1.契約の解除の効果について民法545条2項の改正

【要綱仮案の原案79-1】

民法第545条第2項の規律を次のように改めるものとする。

(1) 民法第545条第1項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。(民法第545条第2項と同文)

(2) 民法第545条第1項本文の場合において、金銭以外の物を返還するときは、その受領の時以後にその物から生じた果実を返還しなければならない。

2.解除の効果を定める現行民法545条

(解除の効果)

第545条
1 当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2  前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
3  解除権の行使は、損害賠償の請求を妨げない。

3.解除の効果:原状回復義務

 当事者の一方が解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負います(現行民法545条1項本文:原状回復義務)。「原状回復義務」については、直接効果説・間接効果説など学説上の争いがあるところですが、今般の民法改正では同条項は維持されますので引き続き解釈に委ねられることになります。解除による契約の解消がなされ、契約締結前の状態(原状)を回復することになりますから、契約によって得た物や価値は「全部返還」をすることが原則と考えられます。金銭を返還するときは、受領時からの利息を付して返還をすることになります(現行民法545条2項)。

4.「物」の返還と「果実」

 ところで現行民法545条2項は「金銭」の返還について「利息」を付すことを定めていますが、「物」の返還の際の「果実」の扱いについては明文を設けておりません。しかしながら、「原状回復義務」における全部返還という考え方からは、物の使用利益(果実)も返還しなければならないという結論になると考えるのが通説です。この点、 最判昭和51年2月13日 は、中古自動車の売買について「…売買契約が解除された場合に、目的物の引渡を受けていた買主は、原状回復義務の内容として、解除までの間目的物を使用したことによる利益を売主に返還すべき義務を負うものであり、この理は、他人の権利の売買契約において、売主が目的物の所有権を取得して買主に移転することができず、民法五六一条の規定により該契約が解除された場合についても同様であると解すべきである。けだし、解除によつて売買契約が遡及的に効力を失う結果として、契約当事者に該契約に基づく給付がなかつたと同一の財産状態を回復させるためには、買主が引渡を受けた目的物を解除するまでの間に使用したことによる利益をも返還させる必要がある…」と判示しています。
 そこで要綱仮案の原案では、現行民法545条2項に、原状回復においては物から生じた果実の返還をする義務がある旨の規定を追加することが提案されています。

5.「全部返還」は常に不可欠か

 「法律行為が無効である場合又は取り消された場合の効果」   の項でも述べましたが、契約が解消されるに至った原因・経過などによっては全部返還が当事者の一方に酷となったり、契約の解消を無意味化する場合があります。公序良俗違反無効や詐欺や強迫などに基づく取り消しに比べると、解除の場合には全部返還が妥当する場面は多い様には思われます。しかしながら、今般の法改正では解除については帰責事由は要件とされないことになります。帰責事由が存しない場合の債務者の原状回復義務や、例えば相手方の故意による債務不履行を理由に解除権を行使した当事者が負う原状回復義務など、常に全部返還を徹底することが妥当ではない場合もあり得るようにも思えます。欠陥住宅の買主が契約解除をした場合に「使用利益」の返還義務を負うとすることは妥当ではありません。前掲最判は、第三者に中古車の所有権留保がなされていたため中古車の占有が買主の責めによらずに失われ買主が契約解除をした事案ですが「…上告人が、他人の権利の売主として、本件自動車の所有権を取得してこれを被上告人に移転すべき義務を履行しなかつたため、被上告人は、所有権者の追奪により、上告人から引渡を受けた本件自動車の占有を失い、これを上告人に返還することが不能となつたものであつて、このように、売買契約解除による原状回復義務の履行として目的物を返還することができなくなつた場合において、その返還不能が、給付受領者の責に帰すべき事由ではなく、給付者のそれによつて生じたものであるときは、給付受領者は、目的物の返還に代わる価格返還の義務を負わないものと解するのが相当である」と判示されています(使用利益の返還を認めた判断部分と沿わない感もあります)。この問題は現行民法においても存しますから、引き続き解釈に委ねられることになりますが、「全部返還」「使用利益の返還」が妥当ではない場合があることには留意すべきであると考えます。