「あぶ刑事」ユージの衣装に弾丸の穴? デザイナーが描いたイメージ
横浜が舞台の映画「帰ってきたあぶない刑事(デカ)」が公開中だ。主演する柴田恭兵さんの衣装を手がけたのは、日本のブランド「リンシュウ」のデザイナー、山地正倫周(りんしゅう)さん(72)。スタイリッシュな刑事のイメージを、ファッションで形づくってきた。
「あぶデカの歴史は、私の歴史でもあるんです」。東京・南青山に構えた路面店で、山地さんが言った。店内には劇中で柴田さんが着た華やかなスーツが並ぶ。
きっかけは、1987年に公開されたシリーズ1作目の映画。スタイリストの紹介で、当時30代だった柴田さんが店にやってきた。
「そぎ落とした服が好きで、ネクタイなら細いものが好み。そんな感覚が僕と合いましてね」。さらに同じ年だとわかり意気投合した。
以来、あぶデカ映画版の衣装の多くは、山地さんのブランドの商品からイメージに合うものを相談して選ぶようになった。
ユージは「セクシー」、だから衣装も…
舘ひろしさんの鷹山敏樹役が「ダンディー」なのに対し、柴田さん演じる大下勇次は「セクシー」が持ち味。スーツを基本に、しなやかで光沢のある華やかな素材で、色気を表現した。走ると風になびく軽やかさもポイントだという。
シャツにネクタイの舘さんとのバランスを考え、柴田さんはジャケットの下にタートルネックを合わせるスタイルにした。
山地さんは高松市の生まれ。多摩美術大を卒業後、鐘紡(当時)に就職し、食品などのパッケージデザイナーとして働いた。
「たばこを思い浮かべるとわかりやすいけど、パッケージっていいデザインが長く使われるのがいい半面、なかなか変わらないともいえる」
対してファッションは変化のスピードが速い。「ならば人間のパッケージをデザインしてみたいと思ったのが始まりです」
服のつくり方は、夜間の専門学校で勉強した。在職中にデザイン画がコンクールに入賞したのを機にカネボウファッション研究所に移り、テキスタイル(布)の開発やデザインを担った。
いい素材で着る人をいかすファッション
この経験から「服は素材が何よりも大事。いい素材で着る人をいかすファッションを」という信念が生まれた。紳士服ダーバンのブランド「インターメッツォ」のチーフデザイナーなどを経て、1985年に独立した。
公開中の最新作で、タカ&ユージは警察官を引退し、横浜で探偵事務所を開いている。「これまでとは違うイメージにしたかったんです」
台本が完成した早い段階で衣装の相談があったため、今回はすでにある商品から選ぶのではなく、素材から柴田さんのためにつくった。
広告のメインビジュアルなどで着ているシルバーと黒のスーツの柄は、弾丸の穴をイメージした。アクションシーンは、動きやすいように縦横にストレッチのきいた素材を使った。
黒のコートからのぞくのは
パーティーの場面では、黒のコートから真っ赤な裏地がちらりとのぞく。探偵事務所でリラックスして過ごすときは、白いシャツにゆったりとしたサルエルパンツ。サングラスや香水もリンシュウによるものだ。
柴田さんは洋服の素材に詳しく「プロフェッショナルな人」と山地さん。かつてパリ・メンズコレクションでファッションショーを開いたとき、モデルとして柴田さんにランウェーを歩いてもらったこともある。
「どこから見ても柴田さんが輝いて見えるように、今回も気合を入れてつくりました。ファッションにもぜひ注目してみてほしい」と話す。(長谷川陽子)
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