討論会「民主党内はパニック」 不安露呈のバイデン氏、交代論も浮上
11月の米大統領選に向け、27日に開かれた1回目のテレビ討論会は、バイデン大統領(81)を擁する民主党にとって極めて厳しい結果となった。高齢への不安が指摘されてきたバイデン氏は、全米の注目が集まる場で、言い間違いや活力のなさを露呈した。動揺した党内から交代論が噴き出したとも報じられている。
【タイムライン速報】バイデン氏とトランプ氏がテレビ討論会
テレビ討論会は日本時間28日午前に実施されました。タイムライン形式で討論会の様子を詳報しています。
討論会後、バイデン氏の陣営は、騒然とした雰囲気に包まれていた。会場にいた民主党の有力政治家、カリフォルニア州のニューサム知事には、「バイデン氏の撤退を望むか?」「代わりに立候補する考えは?」と記者からの質問が殺到した。ニューサム氏は「全くない。我々は全てを(バイデン氏に)賭けたのだ」と否定すると、早々と取材対応を打ち切った。
一方、共和党のトランプ前大統領(78)の側近らは、質問が尽きるまで取材に応じ「(トランプ氏が)力強さをみせた」と強調。高揚を隠さなかった。
バイデン氏の「老い」 開始早々に顕在化
討論会の中継を終えた直後、CNNのジョン・キング記者は「これはゲームチェンジ(形勢を一変させる)の討論会だった」と言い切った。「民主党内では深く広いパニックが起きている」とし、バイデン氏に大統領選からの撤退を促す声さえ出ている、と伝えた。
他の主要メディアにも「民主党がパニック」(フィナンシャル・タイムズ)、「民主党には悪夢だ」(政治専門紙ヒル)、「バイデン氏が苦戦」(ワシントン・ポスト)といった見出しが並んだ。CNNが視聴者に討論会の「勝者」を尋ねた調査では、トランプ氏が67%で、バイデン氏の33%を大きく引き離した。
バイデン氏の「老い」は、全米の有権者がかたずをのんで見守る画面で開始早々から顕在化した。何度かせきを繰り返し、声も普段よりかすれて小さかった。
開始から10分が経ったころ。医療保険制度の強化について語るうち、言い間違いをきっかけに言葉がよどむ。3秒ほど下を向いたまま動かなくなった。さらに「(高齢者向け保険の)メディケアを退治した」と、意味の通らない言い間違いを重ねた。
その後もたびたび言葉がつかえたり、トランプ氏の発言中に視線をさまよわせ、口も半開きになったりする場面が目立った。
バイデン陣営「大統領は風邪で」
米メディアによると、バイデン陣営は「大統領は風邪で、出足はゆっくりだったが、本来のペースを徐々に取り戻した」と釈明した。バイデン氏は後半、ユーモアを交えて語るなど調子を取り戻したようにも見えたが、前半の失態を取り返すことはできなかった。
一方のトランプ氏は普段通り、一方的に持論を展開した。事実と異なる主張をしたり、誇張したりする場面も目立った。ボストン・カレッジのピーター・スケアリー教授(政治学)は「トランプ氏は何も特別なことをしなかったのに、バイデン氏の見るに堪えない振る舞いのおかげで、心身ともに力強さを感じさせた」と話した。
従来も民主党にとって、バイデン氏の高齢への不安は解消しがたい「爆弾」だった。ただ、本人が再選を目指すと決めた以上、党内では異論を抑え、一丸となって支えようとする態勢を整えてきた。今回の討論会が、その結束に動揺をもたらすのは確かだ。
大統領選の年の9月以降に実施されてきた通例の討論会とは異なり、今回は6月という異例の早期開催だった。前倒しを提案したバイデン陣営としては、討論会で高齢への不安を払拭(ふっしょく)し、それを弾みに選挙戦を有利に進めたい狙いがあった。
狙いが裏目に出て惨敗といえる結果に終わり、にわかに戦略を練り直す必要が出てきた。バイデン氏が正式に民主党の大統領候補として指名される党全国大会は8月。本人が立候補断念を表明すれば、手続き上は、他候補を擁立することも不可能ではない。
現職大統領が、大統領選まで半年を切ったこの時期に撤退した例はなく、「バイデン交代論」はまだ現実的ではない。ハリス副大統領(59)を含む次世代の政治家にも、衆目が一致する有力な後継者がいるわけではない。それでも、今後数週間で、今回の「惨敗」が世論調査などを通じて如実に示される可能性もある。その場合、このままバイデン氏を擁して大統領選へ突き進むべきなのか、民主党は極めて困難な再考を迫られることになる。(アトランタ=望月洋嗣、高野遼)
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