新一万円札の肖像・渋沢栄一 設立に関わり現存する企業は167社
売上高トップはENEOS、業歴トップは三越伊勢丹
明治時代の実業家であり、「日本資本主義の父」とも呼ばれた渋沢栄一。2021年には彼を主人公としたNHK大河ドラマ『青天を衝け』が放映され、改めてその名が知られるようになった。7月3日に発行される新一万円札の肖像に起用されるなど、没後90年以上が経過して今なお注目を集める、近代日本を代表する偉人だ。
「公益の追求」を信条とした渋沢栄一が設立や運営、あるいは出資者として関わった企業は約500社にのぼる。その他にも社会福祉や教育事業の団体を含めるとさらにその数は増える。設立から100年を超えた今も第一線で業界を牽引している企業は多く、渋沢栄一の遺産は現代においても脈々と受け継がれている。
帝国データバンクの調べでは、渋沢栄一が設立に関わった企業を母体として合併・被合併などさまざまな変遷を繰り返し、現在も事業を継続している「渋沢栄一関連企業」は167社を数えた。明治維新前後に誕生し、経済の勃興期ともいえる時代を牽引した企業は、今でも確かな存在感を示している。
売上高別:ENEOSがトップ、金融・保険関連が上位に並ぶ
『渋沢栄一伝記資料』(渋沢青淵記念財団竜門社編)に基づき、渋沢が設立・運営に携わった企業を母体として現存している企業は167社(うち上場企業は98社)だった。
2023年時点の売上高(単体)をみると、総合エネルギー企業として国内トップシェアのENEOS(東京都千代田区)が最も高く、唯一10兆円を上回った。その他、金融・保険関連やインフラ関連の業種が上位を占めた。日本で最初の銀行として1873年に開業した第一国立銀行を源流とするみずほ銀行を含め、三菱UFJ銀行、三井住友銀行と3大メガバンクがそろって上位を占めた。また、インフラ整備が必要とされたことでガス・水道などの鋼管事業を手掛けた日本鋼管の流れを汲むJFEスチールもみられた。
渋沢栄一関連企業には上場企業を含めた大企業が多く名を連ねており、売上高1000億円以上の企業は85社と半数を超えている。また、2023年までの5期における推移をみると、新型コロナが直撃した2021年こそ減収が3分の2を占めたものの、2023年は7割近い企業が増収を果たした。利益面でも直近では半数前後の割合で増益となっており、23年に「増収増益」だった企業は65社だった。
業種別:製造業と金融機関が半分を占める 明治期の日本経済の勃興を支えた業種が多数
業種別では、製造業が49社で全体の約3割を占めた。さらに細かい分類でみると、化学工業(10社)を筆頭に飲食料品・飼料製造や、重工業が含まれる一般機械器具製造などが多くみられる。
また、金融・保険が35社で続き、鉄道事業が大半を占める運輸・通信(22社)も続いた。また、電気・ガス事業者(14社)などインフラ関係の業種が多く見られる。渋沢栄一が活躍した明治時代は日本が資本主義経済の礎を固める時期であり、その当時に求められていた事業を次々に興したことが、現存している企業からも読み取れる。
業歴別:業歴100年以上の「老舗企業」は110社 業歴トップは創業350年超の三越伊勢丹
業歴別でみると、創業・設立から100年を超える「老舗企業」は167社のうち110社を数えた。合併・被合併などを繰り返すなかで会社新設となり業歴が浅いケースも見られるが、多くは渋沢が活躍した時代に興された企業が今もそのまま続いている。平均業歴は111.4年だった。
そのなかで、最も業歴が長いのは三越伊勢丹(1673年創業)だった。当社は三井高利が呉服屋として創業した「越後屋」が祖業だが、その後1904年に百貨店へ姿を変えた三越呉服店に渋沢が大きく関わっている。また、渋沢が長く相談役を務めた清水建設は、2代目当主の清水喜助の時代に渋沢邸を建設したことでも有名。渋沢邸は24年1月に江東区指定有形文化財に指定された。
まとめ: 受け継がれる渋沢栄一の想い、企業の存在意義を見直す良いきっかけに
経済による国づくりを使命とした渋沢栄一が関わった企業は、今もその多くが存続し日本経済を支える。社会福祉事業にも注力した渋沢は、正しい志・道徳観に基づいて世の中のために働くことで利益を得られるとする「道徳経済合一説」を重んじたことでも知られる。企業を「社会の公器」と表現し公益を追求したことの先見性は、現代においてこそ評価されている。
社会のために尽くそうとした渋沢の想いは、企業の存在意義を示す「経営理念」にも込められている。社会、貢献、発展、客(顧客)、創造などの言葉が頻出し、広い視野を持って未来を創ろうとする心構えが表れている。
近年はサステナビリティが重要視されるなか、企業の存在意義に基づいた、いわゆる「パーパス経営」にも注目が集まっている。新一万円札の肖像に起用される大きな節目に際し、渋沢栄一の考えに触れることは自社の事業価値を再認識する良い契機となるだろう。
■(公財)渋沢栄一記念財団情報資源センター提供のデータ(2024年6月末時点)等を参考に実施、本調査は2022年4月に続いて2回目
■『渋沢栄一伝記資料』や各企業が発行している社史などに、渋沢が設立・運営に関わったことが明確に記載されているものを基準に選定
例)発起人、役員就任、株主、設立指導など
■※印の画像は、渋沢栄一記念財団が運営する「渋沢栄一フォトグラフ」(https://denkiphoto.shibusawa.or.jp/)より引用
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