まれていたとされる。なかには、上官が部下に贈るための家電製品や、約70人の乗組員全員分の「おそろいのTシャツ」もあったという。

 乗組員らへの飲食接待費にも裏金は充てられていたとされる。各潜水艦が定期的な点検や修理を川重の神戸工場(神戸市中央区)で受ける際、乗組員らは神戸市内にある川重の宿泊施設「海友館」などに数カ月単位で滞在しながら、同社の社員と共同で作業する。その期間、修繕部側が乗組員らを飲食接待するなどしていたとみられる。

 潜水艦建造の発注などに関わらない乗組員に対し、川重が物品や飲食の費用負担を続けてきた理由は何なのか。ある関係者は、海自側による「たかりの構図ではないか」とみる。

 防衛省側はどう受け止めているのか。取材に応じた関係者は「潜水艦内で使うパソコンや洗濯機などを川重側にリクエストすることはあるが、艦内の備品。修理費などの予算内という位置づけだ」とする。一方、裏金が使われていたかどうかは「こちらからはわからない」と話した。(市田隆)

 ■潜水艦「濃く狭い」業界 建造2社のみ/神戸で整備、寝食共に/「町工場の川重」

 自衛隊の潜水艦乗組員と、建造するメーカー側。「癒着」はなぜ生まれたのか。

 そもそも「潜水艦業界」は特殊な世界だ。海上自衛隊が保有する潜水艦は計25隻。潜水艦隊は司令部(神奈川県横須賀市)のほか、横須賀基地と呉基地(広島県呉市)を拠点とする。海上自衛隊約4万5千人のうち、潜水艦隊はわずか約2300人。多くは3拠点中心の転勤を繰り返し、「顔見知りが多く、濃くて狭い人間関係が築かれる」(潜水艦乗員)という。

 一方、日本で潜水艦を建造できるのは、川重と三菱重工業(三菱重工)の2社のみ。防衛省は毎年度、1隻ずつ潜水艦を発注し、2社は隔年で交互に建造する。潜水艦の設計・建造は「最新の技術、秘密、ノウハウの塊」(防衛省幹部)であり、定期的な受注を続けて技術を継承させることなどが理由だ。

 他業者の参入もなく、価格競争もない。海自幹部は「良くも悪くも、2社による秩序化された業界」と語る。

 2社はいずれも神戸市に潜水艦の工場や造船所を構える。新造潜水艦は、進水後も各種装備を艦に取り付ける「艤装(ぎそう)」が続く。就役しても、年次検査や、3年に1度の定期検査のたびに神戸に入る。

 その際、乗員は1カ月から半年程度、神戸に住み込むことになる。川重の神戸工場近くの「海友館」を生活の拠点とし、川重側の技術者や作業員と一緒に設計図に向き合い、検査官として工事に立ち会う。

 ある海自幹部は「文字通り寝食を共にすることで、神戸を拠点とした濃密な人間関係ができあがる」と語る。

 こうした関係性は川重も三菱重工も変わらない。ただ、両社には企業風土の違いがあると海自関係者は言う。

 艤装や修理の際、乗員側からは、艦内の設備改良や備品の更新といった100を超える「要望項目」をメーカーに提出し、2社とも予算の範囲で対応する。複数の潜水艦乗員によれば、「設計図ではこうなっているが、配管やバルブの位置を変えてほしい」といった依頼に川重は柔軟に対応してくれる一方、三菱重工からは「東京の本社に言ってほしい」などと却下されることも多いという。潜水艦部隊では「町工場の川重、大企業の三菱」と言われているという。

 濃密な人間関係は、仕事以外の場にも持ち込まれる。海自幹部は「夜には一緒に飲みに行き、週末に工場の幹部と海でバーベキューをすることもあった」。潜水艦乗員だった海自OBは「2軒目に川重側が頻繁に利用するスナックに行き、支払いの際『割り勘で』と伝えても、『ここはうちの店だから』と支払いを拒まれたこともあった」と証言した。(編集委員・土居貴輝)

 ■防衛費増「特需」の中、不祥事また

 防衛産業が絡むカネの不祥事は繰り返されてきた。1970年代にはロッキード事件があり、2000年代以降も06年に防衛施設庁の発注工事をめぐる官製談合事件で、07年には軍需専門商社からゴルフ接待を受けたとされる収賄事件で、事務次官経験者を含む関係幹部らが逮捕された。

 今回の問題で防衛省は自衛隊員倫理法違反の疑いで潜水艦乗組員ら1千人以上を対象にアンケートを始めたが、「どこまで(問題が)広がるかわからない」(自衛隊幹部)。

 同法違反による懲戒処分には幅があり、防衛省資料によると過去には、「賄賂であることを知りながら金銭の贈与を受けた」ケースは免職、「利害関係がある事業者からノート型パソコンなどを無償で借り、修理を依頼し代金を負担させた」ケースは停職5日だった。

 ただ現場の制服組には、数日の停職より川重が「指名停止」となることを懸念する声も。隊員のひとりは潜水艦の検査や修理、新建造が滞れば「安全保障が脅かされる」とぼやく。

 潜水艦などの自衛隊装備にも使われる防衛予算は近年、急速に増額されている。政府は27年度までの5年間の防衛費を従来の1・5倍となる43兆円程度と決めている。

 また、販路が乏しく、撤退が相次いで細りつつあった防衛産業については、23年に「防衛生産基盤強化法」を成立させ支援を手厚くした。22年末に定めた安保3文書には防衛産業を「いわば防衛力そのもの」と明記もした。

 この流れを背景に直近では防衛産業の「特需」が起き、川重の場合、23年度の関連受注高は前年比2・1倍の5530億円、24年度の見込みは5890億円で、さらに伸びる見通しだ。

 こうした中で発覚した裏金問題に、ここ数年防衛予算に関わってきた省幹部は唇をかんだ。「大方針に水を差す不祥事で取り組みが国民から理解されなくなる」(矢島大輔、高橋豪)

 ■<考論>監督する立場、うやむやに 軍事評論家・前田哲男氏

 潜水艦は深海に潜るため、鋼板の溶接などで特殊な技術が必要となる。専業メーカーでないと製造は難しい。防衛省・自衛隊は、川重が契約通りに仕事をしているかを管理・監督する立場にあるが、両者の関係がうやむやになっていた恐れがある。

 川重は海上自衛隊に「過剰サービス」しても、もうかると判断してきたのだろう。裏金は潜水艦の建造費や検査経費などに上乗せされ、防衛省側に請求されることにより、最終的には税金から支払われていたことになりかねない。政府は防衛費を大幅に増やす方針を定めており、2022年には海自潜水艦隊の16隻態勢を22隻態勢に増やしている。防衛力を強化するための方策だというが、個別企業や自衛官の私腹を肥やすために税金が使われるのであれば、納税者はたまったものではない。

 防衛省・自衛隊はOBが顧問などとして防衛産業に天下り、両者の「橋渡し」をしてきた風土がある。カルテルのような随意契約の問題もある。今回の疑惑を機に、防衛省・自衛隊と防衛産業の関係をめぐる問題の淵源(えんげん)をきちんと調べるべきだ。

 OBにもさかのぼって調査しなければならないが、防衛省・自衛隊は手心を加えかねない。川重には多くの資料が残っているはずだ。強制力をもった捜査機関がきちんと介入し、国を挙げて実態解明を進めるべきだ。(聞き手・里見稔)

「朝日新聞デジタルを試してみたい!」というお客様にまずは1カ月間無料体験