オーストリアに比べ、甘い日本のガイド制度

 ところで、私が以前働いていたオーストリアのガイド制度についても触れておきたい。コロナ禍前、2017年の統計で、外国人訪問者数は日本は28,691,000人、オーストリアは29,460,000人。数字だけをみるとそんなに変わらないように見える。だが、日本の人口は約1億3000万人、対してオーストリアは約880万人といったらどうだろう。感じ方がずいぶん違ってくるのではないだろうか。

 オーストリアは首都ウィーンをはじめとして、モーツァルトの故郷ザルツブルクといった観光資源がある国だ。観光を大切な産業ととらえ、古くから多くの観光客をもてなしている。オーストリアも、日本と同様に観光ガイドは国家資格となっている。だが、ガイドになるための試験、国による扱いも含め、ずいぶん異なる。

 州によって試験の頻度は異なるものの、おおむね2年に1回の割合でオーストリア公認ガイドになるための試験が行われる。試験内容は、筆記試験、口頭試問、実地試験である。その試験を受ける前の2年間、ガイド養成学校に行く必要があり、ここでみっちりと授業を受ける。

 注目してほしいのは実地試験だ。試験官同乗のうえ、実際に観光バスに乗り、ガイディングだけでなく、適切なルートをとることができるかをも確認される。なお、ガイド養成学校の授業も試験もすべてドイツ語で行われる。日本語、英語、フランス語などの語学に関しては、別途試験を受けることになる。すなわち、まずはドイツ語の公認ガイドになり、その後、たとえば日本語ガイドになるならば、日本語の試験に合格する必要がある。

 なお、オーストリアのほか、日本人観光客にも人気があるフランス、スペイン、イタリアなどでもガイドになるには厳しい試験をくぐりぬける必要がある。

 日本の全国通訳案内士の試験は筆記試験と口頭試問のみであり、実地試験はない。実際に観光客を案内するスキルがあるかどうかチェックされることはない。

 オーストリアの公認ガイドになるには、かなり厳しい道のりだが、その分ガイドは法律で守られている。ガイド免許なしに外国人がガイド業務を行ってはならないと刑法で定められている。違反者は逮捕され、罰金支払いの上、7年間もしくはそれ以上EUに入国禁止となる。実際に逮捕者も出ている。日本人で逮捕された者も複数いる。

 残念ながら日本の通訳案内士の資格試験は、古くから観光を大切な産業としてみている国に比べ不十分だと言うしかない。国家資格を持ちながら、ガイドとしての十分なスキルがないというのは、いかがなものだろうか。

 日本を訪れる外国人観光客は、他の国の観光の経験もあるだろう。当然、他国のガイドと日本のガイドは比べられることになる。私は、日本の旅行業者のはしくれとして、無資格のガイドが地元の人とトラブルをおこすような現状はとても恥ずかしいと思っている。

 今回の八坂神社でのトラブルで表面化したが、質の低い無資格ガイドは日本の観光業にとってマイナスの存在である。最近はSNSの存在もあり、彼らによって日本の評判を落とされる可能性も否定できない。

 また、有資格の通訳案内士の仕事を奪っていることも問題だ。実際に彼らは集客に成功し、報酬を得ている。国家資格を取り、5年に1度の研修を受けている有資格者が、なぜ割を食わなくてはならないのだろうか。

 一方で、残念ながらスキル不足の通訳案内士がいることも問題だ。観光を大切な産業としている国を参考にし、日本も通訳案内士のレベルアップが必要だろう。

(編集協力:春燈社 小西眞由美)