俺だけレベルアップの仕方が違うのは間違っているだろうか 作:超高校級の切望
アンタレスの情報は得た。ただし旬の扱いはオラリオの上級冒険者。1日2日なら誤魔化せるが数日かかるエルソスの遺跡を往復させるには、手続きがいるとのこと。
仕方ないので暫くはオラリオに留まることにする。とりあえずクエスト終了の報告をヘスティア達に──
と、そこで旬が立ち止まりすれ違ったパルゥムの
「おい……」
「………何でしょう」
旬は彼が咄嗟に隠したナイフを並外れた動体視力にて確認し、微かな怒気を滲ませる。
「そのナイフをどこで拾った」
「なんのことでしょうか、これは私のものです」
「違うな。それはベル君の物だ……お前、彼に何をした───」
「────!?」
場が軋む。思わず駆出そうとした男だったが、目の前に黒い騎士が突如現れる。旬の影が男の足元に伸びていた。
いいや、影が蠢いていた。路地裏ゆえに薄暗いその場所を更に暗く染める。壁に、地面に広がる影。その影の中に、
ヒュウ、と喉が細まる。心臓が早鐘をうち知らず知らず涙が流れる。
逃げなければ、でも、どうやって?
少しでも動けば、影の向こうに潜む何かが飛び出して来てすぐにでも引き裂かれる。そんな恐怖が襲う。
歯を鳴らすことすら出来ず固まる男に、旬が一歩近付いた、その時だった。
「あ、旬さん!」
「ベル君?」
「───っ!!」
何方にとっても聞き覚えのある声が聞こえてくる。途端に、旬の影が元の大きさに戻る。男はガクリと膝をつく。
「旬さん、この辺で僕のナイフを見ませんでした!?」
「ああ、それならその男が───」
「え? あ、リリ!」
ベルの声に膝をついていた
「どうしたの、大丈夫?」
「あ、あの………ベル様、これ………」
「あ、僕のナイフ! リリが拾っていてくれたんだね!?」
ベルは半泣きして、ガシリとリリと呼ばれた少女のナイフを持つ手を両手で包み込む。
「ありがとうっ!! 本っ当に、ありがとう!!」
「あ、あの、ベル様困ります………お礼なんて、リリはただのサポーターですし」
「関係ないよ、本当にありがとう!」
「!?」
ベルの言葉に困惑するリリ。旬は目を細めそんな彼女を見つめる。
「………知り合いか、ベル君?」
「あ、はい。実は今日手伝ってもらったサポーターの子で。すごいんですよリリ! モンスターにも詳しいし、モンスターに会わずに済む道も知ってますし、とっても頼りになるんです!」
ベルが自分の事のようにすごいすごいとまくし立てれば、その分少女が困惑していく。
旬はベルのキラキラした瞳を見て、はぁとため息を吐きベルの額を指で弾く。あぅ、と短い悲鳴をあげ興奮しすぎていたことに気づき顔を赤くする。
「すまない……えっと、リリさん。てっきりベル君のナイフを盗んだのかと」
「いえ………リリも、ベル様のお知り合いと思わず」
旬の謝罪を、リリは素直に受け止める。
「じゃあ、帰ろうか………」
「はい! 旬さんも、
そう言うと踵を返すベル。旬はベルが少し離れるのを待って、リリに近付くようにしゃがむ。
「サポーターとしては優秀みたいだから、見逃す。次はないと思え」
「ヒッ──!」
忠告をすると、旬はベルを追ってその場から立ち去った。
「おっかえりー! 旬くん! 大丈夫だったかい? 怪我とかしてない?」
ヘスティアは帰ってきた旬に駆け寄る。ベルに恋愛を向けているとはいえ、旬にもきっちり親愛を向けているのだ。怪我がないことを確認して、良し! と満足そうに頷く。
「神ヘスティア、大丈夫ですよ俺は」
「君が強いのは知ってるさ。でも、君は僕の
「………」
そう言えば、目覚めたばかりの母親に自分がハンターであることをまだ話していなかった。心配させるからと黙っていたわけだが、やはりヘスティアのように心配してくれるのだろう。
「すいません……いえ、ありがとうございます」
翌日、再びベルはサポーターと共にダンジョンに潜ったらしい。旬はヘスティアの頼みでヘスティアの知り合いの神の手伝いだ。
少しは安全な地上でおとなしくしてくれとの事だ。ついでに美味しい野菜をもらって来てくれとの事だ。
多分そこが本音なんだろうなあ。
「あらぁ、アナタがヘスティアのところの旬ちゃんねえ。今日はよろしくねえ」
ヘスティアにも劣らぬ豊満な胸部をした、蜂蜜色の髪をした女神が旬を見てニコニコ笑う。オラリオの内外の畑で麦や野菜、果物を育てている商業系ファミリアの主神、デメテルだ。
ヘスティアとはだいぶ仲がいいらしい。同郷なのだとか。
「今日は休ませていた土地をまた使うの。耕すのを手伝ってほしいのよ」
土は疲弊する。それを回復させるにはクローバーなんかが有効だ。一面クローバー畑になっている土をひっくり返すらしい。
「鍬は何本使っても良いですか?」
「え? ええ、構わないけど。Lv.4の力が強いって言っても両手でやった方が」
「もちろん両手でやりますよ」
「…………?」
こてん、と首を傾げるデメテル。見た目は綺麗な女性だが、そのさまは中々どうして可愛らしい。
「こうするんですよ……」
旬の言葉と同時に、影から現れる無数の影の兵士。イグリットや騎士達は大きさが人とさして変わらぬゆえに鍬を普通に取るが、オーガ兵達にとっては小さく少し握りにくそうだ。熊たちは
影の兵士となって初めての仕事が畑いじりのバルカ班は気のせいか不満そうに見えた。もちろんそんな視線無視して旬も鍬を持つのだった。
「ありがとね旬ちゃん。おかげで数日早く種が植えられるわぁ………」
作業が終わり、デメテルは夕食を食べていってくれと家に招きキッチンに向かった。出された紅茶は大変美味しく、蜂蜜と混ぜると良いと言われたので入れてみる。
甘みと、僅かな苦味を持つ蜂蜜はなるほど確かに紅茶に合う。
暫くすると【デメテル・ファミリア】で作られた小麦を使ったパンや野菜を使ったスープ、最近畜産を始めたという独立した眷属から貰った肉や卵で使ったベーコンエッグなどが出てくる。
「ん、美味しいですね。お店とか出せそうです」
「あらあら、もう、アナタもルノアもすぐに褒めちゃって。駄目よ? 私、すぐに調子にのっちゃうから」
あらあらうふふ、と頬に手を当て、恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに頬を染めるデメテル。知り合いと呼べる女神はヘスティアとフレイヤぐらいだが、目の前の彼女が一番女神らしい。
「…………ねえ、旬ちゃん」
と、不意にデメテルの声色に真剣さが宿る。その瞳は下界の子供達の全てを見抜くかのような、神の瞳。デメテルという女性としてではなく、デメテルという、女神として話しかけているのだろう。
「旬ちゃんの影の子達、あれは一日どの程度出せるの?」
「質問の意味が良く………」
「あ、ごめんなさい。その、少し借りたくて」
「…………畑仕事、ではないですよね」
「………ええ、そうね」
旬もまた、全てを見通そうとするかのように鋭い視線を彼女に向けた。その視線に折れたわけではないだろう。己が彼に話を聞くなら、自分も話すのが道理と考えたのであろう彼女は落ち着かせるように大きく息を吸って、口を開く。
「
「ええ……」
「私はね、ある神を疑ってるの。確証がないから、誰にも相談できない………それでも、何かあるんじゃないかって…………けれど、深入りしすぎても私には力がない。向こうには少なくともLv.3がいて、私には居ない」
「だから、俺の影を借りたいと?」
「ええ。厚かましい願いなのは分かっている………だけど、どうか……お願い………」
頭を下げてくるデメテルに、旬はわかりきっている問いかけを一つした。
「貴方にとって、
「いとしい愛しい、私の子よ。永遠を生きる私達にとって、たとえまた逢えるとしても、本当は寿命でだって死んで欲しくない、大切な子達」
その言葉には嘘はなかった。その瞳には強い決意があった。子を真に思う母に、旬は弱い。旬の母がそうだったから。
バルカを除いた白鬼の影でも、とりわけ強い奴をリーダーに2体の白鬼、6体のオーク兵を影から呼び出す。上位ファミリア相手でも十分時間を稼げるだろう。時間が稼げれば、旬が間に合う。
「貴方にこいつ等への命令権を与えます。俺以外の影にも隠れられるので、こいつを自分の影に、他をあなたが狙われたら困る場所に配置してください」
「…………ありがとう、旬ちゃん」
「俺はどうにも、母親という存在に弱いだけですよ」
「お母さんが、大好きなのね」
「ええ、隠し事をするような、親不孝者ですが………」
ハンターで有る父が行方知れずになり、泣いていた母を知っている。故にまだ己がハンターになった事を言えていなかった。悲しませるかもしれないから。
と、そんな旬を見て何を思ったのかテーブルを挟んで向かいに居たデメテルが立ち上がり旬の元まで歩いてくる。
「………あの、神デメテル?」
「良い子良い子〜♪」
相手はものすごい年上であることは解るが、それでもこの年になって抱きしめられながら頭を撫でられるなど小恥ずかしい。
「大丈夫よ、旬ちゃんは、お母さんに心配かけたくないだけでしょう? きっと解ってくれるわ」
「何故、そう言い切れるんですか?」
「だって………ふふ。旬ちゃんみたいに良い子を育てられるお母様なんですもの」
旬「影を数体貸しましょう」
都市の破壊者「………え?」
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俺だけレベルアップの件の女性キャラを出すなら
- エシル(悪魔娘)
- 観月絵里(ヒーラー)
- 今宮さつき(ヒーラー)