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あまり知られていない観光スポットや地元で人気の食べ物を、現地で勤務する支局長が紹介。47都道府県を巡ります。

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お国トリビア 広島県 バラのまち、市民の情熱で

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満開のバラでいっぱいの昨年のばら公園の様子=福山市花園町で

 県や市の花がバラという自治体は多い。2025年5月に「世界バラ会議」が開催される広島県福山市もその一つだ。1985年に市の花に制定し、93年には「ばらシンボルマーク」も作った。2007年度に策定した市総合計画で「ばらのまち福山」を掲げ、15年には「ばらのまち条例」まで制定している。

 主要な生産地でもないのになぜここまで「バラ推し」なのか。原点は1956年の戦後復興期にさかのぼる。市によると、福山は45年8月の終戦直前、米軍機B29の大編隊による爆撃を受けた。死傷者は1000人を超え、市街地の8割が焼け野原になった。それから約10年。復興は進み、街は再建されていったが、市民の心の復興は途上にあった。

 そんなとき、ある公園で近くの住民たちがバラの苗木を植え始めた。「戦災で荒廃した街に潤いを与え、人々の心に和らぎを取り戻そう」と約1年かけて約1000本を植えて世話をし、真っ赤な花を咲かせたという。

 住民の思いは共感を呼び、市政も動かした。公園への植栽開始と同じ56年から「バラ展示会」が毎年開かれるように。公園も整備され、現在の「ばら公園」へと発展していった。68年に「全国美しい町づくり賞最優秀賞」を受賞し、ばら公園に建てられた記念碑にはこう刻まれた。「ここに善意の花ひらく」。戦後復興から市民の情熱と協働により根付いたバラは市と市民の象徴となったのだ。

 自宅や学校、企業、店舗などでもバラを育てる文化は広がり、市制施行100周年の2016年には市内に植えられたバラが100万本を突破した。バラ展示会が発展した現在の市最大のイベント「福山ばら祭」は今年で57回を数え、5月18、19日に開かれる。

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