俺だけレベルアップの仕方が違うのは間違っているだろうか   作:超高校級の切望

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【アルテミス・ファミリア】

「改めて自己紹介しよう。私はアルテミス。【アルテミス・ファミリア】の主神で、君の主神であるヘスティアの神友だ」

「【ヘスティア・ファミリア】、水篠旬」

 

 焚き火を囲い、【アルテミス・ファミリア】の面々と旬が話し合う。旬がギルドからの依頼書を持ってきたことを伝える。

 

「エルソスの遺跡か。私にとっても無関係ではないな………しかし、君も来るのか?」

「俺としてもアンタレス討伐を個人的に行いたいので」

「アンタレスは古代の力ある魔物だ。君が思うより、余程凶悪だ」

「なら………」

「…………?」

 

 と、旬は【アルテミス・ファミリア】の面々を見回す。ランテは首を傾げながら笑顔で手を振ってきた。

 

「…………言いたい事は解る。君一人の方が、私の眷属全員より強いのだろう」

「!!」

 

 自らの主神に個人ならともかく総合力ですら劣ると言われ動揺する一同。いや、確かにあの規格外の強さを持つ黒いモンスター達の強さを思えば。

 

「我が子達を劣っていると言うつもりはないが、慢心されても困る。君個人ですら、私の眷属達が得意とするこのような森の中で戦おうと討ち取れまい」

「アルテミス様……それは……」

「気を悪くしないでくれ。私とて、お前達は自慢の子だ。だが一旦とはいえ主神クラスの神の力(アルカナム)を地上で使える者を、弱者などとはとても言えん」

「…………主神? アルカナム?」

 

 言葉の意味は察するがそれが自分に向けられた意図を察せぬ旬に、アルテミスはムッ?と首を傾げた。

 

「君は、自分の力が何なのか知らないのか?」

「ああ………叶うなら、知りたい。俺がこれからどうなっていくのかも」

 

 システムを超える為に、システムが定めたであろうレベル差も無視してケルベロスに挑んだ。悪魔の王も倒した。だが、システムを理解したかと問われれば、否と答える。

 目の前の女神はその答えを知っている? ならばと尋ねる旬に、アルテミスの口が開いた瞬間だった………

 

 

 許可された情報量をオーバーしています。

     会話を遮断します

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「がっ!?」

 

 突如、頭が割れるような頭痛が走る。

 

「■■■■■■!?」

 

 アルテミスの言葉が、確かに聞こえるはずなのに何処か遠くから聞こえるよう聞き取れない。代わりに響くのはシステムのメッセージ。

 

「■■い……おい! 大丈夫か!?」

「あ、ああ………収まった」

「…………なる程、また厄介な呪いを………いや、祝福を与えるための制約か? すまないが、どうやら私の口から話す事は出来ないようだ」

「前にも、似たような事があった………あの時は、相手側だったが」

 

 悪魔の少女を思い出しながら頭を振る旬が。その言葉にアルテミスはふむ、と顎に手を当てる。

 

「正直言って、その力の持ち主が私に干渉するのは容易いだろう。だとするなら、その相手が最初から君に力を与えている何かの支配下にあったと考えるべきだ」

 

 あの悪魔の少女やバルカはシステムの支配下?

 目の前の女神がそうでないと言うことは、やはりここは根本的にインスタンスダンジョンとは異なるのだろう。

 

(そういえば、バルカとエシルの時は質問内容は別だったが………システムの管理人と自然発生するダンジョンの管理人に繋がりはあるのか?)

 

 痛みが引いていく額に手を当てながら考え込む旬。

 システムはまだ解らないことが多い。

 

「力になれずすまない」

「気にしなくて良い」

「しかし、君は一体何者なんだ? ………いや、辞めておこう。君が話す事とて、何が先の再現になるか解らない。ただ、これだけは答えてほしい」

 

 月と貞潔と狩を司る弓の女神が、正しく射抜くような視線を旬に向ける。

 

「ヘスティアの眷属だけでなく、ヘスティアとも関わっているのか?」

「………?」

 

 質問の意図が解らなかったが、直ぐに気付く。旬は己が眷属であるか微妙だと思って【ヘスティア・ファミリア】で世話になっていると言った。これはたしかに、眷属と関わっていても主神と関わらない、なんて状況でも使える言葉だ。

 

「ああ。彼女は、良くしてくれている。感謝しかない……貶めるつもりも、利用するつもりも………いや、異常性を隠す為に、利用しているとは言えるかもしれないが」

「それをヘスティアは知っているのか?」

「ああ………」

「なら良い。あの子は抜けているしぐうたらだし、放っておくと何をしでかすどころか何もしないような子だが、人を見る目は間違いなくある。彼女の親友である私が言うと、いささか自慢のようになってしまってる気がするがね」

 

 ふふ、と何処か誇らしげに語る様は、本当にヘスティアが好きなのだろうと思わせる。ランテと言うらしい眷属はむむむ、と頬を膨らせていた。

 

「俺はヘスティアの交友関係をあまり知らないけど、仲の悪いロキも嫌いこそすれ邪悪であるとは思ってないし、貴女を見るとなるほど、確かに自分を自慢したくなる」

「そうか……」

 

 旬の諧謔に微笑みを深めるアルテミス。

 

「で、あるならお互い確執は晴れたと思おう。眷属の生存率も上がるんだ。同行は、むしろ此方から頼む」

「こちらこそ」

 

 アルテミスが片手を差し出し、旬もその手を握った。その後は他愛ない会話を始める。

 

「そういえば……先日、街に買い出しに行った際、ランテが通りかかった男と、口にするのも憚れるやり取りを……」

「ほへっ!?」

 

 レトゥーサの言葉にランテがビクリと肩を揺らし奇声を上げた。

 

「ランテ……」

「ち、違うんですよアルテミス様!? 先を歩いていた殿方が林檎を落として、拾ってあげただけで!? 背が高いなーとか、渡す拍子に指が触れ合って『あ、これ運命だわ』とかしか思ってませんから!?」

「………? 指が触れて、運命? なんの?」

 

 眷属の何名かが「マジかこいつ」と言いたげな顔で旬を見た。

 アルテミスの目は、どんどん鋭くなっていく。

 

「……お前達に私の掟を押し付けるつもりはない。もし伴侶を求めるというのなら、【ファミリア】から抜けろ。止めはしない」

 

 男子禁制のファミリアとは聞いていたが、恋人も作れないらしい。なかなか厳しいのだな、と旬は他人事のように眺める。

 

「アルテミス様は、どうして男女の愛を忌避するんですかっ?」

「おい、ランテ!」

「お願いです、教えてください! 私、気になります!」

 

 レトゥーサが咎めるように言ったがランテは言葉を続ける。そんなランテの言葉にアルテミスは暫し言葉を選ぶように考え込む。

 

「………私であるから、としか言えない。私は『貞潔』を司る神、『美』を司る神々とは対局の位置にいる。もし、それを認めてしまえば……私は私でなくなってしまうのだろう」

「…………へえ」

 

 旬は以外だ、とでも言うように声を漏らした。

 

「全知全能で、神の力が使えない地上でも好き勝手………って思ったけど、神様も案外窮屈なんだな」

「………窮屈?」

「とは、違うか? ただ、己の在り方を変えられないっていうのは、中々不便だな、と」

「私自身不便、窮屈だとは感じたことは無いが……神とは確かにそうかも知れないな。ヘスティアも処女神だ……男性との距離のとり方も大変だろう」

「? ヘスティアはベル君と一緒のベッドで横になるけど?」

「……………へ?」

 

 ポカン、と固まるアルテミス。

 

「え、寝てる? あ、いや流石に言葉通りの意味だとは解るが………え、同じベットで?」

「ああ……」

「え……ええ〜…………」

 

 以外だったのか、アルテミスは毅然な態度が問われ完全に困惑していた。

 

「あの子が………弟に頼んで誰にも求婚されないようにしてた、ヘスティアが………そうか。彼女も、変わったのか……」

「それはきっと『恋』です! ヘスティア様は恋をしたんですよ!」

「ヘスティアが恋か。いや、でも相手は誰だ? いつも店長が女性の店のバイトで忙しいはずだけど………」

「……………」

 

 「マジで言ってんのかこの人」と言いたげな視線を向ける一同。旬の鈍感さで張り合える存在など、極東の武神か貧乏の薬神ぐらいしかいない。

 

「アルテミス様も『恋』をした方が良い! 『恋』は、素晴らしいものです!」

 

 『恋への情景』を宿した瞳で熱く語る。言葉のとおり、『恋』は素晴らしいから、どうか知ってほしいと……。

 女子はやはりこういった話題が好きなのか、ランテの演説とも思える『恋』のなんたるかを聞きキャーキャー色めき立つ。

 

「……レトゥーサ。お前もそう思うか?」

「わ、私は、そのっ…………いいえ、はい、そうですね。恋をする前と、後では、私達は変わる。それは確かな事です」

「旬、君は? 男としての意見を聞かせてくれ」

「俺はまだ、誰かに恋したことはない。でも、両親を見てたら、それが素晴らしいものだとは思う。男女が恋に落ちて、愛を深めて、俺達子供達が生まれる訳だから。恋をせず……好きにならず、増える為に子をなしただけなら、それは機械と変わらない」

 

 その言葉にアルテミスは夜空を見上げる。困惑するように、憧れるように。

 

「不変である(わたし)が、変われると思うか?」

「変われます! きっと!」

「そうか……お前達がそこまで言うのなら……『恋』とはかくも素晴らしく、尊いものなのかもな。私は、決して現を抜かす事は出来ないが夢みることは、許されるのかもしれない」

 

 顔を戻し、アルテミスは笑っていた。ランテはそれで満足のようだ。

 

「長くなってしまったな。もう寝よう。明日からは秘境巡りだ」

「望むところです! ダンジョンだろうが竜の谷だろうが乗り越えてみせます!」

「調子に乗るな、ランテ」

 

 笑い声が響く。アルテミスも笑う。月の光が、優しく彼女達を照らしていた。

 

 

 

 

 ズチュッと音を立てタマゴ型の物体の頭部が開いていく。ヌラヌラとした液体と共に落ちてくるのは黒い巨大な蠍。

 キシキシと身を震わせ、不気味な肉塊を思わせる床を歩く。

 ボトリ、と新たな蠍が生まれる。ボトリと何処かで音が響く。ボトリボトリと不気味で不吉な音が連続する。

 その最奥。一際巨大な人型を思わせる上半身を持った異形のサソリは単願を一つの卵に向ける。森の命を食い尽くし、我が子等が持ってきたただの人類や神の匂いのする、その蠍が知る時代には無かった餌から取り込んだ生命を濃縮した卵。

 強い兵士がいる。来たるべき戦いに備え。

 

クオオオオオォォォォォォォォ

 

 不気味な音が響く。月光のような光を纏った異形は備える。自身を封じた忌まわしき存在の、その根源の接近を感じながら。

俺だけレベルアップの件の女性キャラを出すなら

  • エシル(悪魔娘)
  • 観月絵里(ヒーラー)
  • 今宮さつき(ヒーラー)

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