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より強い店にするため、外食のアウトソーシングが進む。
〜新業態開発に、商品拡販に。広がる外食の企業コラボ〜(6−6)

2011.3.7
外食の経営手法として全く別の企業と企業、店舗と店舗が、協力し合って1つの店を立ち上げたり、1つの店の中で別の店の商品を売ったりするケースを、ちょくちょく見かけるようになった。知恵を出し合い、お互いの長所を活かし、欠点を補い合う。外食同士のコラボの実情を取材してみた。6回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


「三船」人形町店。東京レストランツファクトリーとカゲン社長中村悌二氏とのコラボ。

より強い店にするため、外食のアウトソーシングが進む

 それにしてもなぜ今、外食の企業コラボは増えているのだろうか。

 際コーポレーションとの共同事業T&T社の社長を務め、東京レストランツファクトリーの「ロードショープロジェクト」にて「三船」、「赤坂 仁屋」を手掛けたカゲン社長の中村悌二氏に企業コラボに参加する理由を聞いてみた。

「目的をみたすために、自社だけでなく外部も交えてチームをつくるということです。たとえばウチは和食をやっていますが、ビストロを新しく出すとなると、メニュー開発を他社に任せたいとなるかもしれない。言葉を変えれば業務委託、アウトソーシングですね」。


カゲン社長、中村悌二氏。

 つまり、業態を開発したい時など一つのプロジェクトで、自社で不足しているノウハウの部分を外部の会社に委託して補う、アウトソーシングが徐々に広がっているのだ。「ロードショープロジェクト」では、ビジネスのスキームは東京レストランツファクトリーの渡邉仁社長にあって、店づくりの幾つかの部分をプロデュースした。

 T&T社のように資本も入れると動き方が違ってきて、もっと店舗を増やそうとなるとのこと。経営に責任が生じてくるわけである。


T&T社、「ちょもらんま酒場」。

 ダイヤモンドダイニングは「ロードショープロジェクト」のほか、ゼットンとの横浜「DDZ-POINT」と浜松町「バックストリート・ブリュワリー」、エスエルディーとの池袋「カフェノイズ」、マークフィールドとの浅草橋「炭金」、一家ダイニングプロジェクトとの本八幡「銀座カスタドール」といったコラボ事業があり、全て松村厚久社長とじっこんの仲である経営者同士の交遊から、共同事業が始まっている。

 このうち、「ロードショープロジェクト」の田町「神屋流 博多道場」は、東京レストランツファクトリーの渡邉社長の企画、店のストーリーがあり、ある程度先行していた中で、店舗ごとに結成する部署横断的な開発部隊“チームファンタジー”が入って、店づくりを手伝った。メニュー等にはかかわっていない。

 その結果として、「神屋流 博多道場」は「ロードショープロジェクト」では屈指のヒット作になっている。


「神屋流 博多道場」 店内。

「炭金」の場合は、マークフィールドが「高田屋」のFCを抜け、直営にして個室炭火居酒屋に業態変更する際に、市原克俊社長からの要望で“チームファンタジー”が動き、内装、ロゴデザイン、基本メニューの提案などの店づくりを手伝ったとのこと。

 今年2月11日にオープンしたばかりの「銀座カスタドール」は、洋菓子店の立ち上げというダイヤモンドダイニングでは初の試みで注目される。一家ダイニングの武長太郎社長からの依頼で、「元祖10円まんじゅう 和ふ庵」からの業態変更。

「和ふ庵」は武長社長の弟である武長英治氏が起業し4、5年前に一世を風靡したが飽きられてきた上に競合が激化し、現在の経営は役員だった大窪拓未氏が2009年に設立したタフコという会社が引き継いでいる。それでも厳しいので武長社長が支援に乗り出し、「銀座カスタドール」は一家ダイニングが経営し、運営をタフコに任せるといった形態を取っている。

「他社とのコラボはナレッジを与えたり受けたりで、刺激になります。次の店づくりへの経験値が上がりますね」と、ダイヤモンドダイニング執行役員で企画開発部長の河内哲也氏は、企業コラボのメリットとして経験値の向上を挙げた。ちなみに河内氏によれば「ロードショープロジェクト」というプロジェクト名も松村氏の発案だそうだ。

“チームファンタジー”が活躍した「神屋流 博多道場」、「炭金」、「銀座カスタドール」は、コンセプトに関するクリエイティブワークとデザインワークを行っているわけで、商品開発やオペレーションはかかわらないという。但し、全体の素案は紙に書いて渡しており、商品開発やオペレーションの参考にしてもらっている。

 これは社内での“チームファンタジー”の動き方そのままであり、言わばそれをそっくり社外に移したものだ。現状はボランティアのようなものだそうだが、成功例が重なれば100業種100業態を現実化した“チームファンタジー”自体が事業となっていく可能性もあるだろう。 

「カフェノイズ」に関しては、エスエルディーのデザイン機能を使って内装を委託したというもので、DJの機材やウォールアートのアーチストもエスエルディーが手配した。BGMやDJのような音楽面などはエスエルディーの側で素案を書いて渡しているとのことだが、今後コラボの仕方に見直しもあり得るという。


「カフェノイズ」 外観。


「カフェノイズ」 店内。

「DDZ-POINT」はゼットンが企画、内装を担当。ゼットンとダイヤモンドダイニングで共同して店舗開発をし、運営はダイヤモンドダイニングという店だ。2009年6月にオープンした4店のうち、1階のビアバーと2階のカフェはそれぞれ、「博多串焼き バリ鉄」、「九州料理 もつ街道」に既に業態変更されている。

 そのうち、ビアバーは浜松町「バックストリート・ブリュワリー」が2号店としてオープンした感じだ。浜松町のビアバーについては、ゼットンは内装を担当している。

 このように、 ダイヤモンドダイニングではゼットンやエスエルディーとのコラボにおいて、“チームファンタジー”の一部の機能を外部に委託した店づくりも行っているのが面白い。

“チームファンタジー”が外に出て行ったり、逆に外部の会社が“チームファンタジー”的に中に入って来たりして、業態開発力のさらなるレベルアップをはかっているのだ。

 ゼットンはダイヤモンドダイニングとのコラボのほかに、カランドとコラボした京都の和食「麩屋町三条」がある。これは経営がゼットンで運営がカランド。創作京料理「祇をん 八咫」を展開するカランドのノウハウである、おもてなし、おばんざいを学ぶという趣旨であったと記憶する。

 そのほか、ゼットンではロゴのデザインなどを行うグラフィック事業もあって、最近は外食の仕事は少ないが、他業種で実績を積んでいるそうだ。

 大阪の事務所が同じビルにある、「カフェガーブ」で知られるバルニバービと「玄品ふぐ」の関門海も、コラボ店が3店ある。関門海の谷間真社長はバルニバービの社外取締役でもある。

「ららぽーと豊洲」にあるスペインバル「バルデゲー」と、川崎「チネチッタ」にあるカジュアルフレンチ「アリアッチ」は、共同で業態開発を行う中で、バルニバービがメニュー開発、グラフィック、インテリアをプロデュースした。経営は関門海となっている。

 京都府郊外京田辺市の同志社大学内の学食「アマーク・ド・パラディラッテ」では、逆に経営はバルニバービで、弁当の開発、コロッケなど商品を深く掘り下げた開発を関門海が担当するコラボになっている。両社は必要な時にはタッグを組んで補完し合っている。


同志社大学内の学食「アマーク・ド・パラディラッテ」。

 こうして見ていくと、一社の社内で全部ができない時に、お助けマンとしてその分野に長所を持つ企業の支援を仰ぐ、企業コラボが外食の中でかなり進んできていることがわかってきた。

 お助けマンとして呼ばれた企業も、他社との文化摩擦の中で開発力のレベルアップを望んで協力している感がある。

 また、お助けマンとして入った企業も、別のプロジェクトでは逆に支援を仰ぐこともあるので依存は相互的だ。

 外食の企業同士は激しく争うお互いライバルであるが、一方で外食を取り巻く環境が厳しい中、同業者の連帯、仲間意識も強まっている。

 トップ同士の飲み会やゴルフにとどまらず、事業にまで発展するケースが増えているのは、協力し合ってより強い業態をつくりたい、販売力を上げたいといった前向きな力が働いているとともに、外食産業が置かれている危機感の表れでもある。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)  2011年2月24日執筆