作者のゴールデンウィークの予定は小説投稿です。出勤されている方は頑張ってください。
独自解釈ありです。
次の日の夜。
俺はいつもの悪魔稼業に勤しんでいた。この依頼人の願いを叶える仕事はやりがいがあって非常に楽しい。だからこの時間が一番の楽しみなのだが、今日はギャスパーも一緒に仕事をする。
パソコンで仕事をとっているのだから不要だとは思うのだが、封印を解けたことを機に普通の仕事を経験させたいそうなのだ。
「大丈夫か?」
「大丈夫じゃないですぅぅぅぅ」
声をかけたそこには、女装した少年ではなく大きめなダンボール箱があった。
箱入り息子だとか自称する彼は、人の目が怖いからとダンボール箱の中に入っているのだ。
なのでいちいち持ち運ぶのが面倒だと思っていたが、なんと移動はダンボール箱の側面の切れ目から翼をだして器用に飛んでいた。
無駄過ぎる高等テクニックにもはや言葉もないが、手間が省けるから良しとしよう。
「依頼人の方はどのような人なんですか?怖い人ですか」
む、きちんと事前に聞くとは感心だな。いや悪魔稼業としての成績はギャスパーの方が上なのだから当然か。
「アニメ好きなお兄さんだよ。小猫ちゃんのような体型の子が特に好きな」
「ダメじゃないですかっ?!」
「まあ、森沢さんがいくら変態でも、男に食指を動かすレベルでは無いと思うよ。きっと多分メイビー」
「断言できないんですね」
「変態だしなあ」
オタクアニメトークだけじゃなく、ロリ体型の素晴らしさも語る人だから。
「とりあえず現場の空気だけでも体験する形でやってみようか。嫌なら逃げて良いから」
「良いんですか?」
「いや、そのね、対人恐怖症の子に悪魔稼業の依頼人を会わせるのは、正直どうかと思っているんだ」
変態ばかりだし、荒療治にも程があるって。
「わかりました。僕もできるかぎり頑張ってみます」
逃げて良いという言葉に安心したのか、ギャスパーは頑張ると言った。昨日の訓練で成果が出たからか、少しは前向きになれたのか?この調子で上手くいけば良いけど。
なんとかなりました(恐怖)。
森沢さんの変態度合いを侮っていたぜ。
まさかダンボールを開けてギャスパーを見た途端、森沢さんが男の娘最高と叫びながらル○ンダイブ(脱衣込み)をかますとは。
ギャスパーが恐怖のあまり時間停止するのを誰が咎められようか。
とりあえず空中停止したパンイチ森沢さんをスマホのカメラで撮ったんだが、解除後にそれを見た森沢さん本人が大ウケして依頼達成となった。
この結果にギャスパーも驚いていたよ。
いや俺もだけど。
依頼後、俺達は魔法陣で帰還せずに夜の町を歩いて帰ることにした(ギャスパーはダンボールにinして飛んでる)。
お互いになんとなくそんな気分になったからだ。
「あー、こんな感じで受け入れてくれる人もいるんじゃないかな?」
「こんな受け入れられかたはちょっと」
だよな。
二人揃って乾いた笑みを浮かべてしまうよ。
変態に限界はないのだと思い知らされてしまったからな。
「イッセー先輩は」
「ん?」
「僕のことが怖くないんですか?」
唐突なギャスパーからの問いかけ。
「いや別に」
それを瞬時に返す俺。
「だって時間停止なんですよ!!
今まで関わってきた人達は、止められてる間に何かされたんじゃないかって、本人が何もしてないのに疑って、恐怖して、攻撃してきて、そんなことばかりで」
それがギャスパー・ヴラディの今まで過ごしてきた日常なんだろう。
家から追い出され、吸血鬼の領域には住めず、人間からはバケモノだと追い回される。
何も知らずに手を差し伸べてくれた人達も、時間を止めてしまったら掌返しをしてきた。
その挙げ句に死んで、悪魔に転生だ。
「まあ、俺も似たような経験はしてきたから辛さはわかるしなあ」
「一般家庭生まれの日本人なんですよね?!」
「グランバハマルって異世界でちょっとな」
「異世界って本当にあるんですかあ?」
む、そんな馬鹿にするように言われるとカチンとくるな。
ならば見るがいいマイメモリー。
『やめたれ』
「記憶再生」
丁度いいタイミングで公園までついたから、そこで記憶再生の魔法を発動した。
夜中に公園で男子高校生とダンボールが並んで腰掛けているのは、凄まじく異様な光景だが仕方ない。
ブン、という音とともに画面のようなものが目の前に現れ、俺の視点ではなく第三者視点から映像が流れだした。
[くたばれ異国人があ!!]
[俺達の街からでていけえ!!]
[余所者に売ってやるもんなんかないね]
[泊まる?裏の馬小屋だってやだよ]
あー、懐かしい。
まだ素顔で過ごしていた時期だよなあ。
十七くらいだっけ、まだ陽介さんと知り合う遥か前のことだ。
ファンタジー的な町並み、そこで人々に石を投げられ追い立てられ泣きながら逃げる俺。
ドライグの助言を跳ね除けて人里に降りた結果、こうなったんだ。
殺されなかったのは運が良かったから、逃げた先でドライグがそう言ってたな。
「あの、イッセー先輩。これって」
「ま、過去の出来事ってやつだ」
ギャスパーも似たような経験はあるんだろう。だからこそ思い出して、顔を青褪めさせている。
「お前の気持ちはわかるよ」
理不尽に迫害されたことによる心の傷。
それがどれほどのものかは理解できてしまう。
「辛かったよな」
「はい」
この時ですら、ドライグという味方がいたからなんとか乗り越えることができた。けど部長に救われるまで一人ぼっちだったギャスパーはどれだけ苦しかったんだろうか。
「部長さんは、リアス御姉様は僕を受け入れてくれたんです。封印されちゃったけど、その間も気にかけてくれていたんです」
「ああ、そうだな」
「パソコン越しの悪魔稼業も部長さんからの提案でした。はじめは大変だったけど、役に立ちたい一心で頑張って、結果を出せました。画面の向こうの依頼人さん達も僕と似たようなタイプだから、気が楽でした。そんな人達の助けになれたのも嬉しくて誇らしくて」
ギャスパーが自身の思いを吐き出していた。
「だからこそ怖い。
制御できない力を見られて、見放されることが、初めてできた居場所から捨てられてしまうことが、怖いんですぅぅ」
引き篭もる最大の理由がこれなんだろう。
部長達の優しさと思いやりは伝わっていた。ギャスパーもグレモリーの仲間達を大事に思っている。
だからこそ、今の状態から変わることを恐れていたんだ。今まで生きていて、はじめて上手くいっている状況だったから。
「ギャスパー、部長はお前を戦力として期待して表にだしたんじゃない」
期待外れだから見捨てる、そんなことはあり得ないと伝える。
「でも、僕は、血筋が良くて、神器が凄くて、才能があるって」
自信を持たせようとした言葉が裏目に出ている感じだな。
部長達はそれがギャスパーの価値だなんて思ってないのに、それがギャスパーの価値だと本人に思われてしまった。
「実はさ、パーティをやったんだ」
お疲れ様会だけど、皆で集まって楽しんだ。
「き、聞いてます。その時も僕が役に立ててればと何度も思いました」
だから違うっての。
「部長はその場にお前が居なかったことが嫌だったんだ。自身の力不足でお前を仲間外れにしていたことが辛かったんだ」
「?!」
「ギャスパーが居て、一緒に笑いあえていたら、もっと楽しかったのに、そう思ったんだよ」
「こんな、役に立たない僕がですか」
「役に立つかどうかじゃないんだよ」
リアス・グレモリーとはそんな人だから。
「僕は、勘違いしてたんですね」
「今までが今までだ。仕方ないさ」
「転生した時は部長さんが言ってくれたんです。自分が満足できる生き方を見つけなさいって」
「満足、してるか?」
「いいえ。逃げているだけでした」
「逃げるのが悪いわけじゃないけどな。ほら画面見ろ、めっちゃ逃げてる」
[だからなんで毎回毎回必ずぶっ壊すんだよ陽介さーーんっ!!]
[だって、こう、はじまるだろ。何かが]
例の如く陽介さんが遺跡を壊して、そこから溢れた魔獣から二人で必死に逃げ出している時だ。
「本当にめっちゃ逃げてるっ?!そして自分達でやらかしたのなら逃げちゃ駄目でしょ!!」
うん、そうだね。
でもきちんとなんとかしたから許して。
「なんとか、できたんですね」
「なんとかできたんだよ」
頑張って全滅しました。
「僕にもできるかな」
「グランバハマルは無理かな」
「もうっ!!」
ギャスパーが頬を膨らませて言う。そんな意味で言ったのでは無いと示しながら。
「できなくても、できるまでずっと面倒みてやる。
同じグレモリー眷属だしな」
「せ、先輩」
「ん?」
「それってプロポ「ネタに走るのやめようね」」
グレモリー眷属だと言ってんだろ。
「アハハ」
そんなツッコミが面白かったのかギャスパーは笑った。まるで憑き物が落ちたかのように。
彼を追い立てていた強迫観念から少しは開放されたかな?
「森沢さんの次はスーザンだ。
こっちは鎧系女子大生だぞ」
「変態ばかりですかっ?!」
初手ミルたんしない俺に感謝すべきなんだ。
いやそれはそれでなんか解決しそうな気がするけどな、ミルたんだし。
こうしてギャスパーは少し前向きになれた。
まだ怯えたり、逃げたりするけれど、グレモリー眷属の皆にはきちんと接して引き篭もらなくなった。
なんか落ち着くらしいダンボールはどうしても止めないけど。
それでも訓練にはきちんと参加して、制御しようと頑張っている。
ギャスパーに負けずに俺も、この体質をなんとかするように頑張ろう。
補足、説明
スッゲ難産でした。
伝えたいことは、部長はただ居てほしいだけ、ということなのになんかこんな形に。
原作イッセーとの違いで一番苦労した回でした。
この異世界イッセーは原作イッセーのようなセリフは言えないですから。
森沢さん
変態度が増しました、ファンの皆さんごめんなさい。リアルでルパン脱衣ダイブができる人に。
ギャスパー
後にこの時のことを深夜デートみたいだと思い返すことになるかもしれない。