過積載のトラック(提供・西牟田靖氏)

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3200人のうち、1100人に前科

 難民認定申請の悪用抑止を肝とする「改正入管法」が全面施行された。朝日、毎日、TBSなどのメディアは早速これに難癖を付けたが、埼玉・川口市の病院前での大乱闘で逮捕されたクルド人は再入国を果たしていた。報じられない「難民」の不都合な真実とは。【前後編の前編】

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【衝撃の証拠写真】埼玉県民を震え上がらせる「クルドカー」 「これで崩れ落ちないのが不思議」

 件の改正入管法は今月10日に施行となった。昨年の通常国会で審議され、反対派が入管施設収容中に死亡したスリランカ人、ウィシュマ・サンダマリさんの例を出して大抵抗。大もめの末に可決、成立した法案といえば、ご記憶の向きも少なくないのではなかろうか。

過積載のトラック(提供・西牟田靖氏)

「それが1年後の今、施行されたわけです」

 とは、法務省のさる幹部である。

「しかし、朝日を代表とするメディアの多くは“難民を国に戻すな”“日本は難民に冷たい”との報道ばかり。本当にかわいそうだと思っているのか、あるいは実態を分かっていてあえてやっているのでしょうか」(同)

 改正のポイントは、「送還忌避問題」を解決するため、「送還停止効」に例外規定を設けたことだ。

 日本に不法入国、不法滞在、不法就労している外国人はもちろん退去の対象となるが、それを拒む外国人(=送還忌避者)が令和3年末の時点でおよそ3200人もおり、そのうち約1100人は前科がある。

 本来なら彼らは強制送還の対象なのだが、それができない事情の一つに「送還停止効」があった。すなわち、外国人が難民申請をした場合、その審査中は一律に送還を停止するという規定である。

服役後、強姦致傷を犯した者も…

 これを悪用し、知人や近隣住民、マフィアとのトラブルなど、およそ「難民」の定義に該当しない理由で何度も申請を繰り返すケースが少なからずあった。しかもそうした送還忌避者の中には、殺人を犯したり、強制わいせつ致傷で服役後、強姦致傷を犯したりした者もいる。

 国はこうした事例を防ぐため、3回以上の難民申請を繰り返す者については、「相当の理由がある資料」を提出した場合を除き、強制送還の対象とすることにしたのである。

 至極ごもっともな改正なのだが、朝日新聞や毎日新聞、TBSなどのメディアはこれが気に食わない。昨年の法改正の際に反対の論陣を張ったのに続き、今回の施行に際しても、

〈改正入管法施行 信頼取り戻す運用を〉(朝日新聞6月8日付社説)

〈改正入管法の施行 難民を追い返さないよう〉(毎日新聞6月9日付社説)

〈川口で生きるクルド人にヘイト 共生の道はあるか〉(TBS系「報道特集」6月8日放送)

 などと報じた。いわく、

〇日本は欧米に比べて難民認定のハードルが高い。

〇何度も申請を繰り返してようやく認定されたケースもある。

〇申請者を送還してしまえば、保護すべき外国人を追い返してしまう恐れが出る。

 と主張するわけだ。

「日本に来る“難民”の実態を見ていない報道」

 確かに日本の難民認定率は3.8%(令和5年)と諸外国と比べて低いのは事実。が、

「日本に来る“難民”の実態を見ていない報道だと思います」

 と言うのは、さる入管の関係者だ。

 典型的なものとして、ここ数年話題となっている埼玉県川口市に集住するクルド人の例を挙げてみよう。

 クルド人とはトルコやイラン、イラク、シリアなどに住む、国を持たない民族。30年ほど前から川口市では、トルコ国籍のクルド人が住み始めるようになり、現在、その数は2000人とも3000人ともいわれる。そのほとんどが難民申請をしているか、それが却下されたものの、入管施設への収容を健康上や人道上などの理由で解かれている「仮放免」の状態にある。

 文化の違いもあり、クルド人は地域住民との間にあつれきを起こしてきた。騒音や危険運転、執拗(しつよう)なナンパや地域ルールの逸脱。こうした事例が相次ぎ、地元住民の不安が高まっていたのは、既に多くのメディアで報じられている通りだ。

闘争の地に

「そうした不安が爆発するきっかけとなったのが昨夏の、病院前での乱闘事件です」

 とは川口市周辺でのクルド人問題を取材する、ノンフィクション作家の西牟田靖氏。

 昨年7月、市内で女性を巡るトラブルによりクルド人同士がけんか騒ぎを起こし、1人が刃物で切られて川口市立医療センターに運び込まれた。

 そこに双方の親族や仲間のクルド人が100人以上集まり乱闘に。これによって救急搬送の受け入れが5時間半もストップしたのだ。殺人未遂や凶器準備集合などの容疑で計7名のクルド人が逮捕された。

「これに地域住民は恐怖を感じ、もう我慢できないとSNSなどで怒りの声が次々と広がるようになりました」(同)

 以来、この地域では、「クソクルド!」などと叫ぶ勢力と、それに対抗する勢力の間で小競り合いが頻発。闘争の地となっている。

「床に寝そべり“救急車を呼べ”」

 逮捕された7名は、後に嫌疑不十分などの理由で全員が不起訴となった。これは埼玉県警にトルコ語を解する職員が少ないためとも指摘されているが、

「7名のうち一人は昨秋、トルコに帰国。しかし、5月に日本に戻ってまたトラブルを起こしていました」

 と明かすのは、前出の入管関係者である。

 帰国したクルド人男性は25歳。

「2013年に不法入国しました。すぐに退去命令が出ましたが、それに従わず、1年後に難民申請を行いました。その2年後に不認定となった後には暴行容疑、さらにその後、器物破損容疑で逮捕されています」

 病院事件が起こった時には、2回目の難民申請の最中だったという。

「事件ではけんか相手の頭や顔を切りつけ、大けがを負わせた末、自分も右の前腕をナイフで切られている。縫合手術をしましたが、予後が悪化し、右の人指し指を切断しています」(同)

 その後、2回目の難民申請を取り下げ、本人は昨年11月、トルコに帰国したが、

「この5月、弁護士から上陸特別許可を求める上申書が出された。右腕の治療とリハビリを日本で行いたい。また、病院に200万円の未払い金があり、それを支払いたいし、日本に親族もいるから、というのです。もちろん上陸拒否をしたのですが、本人がその日に羽田に来て、“帰りたくない”と床に寝そべり、“救急車を呼べ”と大声で叫ぶ。仕方なく羽田の収容施設に入れました」(同)

「20人近くで入管に押しかけ、抗議」

 日本とトルコとの間では3カ月以内の短期滞在であればビザが免除されている。そのため、パスポートと飛行機代さえあれば、日本の空港までは簡単に来られてしまうのだ。

 男性の目的は川口に房ること。そこで彼は、 

「ハンガーストライキを始めた。脱水や低血糖の症状が出たので仕方なく仮放免の措置を取り、外に出したんです。しかし、手術をした病院に改めて聞いても、右腕についてはこれ以上の治療や処置は不要だという。しかも、昨年入院していた際も、病室で暴れたり、不満を述べたりして大変だったと。そこで強制退去の処分にしました」(同)

 現行の制度上、入管ができうる中での厳正な対応である。

 それでも男性は抵抗する。

「クルド人の仲間が車5台に分乗し、20人近くで入管に押し掛け、抗議に及んだ。護送官付きでようやくイスタンブール便に乗せたんですが、本人は“すぐにまた来る”“私は金持ちだから日本でもトルコでも良い生活が出来る”と毒づいていましたし、日本にいる本人の家族も“すぐに再来日させてやる”“弁護士やマスコミもいっぱい連れて来る”と抗議していました」(同) 

 後編「『川口のクルド人は難民とは言い難い』『目的は出稼ぎ』 医療費の踏み倒しや児童労働の問題も」では、クルド人による医療費踏み倒し問題や、そもそも彼らが難民に当たるのか、というポイントについて、詳しく解説している。

「週刊新潮」2024年6月27日号 掲載