広島県には世界遺産が二つある。5月に開かれたG7広島サミットでも注目を集めた「原爆ドーム」(広島市中区)、そして海に浮かぶ大鳥居で有名な「厳島(いつくしま)神社」(廿日市市宮島町)だ。この厳島神社の世界遺産登録では本殿や大鳥居などの建造物群だけでなく、島の最高峰「弥山(みせん)」など背後の山林も含む431.2ヘクタールが対象となっていることは意外に知られていない。
11月中旬の週末、フェリーから宮島桟橋に下り立つと、島は楽しげな雰囲気で満ちあふれていた。家族連れや外国人観光客、修学旅行生――。参道となる商店街には揚げたもみじまんじゅうや焼きガキの香りが漂い、荘厳な本社社殿や大鳥居ではたくさんの笑顔がカメラのフレームに収まっていた。だが、一帯を抜けると表情が徐々に変わり始めた。木々が色づき始めた登山道。ひんやりとした重い空気が身を包む。そうだ、ここは神の島・厳島なのだ。
「お宮(厳島神社)がある島」ということから宮島という通称で広く親しまれているが、正式な名称は「厳島」。一説によると、「神に仕える」という意味の「斎(いつ)く島」に由来するという。島全体が古くから自然崇拝や信仰の対象となってきた。この「ご神体」の中心にある象徴が霊峰・弥山だ。
標高535メートル。島全体が神域として守られてきたこともあり、特に弥山の北斜面は原始の植生が残り、「弥山原始林」として国の天然記念物にも指定されている。針葉樹や常緑広葉樹、南方系の植物まで幅広い植物相が観察され、その多様性は「日本の縮図」とも評される。三つある登山道や山頂周辺には、奇岩や巨岩、史跡なども多数あり、山頂付近の展望台から望む山々や瀬戸内海の多島美は絶景だ。自然観察や史跡探訪、トレッキングなどを通じて古来の畏敬(いけい)を肌で感じられるかもしれない。
いつごろかは定かではないが、弥山に連なる山々の尾根筋は「寝観音」としても親しまれるようになったという。帰りのフェリーから大鳥居を抱いた山々に目をやった。穏やかに横たわるその姿に確かに心が洗われる気がした。【広島支局長・山田泰蔵】
<メモ>
弥山へは三つの登山道のほか宮島ロープウエーでも行ける。厳島神社から徒歩15分(一部区間に無料バス有り)の紅葉谷駅を始点に標高約430メートルの終点・獅子岩駅へ。山頂まではさらに徒歩で20分ほどかかる。利用客が多い日はウェブ予約が必要。普通運賃(往復)は大人(中学生以上)2000円、小人(小学生)1000円。
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