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【取材全公開】最速成長SaaS Bill Oneの死角を探る

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ある日、Sansan広報担当者から個別取材案内がきた!

国内SaaS史上最速「Bill One」の成長はいつまで続くのか ―――。

Next SaaS Media Primaryでは、これまでインボイス管理サービス「Bill One」に注目し、サービス発案者や事業責任者など関係者にインタビューを行い、その動向を追ってきた。

前回記事から1年4か月。

当時、21億円だったBill OneのARRは、直近決算発表では、68億円まで拡大。

T2D3ペースの成長を上回るだけでなく、国内SaaS史上、最速で成長軌道を描いている。

「絶好調すぎるBill Oneに死角はないのか」

私たちの想像を超え、目を見張るスピードでARRを積み上げるBill One。

だが、順調に見えるプロダクトも事業環境の変化や競合プロダクトの登場で、ピタリと成長が止まってしまうケースもめずらしくない。

順調そのもののBill Oneも同じ道を辿らない保証はどこにもない。

果たして、快進撃は続くのか、それとも、踊り場はやってくるのだろうか。

そんな疑問が日々頭をよぎるなか、2024年5月某日、Sansan広報担当から、Next SaaS Media Primary宛に一通のメールが届いた。

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内容はSansan創業者で代表取締役の寺田社長が登壇するメディア向けの「Bill One新事業戦略発表会」への参加案内。そして、Bill One事業責任者 大西部長に個別取材を行わないかという提案だ。

Bill Oneの今後を占う上で、またとない機会。これは行くしかない。

参加の旨を直ぐに返信し、取材の準備に入った。

そもそも何でSansanが請求書なんでしたっけ?

Bill Oneは「インボイス管理サービス」、つまり、取引先から送られてくる請求書を管理するSaaSだ。

請求書自体は身近なものであるが、所定の支払い処理が済んでしまえば、私たちの手から離れてしまい、特段、業務上で不便を感じることは少ない。

そのため、なぜ、請求書の領域で「史上最速SaaS」が誕生するのか、ピンとこない方も多いかも知れない。

今回の記事では、そんな素朴な疑問を持っている方もBill Oneの理解が深まるよう、基本的な説明から話を進めていく。

まずは、Next SaaS Media Primaryでリサーチ担当のインターン「西谷君」を招集し、企画会議を行うことにした。

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* Next SaaS Media Primaryでリサーチ担当の西谷君。実はインターン3年目。

Next SaaS Media Primary 企画会議

早船:西谷君、前回、T2D3記事の制作を手伝ってもらったときに「なんでBill Oneってこんなに成長してるんですか?」って聞いてきたよね。

西谷君:SaaSスタートアップのARR成長グラフを制作していたのですが、その中でもBill Oneが突出した伸びを見せていたので、正直、ビビりました。

T2D3のペースを上回っているというレベルではなくて、見たことない成長軌道を描いていたのでその秘密を知りたかったんです。

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* Bill Oneの成長軌道は確かにバグっている

西谷君: Sansanって名刺管理のイメージなんですけど、なんで請求書のSaaSに取り組んでいるんですか?名刺と請求書って、あまり関連性ないようにも思えるんですが。

早船:確かに、SansanとBill Oneはプロダクト領域も全く異なるSaaSだし、直接的なシナジーがあるわけではない。だけど、ノウハウや思想の部分で共通性もある。順を追って説明していくね。

西谷君:はい

早船:そもそも、Bill Oneは今でこそSansanの事業の柱になりつつあるけど、その立ち上がりは、Sansan社内で経理を担当していた柴野さんという人が請求書業務の負荷をなんとか軽くしたいと企画したプロダクトなんだ。

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* Bill Oneは既にSansan全体の2割弱の売上高を占める(決算説明資料より)

西谷君:えっ、Sansanの強みを活かして新規事業を立ち上げよう!みたいなアプローチで始まったわけではないんですか?

早船:このエピソードは話すと長いんだけど、柴野さんの「Sansanで出来なければ、他社に持ち込んででもつくりたい」という個人的な情熱から始まっている。

とはいえ、柴野さんも事業の立ち上げ経験があったわけでもなかったし、当初は「寺田さんも全然ピンと来てなかった」らしい。

”代表の寺田にも企画書をぶつけましたが「よくわからない」とバッサリ斬られました。”(柴野さん)

Sansan公式noteより

Bill Oneのビジネス検討が始まった2018年頃は、コロナ禍前だったため請求書の電子化やオンラインで業務を完結する必要性が低かった。

Bill Oneも当初の主な機能は請求書の内容を自動でデータ化するところに主眼が置かれていて、その時はまだ「最速成長SaaS」の気配はない。

その後、徐々に機能や訴求ポイントを変えながら現在の請求書の受領にフォーカスして「月次決算を加速させる」ことを目指す現在のプロダクトになっていったという経緯なんだ。

西谷君: Bill Oneが請求書SaaSというのは何となく知っていたのですが、爆伸びしてるということは、そこにユーザーの大きなニーズがありますよね。

ただ、バックオフィス系のSaaSだったらfreeeもマネーフォワードも色々な機能を提供しているし、既にプレイヤーがいたんじゃないんですか。

早船:確かに、請求書関連のSaaSは昔からたくさんある。ただ、これは請求書を送るための「発行型」のSaaSで、Bill Oneのような請求書を受け取るための「受領型」のプロダクトが誕生したのはわりと最近の話なんだ。

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早船: 請求書の発送にあたっては、複数の送り先に対しメールやPDF、紙などで送るものの、フォーマット自体は1パターンとなる。これを管理するための「発行型」は2010年ごろから誕生している。

一方で「送られてくる」請求書を管理するのは、勝手が違う。

取引先から受け取る請求書が全て経理部門に送られれば管理はしやすいけど、実際にはそれぞれの事業部担当者に送られるケースも多く、会社全体でどれぐらいの請求書を受け取っているのか、どれぐらい処理が進んでいるのか把握しづらい。

それに加え、さまざまな企業から異なるフォーマットや媒体で送られてくるため、システムに取り込むのも基本的には手打ちが必要だった。


西谷君:経理部門が月末に忙しくなるのは、こういう作業が山のようにあるからですね。

早船:そこでBill Oneは、紙やメールなどに関わらず、請求書の受け取りをBill Oneのセンターや専用アドレス、システムなどに集約。AI-OCRやオペレーターなどの入力機能を提供することでどんな請求書が複数のフォーマットで送られても自動でデータ化される「受領型」の請求書SaaSを確立したというわけ。

西谷君: AI-OCRやオペレーターによる入力サポートはSansanが名刺管理で培ったノウハウを持っているから、ここは事業シナジーがありそうです。

ただ、なぜ、最近になってこの「受領型」が立ち上がったんですか?そんなにペインが大きいのであれば、昔から参入する企業があっても良さそうなのに。

早船: これは、2020年頃に複数の要因が重なったことで市場が創出されたと考えられる。

<2020年頃に起こった請求書業務の電子化を進める出来事>

① AI-OCRなどによる自動読み取り精度の向上
② 電子帳簿保存法などの法令対応
③ コロナ禍などによる業務のオンライン化

このような3つのイベントが同時に重なったことで、企業や経理担当者が請求書処理を電子で行う意向が一気に高まり、爆発的に市場が誕生したと見られている。

デロイトトーマツミック経済研究所の集計した市場規模のデータでは、2020年ごろから市場が立ち上がりはじめ、凄まじいスピードで伸びている。

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世の中にはいろいろなSaaSがあるけど、こんなに急速に市場が誕生したケースはもしかしたら初めてかも知れない。

西谷君: Bill Oneの伸びは、そもそも製品市場の爆発的な誕生が背景にあったんですね。

早船: この中でBill Oneのシェアは1位で、成長率も市場の伸びをさらに上回っている。まさにこの市場創出を牽引してきたメインプレイヤーの1社なんだ。

――― 基本を押さえたところで、当日、取材で聞く質問を考えよう!

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早船: 今回の取材では、1年4か月ぶりにBill One事業責任者の大西さんにインタビューをする。ここまでの説明を踏まえて、西谷君は、聞きたいことはある?

西谷君: そうですね。Bill Oneの成長が「受領型」請求書市場の創出そのものと重なっていることは分かったんですが、そのうえで、さらに市場の伸びを上回るような成長の要因となるBill One独自の「強み」はなんだろうと思いました。

早船:なるほど、良い視点だね。そこは、決算説明資料を見ていくともう少し、具体に踏み込んだ質問ができると思う。

これは、Bill Oneの最新決算説明資料から、顧客のサイズごとのカバー率と収入構成を示したページなんだけど、何か気づくことはある?

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* Sansan 2024年5月期 第3四半期 決算説明資料

西谷君: 利用企業のカバー率がまだ低いことに加えて、収入の割合は、従業員が100~999人の中堅企業で52%が最大で、1000人以上の大企業も24%。つまり、ユーザーの8割弱はミッドサイズ以上の企業ということになりますね。

早船:そうだね、この顧客層がどのように構成されているか、という観点はSaaSビジネスにとって非常に重要で、だからこそ、Sansanも決算資料で投資家に対しても説明を行っている。

SaaSで大きなARRを狙う上では、ユーザー数や請求書の枚数も多く単価が高い大企業(エンタープライズ)を攻略することは定石でもあり、このセグメントでいち早くシェアを取りたい。

すでに、Bill OneはARPU(契約単価)は、21.8万円まで伸びていて、上場SaaS企業のプロダクトの中でも高い水準になりつつある。その背景には「中堅・大企業へのアプローチが順調」であることが成長を押し上げる一つの要因じゃないかと見ている。

西谷君: 月額20万円出せば、フルタイムのアルバイト一人を雇える金額感なので、それを請求書の管理システムに充てられるだけの規模感ですね。

早船: ここら辺の顧客層に対するアプローチの実際や成功要因を聞くと、Bill Oneの強みが見えるかも知れない。

取材質問1→ Bill Oneが中堅以上の顧客開拓に成功している要因は?

早船:その他に気になる観点はある ?

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