デストロイヤー。古代の魔法王国が建造し、今なお暴走し続けている機動要塞。それが通った跡は草も残らないと言われている。そのデストロイヤーがここアクセルの街に向けて進行している。
そして今、垣根は翼を広げ飛び上がり、デストロイヤーを待ち構えていた。
話は数十分前に遡る――
デストロイヤー警報を聞きつけた垣根たちは、大荷物を引いて逃げる準備をしていたアクアの首根っこを掴み、他の冒険者たちと共にギルドに集結していた。その中には見知った顔――以前知り合った冒険者仲間のダストたち一行と、クリスもいた。
「それで、デストロイヤーってのはどんな兵器なんだ?」
この世界の知識に疎い垣根がルナに質問をする。
曰く、デストロイヤーは巨大な蜘蛛型の兵器で、上空から近付くものを光線で自動で迎撃する機能を持っている。現に、偵察するために使いに放っていた鳥が撃ち落とされ、水晶の映像が途切れてしまった。さらに強力な魔法障壁を持っており、魔法による攻撃が一切通用しないという。これを建造した魔法王国は真っ先に滅ぼされた為、弱点や詳細な構造に関する記録も残っていない。最早無理ゲー状態であった。
――そう思われたその時、クリスが声をあげた。
「近付けないってだけで、魔法以外の攻撃は通るんでしょ? テイトクならどうにかできるんじゃない?」
「あ?」
確かに、超能力はこの世界の魔法ではない。この街の冒険者たちにも、詳細はともかく、それが魔法によらない特殊なスキルであるということは周知されていた。
その事を思い出した冒険者たちは一斉に垣根に期待の眼差しを向ける。
「そうだ、似合わねえ翼の兄ちゃんなら……!」
「確かに……あの魔王軍幹部を倒した、似合わない翼の人なら……!」
「そうよ! 似合わない翼の人ならもしかしたら……!」
「……デストロイヤーが来る前に踏み潰されてえらしいな?」
――以上、回想終わり。
要するにやたらと期待され断りきれなかった垣根が前衛を務めることになったという話である。
また、万が一うまくいかなかった場合、後衛に控えたアクアが結界を破り、そこにめぐみんとウィズが爆裂魔法を撃つ計画になっている。
……ちなみにダクネスは垣根より後ろとはいえ、かなりの前方で単身棒立ちしている。どうせいつもの趣味だろうと踏んだ垣根は深く考える事なくダクネスの存在を無視し、これから襲い来る敵へ意識を向けた。
「所詮は人が作った兵器だ。俺の敵じゃねえ――筈だが、どうも嫌な予感がするな」
上空で一人呟く垣根。そんな彼の思考を遮るように、地鳴り――デストロイヤーの足音と駆動音が響く。
木々を薙ぎ倒して拓いたであろう水平線の向こうにその姿を捉えた垣根は能力の出力を上げ、三対の翼をさらに大きく広げて羽ばたく。
垣根はデストロイヤーに急接近し、奇襲を試みる。しかし、デストロイヤーのセンサーは音速で飛来する垣根を捕捉し、レーザーによる対空防御が作動する。
当然、人間が目視で対応できる攻撃ではないが、能力による自動防御が働く。その場で急停止して翼で自身を覆い、レーザーを防いだ。
「チッ……! 光学兵器たぁ、剣と魔法の世界らしくねえな」
これでは迂闊に近付くこともできない。単純な翼による物理攻撃は選択肢から外れた。しかし、この状態でも攻撃手段は無限に存在する。それが
垣根は防御に回していない翼の一枚を掲げる。その翼を透過した太陽光が徐々に収束し始めた。
「目には目を、ってな」
収束した光は破壊力を持つレーザーとなり、デストロイヤーへ向けて放たれる。
しかし、装甲を赤熱させ歪ませたものの大した損傷にはなっていないようで、デストロイヤーは多少怯みつつ進行を続けた。
「意外と頑丈だな。……そうだ、あれを試してみるか」
昨夜、夕食の席で話した他の超能力者の能力。そこからヒントを得た垣根はある攻撃手段を思いついていた。
今も自身を覆っている翼の羽根、その一枚一枚が硬質化し、光沢を持って逆立つ。そして翼全体が電気を帯び、火花が散り始めた。
「――蜂の巣にしてやるよ」
轟!! とソニックブームが響くと同時に、翼から放たれた無数の羽根がデストロイヤーに着弾する。否、着弾し続けている。――余波に巻き込まれたダクネスが嬌声を上げながら吹き飛んでいったが、垣根は何も聞かなかった事にした。
垣根は
それを受けたデストロイヤーは、その耐久性で数発なら無傷とは言わずとも耐える余地があったものの、こうも際限なく受け続けては成す術などなく、その場に崩れ落ちた。
「す、すげえ……」
後方でその様子を眺めていたカズマはそう言う他なく、ただ立ち尽くしていた。また、緊張していためぐみんは、出番が来なかった事による安堵でへたり込んでいる。
動かなくなったデストロイヤーは脚部を完全に破壊され、胴部も所々穴が空いており、その姿を見た冒険者たちは誰もが勝利を確信していた。
――その時、デストロイヤーのカメラアイと思しき装置が赤く点滅し始めた。
『被害甚大につき、自爆機能を作動します。乗組員は直ちに避難してください。乗組員は直ちに――』
デストロイヤーから、無機質な音声の警報が鳴り響く。
自爆。その単語を聞いた垣根はふと冷静になり、この状況に違和感を抱いた。
そもそも、古代の魔法王国が作ったという兵器が今の今まで暴走し続けているというのがおかしい。装甲も駆動系も、整備する者がいなければ劣化していくし、それ以前にエネルギーが尽きるはずである。しかし、現実にデストロイヤーは先程まで問題なく動いていた。それを実現し得るモノを垣根は知っていた。
(永久機関――!)
消費するエネルギー以上のエネルギーを生み出し続ける人類の理想。学園都市の技術を以てしても実現できていない代物を動力としている可能性がある。永久機関とはいかずとも、一度に生み出すエネルギーが大きく、これ程の稼働時間を実現するような動力を搭載しているのは間違いない。
核融合炉、縮退炉、対消滅エンジン――挙げればキリがないが、そういった動力を積んだ、あれ程の質量の兵器が自爆などすればどうなるかは想像に難くはなかった。
「――逃げろぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
瞬間、垣根は叫んでいた。その声を聞いた冒険者たちは我に帰り、一斉に駆け出す。
垣根は恐怖していた。SFでしか聞かないようなとんでもないエネルギーによる爆発を、自身の能力を以てしても防ぎ切ることができる根拠がなかったからだ。もしかしたら自分だけは守れるかもしれない。しかし、それだけである。今この場にいる冒険者たちやパーティの仲間、アクセルの街は恐らく守りきれない。
もう失いたくない。その一心で垣根は叫び続ける。
(どうする……?! もし核融合炉なら、原子炉と違って動力そのものの暴走による爆発ではないはずだが、理論上原子炉より半減期が早いとされるとはいえ放射性物質が撒き散らかされる事には変わりねえ。ここら一帯が少なくとも向こう数十年は土地レベルで死ぬ。縮退炉だった場合、永久機関として運用するなら縮退物質は恐らく大気から取り込んでいるはずだ。放射性物質の心配はほぼねえが、人工的にブラックホールを生み出す技術で起こす爆発だぞ? 既知の科学によらない熱量で
額に冷や汗を浮かべ、焦りながらも思考を巡らせる垣根。しかし、あまりに不確定要素が多い条件下に於いて、確実にこの事態を打開する策が思い浮かぶはずもなかった。
(――また、何も掴めねえのか……?)
血の気の引いた垣根の頭に、深い後悔がのしかかる。
勝利の後の油断。かつて少女を喪った時から何も変わっていない。
そんな彼の視界の端に、あるものが映った。
土と葉っぱに塗れ、恍惚の表情を浮かべながらデストロイヤーに向かって駆け出すダクネスである。
「ふひひひひっ……!」
「あいつ何を――!?」
「おい、ダクネスさんが突撃しているぞ!」
「そうか、爆発する前に破壊するつもりなんだ!」
「やるぞおめえら! この街には世話になってるからなぁ!!」
先程まで逃げ出そうとしていた冒険者たちが、ダクネスの姿を見て己を鼓舞し、ダクネスに続く。
そんな彼らを見て、垣根は半ば呆れながらも、胸に湧き上がる熱いものを感じていた。
「――はは……ったく、どいつもこいつも……この世界の奴らは本当に常識が通用しねえなあ!!」
垣根もまた、らしくなく臆病になっていた自分を奮い立たせ、デストロイヤーの内部に突入する。
――この街の男たちが戦う理由が、サキュバスの風俗を護るためとは知らずに……。
――――――
垣根がデストロイヤーの内部に入ると、そこには椅子に鎮座した人間のミイラと、恐らく動力と思われる、カプセルの中で浮遊する、赤く燃え上がる球体があった。
遅れて壁を破壊して入ってきた冒険者たちに続き、ダクネスを除くカズマたちパーティメンバー、そしてウィズもやってきて、その光景を目の当たりにし絶句する。
そんな中、アクアが前に出て遺体を観察し始めた。
「すでに成仏してるわね……アンデッド化どころか、未練の欠片もないぐらいにそれはもうスッキリと――」
「いや、未練ぐらいあるだろ! これどう考えても一人寂しく死んでいったみたいな……」
カズマが言うように、周りには他の遺体もなく、ここに来るまでに見かけたという冒険者もいない。搭乗員はこの男一人だったという事は明白であった。
「おい、何かあるぞ」
垣根は遺体の手元に置かれていた本を拾い上げて開く。そこには手書きの文字の羅列が記されており、目の前で朽ち果てている搭乗員であろう男の手記であることが見てとれた。
自爆を止めるヒントが記されているかもしれない。そう考えた垣根は、手記を読み上げ始めた。
『――国のお偉いさんが無茶言い出した。こんな低予算で機動兵器を造れと言う。無茶だ』
『――動力源をどうこう言われたけど、知るか。伝説のコロナタイトでも持ってこいと言ってやった』
『――本当に持ってきちゃった……どうしよう……。これで動かなかったら死刑じゃないの? 動いてください……! お願いします……!』
『――終わった。現在ただいま暴走中』
『――国滅んだやべえ! 滅んじゃったよ! やっべええええええ! でもなんかスカッとした。満足だ。よし、きめた。もうここで余生を暮らすとしよう。だって降りられないしな。止められないしな。これ造ったやつ絶対バカだろ。……おっと、これ造った責任者俺でした(笑)』
「――っざけんなクソが!!!!!!」
垣根は手記を遺体の顔面に叩きつけた。
「チッ……マジで時間の無駄だったな。ある意味木原よりタチが悪いぞコイツ」
他の冒険者たちを先に避難させた垣根たちは、どうやって自爆を止めるか考えていた。この場にいるメンバーは垣根、カズマ、アクア、めぐみん、そしてウィズの五人。
垣根はデストロイヤーの動力が自分が考えているようなものではなかったと知り安堵するも、直前までの自身の慌てようを思い出し、自嘲気味に笑った。
「で、どうする? あのカプセル叩き割ってコロナタイトとやらをどっかに投げ捨てるか?」
「じゃあ俺が飛んで運ぶわ」
垣根は翼を展開し、その一枚でカプセルを破壊する。瞬間、尋常ではない熱がカプセルから漏れ出し、皆顔を顰める。ここにいる全員の肺が火傷しかねない熱量を感知した、無意識下で演算されている能力の自動防御機構により、咄嗟に気温を下げる効果を持つ
気温が安定したのを確認した垣根は、一対の翼でコロナタイトを掬うように持ち上げようとする。が――
「――マジかよ」
常識外の物質である
「まさかテイトクの翼が溶ける程とは……昨夜話していた
「メル……なんて?」
めぐみんから放たれた聞き慣れない単語に、何のことかと聞き返すカズマ。しかし今は緊急事態に重なり、垣根の能力でもどうにもならないという異常事態。すぐに思考を切り替え、策を考え始めた。
「帝督でも無理となると……アクア、なんとかできないか? 自称女神だろお前」
「自称じゃないわよ事実よ! というか、いくらなんでもどうしようもないわよこんなの」
いつものように口論に発展するカズマとアクアをよそに、コロナタイトの放つ光が強くなっていく。あまりもたもたしていられない状況に、垣根は頭を抱える。
「
「テレポートですか? 確かにそれなら安全にコロナタイトを除去できますが……」
ウィズの言葉に垣根が振り返る。学園都市でも比較的珍しい能力であり、この世界には存在しないタイプのスキルと思い込んでいた為、まさに衝撃であった。
「……できるのか!?」
「は、はい。でも、転移には色々と制約があって、準備する間もないこの状況ではランダムテレポートしか……」
ランダム。つまり場所が悪ければ人が密集している場所を消しとばしてしまうかもしれないということ。その可能性を考えた垣根もまた躊躇してしまう。
その時、カズマがウィズの手を取った。
「世の中ってのは広いんだ。大丈夫、全責任は俺が取る。こう見えて、俺は運がいいらしいぞ!」
「カズマさん……わかりました、お願いします」
ウィズもまたカズマの手を握り返し、カズマの幸運値に委ねるように目を閉じる。周囲が固唾を飲んで見守る中、一呼吸ついて唱えた。
「――《テレポート》!」
空間に現れた歪みに飲まれ、光の柱と共にコロナタイトが転移される。一件落着と安堵した一行は、デストロイヤーの物見台へ出る。
そこには、何かを警戒しているような険しい表情のダクネスがいた。
「そこにいたのか、ダクネス」
「……まだだ。私の強敵を嗅ぎつける嗅覚が、まだ芳ばしい危険の香りを嗅ぎ取っている。まだ終わってないぞ」
(……今の日本語に訳したら『嗅』って字が三回くらい出てるな)
垣根は心底どうでもいいことを考えながら、こいつは何を言っているんだと言わんばかりの視線をダクネスに向ける。
しかしダクネスの言葉を肯定するように、突然デストロイヤーの残骸が揺れ出した。
装甲どころかブロックで組まれた物見台の壁や床も赤熱し、関節部等の隙間から蒸気が噴き出す。
まだ残っていた冒険者たちが蜘蛛の子を散らすように逃げ出し、垣根もそれに続くように、カズマたちの首根っこを掴んで地上へ降りた。
「重かった……」
「悪い悪い。――というかなんだよこれ! コロナタイトは取り除いたはずだろうが!」
カズマの言う通り、自爆の原因となるコロナタイトは取り除いた。に拘らず、いかにも自爆寸前といった様子だ。
「これは――内部に溜まった熱が吹き出ようとしているのでは……!? このままでは街が火の海になってしまいます!!」
「あんだけ穴だらけにされてどこに溜め込んでたんだよ?!!」
ウィズの考察に思わずツッコミを入れるカズマ。しかし事実としてデストロイヤーは高熱を帯び、今にも爆発しそうである。
今度こそお終いかと誰もが諦めかけていたその時、めぐみんが前に出た。
「結局まだ我が爆裂魔法を披露できていませんからね。今ここで有り余る魔力と鬱憤を発散させてもらいます!!」
「確かに、こうなりゃ一瞬でこの破裂寸前の装甲ごと消し飛ばすしかねえ……頼んだぜ!」
「チャンスは一度きり……お前の輝きに賭けるぜ……!」
垣根と、いつの間にかその場にいたポチョムキンの激励を受け、めぐみんは不敵な表情を浮かべる。そして力強く杖を掲げ、詠唱を開始した。
「光に覆われし漆黒よ。夜を纏いし爆炎よ」
デストロイヤーの真上に紅い魔力の柱が立つ。
めぐみんは眼帯を投げ捨て、その下に隠れていた眼光で標的を射抜く。
「――古代の哀しき遺物よ、我が究極の破壊魔法で灰燼と化すがいい……! 《エクスプロージョン》!!!!」
爆裂魔法が発動し、デストロイヤーを溜め込んだ熱もろとも吹き飛ばす。
その爆風はアクセルの街の全域まで届いたという……。
こうして、デストロイヤー襲撃の騒動は幕を閉じた。
――――――
数日後、王都から騎士が来ていると聞きつけたパーティ一行はギルドに向かった。
デストロイヤー討伐ともなれば一介のギルドで扱うレベルのクエストではない。恐らく、国から直々に巨額の報酬と感謝状が贈られるのだろうと、皆期待に胸を膨らませていた。
――しかし、現実は非情であった。
「冒険者サトウカズマ及びカキネテイトク。貴様らには現在、国家転覆罪の容疑がかけられている。自分と一緒に来てもらおうか」
「「はぁ!?」」
眼鏡をかけた検察官の女性――セナに逮捕状を突きつけられ、困惑するカズマと垣根。そんな二人を無視して、セナは話を続けた。
「まずサトウカズマ、貴様の指示でテレポートさせたというコロナタイトだが……大領主アルダープ様の屋敷を吹き飛ばした」
「うせやろ?」
自信満々に自分は運がいいと豪語した結果のあまりのツいてなさに、カズマの口調がおかしくなる。そんな彼の隣で、垣根は納得のいかない様子でセナに詰め寄った。
「ランダムテレポートなんだから事故なのは明白だろうが。というかこいつはともかく俺が何したってんだよ」
「貴様はいくらレベルアップしても魔力を持たず、その癖正体不明の強力なスキルを持っており、さらに知力が紅魔族でも見ないような異常な数値だそうだな。身の上からして疑わしい。その上そこのサトウカズマとパーティを組んでいるときた。我々は今回の件も貴様が一枚噛んでいると見ている」
「な……」
あまりの言いよう、しかしぐうの音も出ない指摘に垣根は言葉を詰まらせる。実際、国家転覆など企ててはいないが、客観的に見て自分が怪しすぎるということは理解していた。今反論してどうにかなる話ではない空気を察し、それ以上何も言えなかった。
垣根は「どこまでも常識が通用しない世界だな」と、今では慣れ親しんだギルドの天井を見上げ、考える事をやめた。
大変遅くなりました。申し訳ありません。
打ち切る時はちゃんと宣言しますので、何も言わないうちは投稿が遅くなってもお付き合いいただけますと幸いです……。
何回チェックしても何故か毎回誤字が出てくるのはどうにかしたいですね……。(多分今回もあります)