この常識の通用しない世界に祝福を!   作:仲美虚

10 / 11
第九話『この紅魔の少女たちに水晶を!』

裁判所に私財を押収された翌朝、垣根とカズマ、そしてアクアにめぐみんの四人は街の外にいた。

垣根たちが牢に入れられている時にめぐみんが撃った爆裂魔法により冬眠していたジャイアント・トードが目を覚まし始めたらしく、その後始末にやってきた訳である。

 

今回の件も魔王軍の手先として街を混乱に陥れるた為の意図的なものと疑いがかけられており、監視の為セナが同行している。下手な行動は更なる疑いを生じさせる危険がある上、当然報酬が入るクエストではない。時間をかけるだけ無駄な為、垣根単騎による無双で手早く終わらせる――はずだった。

 

 

「「なんでこうなるんだよ……」」

 

 

目の前の惨状に垣根とカズマの言葉がシンクロする。

 

最初はものの二、三匹しかいなかったジャイアント・トードを始末するにあたり、めぐみんが仲間の制止を振り切って爆裂魔法を発動したせいでまだ眠っていたジャイアント・トードたちが次々と目覚め始めてしまった。

そして今や爆裂魔法を撃って動けなくなっためぐみんだけでなくアクア、ついでにセナまでもがその餌食となっており、飲み込まれまいと粘液に塗れながら口腔内で耐えているところである。

 

残ったのは垣根とカズマの二人のみ。通常の戦闘であればカズマも補助や露払いとしてそれなりの活躍をするが、こうなれば最早カズマのスキルでは対応しきれない。余計な犠牲は出てしまったが、結局は当初の予定通り未元物質(ダークマター)で一掃するしかなくなってしまった。

 

申し訳なさそうなカズマの目配せに対し、垣根はやれやれといった様子でため息を吐く。

 

 

「ったく、しょうがねえな……」

 

 

仲間たちを傷つけずに敵を纏めて斃す。その為の最適解の演算を開始した、まさにその時であった。

 

 

「《ライト・オブ・セイバー》!!!!」

 

 

垣根にとって聞き覚えのある少女の声と共に光の刃が現れる。

胴を真っ二つに裂かれ、力を失い崩れ落ちるジャイアント・トード。その口に捕らわれていた仲間たちが解放され、地面に叩きつけられる。

 

 

「ほぉ……随分と派手な魔法だな。やるじゃねえか――ゆんゆん」

 

「お、久しぶりです。テイトクさん……!」

 

 

光の魔法を操っていた声の主。それは以前垣根と食事を共にした紅魔族の少女、ゆんゆんだった。

相変わらず恥じらっているようなおどおどとした様子で、しかしにこやかにはっきりと垣根に挨拶を返した。

 

垣根とゆんゆんの会話に聞き耳を立てていたカズマは、粘液まみれのめぐみんにドレインタッチで魔力を分け与えながら垣根に問いかける。

 

 

「何だ、知り合いか?」

 

「ああ、前に街でな。……悪いな。助かった」

 

「いえいえ、気にしないでください。私は彼女に用があって来たので」

 

 

ゆんゆんの視線の先。そこには粘液に塗れ生まれたての子鹿のようにふらふらと立ちあがろうとする少女、めぐみんの姿があった。

 

 

「まさかあなたがテイトクさんとパーティを組んでいたとはね……めぐみん」

 

「……どちら様ですか。名乗りもせずいきなり馴れ馴れしいですね」

 

 

無情にも放たれためぐみんの言葉に、ゆんゆんが盛大にずっこける。

 

 

「今テイトクさんが名前言ったの聞いてなかったの?! 私よ、私。めぐみんのライバルの――」

 

「知りませんよ。何ですか。前にカズマが言ってたオレオレなんとかってやつですか? ちゃんと自分の口で名乗ってください」

 

「くっ……」

 

 

めぐみんに訝しげな視線を向けられ言葉を詰まらせるゆんゆん。やがて意を決したように、顔を紅潮させ高らかに言い放った。

 

 

「――我が名はゆんゆん! アークウィザードにして上級魔法を操る者。やがては紅魔族の長となる者……!」

 

 

 

 

「と、まあ。テイトクも言っていましたが、彼女はゆんゆん。紅魔族の長の娘で、私の自称ライバルです」

 

「ちゃんと覚えてるじゃない!!!!」

 

 

無意味に揶揄われ涙目で激昂するゆんゆん。

カズマは遊ばれるゆんゆんの姿に二人の関係性を感じ取り、可哀想なものを見る目を向けてしまうが、とりあえず自己紹介をする。

 

 

「俺はこいつの冒険仲間のカズマ。よろしく、ゆんゆん」

 

「……? テイトクさんもそうでしたけど、カズマさんも私の名前を聞いても笑わないんですね……?」

 

 

不思議そうなゆんゆんの言葉に、カズマは遠い目をする。

そして誰かを憐れむように語り出した。

 

 

「世の中にはな、変わった名前を持っているにも拘らず『頭のおかしい爆裂娘』なんて不名誉な通り名で呼ばれる奴もいるんだよ」

 

「私ですか? それって私の事ですか!? 私が知らない間にいつの間にかその通り名が定着していたのですか?!!」

 

 

カズマの含みを持たせた言葉にめぐみんが突っ掛かり、言い争いになる。

そんな二人の姿にやや気圧されつつも、ゆんゆんはどこか羨むような様子だ。

 

 

「さ、流石ねめぐみん。いい仲間を見つけたわね。それでこそ私のライバル……! 私はあなたに勝って紅魔族一の座を手に入れる! さあめぐみん、この私と勝負しなさい!!」

 

 

 

 

「嫌ですよ。寒いですし」

 

「えぇっ!? なんでぇ?!!」

 

 

またも冷たくあしらわれるゆんゆん。涙目になりながら勝負を懇願するその姿にカズマと垣根はやや引いてしまう。

 

そんな二人の背後からセナが一つ咳払いをする。

 

 

「……今日はなんとかなりましたが、これが私の目を欺く演技だという可能性も捨ててはいませんよ。――では」

 

「じゃあ、私はギルドにカエル肉を運んでもらう手続きをしてくるわね……。テイトクもついてきて……」

 

「あ、ああ……。カズマ、二人の事頼むわ」

 

「えぇ……」

 

 

心底嫌そうなカズマを置いて、垣根は粘液まみれの女二人を連れてその場を後にする。

そして街に近付いた所で、垣根の脳裏にある疑問が過った。

 

 

(――『似合わない翼の人』って通り名、定着してねえだろうな……?)

 

 

真実を知るのを恐れた垣根はこの件について深く考えない事にした。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

「ただまー」

 

「帰ったぞー」

 

 

 

屋敷に戻ったアクアと垣根。玄関にカズマとめぐみんの二人が帰った痕跡(粘液)を見つけるも、その二人からは返事が無い。

 

 

「カエル肉を売ったお金貰ってきたわよー」

 

 

アクアが声を張り上げるも返事が無い。めぐみんはアクア同様粘液に塗れていた為風呂に入っているのだろうが、カズマは部屋で昼寝でもしているのか。垣根はそっとしておこうと思ったが、アクアは返事を催促して屋敷の奥へ進んでいく。

 

 

「カズマー、めぐみーん、おかえりを言ってほしいんですけどー」

 

「めぐみんは風呂にでも入ってんだろ。俺は部屋で休ませてもらうぜ」

 

 

そう言って自室へ向かう垣根。ふとゆんゆんのその後の様子が気になり、話を聞こうと進路を変更してカズマの部屋へ向かった。

 

 

「おい、カズマ。休んでるとこ悪いな」

 

 

カズマの部屋の扉をノックするも、返事が無い。熟睡しているのかとも思ったが、どうも人のいる気配が無い。

不審に思った垣根はドアノブに手をかけた。

 

 

「……入るぞ」

 

 

一声かけて、ドアを開ける。そこには誰もおらず、武器などの荷物を置いたり着替えたりした様子も無い。

 

荷物も置かずにリビングに直行しているとは考えにくい。この時間から一人で食卓にいるというのも不自然だ。急に腹を下して荷物を置く暇もなくトイレに駆け込んでずっと篭っている可能性が最もあり得るが、何か妙な予感がしていた。

 

気付けば垣根は風呂場に向かって駆け出していた。脱衣所の前ではアクアが中にいるであろうめぐみんに対し早く風呂を上がるように催促していた。

 

アクアが垣根に気付き、どうしたのかと声をかけようとしたその時だった。

 

 

「イヤーッ! ロリっ娘にイタズラされるぅ〜ッ!」

 

 

脱衣所から素っ頓狂な叫び声が響き、その場にいた垣根とアクアは凍りついた。

 

 

 

 

――その日、カズマはロリニートの称号を手に入れた。

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

翌日、垣根たちはウィズの魔道具店を訪れていた。

目的は借金返済の相談と、先日めぐみんがゆんゆんから奪ったという戦利品の水晶を買取に出すためである。

 

店に入るとそこにはゆんゆんがいた。偶然かのように振る舞ってはいるが、垣根たちが常連だということを知ってずっと待っていたことをウィズの口からバラされてしまった。

 

慌てて誤魔化すゆんゆんに対し、垣根が呆れたようにため息を吐く。

 

 

「こんなとこで待ってねえでうちに来りゃいいだろが……」

 

「そんな、いきなり人様の家に伺うなんて……」

 

「煮え切らないですね……これだからぼっちは」

 

 

うじうじとしたゆんゆんの態度にめぐみんが悪態を吐く。

 

曰く、ゆんゆんは自分の名を恥ずかしがる変わり者(紅魔族基準)で、学園でも浮いていたそうだ。

そんな彼女は昼時は常に孤独のグルメ(ぼっち飯)を嗜んでいたらしく、めぐみんはそこを狙って近くを彷徨いて勝負を受けることでおかずを巻き上げるなどしていたらしい。

 

ゆんゆんも友達がちゃんといたと否定するが、その実態は友達と称して食事を奢らせるような、聞いてて胸が痛くなるようなものだった。

 

垣根は「弓箭も流石にここまで酷くはないだろう」と、以前ゆんゆんと同一視してしまった件について、今は亡き元部下に対し心の中で詫びていた。

 

 

話は戻り、ゆんゆんがめぐみんを待ち伏せしていたそもそもの理由――先日に引き続き勝負についてだが、爆裂魔法しか使えないめぐみんとしては魔法勝負は避けたいとのことで、なんの勝負をするか決まらず揉めてしまう。

そんな時、アクアが店の棚から水晶(売ったのとは別物)を見つける。

 

 

「ねえねえ、これなんていいんじゃない?」

 

 

アクアが指した商品。その名も『仲良くなる水晶』。

ウィズによると熟練した魔法使いでなければ上手く使うことができないらしく、この店の他の商品の例に漏れずやはりデメリットがある商品のようだが、ゆんゆんは構わず目を輝かせる。

 

 

「上手く使えたら仲良しになれるんですか……!?」

 

「別に仲良くなる必要など微塵もないのですが……」

 

「怖気付いたの? めぐみん」

 

「あ゛?」

 

 

煽るようなゆんゆんの言葉にめぐみんが青筋を立てる。

対してゆんゆんは変わらぬドヤ顔で続ける。

 

 

「つまりこれはより上手く扱えた方が格上の魔法使いだという証明! 勝負よ、めぐみん!」

 

「――そこまで言うのならば……見せてあげますよ。真なる魔法使いの力を!」

 

「今日こそ決着を付けるわよ!」

 

 

 

かくして、二人の勝負が始まった。

 

水晶を挟んで向かい合い、それぞれ手を翳す。すると水晶の力が発動し、吹き出した魔力によって部屋が暗黒に包まれた。

しかし完全な暗闇ではない。水晶から放たれるぼんやりとした光がその場にいる人間を照らし、さらに空中に投影される長方形の何か――垣根やカズマの世界で言うところのモニターのようなものが光を放っている。

 

通常あまり見ない量が投影されているらしくウィズが感心していると、モニター状の魔力の光に映像が映り始めた。

 

 

 

 

――それは、目を覆いたくなるような光景だった。

 

 

「え、アレ……パンの耳を集めてるのか……?」

 

 

――カズマが見たもの。それはパン屋に忍び込み、一心不乱にパンの耳をかき集めるめぐみんの姿。

 

 

「えっ、ちょっと待って……独り……なの……?」

 

 

――アクアが見たもの。それは見えない誰か(イマジナリーフレンド)とテーブルを囲み、自らの誕生日を孤独に祝うゆんゆんの姿。

 

 

「おま――いくらなんでも落ちぶれすぎだろ……」

 

 

――垣根が見たもの。それは畑から盗んだ野菜を自慢げに妹に披露し、頼れる姉ぶるめぐみんの姿。

 

 

その後も次々と二人の痛々しい過去が交互に映し出される。

 

友達に奢るためにアルバイトをするゆんゆん。

ザリガニやセミを妹と共に貪るめぐみん。

犬にも花(?)にも逃げられるゆんゆん。

 

そんな中、当事者たちの絶叫が響いた。

 

 

「「ぎゃあああああああああああああ!!」」

 

 

他人に見られたくない過去を曝け出してしまい、動揺するめぐみんとゆんゆん。落ち着かぬままウィズを糾弾する。

 

 

「なんなんですかこれは!?」

 

「仲良くなる水晶って言いましたよね?!!」

 

「これはお互いの恥ずかしい過去を曝しあうことで、より友情や愛情が深くなるという、大変徳の高いものなん……で……す……」

 

 

説明しながら段々と自信を失い俯くウィズ。

見てはいけないものを見てしまったとドン引きするアクアとカズマ。

あの場にいるのが自分だったら。もし自分にも魔力があったらと恐怖する垣根。

涙を流し錯乱して、これでめぐみんと仲良くなれたと思い込もうとするゆんゆん。

 

まさに地獄絵図。次の瞬間めぐみんが水晶を掴んで振り上げた。

 

 

「ああああああああああああああッ!!!!」

 

 

絶叫のままに水晶は床に叩きつけられる。水晶と共にこの色々と収拾がつかない空気が砕かれ、皆平静を取り戻した。

 

 

 

 

結局勝負はお預けとなり、壊れた水晶の請求は一人項垂れていたゆんゆんに擦り付けられた。

 

「――いつまでメソメソしているんですか」

 

「だってこれじゃどっちが勝ったかわからないじゃない! ねぇ、引き分けでいい……?」

 

「別に構いませんよ。……もう勝負事に拘る程子供でもないですから」

 

 

懇願するゆんゆんに、めぐみんは仕方ないと言った様子で返す。

その言葉を聞いて何か思い立ったゆんゆんはいつもの調子を取り戻した。

 

 

「そういえば昔、発育勝負をした事があったわね。子供じゃないって言うなら、もう一度あの勝負をしてもいいわよ!」

 

(懲りねえなコイツ……)

 

 

あんな目に遭ってもなお勝負を仕掛けるゆんゆんのメンタルに、垣根は呆れを通り越して感心する。

 

――同時に、垣根の視線はやや下がっていた。

いくら発育が良くとも中学生程の子供には興味の無い垣根であるが、やはり二人の圧倒的な()を前にし、目がついつい二人(・・)の間を行き来してしまう。

 

 

「なんか失礼な視線を感じますが……まあいいです。子供じゃないというのは、別の意味での子供じゃないという意味ですよ。だって、私はもう――」

 

「?」

 

 

頭に疑問符を浮かべるゆんゆんを挑発するような表情でカズマに身を寄せるめぐみん。そして一呼吸置いて、爆弾が投下された。

 

 

「――ここにいるカズマと一緒にお風呂に入るような仲なのですから」

 

「ちょ――ッ!?」

 

「……えぇぇぇえええええええええ!!?」

 

 

再び店内に響き渡るゆんゆんの絶叫。

とんでもない事を口走るめぐみんの口を抓り上げ怒鳴り散らすカズマ。

カップル誕生の瞬間(誤解)を目の当たりにし、照れるように驚くウィズ。

眉間を押さえてため息を吐く垣根。

お構いなしに商品のお香の匂いを嗅いでいるアクア。

 

またもや収拾がつかない空気になるかと思いきや、ゆんゆんが捨て台詞と共に店を飛び出し、事態は収束した。

アクアは「賑やかな子ねー」などと言っており、呑気なものである。

 

 

静かになった店内でめぐみんは手帳を開く。そしてゆんゆんとの勝負歴に白星をつけ、満足げに頷く。

 

 

「――今日も勝ち……ッ!」

 

 

高らかに勝利宣言をしたその顔は真っ赤に染まっていた。

 

 

 

 

 

 




大変お待たせしました。多忙につき更新ペースが上がらず申し訳ないです……。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。