・中島流がっつり和食と中村流こだわりハイボールが合体
昨年末の12月16日、中目黒に誕生した「エベレスト総本店」。その名が示すように居酒屋の頂点を極め、世界一の居酒屋を目指す店である。
この店を経営するT&T社は、際コーポレーションとカゲンが共同で運営している会社で、社名は際の中島武社長とカゲンの中村悌二社長の名前の頭文字から取っている。
設立は2007年。1号店が同年12月に出店した三宿の小型餃子専門店「豆金餃子」、2号店が新宿思い出横丁の「もつ焼 ウッチャン」、3号店が餃子居酒屋の恵比寿「ちょもらんま酒場」、そして4号店が「エベレスト総本店」だ。1年にほぼ1店のペースで堅実に店舗を増やしている。
中島氏、中村氏はともに自ら外食の会社として数々の店舗を成功させつつ、プロデュース業の経験も豊富。そうした外食の裏も表を知り尽くしているはずの両者がなぜタッグを組んだのか。2人は価値観が合って長く友人関係にあったとのことが、それだけでは事業にまでは発展しない。
「豆金餃子」がオープンした頃、中島氏は「中村さんが店を出せばこういう味になるだろうといったやさしい感じの味付けにしている」と語り、既存の「紅虎餃子房」などとは違った新しい餃子専門店をつくるのに中村氏が必要だったとの趣旨の発言をしていた。
同じ餃子専門店でも、剛の「紅虎」に対して柔の「豆金」。新しい餃子専門店を構想した時に、今までの際のイメージに引っ張られてやり切ることができないリスクを回避する意味合いもあったようだ。
当時の取材ではT&T社の出資比率は、際80%、中島氏10%、中村氏10%。本社は池尻大橋の際の社内にあり、際の関連会社となっている。資本金は3000万円。会長を中島氏、社長を中村氏が務めている。
T&T社は当初どんどん出店する予定だったが、その後の運営では資本金が少なく失敗できないことから実際は慎重になされており、両社の話し合いの中で、どういう形でコラボしていくのがベストであるかが探られた模様。
2009年8月にオープンした「ちょもらんま酒場」は、際の強みである中華だけでなく、カゲンの強みである和食の要素もプラスした大衆餃子居酒屋となった。また、フード担当は中島氏、ドリンク担当は中村氏と色分けされている。ガッツリ食べさせることに注力する中島氏と、お酒を飲ませるプロの中村氏の長所が噛み合った店になった。
その後、「豆金」が学芸大学と六本木ヒルズの2店、「ちょもらんま」が横浜市綱島、西荻窪など計16店を際にて展開されており、結果的にT&T社は成功例の形をつくる業態開発の会社として機能している。店舗を増やす時には、一度つくった業態をマイナーチェンジして、店名も少し変えて出すこともある。
今回の「エベレスト総本店」は「ちょもらんま酒場」を下敷きに、今度は和食で展開した大衆居酒屋と言って良いだろう。一部餃子、担々麺のような中華メニューも展開されている。
和の業態だが、餃子も提供されている。
T&T社が出店する立地は、中島氏と中村氏が個人的に探してここならばと太鼓判を押した場所で、「エベレスト総本店」は中目黒駅から徒歩7、8分の山手通り沿い。中目黒には創作料理の店はあっても、気軽に安く飲めて団体でも使える居酒屋が意外とないので、この種の業態の狙い目はあった。席数は70席。
デザインは双方のアイデアを出し合って決めるが、設計は際の関連会社ファーストキワ・プランニングが担当している。大衆食堂のような内装で、コンクリートの壁に山の標高を表すような落書きがしてあるのが面白い。
カウンター。
シンプルな店内。
登山をイメージした落書きの遊び心が面白い。
「常々2人はシンプルな店を出したいと言っていますがそれを形にしたものです。お通しを出さず、チャージも取りません。料理も魚なら刺身とか焼くといった、シンプルでわかりやすい提供をする店です」と、際コーポレーション経営企画室室長・遠藤訓氏。
お通しなし、チャージなしは「ちょもらんま」から継続しているこだわり。料理は中島氏が全権を持って、お酒に合うような濃い目の味付けの、多人数でシェアできるようなボリューム感あるものを提供。一方で中島氏は豪放な風貌に反してお酒が飲めないが、中村氏が責任を持ってお酒をおいしく飲む提案を行っている。
顧客のオーダーは、刺身盛り合わせを注文して、名物の「バクダン」というミートボール醤油煮といった感じの料理、鶏の唐揚げ、エベレストサラダ、キムチ、餃子などをシェアしながら食べて飲んで、うどんかラーメンでシメるパターンが多いそうだ。
名物バクダン(580円)とももたろう(390円)。
「バクダン」は際らしい真っ黒な丸いインパクトあるミートボールで、「ももたろう」という一見トマトに見えるさっぱりした玉葱の酸っぱい漬物と一緒に頼むと相性がいい。
本日のおすすめ。広島産カキ殻付炭火焼(780円)。
本日のおすすめ一覧。
お酒は、マイナス2度にまで冷やした状態で専用サーバから提供される、ニッカのウイスキーを使用した「エベレストハイボール」。氷も専用の金属グラスに、かち割り氷が山盛りに入れられ、非常にインパクトあるハイボールになっている。このような提供法は初めてで、ハイボールの新しい飲み方として注目される。
名物_氷点下_エベレストハイボール。
グラスを冷やす冷蔵庫も目立つように置かれてあって、酒好きの人は、特に暑い夏になると駆け込みたくなるような雰囲気づくりがなされている。おいしいお酒を飲ませる設備投資では斬新な店になっている。
中村悌二氏こだわりのお酒をおいしく飲むための機器類。
顧客層は20代から40代のサラリーマンが中心で、週末はカップル、家族、友人同士の来店も多い。中目黒という土地柄、年齢層は若めだそうだ。顧客単価は3000円。
「豆金」のスマッシュヒットに続き、「ちょもらんま」でブレイクした感のある中島&中村コンビによる、大衆的でシンプルでストレートな業態開発。「エベレスト総本店」でもう一丁となるか。注視していきたい。