俺だけレベルアップの仕方が違うのは間違っているだろうか   作:超高校級の切望

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弱者の覚悟

「ベル君………」

「ッ………旬さん」

 

 ダンジョン6階層。ウォーシャドウの魔石を砕き灰へと返したベルを見つける。旬に気付いたベルは肩で息をしながら振り返った。

 

「どうする?」

「っ! …………まだ、やります!」

「…………そうか」

 

 安心した、とでも言うように薄く笑う旬。どうやら、連れ戻しに来たわけではないらしい。いや、ここでベルが弱音を吐けば、連れ戻す気だったのかもしれない。

 

「一つ、アドバイスをしてあげよう」

「アドバイス?」

 

 旬の言葉にベルは耳を傾ける。彼からすれば旬は自分より強い存在。そんな彼から受けられる助言ならば、決して聞き逃さぬという気概を見せた。

 

「ここのモンスターはミノタウロスより弱い」

「…………えっと、それは………当たり前じゃ」

「そう。当たり前だ………だから、よく周りを見るんだ」

 

 と、タイミングよく壁に亀裂が走る。現れたのはウォーシャドウ。更に別の場所からも………。

 さらに言えば、こんな時間に上層に来る人間などまずいない。人類の敵たるモンスター達が戦いの音に誘われ集まってくる。

 その光景はLv.1で駆け出しのベルにとっては絶望的。まて、はたしてそうか?

 こいつ等は、ミノタウロスよりも弱い。ベルは思い出したくない光景を思い出す。己を壁際に追い詰め興奮していた雄牛。ベルがどうやっても、絶対勝てないであろう絶望。対して、コイツ等はどうか?

 ふぅー、と息を吐き出す。空気が変わる。旬が微笑む。モンスター達は、ピクリと一瞬だけ動きを止めた。

 

「大したことない」

 

 あの時の絶望(ミノタウロス)に比べれば、全然大したことない。ならばどうするベル・クラネル。あの黄金の風に追いつきたいお前は、己を嘲笑った狼人に対してよりも、言い返せない事を自覚しそんな己を情けないと思ったお前は、どうする。

 

「強く、なる………」

 

 名も知らぬ女の子を守って、それをきっかけに仲良くなりたい?

 弱いから、助けられたろう。

 レベルを上げて、かっこいい二つ名を授かりたい?

 弱い奴が何を言ってる。

 馬鹿にされたくない? トマト野郎なんて不名誉なあだ名はゴメンだ。

 弱ければ撤回も出来ない。

 あの人の横に立ちたい。今度は自分が、あの人を守れるようになりたい。

 

「だったら、強くなるしかないだろ! 強くならなきゃ駄目だろ!」

 

 動きを止めるもすぐに動き出したモンスターの群に、ベルは叫びながら走り出す。

 

「僕は、強くなるんだ!」

 

 

 

 

 

 限界が来たのか、ドサリとベルが倒れる。ある程度数が減ったモンスター達が、今のうちにと言わんばかりに襲いかかり、細切れにされた。魔石も切り裂かれ、灰となり散っていく。

 『隠密Lv.1』*1を解いた旬がモンスター達を処理したのだ。

 

「よく頑張った。君は強くなってるよ」

 

 ベルを肩に担ぎ頭を撫でる旬。その姿が消える。『隠密』ではない。単純に、速く動いただけだ。それでも、この階層でその動きを追えた者はいない。

 

 

 

 

「と・に・か・く! 今後こんな事は二度とないように!」

 

 帰宅後。二人揃ってヘスティアに叱られた。こんな時間にダンジョンに潜ったのだから当然だ。ベルはボロボロだし、旬はベルが気絶するまで放っておいたというではないか。

 

「だいたいなんで旬君はベル君を止めなかったんだい! 無茶なのは誰が見ても明らかだろう!」

「…………少し前の俺に、似てたから」

「へ? 僕が、旬さんに?」

 

 ベルは首を傾げる。自分は間違いなく弱いが、旬は強い。こんな情けない自分と旬の、どこが似てると言うのか。

 

「少し前までの俺のあだ名は「人類最弱兵器」だったんだよ」

「凄いじゃないですか! 「人類最()兵器」だなんて!」

「違うよベル君。最()だ」 

「…………へ?」

 

 最終兵器と言う呼び方は最上真*2のものだ。旬のものではない。

 

「俺は誰よりも弱かったからね」

 

 旬の世界においてゲート*3が現れたの時と同時期に、呼応するように現れた覚醒者と呼ばれる魔力を持った人間達。旬もその一人だが、魔力量が10と言う一般人に毛が生えた程度の覚醒者だった。因みに最低ランクのE級の平均は70。

 

「旬さんが、弱い」

「ああ。だけど、戦えば強くなれるようになった」

 

 ベルはその言葉を聞いて恩恵を得たのかな? と考える。あれ、でも旬は眷属としては後輩だ。

 

「だからまあ、頑張った。ダ──モンスターの巣に入って、モンスターを倒し続けて、俺よりもずっと強い巣のボスに挑んで………あの時は死ぬかと思った」

 

 まああの時以外にも死にかけた事は何度もあるが。特に一番最近だと『悪魔の城』*4のラスボス『悪魔王バラン』戦。あれは悪魔城で知り合ったエシルが居なければ危なかった。

 

「旬さんは、そんな危険を乗り越えたんですね…………あの、旬さん!」

「団長にならならない」

 

 ベルの言葉を先んじて止める旬。ベルはでも、と不満そうだ。現状、たった二人の【ファミリア】であり、上下関係などないに等しいがそれでもギルドに【団長】として登録されているのはベルだ。

 

「でも………」

「まあ旬君にも事情があるんだよ……」

「………まあ、とにかくだ。ベル君も、強くなろうと頑張れば、ちゃんと強くなれるよ」

「…………はい!」

 

 旬の言葉に元気よく頷くベル。彼が頑張っていたのは他でもない旬が知っている。きっと彼は強くなれるだろう。

 

「ま、話はこれで終わりにしようぜ! 3人仲良く寝ようじゃないか!」

「そうですね、僕も、少し寝てたけどまだ眠いです」

 

 3人寝るにはベッドが少し小さかったが、真ん中のヘスティアが子供のようなサイズでベルに至っては普通に子供なのでなんとかなった。旬は誰かとこうして寝るのは久しぶりの体験だな、と顔を綻ば去るのだった。

 

 

 

 翌日、ベルの【ステイタス】を更新したヘスティアは不機嫌になっていた。上がり幅が大きい。これはつまり、ベルの想いの丈が上昇したに違いないからだ。

 【憧憬一途】(リアリス・フレーぜ)という成長補正のレアスキルがベルには存在する。その効果によりベルの成長速度は旬にも匹敵するだろう。ランクアップの法則だけは違うが【ステイタス】上昇に関しては初期の旬とそこまで差異はないだろう。

 これ、バレたらまずい。ベルが目をつけられ、旬も目をつけられ、果たして自分のような弱小ファミリアが生き残れるのか? 最悪旬はヘスティアの恩恵などなくとも生きていけるし何ならガネーシャのところで世話になれる。大派閥である【ガネーシャ・ファミリア】内で目立ち過ぎることを危惧して【ヘスティア・ファミリア】に来たのだ。目立ってしまったなら手元に置いたほうが確実だ。

 つまり現状優先すべきはベルの成長。如何に旬が強くとも、遠く離れたベルを守ることなど出来ないだろう。

 

「………よし!」

 

 まずベルに必要なのは武器だ。これから急激に成長するベルは階層に合わせて武器を変えなくてはならない。階層が異なればモンスターの強さも異なる。頑強ささえ違う。強い武器がいる。

 

「ベル君、旬君、ボクは今日の夜……いや何日か部屋を留守にするよっ。構わないかなっ?」

「えっ? あ、わかりました、バイトですか?」

「いや、行く気はなかったんだけど友神の開くパーティーに顔を出そうかと思ってね。久しぶりに皆の顔を見たくなったんだ」

「いいんじゃないか。これだけ【ステイタス】が上がったなら暫くは慣らしも必要だろうし」

「はい。どうぞ楽しんできてください」

 

 

 

 

 ベルは再びダンジョンに向かった。あの様子なら今日は無理をしないだろう。旬は本屋に向かう。

 精霊や黒龍、アンタレスなどの情報を集めるためだ。

 後ついでに、この世界に『こだまの森』と呼ばれる森がないか調べてみよう。あれば、また『命の神水』*5が作れるかもしれない。前回制作時にできた個数は6。うち一つは母に使ったから残り5。

 身内が不治の病にかからぬとは言い切れぬ以上、出来るだけ材料を確保しておきたい。

 

「水篠さん?」

「ん? ああ、テアサナーレさんか………こんにちは」

「アミッドと、呼び捨てで構いませんよ。敬語も結構です……本日はダンジョン探索はお休みですか?」

 

 本屋で薬学書が置かれたコーナーを見ていると不意に声をかけられた。振り返るとアミッドが居た。治療院の格好のままということは、休憩中だろうか?

 

「まあ、たまには」

「そうですか。休息は大事です………ところで、薬学に興味が?」

「ああ、母が、寝たきり目を覚まさない病にかかってたから」

「そのような病が………よろしければ、私が診断しましょうか?」

「いや、もう治ったよ。なんとかね」

「それは、おめでとうございます」

 

 無表情だが、多分喜んでくれているのだろうとなとなく雰囲気で察する。良い人間だ。

 

「アミッドと知り合いになれてよかった」

「っ………それは、どういう───」

「観月さん、昔の知り合いを思い出して懐かしい気持ちになれるな、って」

「……………女性ですか?」

「ん? ああ、そうだけど………」

「………………はぁ」

 

 アミッドは呆れたようにため息を吐く。旬は不思議そうに首を傾げる。アミッドは理解した。この人は、とある薬師の神と同系統だ。

 

「ところで、アミッドは『こだまの森』を知らないか?」

「こだまの………? 申し訳ありません。心当たりが」

「そっか………なら、毒性を中和させる水については?」

 

 確か、バランを倒した際に手に入れた『命の神水』最後の材料『浄化された悪魔王の血』の説明文に薬剤として使用する為には毒性を中和させる『世界樹の破片』と『こだまの森の涌き水』が必要と書かれていた。ならば毒性を中和さえ出来るなら何でもいいのかもしれない。

 

「毒性を中和する事で薬になるものも確かにありますが………もしやお母様の回復になにか関係が?」

「それは………いや、そうだな。話しておこう」

 

 アミッドはこの世界最高のヒーラーらしい。薬剤師としての腕も一流だ。『こだまの森の涌き水』がこの世界になくても、毒を中和する方法が分かるかもしれない。

 

「では、場所を変えましょう。ここでは店の迷惑になります。お昼がまだでしたら、個室のある店などいかがでしょう?」

「構わないが、いいのか? 休憩中なんじゃ………」

「? いえ、今日は非番ですが?」

「…………非番でも制服なのか?」

「何時でも治療院に向かえるように、と」

 

 非番とは………。

*1
アクティブスキル

必要マナ200

姿や痕跡などを一時的に消し去ります。

「隠密」を使用中は1秒に10ずつマナを消費します

*2
ハンタースギルドの代表。

魔法使い系の覚醒者でランクS級

魔法一つでビルを軽々吹き飛ばすほどの実力を持つ

*3
旬の世界におけるダンジョンの入り口。ゲートの向こうには異次元が広がりそこにモンスターが跋扈する。

迷宮の規模やモンスターの強さでゲートから魔力が計れ、それによりランクが決まる

*4
システムが用意したインスタンスダンジョンの一つ

*5
入手難易度∶S

種類∶消耗品

強力な魔法の力で万病を治す神秘的な液体薬

一瓶を飲み干すことで効果を得られる




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俺だけレベルアップの件の女性キャラを出すなら

  • エシル(悪魔娘)
  • 観月絵里(ヒーラー)
  • 今宮さつき(ヒーラー)

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