【旧約】狂気の産物   作:ピト

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42話 私は一人の女の子

 ──────1月21日 第一高校最寄り駅

 

 朝の通勤通学というのは不思議なことに、年度初めの4月からしばらく経てばその人の出勤登校時間がだいたい固定されてくる。それは、大人数を鮨詰め状態にして大衆電車で運んでいた前時代も個別電車(コミューター)が主流となった現代もさほど変わらない。学生であるなら友人たちと駅で待ち合わせして一緒に行くのも定番の光景である。

 しかし、中にはそれに当てはまらない者もいる。今、国立第一魔法科高等学校の最寄り駅に姿を現した尽夜はまさにコチラに属している人物だった。尽夜を取り巻く環境が特殊であるのも起因してはいるが、実際のところ尽夜がその日の朝にどれだけ寛ぐかの匙加減である。数少ない友人とも、偶然出会うことができたならば一緒に登校するのが常で、特に示し合わせも無い。

 だから本日、尽夜の到着とほぼ同時にリーナが駅に着いたのも全くの偶然である。

 

「ハーイ、尽夜」

 

 リーナが尽夜に気付き、手を振りながら近付いた。

 

「ああ、リーナか。おはよう。調子はどうだ?」

 

 尽夜もリーナに対してにこやかに返答した。

 

「おはよう。私は上々よ。朝の通学じゃ初めて会ったわね。ということで、よろしければご一緒しない?」

「他の人たちと待ち合わせはしてないのか?」

「学校内ならまだしも通学まで気を遣いたくないから一人よ」

「なるほど。留学生も色々あるんだな」

「そうよ。ジンヤが思っている以上に大変なんだからもっと労わってくださる?」

「じゃあ行こうか」

「ちょっと!ムシはないでしょー!」

 

 歩き出した尽夜をリーナが遅れて追いかけた。第一高校までの道のりはそこまで遠くもない。二人は他愛もない話をしながら並んで歩く。リーナが転校してきて以来、二人は実習中にペアを組むことが多いが、普段の生活で日常会話をすることは意外にも少なかった。リーナが人気者で様々な交友関係を築いていること然り、尽夜が再登校してから単独行動する時間が多い事然り。そのため、第一高校の生徒たちは尽夜とリーナという見慣れていない組み合わせに好奇の視線を送っていた。

 リーナが尽夜の隣を歩いて、ふとあることに気が付いた。正門に入ってから感じる違和感だった。

 

「………ねぇ、ジンヤ」

「どうした?」

「どうしてこの学校の生徒のほとんどが貴方のことを避けてるの?」

 

 避けている──リーナは周囲に配慮してオブラートに包んだつもりだった。リーナ自身日本における四葉家の存在をハッキリと認識できていないため、尽夜が他の生徒たちからあまりよく思われていないのだと考えた。二人の通る先には人が道を空ける行動が目立つ。

 

「リーナ、生徒会室に寄りたいんだ。一緒に来てくれないか?」

 

 尽夜はリーナに目線を合わせながら、問いには答えなかった。代わりの言葉は全く方向性が欠いている。

 

「え?ええ、いいけれど………」

 

 尽夜から妙な目線を受けたリーナは、戸惑いながらも了承を返した。尽夜の表情は先程から代り映えの無い笑顔のまま。しかし、例えるなら仮面を着けたように不気味にリーナの目には映っており、さらには、尽夜の優し気な声がまたそれに拍車をかけていた。

 駅から続いていた和やかな会話が途絶え、お互いに無言のまま生徒会室に辿り着いた。尽夜がキーカードで生徒会室のロックを外し、リーナを中へと誘う。恐る恐る入室するリーナ。尽夜はリーナが入ったことを確認すると内側から鍵をかけた。すると尽夜が振り向こうとした瞬間、右斜め後ろから殺気が放たれた。尽夜は放たれた手刀を難なく掴み取り、相手を引き寄せた。体の位置を反転させ、壁に押し付けるように組み敷いた。

 

「穏やかじゃないな」

 

 尽夜に攻撃を仕掛けたリーナ。彼女には特に悪びれた様子はない。

 

「あら?フィアンセでもない男と二人っきりで室内に閉じ込められたのだから当然の反応じゃないかしら?」

 

 正当防衛を主張するリーナの軽口。

 

「俺にはまだ婚約者がいるんだが?」

「ミユキと全然仲良くできないからワタシで不義理を働くの?だったらもっと情熱的に口説いてくれないかしら?」

 

 リーナが尽夜に対して攻撃を仕掛けたのは、尽夜の様子から何かがあると悟ったからである。受け身で事に構えるよりは、自分から動くことで局面を自陣の流れへ持って行こうとしたのだ。気持ち悪い冷や汗は未だにリーナの背を伝っている。嫌な予感はヒシヒシと感じていた。そんな不安感を誤魔化そうと、リーナは軽い冗談を挟むことで気を確かにしていた。尽夜に組み押さえられている状態が咄嗟に出た冗談を助長していることは、リーナにとってありがたかった。

 

「おや?意外と好意的だな」

 

 しかし、尽夜が冗談に冗談で軽く返すと、リーナの表情が固まった。

 

「なっ!?そんなことある訳がないじゃない!」

 

 諜報訓練を受けたことが無いリーナは、尽夜のたった一言で形勢を不利にさせてしまう。今の状況でも逆に尽夜を取り込むようにする方がUSNA側とすれば美味しい展開であろうし、最低限頭に血が上ることなく会話することが必須である。だが、リーナはまだそこまで自分の心を殺せない。潜入捜査に携わるのなら致命的な弱点だ。尽夜は内心でリーナを送り込んできたUNSAの上層部に呆れていた。戦闘要員としてリーナを派遣しているならまだしも、陽の目が当たるスパイを任せるのは彼女の性格上完全な采配ミスである。

 尽夜とて四葉家を将来背負わねばならぬ次期当主。作戦における人事適性の大切さは、若輩ながら弁えているつもりだ。故に、今回のUSNAの人選は極めて疑問だった。

 

 ──閣下がUSNAに恩を売るまでもないと思うが……。いや、閣下のことだ。おそらく上層部の中にコネクションを築いておくべき人物がいるとお考えなされていると捉えた方がいいか。ならば、リーナは橋渡しにすべきかどうか。

 

 もがくリーナを思考の傍らで相手しながら、尽夜は目の前の女が利用できるかを判断する。しばらくすれば、リーナの抵抗は弱まっていった。

 

「ねぇ、もう敵わないのは分かったからそろそろ離してくれない?」

「満足したか?」

「………ええ、急に手刀を入れて悪かったわよ」

「最悪魔法を使われるとも思ってたんだがな」

「平時に許可なく使用禁止ってことくらいカノンから聞いてるわ。後処理があるっていうし、それに使えばただじゃ済まされないでしょ?今のはワタシたちにとって犬同士のじゃれ合いにすぎないんだから」

 

 リーナとしては事を大きくするつもりはないと主張している。魔法を使い、想子を活性化させれば情報次元上に記録として残る。それをリーナは嫌ったのだと、表向きはそう捉える。実際、尽夜としてもリーナが魔法を使えば、後処理工程を新年明けてから距離を取っているあの人に頼み事をしなければならなくなっていたため結構な具合で助かった。

 

「ねぇ、この体勢ホントに恥ずかしいわ」

 

 リーナが尽夜に押さえられている体勢は、外から見れば今にもキスしそうな状態である。尽夜はそっとリーナを解放した。もう暴れることはないと分かっているし、彼女がウソをついているという直感もなかった。解放されたリーナは掴まれていた手首を気にしていた。

 

「あれ?アザになってない。力加減が絶妙ね」

「ああ、慣れているからな」

 

 何に慣れているのかをリーナは追求しなかった。しかし、そこに眼前にいる男がかのアンタッチャブルであることを垣間見た気がした。リーナは今作戦のためにオペレーターとして一緒にやって来たシルヴィアから四葉家にはおそらく正体がバレていることが知らされていた。確証を得られていることではないし、尽夜もまだ一度たりともリーナを目前にしてシリウスとして扱ったことはない。半信半疑の状態だった。

 

「先程のリーナの質問に答えよう。ここの一般生徒が友人を除いて俺を避けているのは自分たちが情勢の渦中に飲み込まれないようにするためだ」

「どういうこと?」

 

 訝しむリーナに尽夜は母親譲りの妖しさ満点の微笑みを浮かべた。

 

「昨晩のような非日常に自ら飛び込むもの好きはいないってことだよ。スターズ総隊長アンジーシリウス少佐殿」

 

 ピクリとリーナの眉が反応を示した。それだけで済んだのは事前情報があったからで、もしリーナの正体をUSNA側が感知されていないと考えていたなら、彼女はこの場で絶句しているか、最悪再度戦闘が始まっていたかもしれなかった。

 

「………やっぱり知っていたのね」

 

 そう呟いたリーナは不思議と落ち着いている自分に気が付いた。隠し事が無くなったことで逆に開き直ることができたのだ。色々と取り繕う労力は精神的にストレスが溜まるもの。ましてや諜報訓練を受けていないリーナならなおさらそうであろう。

 

「リーナが入国する前から割れてる。どうして日本に来たかもな。マイクロブラックホール実験によって発生したヴァンパイアのこともよく知っている」

「………貴方たちって本当に何者なの?」

 

 リーナは既に驚きよりも純粋な興味からポロリと出た感想だった。

 

「さて、朝の時間は有限だ。話を先に進めようか」

 

 尽夜は椅子を引いてリーナの着席を促した。向き合って座ると雰囲気に真剣味が増す。

 

「我々四葉家は大きくなり過ぎた事態にこれ以上静観すべきではないと判断している。『灼熱のハロウィン』の魔法師を調査するだけならいざ知らず、未知の魔物を呼び込み、日本に害をもたらしたことは誠に遺憾である。しかしながら貴国と我が国は同盟関係。故に事を荒立てるのは得策ではないと思われる。よって、アンジーシリウスの最も信頼のおける指揮官にお目通りを願いたい」

「私の処理できる範疇ではありません。是非大使館の方へお問い合わせ願います」

「我々は貴国を侮っている訳ではないが、今回の一連を指揮している上層部に関しては接触する価値を感じない。我々四葉家が望んでいるのは有意義な話し合いであり、シリウス少佐殿を表の諜報に組み込んだ時点で大使館で我々の望む相手に会える確率は低いだろう」

 

 ひどい言われようだ。リーナは心の中で自嘲した。しかし、リーナとしても尽夜が言うように人選への不満が無かったわけではない。容疑者と同じ年だからという理由で、まともな諜報訓練も受けずに大役を任される身にもなって欲しいと思っていた。日本の新たな戦略級魔法師の確率がトップスリーな三人の調査を一任され、さらには偶然にも脱走兵の処理までやらされることになった。一貫しない命令に、筋違いの任務。リーナは尽夜の要求にもっともなことだとしか考えれなかった。

 

「私の信頼できる上司に当たってみましょう」

 

 リーナの脳裏には直属の上司であるバランス少佐が浮かんでいた。

 

「シールズの名前と俺の知るリーナを信頼しているよ」

 

 尽夜が了承の意味を込めて二コリと頷いた。

 

「あ、そうそう。リーナが選ばれる御方に渡して欲しいものがある」

 

 胸の前で手を叩く尽夜は、鞄の中から一枚のファイルを取り出して机上を滑らせた。

 

「なにこれ?チェックしても?」

「ああ」

「………写真?………っ!?」

 

 リーナが数分ぶりに目を見開いた。

 

「貴国が昨夜処理した対象以外の見覚えのある顔ぶれだと思うが、現在死体をどう扱おうか悩んでいる。彼らは我々の手で凍らせているよ」

「いいえ、知らな──」

「──しらばっくれない方が良い。我々は既に証拠を掴んでいるからな」

「………」

「パラサイトの残りは一体。この対象は少々他の個体と違って特殊でね。我々がいつ手を出すべきか難しい個体であることから、できることなら貴国が処理してくれることが望ましい」

「ワタシたちが必死に捜索中の個体の場所が分かってるの?」

 

 尽夜が口角を上げた。

 

「いくら巨人だろうと下を見ずに歩けば小さな石ころに足元をすくわれるに決まってるさ」

 

 

 

 

 

 ──────

 

 生徒会室で話を終えた尽夜は、一人A組の教室に入った。いつものように一瞬だけ静寂が訪れた後、元の喧騒が戻ってくる。同じクラスであるはずのリーナが一緒にいない理由は、彼女が化粧室に寄ると言ったからである。それが本来の目的であるかどうかは詮索するのも野暮だ。

 尽夜は先程の話し合いでリーナに対し非常に抽象的なヒントは与えたが、具体的な情報は明示しなかった。その理由は二つあった。一つ目は、リーナが推挙する上司が尽夜たち四葉家をどのように扱うかという相手の出方を窺う目的だ。世界中でアンタッチャブルと称される四葉家。その権威は東アジアでは特に干渉すべきではない勢力として今なお見られている。しかし、実質的な被害を受けていない国々ではどうであろうか。四葉家が一族単一で一国をほぼ壊滅状態にしたあの戦争からは、もう既に三十年が経とうとしている。人間はその忘却能力と都合のいい解釈をする能力において素晴らしい素質を保持しており、物事に対する捉え方が時間と共に劣化していくことはよくある。

 

『崑崙法院に実力がなかっただけで、四葉家が恐ろしい程の力を持っているのではない』

 

 こういう言葉が出てきてもおかしくないくらいの時間が経った。おそらくはUSNAの上層部でもこのように考える者が少なからずいるであろうと、尽夜は確信している。そのような輩にリーナが話を持って行けば一蹴されることだろう。もしくは、よくて四葉家を使役しようとして飛びついてくるか。後者の場合は限界まで放置される可能性もある。纏めると、尽夜にとって重要な点は交渉と話し合いが誠にできる相手と会うことなのである。

 二つ目は、正規入国者のパラサイト、本名はミカエラ・ホンゴウ、入国籍においては本郷未亜を名乗る生命体の動きが慎重になっており、最近では活動を自粛する感じが見受けられるからである。四葉家によって肉体を獲得したパラサイトが二体にまで減少し、更に昨晩ではリーナによってもう一体の宿主が処理されていた。二体にまで減少した後の数日は個体数を増やそうとしたのか活動的になっていたのだが、最後の一体にまでなるとその活動は極めて消極的になっていた。夜中に行動こそしているものの、それは宿主の表の仕事をしているようで、先日までのように魔法師を襲う素振りを見せない。ピタリと止んだパラサイトの行動に、USNAも四葉家以外の捜索部隊においても空回りが続いている現状だった。つまり、尽夜はしばらくパラサイトが大人しくすると読んだのだ。USNAからの返答を待つだけの時間的余裕があると判断した。

 だが、それは数日後に思わぬ形で外れ、さらに思わぬ妨害に遭うことになる。

 

「おはようございます」

 

 尽夜が自席に向かうと、既に登校していた深雪が挨拶をする。彼女の顔色は以前より落ち着きを取り戻したように精気が感じられた。

 

「おはよう、深雪」

 

 尽夜は柔らかく微笑んで返答し、席に座った。それと同時に深雪が尽夜の耳元へ近付いた。傍から見ると男女の情愛が始まるような行動に、周囲(特に女子生徒)が注視した。

 

「少しお耳を」

 

 周囲の状況とは裏腹に深雪の声音は小さく、そして真剣味を帯びていた。

 

「………この場でも大丈夫な話かい?」

 

 尽夜がそれに気付き、一応の確認を取った。

 

「声高々に言うことではありませんが、特にそこまでの内容でもないと思います」

「分かった。それで?」

「七草先輩と十文字先輩に今朝駅でお会いしまして、お兄様が放課後クロスフィールド部の部室にお呼び出しを受けました。対象はお兄様お一人とのことですが、都合が良ければ尽夜さんに足を運んで欲しいとおっしゃられていました」

「そのお二人か。何か詳しいことは?」

「いえ、特には………」

「そうか。分かった。ありがとう。俺もそれに同席することにするよ」

 

 尽夜は深雪の肩を優しく起こして微笑みながら礼を述べた。

 

 

 

 

 

 ──────

 

 放課後になり、達也と合流した尽夜は部活棟のクロスフィールド部にあてがわれた第二部室の扉をノックした。中から了承が聞こえ、扉を押した。

 

「「失礼します」」

 

 軽く会釈をして室内に入れば、真由美と克人が並んで座っていた。

 

「四葉、久し振りだな。司波もわざわざすまない」

 

 巌のようながっしりとした肉体から迫力の籠った声で克人が話を始めた。

 

「はい。十文字先輩におかれましてはお元気そうで何よりです」

「ああ。お前も壮健そうだな」

「おかげさまで」

 

 表面上は穏やかな社交辞令を交わす二人。尽夜は次に真由美を見た。

 

「七草先輩もお久しぶりです」

 

 真由美は尽夜に声を掛けられると、彼女はビクッと肩を震わせた。そして悲痛な面持ちで悲し気な単音を繰り返し、やがて俯いて黙り込んだ。克人は口を挟まない。達也もそれは然り。

 

「さて、お話を先に進めませんか?」

 

 早々と尽夜が克人に先を促す。克人は机の上で手の平を組んだ。

 

「単刀直入に言う。四葉、協力しないか?」

「何を、とは聞きません。しかし、その後の提案には少々賛同しかねます」

「昨夜、司波がバイクで外出していることの報告を受けた。追う獲物が同じならいがみ合っている場合ではない」

「いがみ合わねばならなくなった原因は横に置いておきましょう。その上で我々の現状をお伝えします。四葉家としては対外的に活動をしておりません。達也は自分の意思で千葉家の息女の要請に応えているだけです」

 

 克人が尽夜の右斜め後ろに控える達也をじろりと見た。

 

「我々も今回の事件関連を軽く見ている訳ではありません。これが最大限の譲歩です」

 

 視線がまたもかち合う。

 

「相分かった。四葉よ、感謝すると母君に伝えてくれ」

「承りました」

「司波と話がしたい。四葉はご苦労だった」

 

 尽夜は一礼を以って答えた。そして、二人の先輩に背を向けた。

 

「あっ………」

 

 尽夜の背中に思わず男を引き留める女性のか細い声が掛かった。尽夜が半身で振り返ると、真由美が机から少し身を乗り出し、右手が尽夜を追っていた。二人の視線が交錯する。感情の読めない尽夜の目、何かを懇願するような真由美の目。それは言葉が発されない沈黙を作り出した。

 

「………司波、場所を変える」

 

 克人が立ち上がり、達也に命じた。達也が尽夜に視線を向けると、尽夜はやや逡巡を経て頷いた。

 

「はい」

 

 達也が短く返事をして克人に続いた。

 

「俺たちは四人で話し合いを行い、四人揃ってこの部屋を出た。戸締りは後輩に頼んでおく」

 

 克人が最後にそう言い残し、二人が部屋を退出した。室内には尽夜と真由美が残される。

 

「………」

「………」

 

 無言でお互いを見つめ合う。真由美の耳には耳鳴りがけたたましく鳴り響いていた。段々と視界は尽夜の姿だけを映した。喉の奥が気持ち悪くなり、平衡感覚がおかしくなっていく。そんな状況でシッカリとした思考をできるはずも無く、真由美は話し始めることができない。

 尽夜が真由美に一歩近付いた。その足音を聞いた真由美は一歩後退る。尽夜が怖く感じた。目の前にいる尽夜は本当に自分の知る後輩であるのかが今の真由美には分からなかった。去年の生徒会長選挙前日の出来事とはまったく違った感じだった。あの時は圧力を感じこそすれ、まだ耐えることができる範囲だった。それが何故なのかは分からなかった。

 一歩、また一歩と尽夜が近付く度に真由美も後退を繰り返した。小さな部屋ではすぐに真由美の背中が壁にぶつかる。尽夜がさらに寄っていくと足の力が抜けて重力に従ってズルズルとへたり込んだ。

 

「七草先輩」

 

 再び同じ呼び方で尽夜が真由美を呼びかけた。瞬間、真由美の瞳から大粒の涙を溜めた。

 

「ご、めん、なさい」

 

 真由美がやっと絞り出した言葉は謝罪だった。顔を手で覆い、床に向いて途切れ途切れに何度も謝罪を口にした。何に対して謝っているのか、内容は言われない。感情が高ぶっている真由美を尽夜はただ目の前で静かに待った。話しかけもせず、手を差し伸ばすこともせず、片膝を立ててしゃがんだ。

 やがて謝罪の感覚が長くなり、真由美が多少落ち着いてくる。しかし、時折しゃっくりをあげる姿はガラスのように繊細で、ちょっと扱いを間違えれば割れてしまいそうだった。尽夜は内心でため息を吐いた。尽夜の知る七草真由美は小悪魔然としていて、明るくしっかりとした心の持ち主だった。生徒会長をしていたように、交渉事でも図太く、巧妙に駆け引きができるほどの猛者だったはず。だが、目の前にいる真由美はどうだろうか。気の弱い女性にさらに拍車をかけたような姿は、去年見てきた尽夜からすれば意外であった。

 

 ──読み間違えたか?どうも最近は勘による精度の良し悪しの差が著しすぎる。

 

 尽夜が内心でため息を吐いたのは真由美に失望したからではない。己の未熟さに対してだった。真由美が今のような状態に陥っている原因はまず間違いなく自分が大きく関与していると尽夜は理解している。対外的な社交場故に真由美のことを名字で呼んだのも一時のパフォーマンスにすぎない。しかしそれが思いの外真由美へのダメージになっていることを悟った。

 

 ──他にもう一人、対処に困る方がいる以上真由美さんを早めに対処するのが吉か?外見的には悪手にはなるが………いや、むしろ好機か。

 

 尽夜はこれからの計画に決定を下す。僅かながらに今の真由美を放置することを拒む気持ちがあった。それは元来普通に備わるはずの心の有り様から生まれていた。

 

「真由美」

 

 尽夜が意識して声を優しく安心させるような質にした。敬称はあえてつけていない。ピクッと真由美が小さく反応する。そして、おそるおそる尽夜の顔を窺う。尽夜は下から真由美の顎に右手で触れた。微弱な振動が伝わってくる。

 

「………恐いか?」

 

 割れ物を扱うように気遣いながら尽夜が真由美に問いかけた。真由美は瞳を潤ませながらも小刻みに首を横に振る。どう見てもやせ我慢だと分かる返答だったが、その中には幾分マシな感情も窺い知れた。一度涙を流して落ち着いたのだろうか。尽夜の右手が真由美の顔の輪郭を伝い、首筋を撫でた。それと同じくしてキュッと真由美が体に力を入れた。それを見計らい、尽夜は両手を真由美の脇の下に入れて抱き上げた。

 

「えっ?」

 

 意識外の一瞬の出来事に真由美は状況を理解できず、素っ頓狂な声を出した。それでも体は正直であり、へたり込んでいた足では急に立つことなどできず、尽夜の胸の中に倒れるような体勢になる。真由美の横顔が尽夜の心臓の上に引っ付いていた。

 

「えっ?えっ?」

 

 段々と現状を把握していく真由美は羞恥に顔を赤らめ、体温の急激な上昇を感じた。それは涙が引っ込んでしまう程真由美の情動を変化させていた。

 

「落ち着いて。深呼吸」

 

 頭上から聞こえた指示に真由美は従い、触れている尽夜の胸が上下するのに合わせて慌てながらも深呼吸をした。すると、一定のリズムで鼓動を繰り返す尽夜の心音がハッキリと聞こえるようになった。真由美にとってその音はどこか安心できるものであった。そう思ったと同時に真由美の紙が優しく撫でられ、梳かれ始める。

 

「恐がらせてすまなかった」

「尽夜くん………」

 

 傍から見れば恋人同士のようなやり取りが交わされる。

 

「一人で抱え込ませて悪かった」

 

 しかし、真由美はすぐにハッとなった。今の二人の体勢が対外的によろしくないことに気付いた。

 

「尽夜くん………離れて………」

 

 真由美は自分が思っていたのとは裏腹に小さく弱々しい声が出ていた。

 

「離せば倒れてしまうだろう」

 

 尽夜はそれに拒否を示した。事実、真由美は自力で立てるほど足はまだ回復していない。

 

「ダメ………ダメなのよ」

「また抱え込む気か?」

「違う………違うの………こんなところを誰かに見られでもしたら」

「今の真由美は放っておけない」

「ダメ………お願い離れて………尽夜くんにこれ以上迷惑かけたくないの」

「俺では頼りないのか?」

「そんなこと、言わないで、じゃないと私──」

 

 真由美の言葉が突然途切れた。

 

 ──私?えっ?私はいったい何を言おうとしたの?

 

 真由美は戸惑っていた。既に防衛機制が働き、先程続けようとした言葉の内容は抑圧され思い出せない。さらに真由美は混乱する。しかし後からフラッシュバックする前後関係に予想を立てることができてしまった。

 

 ──違う違う違うっ!そんなはずない!私はただ尽夜くんに迷惑かけたのを申し訳ないと思っただけ!それ以上でもそれ以下でもないんだから!

 

 真由美の立てた推測が当たっていたにせよ、そうでないにせよ、真相は既に過去に葬られてしまっている。確かめようにもそれは真由美本人が思い出さなければならず、仮に思い出したとしてもそれを真由美が納得し受け入れるかはまた別の話だろう。記憶が浮上してこない真由美が誰に対してかも分からない言い訳をしていることがその先の展開を表しているかもしれない。

 

「外に知られることはない。今この部屋にいるのは二人だけだ。それでもまだ不安なのか?」

「そっ、そういうことじゃないわ!」

 

 真由美は自分の足に力を入れた。尽夜の胸板を両手で押して一人で立つことに成功する。小鹿のようにプルプルと震える足を一生懸命踏ん張って尽夜に向き合った。真由美の表情は朱色に染まり、呼吸は荒かった。

 

「我慢して欲しくない。このままだと真由美が壊れてしまう」

「尽夜くんには深雪さんが──」

「──今は家のことより真由美、お前の方が大事だ」

 

 尽夜は真由美との距離を詰めた。真剣な眼差しで見つめてくる尽夜に、真由美は耐え切れず顔を背けて尽夜の胸を押した。しかし、それは意味がなかった。

 

「え?キャッ!?」

 

 真由美は突き出していた腕ごと折り畳む体勢で尽夜に抱き締められた。

 

「去年のあの日、真由美が俺の感情を吐露させてくれたことを俺は忘れていない。強引にでも俺に口を割らせたお前に救われた。だから、今度は俺の番だ」

 

 尽夜の腕の中でモゴモゴしていた真由美が大人しくなる。

 

「だが今の俺たちにはあの時よりも周りの目が向けられている。だから今しかないんだ。今、この時だけは真由美に寄り添ってあげられる。誰もいないこの時だけは」

 

 真由美が尽夜の制服をキュウッと掴んだ。

 

「それとも、俺では真由美に寄り添えないのか?」

 

 不安を示すために、尽夜は真由美を抱く力を少し強めた。両者が一度静かになった。

 

「………イ」

 

 しばらくして真由美が尽夜の制服に顔を押し付けたままぐぐもった声を発した。

 

「……ライ」

 

 ぐぐもっているせいで真由美の声は小さい。

 

「…キライ」

 

 やっと一単語が聞こえた。真由美の手に力がこもる。

 

「大っ嫌いッ」

 

 口だけを尽夜から少し離れさせた真由美は感情を爆発させる。

 

「十師族なんて大っ嫌い!一条も二木も三矢も四葉も五輪も六塚も七草も八代も九島も十文字も大っ嫌い!二十八家も百家も、今の魔法師社会も全部大っ嫌い!昔の婚約者を引きずって、事あるごとにちょっかいかける狸親父が一番嫌い!お母様を愛そうとしなかったことも、私を政略結婚の道具みたいに扱うところも、小さい頃から落胆した目を向けてくることも!」

 

 バッ!と真由美が顔を上げて尽夜と目を合わせた。二人の間には十五センチも開いていない。感情の激情に真由美の目尻には再び涙が浮かんでいた。小さな粒が一筋、真由美の頬を流れ落ちる。

 

「尽夜くんのお母様との子供じゃない私には価値が無いの?魔法師の女として子供を産む以外に価値が無いの?他の家とのパイプを繋ぐ以外の価値はないの?どうして私を見てくれないの?私は人形じゃないのに!ねえ!私を見てよ!私のことをちゃんと見てよ!魔法師の前に一人の女の子として扱ってよ!」

 

 真由美の抱えてきたこの気持ちはいったいいつから蓄積されていたのだろうか?七草家の長女として十八年余りを生き、責任を背負いながらも明るく振舞っていた彼女はどれ程我慢し続けていたのだろうか。逃れられない状況で続けていた元婚約者たちとの仲を進めようとしなかった極小さな抵抗は、彼女の心を気休め程度に慰められていたのだろうか。

 

「尽夜くんだってキライッ!初めて同じ立場でその立場を忘れるほど心地良い関係を築けたと思ってたのに!去年の半年間は本当に楽しかったのに!心から尽夜くんのことを信頼できる気がしてたのに!尽夜くんは!………尽夜くんは!」

 

 矛先は尽夜へと移った。先程までは怒りの中に嘆きを大に含んでいたが、今は純粋な怒りの比重が大きく思えた。その中には悲しみも混じり合い、一段と真由美の感情を激しく揺さぶり、より一層真由美の吐露する語勢を強めた。

 

「私に何も言わずに学校に来なくなるし!私が心配して連絡をしようとしても他人が打ったような堅い文章しか返ってこないし!横浜から一度も直に尽夜くんを見ていない私がどれだけ不安だったか分かる!?実は大怪我してそれを隠してるんじゃないかとか、大亜連合相手に秘密裏に危ない橋を渡ってるんじゃないかとか、そんな悪い考えが頭から離れなくて、でも踏み込んでいけない私の気持ちを考えたことある!?」

 

 尽夜は知らなかった。真由美が四葉家に対して尽夜に面会することを願う文書を数度送っていることを。しかもそれが真夜によって尽夜の耳に入る前に拒否されていたことを。それには四葉家としての思惑と真夜としての思惑の両方が関係していた。前者は灼熱のハロウィン対策である。USNAの目を尽夜に向けさせるために、四葉家は徹底的に外部の人間との接触を無くさせていた。四葉の村から出ることさえも慎重の上にも慎重を重ねたく、許可が出るはずもなかった。後者は真夜の中にある、ある予想に基づいてである。真夜が最も成し得たいと思っていること、すなわち真夜と尽夜を繋ぐ鎖の継承において、真夜は真由美がその相手になることはないだろうと考えているのだ。理由は単純明快、真由美が弘一の娘だからである。真夜にとって真由美のことを知ろうとするまでもなく、それだけで十二分に確信材料になり得た。なり得てしまった。

 

「尽夜くんが登校し始めても私たちは話をすることもできない。でもやっと会えるキッカケができて、やっと話すこと叶ったのに、尽夜くんは私のことを何て呼んだ?………あの一言で私はもう尽夜くんとの繋がりが途切れてしまったんじゃないかって悲しくなった。頭の中が真っ白になって、……でも信じたくなくて、やっとの思いで尽夜くんを引き留めたの。七草家が悪いなんて分かってる。尽夜くんに迷惑をかけてるのだって分かってた。それでも、私は尽夜くんに離れて欲しくないの。あの頃の関係のままでいたかったの」

 

 言葉の後半になるにつれて消え入りそうな程かすれた小さな声を出しながら、真由美は額を尽夜の体に押し当てた。

 

「もう…………他人行儀な呼び方なんて、しないでよ」

 

 最後にそう弱々しく嘆願を添えて。

 

 さて、尽夜は今しがた真由美からの話を聞いて、この終着点を探していた。話もままならない状態からは脱却させることに成功し、次点の感情思考の吐露によって真由美におかれている精神状態をより詳しく知れた。ここからは真由美の意図を汲み取り、かつ四葉家として不都合が無い関係への修築が必須である。しかし、それがまた難儀なものであった。婚約者がいる現状では親しくするにも限度があるし、昨今の情勢の中では他家からの申し立てに助長が加わってしまう。来月の三日余りになれば対応も違ってくるのだが、そうは言ってもどうにもならない。いっそのこと真由美に全て打ち明けようかと思う尽夜であるが、あいにく真夜から事前に止められているためできなかった。

 尽夜は対処に困っていることを誤魔化すように自身に押し付けられた真由美の頭を優しく撫でた。無言で胸の中の真由美が落ち着くのを待っているかの如く取り繕っていた。

 しかし、尽夜に妙案が浮かぶ前に真由美は自ら喋りだす。

 

「………ごめんなさい、尽夜くん。ありがとう、私の話を聞いてくれて」

 

 顔を上げた真由美は先程までの雰囲気とは違い、気丈なものだった。

 

「真由美さん?」

 

 だからであろうか。尽夜は昨年までのように自然と敬称を付けて真由美の名前を呼んでいた。真由美も気にした素振りは見せなかった。

 

「不思議ね。吐き出したらなんだか軽くなったわ」

 

 真由美は以前によく見られた爽やかな笑顔で尽夜の腕の中から離れた。右側へ二三歩歩き、尽夜に背を向ける形で大袈裟に両手を真上に挙げて伸びをした。

 

「あーあ、お姉さんの威厳が台無しになっちゃった気分」

 

 そして半身で振り返り、尽夜に舌を出して茶目っ気たっぷりにおどけた真由美。

 

「まあでも、尽夜くんならいっか。おとーとの前で弱音を吐いたのと同じよね。うんうん。レアなおねーちゃんが見れてよかったわねぇ」

 

 真由美は完全に尽夜に向き直り、左手を腰に当てて右手の人差し指で尽夜の鼻頭にちょこんと触れる。尽夜はあまり合点がいっておらず愛想笑いでしか反応できなかった。そんな尽夜を目の前にして、真由美はさらに言葉を紡ぎだす。

 

「さあ、もう出ましょう?私が閉めるから先に出ていいわよ」

 

 真由美は尽夜の背後にサッと回り込んでグイグイと尽夜の背中を押した。ほらほらーっと軽い調子で明るく促す声とは裏腹に、真由美の手で押す力は強かった。真由美の有無も言わさぬ行動に、尽夜は従わざるを得ない。部室の扉が開き、尽夜が室外に出たところで真由美の力は止んだ。

 

「真由──」

 

 尽夜は振り返ろうとした。しかし、それは抵抗にあった。尽夜の背中に真由美が張り付いていたからだ。真由美の腕は尽夜の腹に回り、真由美の顔が押し当てられていた。

 

「────────」

 

 真由美の口が動いた。だがそれは尽夜に聞こえることはなかった。制服の布に吸収され、音として伝わらなかった。

 

「またね、尽夜くん」

 

 すぐに離れた真由美は尽夜が振り返るのと同時に部室の扉を閉めた。内側からロックが掛かった音が響く。尽夜は鍵の掛けられた扉をしばらく見つめた。一瞬だけ見えた真由美の表情が今も目の前の扉に鮮明に浮かんでいる。尽夜は片手をそっと扉に触れた。扉越しにまだ人の気配が感じられる。物理的に隔たった状況で、尽夜に若干の後悔が生まれていた。行動を起こしたに値する成果が得られているか、それが芳しいとは思えなかった。尽夜からため息が吐かれる。今度は心中ではなく現実に息が漏れた。

 ゆっくりと扉から手を離した尽夜は部室棟の出口へ向かって歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 ──────

 

 徐々に遠ざかっていく足音が完全に聞こえなくなって、真由美は正面に扉を見ながらズルズルと女の子座りで腰を下ろした。ボーッと変わらない光景を見つめ続け、さめざめと泣いた。周りには誰もいない。一人だけの空間で何故自らが涙を流すのかも分からぬまま、とめどなく溢れ出てくる涙を堪えることなく流した。(こく)する元気も無く、誰にも聞こえないような小さなむせび泣きだった。

 

 ──これでよかったのよ………。

 

 ポツリと真由美がそう零した。唇は動いていたが音としては発せられなかった。真由美はまるで幼い子供に言い聞かせるように同じことを呟き続けた。

 心の内を打ち明けた真由美はあの時、尽夜から一刻も早く離れたかった。離れなければならないと思った。あのままでは自分の奥底から湧き上がってくる熱い感情に蝕まれてしまいそうで怖かった。父親への反抗心は真由美の無意識領域にまで浸透しており、それが超自我となってエスを押さえ付けた結果の行動だった。

 人間の無意識とは生来欲望にまみれている。フロイトによれば人間の自我は無意識にある欲望、専ら性的欲求(リビドー)に誘惑されやすく、支配されやすい。そこで超自我と呼ばれる理性が自我を窘めることで、人間は欲望への中庸を保っていると言われる。そしてリビドーの中で種の保存は最も原始的な欲求であり、それに付随する感情も次いで激しい欲求である。真由美の中にも当然この欲望は存在し、芽を出しそうになったのもまたこれであった。しかし、真由美の意識には至っていない。強力な欲求であるにも関わらず無意識内に抑え込めたのは、偏に真由美が父親である弘一に向けた反抗心がそれを上回ったからだった。それほどまでに真由美は父親に対する憎悪じみた感情があった。だから認識しかけた自分の感情でも認めることができず、それを否定して意識の枠外に葬り去る。

 冬の太陽は早く沈む。明かりをつけない部屋は徐々に暗くなり、やがて真っ暗になった。それにつられるように、真由美の気持ちもドロドロとした黒い感情へと塗り替わっていく。暗闇の中に二つの目が怪しく光を灯した。

 

 

 もう、涙も枯れた。




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