深淵卿に憑依しました リメイク   作:這いよる深淵より.闇の主人

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遅くなってしまい、大変申し訳ありませんでした!!

お気に入り500件以上もありがとうございます!!

Twitterフォローして下さった方もいて嬉しかったです。

時間をかけた割に下手くそですが、どうぞ!!


ベヒモス

 正面の通路からは古代生物のトリケラトプスを彷彿とさせる巨大な体躯と二本の長い角をもった魔物"ベヒモス"が巨大な魔法陣から出現し、背後の通路からは剣を持ったスケルトン型の魔物が次から次へと生み出されている。

 

グルァァァァァアアアアア!! 

「ッ!?」

 

 呆気にとられていたメルド団長はベヒモスの咆哮で正気に戻ったようで、矢継ぎ早に指示を飛ばす。

 

「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」

 

「待って下さい、メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も——」

「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ!」

 

 メルド団長の鬼気迫る表情に一瞬怯むも、「見捨ててなど行けない!」と持ち前の正義感を発揮して踏み止まり抗議する天乃河。

 

 どうにか撤退させようと、再度メルド団長が説得しようとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは全員轢かれてしまう。だが、そうはさせまいとメルド団長達が多重障壁を張る

 

 

「「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず──〝聖絶〟!!」」」」

 

 詠唱が終わると純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ、それと共に凄まじい衝撃波が発生し、橋全体が大きく揺れる。

 

 

「ッ!?」

 

 アランの指示に従い骸骨型の魔物(トラウムソルジャー)を相手取っていた浩介は突如起こった地震のような揺れにバランスを崩しかけるが何とか踏み止まる。しかし、他の生徒たちは突然の揺れに対応できなかったらしくあちこちから悲鳴が上がり、転倒している者が続出する。

 

 何とか戦っていたクラスメイト達も再現無く湧いてくる無数の敵と後ろから迫る強大な敵の気配に戦意を無くしてしまう者が現れ始め、その恐怖は瞬く間に伝染していく。ついにはアランの指示を聞かずに悲鳴を上げて我先にと階段へ向かってがむしゃらに進んでいってしまう。

 

 

 その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまう「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前では一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。

 

「あ」

 

 そんな一言と同時に彼女の頭部目掛けて剣が振り下ろされた。

 

 死ぬ──女子生徒がそう感じた次の瞬間、キィィンッ! という甲高い音と共に剣は弾かれ、同時に衝撃で体を仰け反らせたトラウムソルジャーの頭部が斬り飛ばされた。

 

「ッ……?」

 

 来るであろう衝撃に目を瞑っていた女子生徒は恐る恐る目を開け、次の瞬間、死の恐怖は驚愕や困惑といったものに変わった。それもそのはず、自分を殺そうとしたトラウムソルジャーは勿論、近づいてきた数体も同じように次々と首を跳ねられ倒されているからだ。

 

「な、何が……?」

 

「怪我はな——」

 

「ひゃっ?! え、この声は……遠藤君?!」

 

「……おう、怪我はないか?」

 

 浩介は何となく分かっていた反応に少し肩を落としながらも倒れたままでいる園部の手を引っ張り立ち上がらせる。

 

「……うん」

 

「よし、なら早くアランの指示に従って移動してくれ。

 ……大丈夫だ、冷静になればこんな骨共どうって事ない。危なくなっても絶対に助けるから頑張れよ!」

 

 言い切ると足早に去って行く浩介を呆然と眺めていた彼女は、次の瞬間には「よしっ!」と気合を入れるとナイフを取りだし、戦闘に加わった

 

 

 自分の特性である影の薄さと派生技能である《気配遮断》を駆使して出来るだけ多くのトラウムソルジャーを斬りつつ辺りを見渡す。

 

 誰も彼もがパニックになりながら滅茶苦茶に武器や魔法を振り回している。このままでは最悪、味方の武器や魔法で負傷する……なんて事もありえる

 

「早めにハジメを行かせたし心配はないだろうが……天之河(アイツ)が来るまでは何とか耐えるしかないよな」

 

 

 

 

「天之河くん!」 

「なっ、南雲?!」

「南雲くん!?」

 

 驚いている一同にハジメは必死の形相でまくし立てる

 

「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」

 

「いきなりなんなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて——」

そんなこと言っている場合かっ! 

 

 ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。

 

 

あれが見えないのか!? みんなパニックになってる! リーダーがいないからだ! 

 

 光輝の胸ぐらを掴みながら指を差す南雲。

 

 その方向にはトラウムソルジャーに囲まれ右往左往しているクラスメイト達がいた。

 

一撃で切り抜ける力が必要なんだ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけだろ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見ろよ! 

 

 呆然と、混乱に陥り、怒号や悲鳴を上げるクラスメイトを見る光輝は、ぶんぶんと頭を振るとハジメに頷いた。

 

「メルド団長、すいませ——」

 

下がれぇ──! 

 

 先に撤退することを言おうとした瞬間、メルド団長の悲鳴のような叫びと共に障壁は砕け散った

 

 

 

 

 何かが砕け散る音と共に先ほどの揺れと同様に起こった凄まじい衝撃と嫌な予感を感じ、ベヒモスの方に目を向ける

 

 障壁は砕け散り、メルドと護衛3人は吹き飛ばされたのか横たわっている。その中でもメルド団長は直撃を喰らったのか見るからに重傷だ

 

 焦りながらも香織をメルド達の治療へ行くように指示を出した天之河は大技を出すための詠唱を開始し、その間は雫と龍太郎が時間を稼ぐためにベヒモスへ突貫している。

 

「神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ! ──〝神威〟!」

 

 

 詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。放たれた凄まじい光の暴力は橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。

 

 龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱しているので巻き添えを喰らう事はない。だが、ギリギリだったようで二人共ボロボロの満身創痍だ。この短い時間だけで相当ダメージを受けてしまったようだ。

 

 現在の光輝に出せる必殺の一撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。

 

「これなら……はぁはぁ」

「はぁはぁ、流石にやったよな?」

「はぁはぁ、だといいんだけど……」

 

 龍太郎と雫が光輝の傍に戻ってくる。流石の大技だったようで、光輝は莫大な量の魔力を持っていかれ、剣を杖代わりにして肩で息をしている。

 

 そして徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。

 

 その先には……

 

 無傷のベヒモスがいた。

 

「な?!」

「嘘……でしょ」

「おいおい、冗談キツいぜ……ッ!」

 

 ベヒモスは天之河達を睨むと、頭を上げる。頭の角がキィ──という甲高い音をたてながらマグマのように赤熱化していく。それが最高に達すると同時に突進し、天之河達のかなり手前で跳躍する。

 

何してんだ早く逃げろっ! 

 

 原作で見たことのあるベヒモスの大技に、急いで駆けつけた浩介は呆然と立ち尽くし、動く気配のない三人を(乱暴になってしまったが)何とかベヒモスから遠ざける。そしてついに、ベヒモスは跳躍状態から隕石のように落下した。

 

 着弾時の凄まじい衝撃波はある程度距離を稼いだ浩介たちすらも軽く吹っ飛ばしたが、それほど影響はない

 

 ……とは言っても雫と龍太郎はベヒモスとの戦闘でボロボロ、天之河は魔力をあらかた使ってしまったので少しフラついている

 

 原作では回復が終わったメルドが此方に来る筈なのだが、相当重症なのか香織の治療が終わる様子はない。ベヒモスはというとめり込んだ頭を抜き出そうと必死に踏ん張っている

 

「動けるか? お前ら」

 

「あぁ、大丈夫だ。サンキューな浩介」

 

「……問題ない」

 

「ええ、平気よ」

 

 

 三人からの返答に「無事で良かったよ」と返しつつ、どうするかを考える。

 まずベヒモスの標的になっているのは先程’神威’を放った天之河だ。このままクラスメイト達が戦闘している所へ撤退するってのは論外だが、天之河は皆んなの道を切り開くのには必要

 

 なら、

 

「……お前ら、団長達を連れて先に行け、俺が時間を稼いでおく」

 

 浩介の言ったことが信じられないようで、三人は驚愕の表情で此方を見つめる。それも一瞬で、雫が反論しようと口を開きかけた所でハジメが駆け込んできた

 

「ハジメか……奴は俺が足止めしておくから雫達と撤退しててくれ」

 

「まって、僕に考えがあるんだ。みんなが助かるかもしれない方法が——!!」

 

 ハジメは一つの提案をする。それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまり成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。

 

「やめとけ……危険だ」

 

「危険? だったら浩介くんも同じだよね? それに……」

 

 地面から角を抜き終えたベヒモスは既に戦闘態勢を整えており、再びキィ──という音をたてながら赤熱化を開始する。時間がない

 

「……分かった。お前ら、メルドさん達を連れて早く行け、退路の確保と援護は任せたぞ」

 

「おう、任せろ! お前らも頼んだぜ!」

 

「あぁ、みんなの道は俺が斬り開く!」

 

「浩介……」

 

「後で会おうぜ」

 

 今にも泣きそうな雫に手をひらひらさせながら一言そう返すと、まずはベヒモスの興味を引く為に簡易魔法を放つ。どうやら成功のようで、天之河たちに向いていた視線は真っ直ぐに浩介へと向けられている。

 

 赤熱化を終えたベヒモスは兜を掲げると突撃、数メートル手前で跳躍する。大質量が急降下してくるが、それをギリギリまで引きつける為に目を凝らしてタイミングを見計う。そして、激突の寸前に[+幻踏]を使って残像を残しつつバックステップで離脱する。

 

 直後、ベヒモスの頭部が一瞬前まで浩介がいた場所に着弾した。発生した衝撃波の影響で強く吹き飛ばされ、同時に弾丸のような速度で迫りくる石礫が腕や脇腹、太もも等を掠め、直撃する。だが、頭などの急所はガードしていたので多少の怪我は問題はない

 

 再び、頭部を地面へと思い切りめり込ませているベヒモスへとハジメが飛びつき、〝錬成〟を発動する

 

 石中に埋まっていた頭部を抜こうとしたベヒモスの動きが止まる。周囲の石を砕いて頭部を抜こうとしても、ハジメが錬成して直してしまうからだ。

 

 ベヒモスは足を踏ん張り力づくで頭部を抜こうとするが、今度はその足元が錬成される。ずぶりと一メートル以上沈み込む。更にダメ押しと、ハジメは、その埋まった足元を錬成して固める。

 

 

 ハジメが錬成で時間を稼いでいる間、光輝たちはクラスメイトたちに呼びかけ、着々と撤退のための道を確保していく。回復したメルド団長も加わり、ついに階段前を確保する事に成功する。

 

 

「ぐっ……メルドなら魔法で上手くやったんだろうけどな」

 

 バックステップで回避したのはいいが、その時に飛来してきた無数の石礫によって腕や足などを含めた他数カ所に打撲などのダメージを負ってしまった。

 苦痛に顔を歪めつつ立ち上がると回復薬を飲みながら場を見渡す

 

 

 雫や龍太郎たち前衛組はトラウムソルジャーを寄せ付けず、後衛組は遠距離魔法の準備に入っている。ハジメは錬成でベヒモスの足止めを続け、離脱の機会を伺っている。

 

「なっ……クソッ!!」

 

 巻き添えを喰らわぬように雫達のいる通路側へ撤退しようとする。が、足が縺れたのか、地面に倒れ伏すハジメを視界に捉えた浩介は全身が痛むのも構わずハジメの元へ走り出していた。

 

 

 

「あ、足が……早くッ……殺され——」

 

 魔力の大量消耗と急に動いた事が原因で転倒してしまったハジメは焦りや恐怖といった感情により腰が抜けてしまって立ち上がれない。

 

 そうモタモタしているうちに地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮を上げながら抜け出した。そして、鋭い眼光が視界にハジメを捉え——

 

「……ッ!! 危ねぇッ!」

 

 ハジメまでの距離をたった一歩で縮め、角を振り下ろす……が、直撃する前にハジメは浩介が抱えて離脱していた。

 

 仕留めきれなかった事で、再び怒りの咆哮を上げるベヒモス。二人を追いかけようと四肢に力を溜めた。

 

「よくやった浩介ッ! 魔法組、撃てぇぇ!!」

 

 だが、次の瞬間、メルドの馬鹿でかい声と共にあらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。

 

 夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。

 

 このまま行けば自分だけでなくハジメも助けてしまう。それでは強力な兵器も神水も手に入らず、ユエやシア、ティオなど仲間になるはずの者達までいなくなってしまう。そうなるとエヒトに対抗でき——

 

「浩介くんのおかげで助かったよ、ありがとう!」

 

「……ッ、当然だろ友達なんだから」

 

(違う……俺はただ、お前が死んだらエヒトに対抗できないから助けたんだ。昨日までお前を見捨てるつもりで——)

 

「浩介くん!」

 

 ハジメの必死の呼びかけにハッとした時には既に遅く、二人の進路上に火球が軌道を曲げて飛んでくる

 

(避け……)

 

 どうにか避けようとしてみるが、健闘虚しくその火球は浩介の身体に突き刺さる。着弾の衝撃をモロに浴び、引き返していくように吹き飛ばされる。直撃はしていなかったが、目が回りフラフラする。どうやら平衡感覚が狂ったらしい

 

 立ち上がれないでいると、ハジメが手を貸し手伝ってくれた。二人してなんとか前に進もうとする。だが……

 

 ベヒモスも、いつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。背後で咆哮と共にキィ──! と鳴り響く。三度目の赤熱化をしたベヒモスは二人に狙いを定める

 

 そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながら突進する! 

 

 直撃だけは避けようと、ハジメの背中を押し、先に離脱させてから雫たちを離脱させた時のように[+幻踏]を使って残像を置いて持てる力全てを使って全力で飛び退いた。

 

 直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走り、メキメキと悲鳴を上げる。

 

 そして遂に……橋が崩壊を始めた。

 

「グウァアアア!?」

 

 悲鳴を上げながら崩壊し傾く石畳を爪で必死に引っ掻くベヒモス。しかし、引っ掛けた場所すら崩壊し、抵抗も虚しく奈落へと消えていった。ベヒモスの断末魔が木霊する。

 

 なんとか逃げようと地を蹴ろうとするが、既に足場は崩れ落ちて無くなっている

 

(クソ……こんな所で……)

 

 そう思いながらクラスメイト達の方へ視線を向けると、香織と雫が飛び出そうとして光輝や龍太郎、恵里に羽交い締めにされて止められているのが見えた。他のクラスメイト達は表情が青褪めていたり、目や口を覆ったりしている。

 

 

 涙ながらに手を伸ばす雫に、届くはずのない手を伸ばしながら浩介の意識と姿は奈落の闇へと消えていった。

 

 




さて、次の話は早ければ今日中に、遅ければ来週には投稿したいです!!(願望)

Twitterの方で進行状況とか出してるので良ければフォローのほどお願いします!!

雫可愛いいぃ!!

投稿スペースについて

  • 遅い。リメイク前と一緒でもええから早く
  • 普通、このペースでこの内容なら普通程度
  • このまま数ヶ月に一話でもいい

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