『さて。お前達の来訪目的を訊くとしようか』
壁画に描かれたアーデル二代目当主、シャルディーン・アーデルが膝をつき頭を垂れるリオンとレックスに話し掛ける。顔を上げたレックスはその問いに答えようと口を開く。
「──『継承の儀』を行おうと考えております」
『ほう。なるほどな』
「父さん、まさか……」
その言葉の意味を理解したシャルディーンは納得した様に呟き、反対にリオンは隣の父親を驚愕に満ちた顔で見つめた。
「当主の座を渡すのは二十歳になってからじゃなかったか?」
「状況が変わった。ヴォルデモートの侵攻が想定以上に早い。それに今の魔法省は大臣と執行部長を同時に失ったことで混乱している──代役は立てたがその場しのぎだ。だから私になにかあった時のために当主の座をお前に渡す」
「けど、それは……!」
「聞き分けるんだリオン。良いね?」
尚も言い募ろうとしたリオンにレックスの鋭い言葉が突き刺さる。それを聞いたリオンは唇を噛み、渋々といった様子で引き下がった。
『では託す者よ、他に願いは?』
「息子が『指輪』を継ぐ資格があるか見極めさせて頂きたいのです」
『……ふむ。良かろう』
壁画の中のシャルディーンが指を鳴らすと左右の壁が剥がれるように崩れ、そこからまた新たな絵画がそれぞれ現れた。
そこに描かれているのは数十人ほどの男女が豪華な装飾の椅子に座っている姿だ。髪色はてんでバラバラだが、目の色は皆同じ群青で顔立ちも男女の差はあれど良く似通っている。そして彼らが纏うのは黒を基調として金と青の装飾が施されたアーデル家の正装。
「歴代アーデル当主の動く絵画か……」
ポツリとリオンが呟く。彼の言う通り、絵画に描かれているのは約千年続くアーデル家の歴代当主達だった。彼らは皆一様に今代の当主であるレックスとリオンを優しい目で見つめている。
『こうして継承の儀が行われるのを見るのは久しぶりだ』
『彼の時は簡単な問答で済ませましたからね。……まぁ致し方ないことではあったのですが』
絵画の中にいる内の二人の当主がレックスを見て呟く。そこには強い憐憫の情が込められていた。
『エドワードは下手を打ったようだな』
『そう言うものではないわジーク。あの子は最期まで騎士らしくあったのよ』
絵画の端にいる二人の男女がそう会話する。リオンはそんな二人の顔を見て彼らが誰であるのかを悟った。
『それにしてもリオンと言ったか? 曾孫の。昔のエドワードに良く似ているものだ』
「私の息子だよ。リオン、この人はお前の曽祖父に当たるジークフリート・アーデル公。そして隣にいるのが高祖母のステラ・アーデル様だ」
「まぁ写真で見たことあるから何となく分かってたよ……初めまして。リオン・エドガー・アーデルと申します」
『ジークフリート・アーデルだ。そう固くなる必要は無い』
『ステラ・アーデルよ。家族なんだもの、畏まられても息が詰まるわ』
騎士の礼を取るリオンを絵画の中の二人は笑みを湛えてそれを崩すように言う。二人からしてみれば曾孫と玄孫にそんな風な態度を取られるのはむず痒い物があった。
『交流を続けさせてやりたいところだが、早速継承の儀に移る。二人は前に出よ』
和やかに流れる空気を断ち切るようなシャルディーンの鋭い声が響く。そして呼ばれたレックスとリオンは立ち上がりシャルディーンの絵画の前に並んだ。
『では始めると良い』
「承知しました……リオン、杖を」
「え、あぁ」
レックスに促され、自分も杖を取り出す。二人は互いの胸に杖を突き付け向き合う形になる。
「私が進めるからお前はそのままでいなさい───我、レックス・エドワード・アーデルより、我が子リオン・エドガー・アーデルへ当主の座を引き継ぐ。我らの祖よ。どうか新しき当主の門出を祝福し、その道行きを照らし給え」
レックスの黒壇の杖から黄金の光がリオンを包み込む。その光はリオンの杖へと収束していき、やがて杖に古代文字が刻まれると収まった。
「これで継承の儀は終了だ」
「お、おお……なんかあっさりだったな?」
「ただ当主を明け渡すだけなんだ。大仰過ぎるくらいだと思うがな」
杖を仕舞い、どこか拍子抜けしたようなリオンと肩を竦めるレックス。しかしこれで終わりではない。レックスは改めてシャルディーンの絵画に向き直り膝を折った。
「……それでは『指輪』の継承を」
『了承した』
頭を垂れ、厳かに告げるレックスの前に一つの台座とその上に置かれた指輪が現れた。それを見た歴代の当主が揃って息を呑み、リオンは父の隣に立った。
「父さん、これは?」
「お前も話だけなら訊いたことがあるだろう。これは我が一族に伝わる至宝『愛護の指輪』。成人し、当主を継ぐ者だけが嵌める資格を持つシャルディーン様が造られた魔法具だ」
そう言って、レックスは銀に青い宝石が埋め込まれた指輪に手を伸ばす───が、その腕はバチッという音と共に弾かれた。まるで指輪が拒絶したかのように。
「ご覧の通り、たとえ当主になったとしても誰しもが嵌められる訳ではない」
「だけど指輪に認められた者は途轍もない恩恵を得ることが出来る──だっけ? そんな感じだったと思うんだけど」
「その通り。この指輪を嵌めた者にはあらゆる呪いを弾く力が与えられ、愛する者を守護し、敵対する者に破滅を与える力にもなり得ると言われている。八代前の当主が嵌めて以降、誰一人としてこの指輪を嵌める資格を得られなかった」
それなら俺も無理なのではないかと、口にこそ出さずにいたがリオンはそう思った。それを察したのかレックスはリオンの肩を優しく叩いて前に押し出す。
「大丈夫だ。お前なら指輪に認められるだろう。正負も併せ呑み、新しい道を往くお前ならな」
「なんだそれ……まぁ、やれるだけやってみるよ」
レックスの励ましに苦笑するリオンは台座の前まで歩くと指輪に手を伸ばす。それを歴代当主は静かに見つめ、やがてリオンの手が指輪を掴んで人差し指に嵌めると全員が割れんばかりの歓声を上げた。
『やったやった! 認められたぞ!!』
『久し振りだな……だが素晴らしい事だ』
『全くです。当主の座に就いてすぐ指輪に認められるだなんて……』
歴代当主達の惜しみない賛辞にリオンは気恥ずかしさを覚える。そして人差し指に嵌められた指輪をしげしげと見つめていると絵画の中のステラからリオンに向けて声が掛けられた。
『流石ね。私達では嵌められなかったけど貴方は指輪に認められたのよ』
「それなら嬉しい限りだよ」
『その指輪は古代魔法による産物に近い……彼なら貴方の助けになるかもしれないわね』
「彼?」
『アル──アルバート・クラウン。五年生からの転入生で私の同級生。古代魔術を扱う事ができたわ』
ハチャメチャだけど優しい人よ。高祖母がコロコロと鈴の音のように笑う。名前を訊いてもいまいちピンとこなかったリオンは首を傾げるが、そんなリオンを見てレックスがそっと耳打ちした。
「ダンブルドアの先輩と呼ばれている人だ。お前は一度会ったことがあるだろう」
「あ、『先輩』のことか! ひいひいばあちゃんと同級生だったのかあの人」
得心がいったリオンがポンと手を叩く。あの不死鳥と派手な眼鏡にトレンチコートが特徴的な青年。ゲラート・グリンデルバルドの下へと己を導いた彼と高祖母が同級生だとはさしものリオンも知らなかった。
『アルに会ったのなら伝えておいて。“元気でいてね”と』
「分かった。伝えておくよ」
高祖母の頼みに頷き、リオンは再度シャルディーンへと向き直る。そしてシャルディーンはこの場全体に訊かせるような声量で声を発する。
『では、これにて儀式を終了する。我らの後継よ、末永くあるがいい。我らは騎士であり弱き者達の庇護者であるがそれ以前に一人の人である……決して己を蔑ろにすることのないように生きよ。ただ愛する者が幸せにいることこそ我らの唯一の望みだ、それ以外は望まぬよ』
その言葉にレックスとリオンは深く頭を垂れる。二人にとってもその望みは当てはまるものだったからだ。
ステラ・アーデル…リオンの高祖母でレガシー主人公の同級生。寮はハッフルパフで白金の髪に群青の瞳の持ち主。レガシー主人公の古代魔術やらなんやらを良く知っている。レガシー編を書くなら彼女が主人公になる。
ジークフリート・アーデル…リオンの曽祖父でステラの息子。黒髪に群青の瞳でアーデル家では数少ないグリフィンドールの出身。ニュート・スキャマンダーの同級生。
アルバート・クラウン…レガシー主人公の本名。元々イルヴァーモーニーに通っていたが色々あって五年生進学にあたりホグワーツに。寮はハッフルパフ。今は外国を巡ってヴォルデモートに対抗するための戦力を集めている。近々英国に戻ってやらかす予定。