旭川いじめ再調査委 尾木直樹委員長らの記者会見での主なやりとり

古畑航希 三宅梨紗子

 北海道旭川市で2021年3月、中学2年の広瀬爽彩(さあや)さん(当時14)が凍死体で見つかった問題で、市の再調査委員会(尾木直樹委員長)は6月30日に記者会見を開き、市教委の第三者委が「不明」としていた自殺との因果関係について「いじめ被害が存在しなければ自殺は起こらなかった」とする調査結果の概要を明らかにした。

 会見での主なやりとりは以下の通り。

 ――今回7件のいじめを認定した。第三者委員会が認定した6件に加えて新たに認定したのか。

 野村武司副委員長)ぴったりそのものであるかは正確に述べることはできない。中学校時代のクラスにおいて行われたことはいじめとして認定している。クラスでのいじめが当該生徒の孤立感を生み、クラス外、学校外の人間関係に依存していく大きな要因になっている。その意味でこのいじめの認定は重要だった。それ以外では、性的なものについて複数、当該生徒と特定の関係にあった生徒の言動についても認定した。

 ――どのような気持ちでこの調査に携わった。

 尾木さん)再調査は一般的な調査委員会の2倍、3倍のエネルギーを要する。今回、引き受けた以上、今後の再調査はこうあるべきだというひとつのモデル、指針になればとがんばったつもりです。

 ――再調査報告書で訴えたいことは。

 尾木さん)事実認定も極めて緻密(ちみつ)。これまで色んな報告書を見てきたが、ここまで丁寧に突っ込んだのは初めてで、そこがひとつ大きな特徴。心理学的な分析のところは、4千行におよぶデータを統計学的、数量的なデータ処理をして、丁寧に人間的な視点で捉え直し、新しい手法で打ち出している。

 いじめのトラウマやフラッシュバックとか色んなものが影響をしてずっと尾を引いて、こんなに長期間にわたって彼女を苦しめたというのがつぶさにわかる。見ているだけでこちらも苦しくなってくる。それほど希死念慮が伝わってきて、僕もやりきれなかった。

 医療関係の資料やデータも手に入れて、ドクターに直接聞き取りをしたり、医学的な分析も非常に丁寧にしたりした。

 ――提言について、具体的に。

 尾木さん)多岐にわたっている。学校の対応、教育委員会、行政はどうすべきか。単なるいじめ防止の教育だけではなくて、SNSの問題や性教育。これは欠くことができない。

 性的な事件も増えている。(十分な)性教育は日本で誰も受けていないが、ここに切り込まない限り僕は根絶できないなと。子どもたちを守ることができないし、子どもの人権意識とか自分を尊重する気持ちの形成は非常に難しいと思っている。

 旭川の問題では全くない。全国的な問題、国家的な問題だと思う。そこまで含めて書いている。

 野村さん)いじめ防止の項目について、性の問題には触れている。性に関心をもつことは人の成長過程においてとても大事な人間の本質的なことだと考えるべきだと。

 ただし、性の問題は、SNSを含む非常に危険な情報も含めて流れている。子どもたちが何を基準に判断しているのかはきちんと考えるべきだ。

 また発達特性のある子どもに対して特性を踏まえた上で何ができるのかを考えていくべきだろう。

 ――今回、自殺の主たる原因がいじめだった可能性が高い。いじめの中でも性的ないじめが生徒に影響を与えていたという認識か。

 尾木さん)彼女が残しているデータを見ても、それを疑わせるような表現が散見される。それは深い心の傷になっていることは確かだと思う。絶対的にはまだ言えませんが。

 ――第三者委員会の報告書では、自殺の背景として広瀬さんの特性に問題があったとの記述があった。再調査委員会としてはどう受け止めているのか。

 野村さん)当該生徒は発達障害を背景とした行動を取ることがあったのだろうと思う。そのことが問題なのではなく、そういう特性のある子どもがいじめを受けやすいとか、孤立しやすい関係にもあるので、むしろいじめの観点でいうと、心身の苦痛があっても、本人の問題として処理され、なかなか理解されないところに問題点があると思っている。

 ――被害生徒はどうして亡くならなければいけなかったのか。この事案の根底にあるものは何か。

 尾木さん)これは難しい質問だと思う。丁寧にみると旭川の(問題の)根底にあるのは、ひょっとしたら全国どこでも共通するような、どこで起きてもおかしくないことじゃないかという気がする。

 だから具体的な提言で特徴的なのは性教育の充実。我が国では性教育がおろそかにされていて、先生方の性的な不祥事も相次いでいて、先生も性教育を受けていなくて、こういう国は珍しい。だから、文部科学省もしっかり読んでほしい。

 ――第三者委員会では遺族側から十分な資料提供がなされなかったとされた。今回の資料は十分だったのか。

 野村さん)再調査委員会では、(いじめと自殺の)因果関係について、心身の苦痛がどこまで続いたのかが分かる資料を提供して欲しいとお願いした。恐らく現在存在しうる十分な資料をご提供いただいたと思います。

 ――SNSの分析があったが、自殺の原因がいじめだと判断した根拠になった具体的な時期、言葉は。

 仲真紀子さん)死ぬ、怖い、つらいといった言葉や、自分が悪いという思いが何度も何度も繰り返し出てきている。最後の言葉は2月の失踪の前の「死のうと思う」。こういう言葉があることを踏まえると、いじめと関係なく亡くなったというふうには考えにくいのではないかと判断した。

 ――学校として対処すべき問題点は。

 野村さん)当該生徒がどういう心身の苦痛を生じているか評価することが必要だったと思う。担任の先生は孤軍奮闘していた。組織的にこういう状況が生まれていることに対し、例えばいじめ防止対策組織などで、きちんと評価していくことが必要だったと思う。

 ――再発防止の提言について、いじめに対処するときに、現場の教員に負担がかかりすぎないようにする内容はあるのか。

 尾木さん)いじめ防止対策会議などはあっても機能していない。1人の先生に任せておいたらダメで、学校全体の英知を絞って、分析して、どう対応すべきなのか決めないといけない。いじめ問題は最優先課題。それが今なかなか伝わっていないと思います。そこを強調したい。

 野村さん)現場の先生が、いじめじゃないかという観点で児童生徒のことを見ていくと、いつのまにか行為に目が移っている。いじめは行為の程度が小さくても、心身の苦痛が大きいこともある。行為だけを見ていては、いじめを早期発見することができない。児童生徒の心身の苦痛にどれだけきちんと目を向けられるのか、共通認識として持たないと、いじめ防止対策組織がきちんと機能しない。

 ――市教委が、いじめをないこととして学校への指導を怠ったとあるが、なぜこのようになったのか。

 野村さん)いじめの問題にせず、関係した生徒の問題行動だとし、これを終結したいという意図が相当強く働いたと思われる。謝罪の会をとにかく早く行って終わらそうというのが市教委の対応。道教委がかなり働きかけをしていたにもかかわらず、市教委は学校に対しての指導助言をしていなかった。

 ――市教委がいじめの問題として捉えずに謝罪の会で終わらせようとした対応は、いじめを防ぐ対応につながらなかった。

 野村さん)それもあります。ただ一方で、転校した後の当該生徒に対する対応として市教委は熱心に、丁寧に発達課題については転校先の学校と連絡をとりながらやりとりをしているが、そこにいじめという要因を入れなかった、あるいは問題にすることはなかった。そのため当該生徒は発達課題の問題としてのみ捉えられることになって、いじめによる心身の苦痛がどれほどのものなのかの評価や観点に移らなかったのが非常に大きな問題で、残念な結果を生じた可能性があると思う。

 ――警察の介入について、どのような対応をすればよいか。

 野村さん)事件化を問題意識として持っている警察と、いじめの調査に問題意識を持っている学校や教育委員会と、複数回聞き取りがなされることになってしまう。聴取のあり方の複雑性、複数化というのは、司法面接の手法を取り入れて、同時に問題意識を持っている機関が問題意識を共有しつつ、遠慮をしながら必要なことを聞いていくのが重要だと思う。

 ――SNSで被害者や遺族への誹謗(ひぼう)中傷があった。

 尾木さん)本当に現代的な波紋の広がり方、うわさの広がり方、ご遺族に対するものはものすごくひどい。あってはならない。ある意味自己満足で発信したり、自分の推論を述べて満足したりしているのだろうが、コンプライアンス意識をもってほしい。

 ――黒塗りなしの文書が流出したことについて。

 尾木さん)漏洩(ろうえい)事件、想像もしていなかった。まさかネットを通して流れてくるとは思わなかったので、青天のへきれき。こんな流出の仕方をすれば、再調査、調査委員会そのものが機能しなくなる。誰も協力してくれなくなってもおかしくないと思う。

 ――流出を受けて再発防止策や答申の期日のめどは。

 野村さん)流出のリスクがどうしても払拭(ふっしょく)できないということで、再調査委員会の報告書自体に保護措置をとらなければいけないだろうというのがこの間の議論。旭川市が情報管理についてどういった考えをもっているのかを確認した上でということになるので、いつごろということは申し上げられないが、条件が整ったときに報告する。技術的な保護措置と旭川市の保護措置、二つを条件として提出する。

 ――技術的な保護措置とは。

 野村さん)例えば、氏名の取り扱いの問題や報告書にすかしを入れるとか、様々なことを検討する。

 ――1年以上の調査を通じて、改めて広瀬さんにどのような思いを抱きながら調査に当たったのか。

 尾木さん)今回、いじめとの関係性については、心理学的、精神医学的な分析を相当重視した。浮かび上がってきた中身から見ていくと、本当に胸に迫ってくるものがあり、長い間苦しめたなと。解明するのに時間がかかりすぎたことを本当におわびしたいなと個人的にはそういう思いでいっぱい。もうこういうことを繰り返さないように、私たち大人が対応できるような社会的な状況にしたいなと、そのことで許してもらいたいなと思う。

旭川市いじめ問題再調査委員会

委員長  尾木直樹氏 (教育評論家)

副委員長 野村武司氏 (弁護士)

     伊東亜矢子氏(弁護士)

     斎藤環氏  (精神科医)

     仲真紀子氏 (心理学者)(古畑航希、三宅梨紗子)

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この記事を書いた人
三宅梨紗子
ネットワーク報道本部

福祉、多文化共生