TikTok中国版「ドウイン」の検索結果 

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 24日に中国・蘇州で発生した日本人学校のバス襲撃事件。日本人2人が負傷、中国人スタッフ1人が命を落としたこの事件について、中国外務省の報道官は「偶発的なもの」と発言した。一方で、以前からたびたび報じられている日本人学校への嫌がらせを想起した人も多いだろう。中国のSNSでは「日本人学校」が近年の“人気テーマ”となっているようだ。

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日本人学校の数は中国が最多

 文部科学省が認定した「在外教育施設」にあたる日本人学校は、今年4月1日現在で世界49カ国1地域に94校。うち中国大陸の日本人学校は9都市に10校(上海に2校)と最多で、その多くは補習校を前身としている。インターナショナルスクールと異なる点は、日本国内の小中高と同等の教育課程だ。あくまでも日本の教育を受ける場所であり、卒業者は日本国内の中高大への入学資格を有する。

TikTok中国版「ドウイン」の検索結果 

 中国の場合、児童・生徒の保護者は企業の駐在員がほとんどで、90年代後半から大手自動車メーカー3社と周辺企業が進出した広州など、認定校の増加は日本企業の中国進出ブームとほぼ連動している。コロナ前まで児童・生徒の数は増加を続け、上海日本人学校は「マンモス校」として有名だった。ただし、どの日本人学校も「多数の日本人がいる場所」であるがゆえに、日中関係の悪影響を受けやすいという宿命を背負っている。

 2000年代初頭、小泉純一郎首相(当時)の靖国神社参拝を主要因として、中国での反日活動が盛り上がった。各地の日本人学校は対策を講じ、05年には大規模デモ開催を警戒した上海日本人学校が運動施設の一般開放を中止するなどしている。同じ時期には、日本から輸入した日本人学校の副教材が大連の税関で留め置かれる一件も発生した。

数年前から「日本人学校」がテーマ入り

 10年9月に尖閣諸島の日本領海で中国漁船の船長が逮捕された際は、天津日本人学校にパチンコ玉のようなものが撃ち込まれた。2年後の8月には、北京で丹羽宇一郎中国大使(当時)の車が襲撃されたことを受け、各校が警備の強化や臨時休校などの措置を取っている。

 以上の流れにある日本批判のテーマは「靖国神社」「軍国主義」「尖閣諸島」。昨年はこれらメジャークラスに「福島原発の処理水放出」が加わった。日本への電話攻撃が注目されたが、中国の日本人学校にも石や卵が投げ込まれている。さらに今年は、靖国神社での狼藉を収めた動画などをきっかけに、中国の若者たちによる日本批判のSNS投稿も日本で広く知られるようになった。

 そうした批判投稿にもメジャークラスのテーマが多いものの、実は数年前から「日本人学校」もテーマ入りしていた。例として人気の動画投稿サイト「TikTok」の中国サイト「ドウイン」で「日本学校」「日本人学校」を検索すると、各地の日本人学校前から配信された動画を見つけることができる。ただし、メジャークラスのテーマとはやや異なる特徴があるようだ。

「なぜ中国に日本人学校が多いのか」

 ある動画では、配信者の男性が日本人学校脇の歩道を歩きながら防犯カメラなどを見上げ、日本人学校はなぜこんなに閉鎖的なのかなどと話す。そのコメント欄には「なぜ中国に日本人学校が多いのか」「なぜ閉鎖しないのか」「中国の法規に従って認可を受けているのか」「中国人が入学できないのはおかしい」といった内容が並ぶ。

 配信者が指摘した「閉鎖的」とあわせて、これらが日本人学校に対する主な疑問だ。初老の男性が日本人学校の校門前で「ここは日本租界か!」と興奮気味にまくしたてる動画も転載を繰り返されているが、そのほかの動画では「問題だが、まずは疑問が浮かぶ」といった疑問語りかけ型も目立つ。

 最初の動画を見つけるのは困難ながら、2021年11月には「日本人学校のテーマ入り」が確認されていた。きっかけは柳条湖事件(満州事変の発端)の発生から90周年を迎えた同年9月18日頃、SNSで「日本人学校が多すぎる」という内容の文章が注目されたことだという。

 また、同月1日には、京都の街並みをモデルにした大連の「日本風情街」が閉鎖に追い込まれる一件が発生。そこから派生した話題として「大連には何年も前から日本人学校がある」というネット記事も配信されていた。

「中国国民の子弟の募集」は違反行為

 この当時に投稿された動画は現在も閲覧可能だ。今年に入ってからも疑問語りかけ型やデマを流布する動画などが投稿されているが、一部は「日本人学校は35校」といった当初からの間違いを繰り返している。昨年3月には香港俳優の欧陽震華(ボビー・オウヤン)が中国SNSのWeiboで突然「日本は中国で多くの学校を建てたが日本人専用であり、中国人の立ち入りを禁止している」と言い出し、「合理的な説明」を求めた。

 その「合理的な説明」はネット検索で知ることができる。中国には外国人駐在員の子女が通う学校に関する規定があり、その第17条に是正や業務停止命令の可能性がある行為として「領域内での中国国民の子弟の募集」が明記されているのだ。

 さらに、日本人学校は文科省から在外教育施設の認定を受けるものの、設置と運営は現地の日本人会や商工クラブなどが主体の私立学校であり、その設置の許可を出すのはもちろん中国側だ。防犯カメラに代表される「閉鎖的」の指摘は、元はと言えば前述した嫌がらせ行為や、外部から授業中の校庭などを撮影した映像などに原因があるとも考えられる。

 答えが簡単に調べられる疑問を繰り返すことで、日本人学校は息の長いテーマになってしまったようだ。「ドウイン」では、そうした状況を見かねた配信者からの正しい解説動画も複数表示される。そのうちの1本には「知っている人も多いはずの話なのにね」という呆れたユーザーからのコメントが寄せられていた。

デイリー新潮編集部