「PTSD 心のケガを手当てする」② ~複雑性PTSD~

24/07/23まで

健康ライフ

放送日:2024/06/25

#医療・健康#ココロのハナシ#カラダのハナシ

放送を聴く
24/07/23まで

放送を聴く
24/07/23まで

【出演者】
飛鳥井:飛鳥井 望さん(青木病院院長・精神科医)
聞き手:福島祐理 キャスター

複雑性PTSDとは?

――被害者支援都民センター理事長で、精神科、特にPTSDの治療やケアがご専門の飛鳥井 望(あすかい・のぞむ)さんに伺います。

飛鳥井:
PTSDを引き起こすようなトラウマ体験とは、災害・重大な事故・暴力による被害・性的被害・虐待・いじめ・戦闘・テロ事件などで、一部の人はそのトラウマからのストレス症状による精神的苦痛ですとか、生活への支障をきたす状態が続いてしまいます。

――今日のテーマは「複雑性PTSD」。インターネットなどでひぼう中傷を受けた方が複雑性PTSDになったというニュースがありましたけども、あらためてどういった病気なのでしょうか?

飛鳥井:
「複雑性PTSD」というのは、もっとも多くは、逃れることができずに長期間繰り返されたトラウマの後に生じるとされています。出来事の例としては、拷問ですとか、民族虐殺いわゆるジェノサイドですね、それからDV、子どもへの性的虐待や身体的虐待などです。
「複雑性PTSD」は2018年に、WHOによる国際診断基準において公式の精神疾患として初めて認められた新しい病名です。それにより「PTSD」と「複雑性PTSD」を分けて診断することになりました。

症状としては、PTSDの症状があり、さらに、感情の制御がきかない、自分のことを否定的に見る、人間関係を保てず人に親密感をもつことができない、といった問題があることが診断の基準になります。

――身近なところではどんな場合に起こりやすいんでしょうか?

飛鳥井:
幼少期に親からの虐待を受けている場合、例えば身体的な暴力・暴言だけでなく、ネグレクトや性的な虐待などが原因となります。学校に通っている年令での教師や指導的な立場の人から繰り返される体罰や暴力、いじめなどがある場合も原因となる可能性があります。
本来、信頼関係を築くはずの身近な人が恐怖の対象になってしまうことで、人を信頼できなくなってしまい、家が安心の場ではなくなる、仕事や学校に行けなくなるなど、二次的な困難を抱えやすくなってしまいます。

深くかかわる 養育者との「アタッチメント」

――身近な人との関係、日常がトラウマの原因になってしまうということでしょうか?

飛鳥井:
この複雑性PTSDには「アタッチメント」が深くかかわっているといわれています。
アタッチメントというのは、子どもが不安や不快を感じた時に守ってもらい欲求を充足することを求める行動です。アタッチメントの対象となる養育者は、子どもに共感してニーズを読み取り、あやしたり、なだめたり、欲求を充足することで、子どもは安心と充足を得ることができます。
このような体験を重ねることで、子どもは「自分は愛される価値のある存在で、他者は信頼できる存在なんだ」という感覚が持てるようになります。その感覚が土台となって不安対処能力、自己肯定感、他者への信頼感が育まれます。
複雑性PTSDは養育者とのアタッチメントをめぐる関係が不安定であったことが大きな要因となります。

――ほかの精神疾患と複雑性PTSDはどう見分けるのでしょうか?

飛鳥井:
複雑性PTSDは、きっかけとなるトラウマを体験しており、それに結び付いた症状が出現しているということです。
前提として、
・トラウマ体験の記憶が自分の意思とは関係なく繰り返しよみがえる「再体験」、
・トラウマの記憶に結び付くような物事や状況、人や場所を極力避けている「回避」
・ちょっとした物音などささいなことにもビクッとして過敏に反応したりしてしまう「過覚醒」
これらの症状があることを確認します。これが他の病気と見分けるポイントですね。

診断や治療はどうする?

――診断や治療は難しくないんでしょうか?

飛鳥井:
たしかに難しい面があるかと思います。
ひとつは、他の疾患と紛らわしいということがあります。たとえば深刻なパニック障害や依存症と鑑別するのが難しかったり、合併したりしていることがよくあります。
また治療という面では、対人関係の困難ということがありますので、治療者との安定した信頼関係が築きにくく、それだけ治療が困難となりやすくなります。

――自然によくなっていくということはないんでしょうか?

飛鳥井:
トラウマ体験が軽い場合には、時間がたつとつらい記憶が過去の記憶として整理され、つらさが和らいでいくということが期待されます。
ただ、複雑性PTSDの場合は、子どものころからのトラウマが繰り返されることで症状が慢性化しやすいということがあります。また誰にも相談できず孤立していたり、生活再建に必要な支援が受けられなかったり、相談したのに心ない対応をされたりといった二次的なトラウマがあると、さらに回復が妨げられて慢性化してしまうことがあります。

――つらさを和らげるために自分でできることはありますか?

飛鳥井:
複雑性PTSDのご本人が困っていることの大きなものに、感情のコントロールがききにくいということがあります。そこでご自分で感情をコントロールするために心を落ち着ける呼吸法ですとか、体の緊張を和らげる方法を覚えておくとよいかもしれません。たとえばヨガなどをしている方もいらっしゃいます。

――では、今日のポイントをお願いします。

飛鳥井:
複雑性PTSDの特徴は3つ。
「不安に対処しにくい」「自己を肯定しにくい」「他者と信頼関係を築きにくい」。
この特徴を、本人も周囲も正しく理解する。


【放送】
2024/06/25 「マイあさ!」

放送を聴く
24/07/23まで

放送を聴く
24/07/23まで

この記事をシェアする

シェアするhelp

  • x
  • facebook

※別ウィンドウで開きます

健康ライフ

健康ライフ

健康ライフ

<マイあさ!>
[R1] 毎週日曜~土曜 午前5時00分~