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スパコミサンプル『楽園にて』/Novel by らいち

スパコミサンプル『楽園にて』

8,646 character(s)17 mins

5/3のスパコミに出すテスデイ本サンプルです。

2人が誰もいない吹雪の特異点に閉じ込められつつ日常を過ごす話。
ほのぼので不穏でシリアスな純愛ものです。
※ここはミクトランパではありません

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Ihatav


 
 窓ガラスが硬い何かに叩かれる音で目を覚ました。午前五時。まだ日は登っていない。
 雪が吹き付けられる音とも違う音が気になって起き上がる。デイビットは枕元に常備してあるマッチでサイドランプに灯りをつけてベッドから降りる。靴下越しに床の冷たさだけが伝わってくる。もう一度、コツンと音がする。
 すでに心当たりはついていて、着替えるべきか少し悩んでそのままカーテンを開けることにする。雪が降っていない。いつぶりだろうか。
「よぉ、ディビット。見ろよ、久しぶりの晴天だ」
 窓から見下ろすとテスカトリポカがいつもの格好で見上げている。サーヴァントは風邪をひかないとしても寒そうだな、と思う。早朝だというのにテスカトリポカは上機嫌でランタンをこちらに向けてゆらゆら揺らしている。
 もう片方の手に持った小石を見てさっきの音の原因はあれか、と納得した、銃の腕前は酷いものなのに石を投げるのだけは上手いらしい。いや、銃だけが下手なのか、確かアステカにも一応投石機はあるのだからアステカの全能神であるテスカトリポカが下手だったら笑いものだろう。
 いくら周りが静かといえどガラスを挟めば声が通りづらい。窓ガラスを開けると嬉しそうに金色が揺れた。随分と元気がいい。
 窓を開けると当然、キンと冷えた空気が一気に室内に入り込む。今日も気温が零度を上回ることはないだろう。肌を刺すような寒さに眉を顰めて椅子にかけてあるジャケットを羽織った。
「雪かきの時間には早くないか」
「おいおい、せっかくの天気なのに積まんねぇこと言うなよ兄弟。どうせ時間はたっぷりあるんだ、遊ぼうぜ」
「それがオレを起こした理由か?」
 時間があるならもう少し遅い時間でもいいだろう。太陽すら登っていない時間だぞ。色々と言いたいことはあったが二度寝するには体が冷えて目が覚めてしまったし、『起きてまた寝る』という行為自体、自分という存在にとって好ましい者ではない。仕方がない。
「少し待っていてくれ。十分で支度する」
「そうこないとな、雪合戦しようぜ」
「……流石に雪玉を投げる才能はあるのか?」
「あ゛?」
 反論が聞こえてくる前に窓ガラスを閉める。声は聞こえなかったことにして寝巻着を脱ぐ。
 窓を開けたせいで室内は冷えていた。先程まで自分の体温で暖まっていたはずの布団ですらデイビットの手よりも冷たくなってしまっている。自分の肌が逆だっているのを感じる。こんな地でも平然と行動ができる癖に鳥肌が立つのがなんだか妙におかしい。
 ニットを着てべルトを締める。ジャケットを着直して安全靴を履いた。
 蝶番の軋む扉を開けて部屋を出る。日の出は遠く、手元にあるランタンだけが足元を照らしている。窓越しに暗い空を眺めるが雲の様子から長くは持たないだろう。遠くに厚い雲が見える。
 
 ◇◇
 
 玄関にはシャベルがずらりと並んでいる。二人しかいないのに必要以上に用意されたシャベルは積雪量に合わせてどんどん本格的になっていき、デイビットとテスカトリポカがこの特異点に来てからの期間を物語っていた。
 ディビットは少し考えて雪かき用のシャベルを手にとる。テスカトリポカがいつも使っている一番大きいものを。
 外を出ると一面の雪景色だった。吐いた息が白くたなびいて空に昇っていくのが見える。
 息を追って空を眺めると暗い朝の空にまた鈍色の雲が立ち込めていた。あと数時間もすればまた吹雪に逆戻りだろう。
 灰色の視界の中、視界の端にゆらめく炎がテスカトリポカを照らしている。一つ、ため息をついてテスカトリポカの方に向かうと手には雪玉が握られているのを確認できた。ついでに足元にも。
「そら!」
 お前、確かそう言う時に限って当たらないだろう、と頭によぎったのも束の間、ディビットめがけて複数の雪玉が飛んでくる。
 はじめの二つは避けて、残り二つをシャベルで叩き落とす。残念なことに射撃の腕は雪玉でもいかんなく発揮されていた。これなら、避け放題だし簡単に落とせる。……落としたはずの雪が形を崩さないでそのまま残っていることに目をつむれば。
「テスカトリポカ!雪を固めすぎだ!砲弾じゃないんだぞ!」
「お前が来るのが遅いからな!オレも熱が入っちまった!」
「……このっ!」
 テスカトリポカがしゃがんで用意している次の雪玉を拾い上げる前に目の前の雪原に勢いよくシャベルを突き刺す。体重をかけたそれを柄から一気に引き倒して雪を掘り起こす。目を丸くしたテスカトリポカが立ち上がるものの悪いがこちらの勢いの方が早い。テスカトリポカの顔目掛けて躊躇なくフルスイングした。
「それはなしっ……!」
 ベシャリ、とテスカトリポカの顔面に雪が直撃する。勢いで後ろに転んだテスカトリポカを無視してその隙に足元のガチガチに固められた雪玉を蹴飛ばした。雪は形を崩すことなく近くの雪山に埋まっていく。転がった砲弾を全て除去してから自慢のサングラスの雪を拭っているテスカトリポカに声をかける。
「ははっ、全能神も形無しだな」
「ったく、とんだ悪ガキだよ。お前は」
 立ち上がりながらバタバタと頭を振って被った雪を落とす様子が犬みたいで、ジャガーなのに犬みたいって意味がわからないな、と笑いが込み上げてきて愉快になる。笑っていたらお返しと言わんばかりにわしゃわしゃと髪をかき混ぜられて、見上げたら悔しそうな顔をしてるくせに笑っているテスカトリポカと目があって、彼のそんな顔を見れるのは自分だけなんだと思うとさらに笑いが込み上げてきた。
 ふと思い立って足元の雪を掬ってテスカトリポカの開け広げた胸元に入れてやると、その場で声にならない悲鳴と一緒に飛び上がって急いで雪を落としている。てめぇ!っと怒るテスカトリポカが面白くて耐えきれなくて、立っていられなくてその場にしゃがみこんで笑った。
「おかえっしだ!」
「わっ」
 ガッ、と腰を掴まれたかと思うと持ち上げられたのもつかの間、そのまま雪の上に押し倒された。痛みは無いが背中が一気に冷えていくのを感じる。もっとふわふわしているものだと思っていた雪の上は案外べしゃりとしている。押し倒されているはずなのに重さを感じないのはテスカトリポカが重心をかけないようにしているからだろう。デイビットの視界をテスカトリポカの金色のカーテンが埋め尽くす。自分よりも薄い金色が雪の反射でキラキラ光って綺麗で思わず手を伸ばしたくなって、引っ張って指に絡ませた。。
「おい、こらいたずらっ子。引っ張るな」
「きれいだな」
「そうかい、後でいくらでも触らせてやるから」
 しかたねぇな、と手を掴まれて、絡まった手をそのまま雪の上に落とされる。何をするんだ。抗議の意志を込めて見つめると空色の瞳が細められてこちらを見つめ返した。青空と言うには暗く海と言うには透き通った瞳。本来ならその目は全てを見守り破壊するためにあるのに、今はデイビットだけのものだ。
 見つめ合ってるとそのまま額に一瞬だけ暖かい感触が触れた。キスをされた、と気づくのに時間はかからなかった。時々、テスカトリポカはデイビットに子どもみたいなキスをする。嫌なわけではないが少し恥ずかしい。
「ほら、立てるか?」
 そのまま手を引っ張られて立ち上がる。デイビットのジャケットは雪で濡れてしまって随分と重くなっている。丈が長いことが幸いしてズボンまで濡れていないのはよかった。髪に着いた雪をテスカトリポカが払ってくれる。
 ふと、刺すような痛みを感じて手元を見る。手袋をしないまま来たから指がすっかり冷たくなっていた。テスカトリポカが触れていたところだけが熱を持っていて熱い。
「テスカトリポカ、手が冷えた」
「は?……おい、赤くなってんじゃねぇか」
 テスカトリポカに手を見せると眉をひそめられる。そのまま片手を握られて一緒にテスカトリポカのコートのポケットにしまわれた。テスカトリポカの手の熱が伝わるのを感じる。
「もう満足したのか?なら帰ろう。昨日のスープの残りがまだ残ってる」
「はいはい、ん、いや…待て……いいか、ディビット。あんなもんスープって言わないんだよ、粉を入れすぎだ。ほとんど固まってゼリーみたいになってたぞ」


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