――矩形転送モードについて詳しくご説明いただけますでしょうか?

堀井 立体視というのは描かれた絵に対して視差が必要なんです。視差を付けるということは右目と左目で見る画像に違いを付けないといけないので、そのズレ幅を作ろうとすると、画面端などに“オリジナルのゲームにない画”が生まれてしまうんです。それを補完するために、BG面のグラフィックスを一度矩形転送モードでビットマップ面に持ってきて、“ない部分を足す”作業をしています。また、矩形転送モードのいいところは、本来のメガドライブのBG面は8×8ドット単位でしか描画ができないけど、矩形転送モードなら64KBのメモリ内でならどんな大きさの絵でも切り取って入れられる。背景を立体描画するためのかなり限定された機能なんですが、これがあると、たとえば1枚のBG面の中にサイズがまちまちな樹木があったとします。それに対して、コンピューター上の単位に制限を受けることなく立体視をつけることができる。それをプログラマーが、手付けで行えるようになったのが大きな変化です。
奥成 『3D ベア・ナックル』と『3D ザ・スーパー忍II』でギガドライブの使いかたが一段階レベルアップしたのですが、そこで生まれたテクニックを極限まで使いこなしているのが今回の3作ということですね。当時と同じでハード末期にだんだん技術が円熟していくような感じですかね?
堀井 さらにマニアックな話になりますけど、矩形転送モード用のビデオメモリって、メガドライブのVRAMが64KBあって、その後ろ(のアドレス)になぜか未使用で空いていた64KBを確保したので、すごく少ない容量しかない。なので、64KBのメモリーから(転送したグラフィックが)溢れると絵が出なくなってしまうので、スクロールさせるたびに必要ないデータは消して新しい絵を転送するということをしているんです。21世紀にもなって、なんでこんな地味な作業をしなきゃいけないんだ! って思わずにはいられませんね(笑)。
奥成 立体視の担当者は、(グラフィック)デザイナーとプログラマーの両方のスキルを持っていないと、ギガドライブでの3D立体視は叶えられないということです。80年代のデザイナーさんだと自然とやっていたことでもあると思うんですけどね。
堀井 昔でいうところの、バンクメモリ内にどれだけ緻密にキャラクターを配置するような作業ですよね。じつは現代でもポリゴンのテクスチャーをバッファ内に収めるために似たようなことはやっているんですけどね。いまも昔もビデオゲームがメモリとの戦いというのは、あまり変わっていないんですよ。……余談ですけど(笑)。
奥成 以前SEGA AGES 2500で『ファンタジーゾーンII』をプレイステーション2に移植する際に、わざわざSYSTEM16(セガのアーケードシステム基板)用にリメイク版を開発した上でそれエミュレーションしてゲームを動かしている実績がありますが、それは本来のハード自身とは直接関係ない制限に対しての努力なんですよ。ただ、その“遠回り”をしたことで、ほかの方法では得られないゲームとしてのこだわりが表現できた。今回の場合も、最初からギガドライブという仮想ハード上の制限があって、その中で性能をいかに引き出すかの苦労があったわけですね。
堀井 奥成さんの言うとおりなんですけど、僕らも好んで制約のあるほうを選んでいるわけではなくて、メガドライブのゲームを簡単、かつオリジナルと違わぬように移植するには、仮想ハードの上で動作させながらちょっとずつ拡張するのが適切なわけなんです。だから、当時とは比べ物にならない高性能を持つ現代のハードでも、グラフィックメモリを64KBしか拡張できないということもあるんです。
奥成 遠回りに見えるかもしれないけれども、“セガ3D復刻プロジェクト”シリーズとしての最適解がこのやりかたということなんですね(笑)。
イカレた技術にはイカレた熱意で返礼。見どころ満載の立体視映像
――たしかにプレイすると、従来のタイトルより立体視に“厚みがある”と感じます。
奥成 これがシリーズ3年目の立体視の技術です。あと、くり返しになりますが、『ガンスターヒーローズ』が優れているのって、シーンがどんどん変化をしていくという点が立体視としても新鮮なのがひとつ。それと、立体感を感じるのはこれまでに移植したタイトルの中でプレイヤーキャラクターがいちばん小さいんですよね。その分画面全体の空間が広く見えるようになっているんです。派手な画面の変化が3D復刻の立体化にも迫力を与えていてハマっている。と同時に、その密度を埋めるためにものすごい手間がかかっているということなんですよ。
――ボスのセブンフォースも、オリジナルだと組み木パズルの“タングラム”のようなシルエットでしか認識していなかったのが、立体情報が加わることで「ああ、ソルジャーフォースってちゃんとロボット型で走っているんだ!」というように存在感が増して認識が深まるのが興味深かったですね。


奥成 昔のドット絵のキャラクターをイラストやガレージキットで立体化するにあたって、解釈を付け加えるようなものに近いですよね。オリジナルのセブンフォースって、確かにタングラムや影絵的な“シルエットが変化するおもしろさ”だったんですが、今回の3D復刻では“合体ロボ”としての表現にまで辿り着いている感じはしますね。2D絵はおんなじなのに(笑)。
堀井 最初に僕らが『3D ガンスターヒーローズ』の開発を始めたときって、ひたすら背景の立体視化を進めていて、ボスキャラには手を付けなかったんですよ。なぜかというと、意外にZ軸(奥行き)の動きのある敵が少ないから。1面の中盤に出てくるブラボーマンとか、6面のコアガードシステムなんかは別として、ほかのボスは画面に対して並行に回転するのがほとんどなんです。なので、「もしかして立体視栄えしないんじゃないか……」という危惧もあって。背景がどんどん絶景化する中、ユーザーさんの期待にある「ボスが立体化ですごく見える」という部分がなかなか進まず、やきもきしましたね。


――そこもまた難産だったと。
堀井 立体情報をつければかっこよくなるだろう……とは思ってましたが「おお!」と思っていただけたようで安心しました。
――見どころの多い本作ですが、おふたりのオススメ3Dスポットというとどこでしょう?
堀井 3面がかなり気持ちいいですね! 気持ちよさとは違うんですが、5面冒頭の高速道路に出てくる看板が、メガドライブのときは単なる手前の絵だったんですけど、立体になるとウザくてしょうがない。「敵がいるのに手前に看板を置くなよ!」って思うこと必至です(笑)。
奥成 看板そのものにパースがかかっているのには感動しましたね。アーケード版『忍者龍剣伝』的なインパクトが増した気がします(笑)。
堀井 それも矩形転送モードのおかげで、切り抜いてパースが掛けられているのです。第1期のときのギガドライブは、いかにレイヤーを重ねていって絵を作るかという方向性だったのですが、矩形転送モードが実装されたことで、『3D ベア・ナックルII』の斜め背景のように元の絵がそのまま立体にできるようになったということです。
奥成 『3D ガンスターヒーローズ』でいうと、戦艦面(3面)の冒頭のG.I.オレンジが乗っている戦艦の外壁が斜めになっているシーンの奥行き、あれは第1期では想像もできない立体視ですね。
堀井 あとは、7面のモニター表現をどうするかはけっこう悩みましたね。ボスたちが見ているんだから立体視をオフにするべきなのではと思いましたけど、最終的には立体視としました。


奥成 最終面である7面は何回も作り直しましたね。手前のキャラクターだけを立体として、モニター内は2Dとしたバージョンもあるんですけど、それまでの道中が3Dだったのに、最終面が2Dになったらつまらないですよね。
堀井 そういう試行錯誤はありました。「モニターを見ているんだから遅延するんじゃね?」みたいな無茶な意見もあったり(笑)。最終的にどうなったかは、ぜひ製品版でご確認いただければ。
奥成 私のオススメスポットは、1面のボスのピンクローダーを倒した直後ですね。ロボットから頭をのぞかせたピンク、カイン、コタローそれぞれに立体視の奥行きが異なる位置なんですよ。画面の情報からすれば当たり前なのですが、それをキッチリ手付けでやっているのはスゴイです。ここはニンテンドーeショップで見られる3DのPVにもばっちり入れましたのでよく見てみて下さい。少し裏話をすると、1面のピラミッドを下ってから以降は、開発の終盤になるまで立体視が付いてなくてどうなるのかとヒヤヒヤしましたが、最終的にかなり細かくついていてさすがエムツーさんだと思いました。1面は、始まった途端に「なにも地面にまで(1枚板ではなく)パースを付けるのはやり過ぎだろう」とお客さんに言われることうけあいですよ(笑)。
その意味でいうと、トレジャーさんが当時のメガドライブユーザーから「やり過ぎだろ!」と言われた作り込みに対して、2015年にエムツーさんが「立体視つけすぎだろ!」と言われる番とでもいうか(笑)。
――なんというか、応援団のエール交換のようですね(笑)。
『エイリアンソルジャー』の体験から生まれた“フルスペックモード”
――追加モードについてお尋ねします。今回はライフが倍増となるメガライフモードがあって……。

奥成 メガライフは単純に、久しぶり遊んだ人がストレスを感じずに進むには、倍の体力がいるだろうということで用意した、シンプルな低難易度化です。ただ、このゲームは難易度を上げると遊びかたも変化するので、そこもメガライフで楽しんでもらえたらと思います。『3D ベア・ナックル』で実感したんですけど、難易度を上げた上で一撃必殺モードで遊ぶとおもしろいんですよ。ガンスターでもそうして遊んでもらえたらウレシイですね。
――もうひとつの「フルスペック」モードというのは? 少し触った限りではとくに違いを感じませんでしたが。
奥成 最初はね、(同じトレジャー開発の)『エイリアンソルジャー』モードっていう名前はどうだ、なんて話をしていたんですよね。
堀井 そうそう。でも“0移動爆装”(『エイリアンソルジャー』の特徴となる必殺攻撃)がないから、ちょっと違うよねという話になって。
奥成 フルスペックモードの要素はいくつかあるんですが、まずは14種類の武器がLRボタンでいつでも自由に切り替えられます。オリジナルでは使うことの少なかった武器を自由に、たとえばボス戦のときだけハラキリレーザーに切り替えるといった遊びかたができるようになります。
――それはすごい! ガンスターを遊んだプレイヤーの多くが望んだ機能でしょう。
奥成 それと、これまではスタートボタンのみに割り当てていたXボタンについに手を付けまして、Xボタンを押すことでいつでもキャラクター性能を、移動しながら攻撃できるレッドと固定攻撃になるけど攻撃範囲が広いブルーを任意で切り替えることができます。その辺りがエリソルっぽくもあります。

堀井 簡単になっちゃうところもあれば、そうでないところもある。
奥成 中級くらいまでのプレイヤーだと「ひとまずシャチョーレーザーでクリアーすればいいや」という壁があるのですけど、せっかくこんなにたくさんの武器があって、それぞれが超・オモシロかっこいいのに、それを使いきれていない部分もあったと思うんです。それがフルスペックだと、いろいろ試してみたくなると思います。
堀井 道中ではマキビシ弾でいって、ボスはバクレツファイヤーといった使い分けもできます。攻略の幅が広がったのを楽しんでもらえたらいいですね。
奥成 この当時の遊びのトレンドは“どの武器と武器とを組み合わせて使うか”というところにあったのですが、『サンダーフォース』シリーズとかもそうですけど、武器をいろいろ手にしていくゲームは、場面に応じていろんな使いかたを試したくなりますからね。お手軽に武器チェンジを楽しんでもらって、シャチョーレーザー以外にも光を当てて貰えればと思います(笑)。