放送内容
- 世界でスパイ暗躍!? 話題のインテリジェンスってなに?
- そもそもスパイの仕事内容は?
- 民間人もスパイに!?
世界でスパイ暗躍!? 話題のインテリジェンスってなに?
世界がしのぎを削っているインテリジェンスに、注目が集まっています。インテリジェンスとは、国家の意思決定のためにスパイなどが行う諜報活動や情報分析のことです。世界の諜報機関では、アメリカのCIAやイギリスのMI6などが有名ですよね。自国の利益や安全を守るため、他国の機密情報を入手したり、世論工作を行ったりしています。
最近注目を集めたのが、ウクライナ侵攻を予言したバイデン大統領の声明です。「ロシア軍が1週間か数日のうちにウクライナ攻撃を計画している。」その6日後、実際にロシアの侵攻が始まりました。実はCIAはロシアの計画を、約4か月前から把握していたと言われています。アメリカ政府は偵察衛星で軍の動きを監視し、異常な数の野戦病院や血液運搬車両を確認していました。さらに電子情報偵察機で軍司令部の無線を傍受し、スパイからの情報も得ていたと言われています。計画を暴露されロシア軍は混乱し、プーチン大統領は侵攻を否定しました。末端の兵士は直前まで訓練だと思い込み、開戦初期の士気の低下につながったそうです。
そして今、インテリジェンスの世界で大きな変化が起こっています。国家が担ってきた諜報活動を、民間組織も行うようになっているのです。例えばCIAの元エージェントが富裕層と契約して、裁判で争っている相手の弱みをつかんだり、民間の調査会社がネットの情報だけを頼りに国家機密を暴いてしまうケースもあります。
諜報活動は年々活発化しており、通信等の傍受を主に行うシグナルインテリジェンスの市場規模は2036年には、およそ4兆円に達すると予測されています。
でもスパイって実際何しているのでしょうか?どんな技術を使っていて、日本にもスパイは存在するのでしょうか?インテリジェンスの世界を知ると、世界情勢からビジネスに役立つ心理術まで見えてくるかもしれないのです。
日本にもスパイがいる!?
スパイは遠い世界の話ではありません。実は大使館職員などを装って世界中に展開しており、日本国内でも外国のスパイが活動しています。実際に日本政府はウクライナ侵攻に対する制裁として、2年前にロシアの外交官8名を指名して国外退去を求めました。その外交官全員がスパイだったことがわかっています。
そもそもスパイの仕事内容は?
そもそもスパイはいったいどのような仕事をしているのでしょうか。スパイの情報収集活動は、オシント、シギント、ヒューミントの3つです。
- オシント(OSINT)
報道やSNSなど公開情報を収集し分析する手法です。
- シギント(SIGINT)
通信や電気信号の傍受による情報収集のことです。
- ヒューミント(HUMINT)
ターゲットに接近して秘匿情報を聞き出す手法です。身分偽装やハニートラップ等あらゆる手段が使われれています。
伝説のスパイ 人たらしの“キム・フィルビー”
中でもヒューミントを担当するスパイは、どんな相手も魅了してしまう「究極の人たらし」が多いと言われています。その1人で今も伝説のスパイとして語り継がれているのが、イギリス人のキム・フィルビー(1912-1988)です。上流階級に生まれたフィルビーは、権威主義的な父から厳しいしつけを受けて育ち、紳士的で誰からも好かれる、とても魅力的な青年に成長しました。一方で父への憎悪から、胸の内には権威に対する強い反感を抱いていたのです。そして17歳でケンブリッジ大学に入学すると、平等をうたう共産主義の思想に強くひかれていきました。
そんな時に出会ったのが、ソ連の諜報機関NKVDに所属するアルノルト・ドイッチュです。「共産主義の大義のため、秘密工作員にならないか?」という誘いを受け入れたフィルビーは、「坊や」という暗号名を与えられ、ソ連のスパイとなりました。
大学卒業後、新聞記者となったフィルビーは戦争取材のかたわら、ソ連と敵対する国の軍事情報を集めていました。そんなある日、ロンドンに向かう汽車の中で偶然、MI6とつながりのある女性記者に出会い、面接にこぎつけることに成功しました。そして見事合格し、二重スパイとなったのです。
人たらしのフィルビーは、すぐに上司や同僚に気に入られ、絶大な支持を受けて長官候補にまで昇進します。しかしその裏で、MI6のスパイ網や極秘任務についての情報をソ連に提供し、多くの仲間を処刑に追いやりました。その後関与を疑われたフィルビーは、なんと世界中の報道記者を自宅に招き、身の潔白を訴えます。巧みな話術で疑惑を払しょくすることに成功したフィルビーは、その後もスパイ活動を継続しました。
そして1963年、再び関与が浮上すると突然ソ連に亡命したのです。スパイの基礎をフィルビーに学んだCIAの幹部は、ショックで極度の疑心暗鬼になり、MI6の同僚だった親友は、裏切られた悩みを一生抱え続けました。
その後88歳まで生きたフィルビーは、こんなことを語っています。「私はいつも、個人と政治という2つのレベルで活動していた。この2つが衝突した時、政治を優先させなくてはならなかった。」フィルビーの裏切りで亡くなった人の数は、数百人にのぼるとも言われています。
スパイが使う諜報技術とは?
そもそもスパイはどうやって相手を信用させ、情報を得ているのでしょうか。基礎的な諜報技術を3つ紹介します。
- ①ミラーリング
人は自分と似た相手を好きになる傾向があります。そこで口調やしぐさを真似したり、同じ色のネクタイをつけたり、相手が喫煙者なら服にタバコの臭いをつけると効果的だそうです。
- ②先に打ち明け話しをする
プライベートな話を先に打ち明けることで、相手は「自分を信頼してくれているんだ」と思い込む傾向があります。人は自分を信頼してくれている人を、信頼しやすいのです。
- ③2つ前の情報を攻める
例えば年収が知りたい場合、土地の標準価格、車の有無、子どもの習い事の種類、外食や旅行の頻度などをさりげなく聞き出し、そこから年収を推定します。すると怪しまれずに、核心の情報に迫ることができるのです。
テクノロジーの力でスパイ活動も大変化!選挙介入も…
21世紀に入ると、テクノロジーの進化によって諜報活動は大きく変化します。これまでスパイが現地で行ってきた世論工作が、ネット戦略に代わりつつあるのです。その脅威を世界に示したのが、2016年のアメリカ大統領選挙で行われた、ロシアの世論工作です。
トランプを支持していたロシアは、GRUのハッカー部隊を使って、ヒラリー陣営へのサイバー攻撃を実施しました。選挙関係者の情報を盗んで、暴露サイトにさらしたのです。その中で、ヒラリーが私用メールを使って、機密情報をやり取りしていたことが発覚し炎上します。さらにロシアは、アメリカ人を装った架空のFacebookアカウントを大量に作り、ヒラリーの悪口やフェイクニュースを拡散しました。結果的にトランプが当選。翌年アメリカ国家情報長官室の調査で、ロシアが介入していた事実が明らかになると、世界が震かんしました。
実際、日本のインテリジェンスはどうなの?
ハーバード大学の研究所が発表している世界30カ国のサイバー能力ランキングで、日本は16位です。日本にはCIAやMI6のような対外諜報機関はありません。一方で国内のスパイを取り締まる警視庁公安部外事課など、いわゆる「防諜」を行う組織は複数存在しています。実際にスパイを尾行するなどして監視しているのです。
それでも日本はインテリジェンス後進国と言われており、スパイに関する事件が後を絶ちません。2023年8月には、中国人民解放軍のハッカーが防衛省の最高機密網に、継続的に侵入していたという報道もありました。(ワシントン・ポスト紙)
なぜ日本のインテリジェンスは遅れているのでしょうか。国内のスパイ活動を捜査してきた元警視庁公安部捜査官の稲村悠さんに聞きました。
JCIA代表/元警視庁公安部捜査官 稲村悠さん
「スパイを重い刑罰によって取り締まる法律がありません。いわゆるスパイ防止法のことです。これがないことによって抑止力がないと言われています。
また通信傍受やおとり捜査、こういった捜査手法が制限されている以上、証拠を押さえるのが難しい現状があります。
そして諜報活動に対する意識の低さ。これが非常に重要だと思っています。例えば日本の政治家が、外国の工作活動の影響を受けているという事例は、確認できております。また研究者や会社員が諜報活動に巻き込まれて、意図せずに協力してしまっているケースもあります。いかに法律を作っても安全保障、スパイに対する意識を変えなければ対抗できないと考えています。」
一方でスパイを防止する法律の制定には、「国民の知る権利や、言論・表現の自由など基本的人権を侵害しかねない」といった反対意見もあり、慎重な議論が求められています。
民間人もスパイに!?
また今、諜報活動の担い手にも変化が生まれています。特に注目を集めているのが、中国の産業スパイです。中国の諜報活動は「千粒の砂」戦略と言われています。訓練を受けた工作員だけでなく、世界中に散らばっている民間人をも利用し、スパイ活動に協力させているのです。
例えば2023年4月には、日本の電気機器メーカーに勤めていた中国人男性が、スマート農業に関する情報を不正に持ち出し、中国企業の知人に送信していたことが発覚しました。さらに2023年6月には、研究機関に務める中国人が「フッ素化合物」に関する研究データを、中国の企業に漏洩していたことが明らかになっています。
背景には2017年に公布された中国国家情報法があります。その内容は「中国国民はすべての情報収集活動に協力する義務がある」というものです。実際に留学生がハニートラップに協力させられるケースもあるそうです。
世界に衝撃を与えた一流スパイ技術の民間組織
さらに今脚光を浴びているのが、民間組織による諜報活動です。オランダの調査会社ベリングキャットは、民間人が主体となりネット上の公開情報だけを頼りに、国家の秘密を暴いています。彼らを一躍有名にしたのが、2014年にウクライナ上空で発生した、マレーシア航空機撃墜事件に関するスクープ報道です。
SNSに掲載されたミサイル発射時の様子や、ミサイル運搬車両の画像、Googleの衛星画像など、公開情報を徹底的に検証することで発射場所を特定し、SNSの調査などで、撃墜に関わった疑いのあるロシア兵ら4人の身元を明らかにしました(うち1人はその後無罪判決)。今回のウクライナ侵攻でも、非人道的兵器として知られるクラスター弾を、ロシア軍が使用したことを報じています。ベリングキャットは、これまで国家によってなされてきたインテリジェンスを市民でもできることを証明し、権力者の監視に成功したのです。
近年大きな進化を遂げている世界のインテリジェンスは、今後どのようになっていくのでしょうか。元警視庁公安部捜査官の稲村悠さんに聞きました。
JCIA代表/元警視庁公安部捜査官 稲村悠さん
「もともと諜報活動は、国家が国益のために実施するものでした。ところが今はテクノロジーの進化や、民間の調査会社の出現などによって、スパイをする側もされる側も民間人の割合が非常に高まっています。実際に偽情報を拡散する民間企業も存在していて、一部の国の政府が選挙介入のためにそうした調査会社を利用したケースもあります。そうなった時に重要なのは私たち1人1人がインテリジェンスの実態を理解し、カウンターインテリジェンスの意識を向上させることです。」
国益を守る手段として、古くから重要視されてきたインテリジェンス。これまでプロのスパイが行ってきた諜報活動は、今や私たち民間人をも巻き込む大きなうねりとなっています。国や企業、個人の情報がいつ流出するか分からない時代。1人1人が、インテリジェンスへの意識を高めていく必要があるのかもしれませんね。