図書館トラブル 快適な利用を守るもの
2021年12月11日 05時00分 (12月11日 05時00分更新)
岐阜県土岐市図書館で利用制限をめぐるトラブルが続いてきた。公立図書館を気持ち良く利用するには何が大切なのか。利用者、自治体共に考える契機としたい。
問題となったのは、市内の女性利用者のケース。この女性は一日の間に百五十冊以上の借り出しと返却を繰り返したり、カウンターへの割り込みをするなど迷惑行為を続けていたという。
市は二〇一九年に、この女性を市図書館運営規則に基づき「無期限の利用禁止処分」としたが、女性は処分取り消しと慰謝料四十万円を求めて市を提訴。岐阜地裁は七月の判決で「処分は違法」と女性の訴えを認めた。
判決は「法令や市条例に全面的かつ無制限の利用禁止を認める規定はない」としており、市の運営規則は利用禁止の根拠にはならないとの判断を示したといえる。
土岐市は八月に地裁判決を不服として控訴する一方、市議会九月定例会に市図書館設置条例の改正案を提案。条例は公の秩序や風俗を乱したり図書等を故意に汚損する人などに、利用拒否や退館などを命じられるよう改められた。
今回のトラブル前、岐阜県二十一市のうち十三市が条例で利用制限を定めていた。土岐市の同様の対応は市民にも理解されよう。
一審で女性の訴えが認められたとはいえ、一連の行為はモラルが問われるふるまいであり、判決も「通常の利用方法と大きくかけ離れていたことは否定できない」と指摘した。慰謝料も五千円の支払いを命じるにとどまった。
一方、判決が「公立図書館を利用する自由には憲法上の意義がある」と強調したことにも十分留意したい。各自治体は条例による制限を乱用してはならず、迷惑行為の程度や実情を見極め、慎重に対処してほしい。
二〇一五年に開館した岐阜市立中央図書館は「図書館は公園」の理念を掲げ、静寂よりも「身近な滞在型」の館運営を試みてきた。子どもたちがはしゃぐことも受け入れ、本棚の前で読み聞かせをする親子もいる。行きすぎた行為には利用者が注意もするが、理念は市民に浸透してきたという。
公立図書館に規則や管理は必要だが、他の人に迷惑をかけないという利用者の自覚が肝要だろう。そのうえで岐阜市のような新たな図書館像の模索を大胆に進めることにも期待したい。
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