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光源スペクトルにおける波長特性の詳細は「光源の波長特性(光源スペクトル)とは」で紹介しました。
本記事では波長特性の中で重要な要素である「中心波長」と「半値幅」ついて解説します。
以下に、ある波長をピークとして左右対称に広がっている光源の波長特性を示します。
波長特性(中心波長と半値幅)
このような特徴を持つ波長特性において、ピークになっている波長を「中心波長」と言います。
そして、ピークの高さを半分にしたときの波長の幅を「半値幅」と言います。「半値幅」という言葉からは内容をイメージしにくいのですが、英語では「Full Width Half Maximum」であり、これを直接訳すと「半分の値(高さ)の幅」という意味になります。この半値幅は図にあるとおり、中心波長を挟んで何nmになっているのかで表わされます。同じ光強度の光源があった場合には、一般にピークが高いほど半値幅は小さく、ピークが低いほど半値幅は大きくなります。
光源の場合、中心波長は、一般的には元素で決まります。例えばナトリウムランプから発せられる光(D線)だと、約589nmが中心波長です。そして、半値幅は、原子の運動量で決まります。
ここからは光源の中心波長と半値幅に関してより詳しく解説します。
光源には蛍光発光、放電発光、電界発光、化学発光など様々な発光方法があります。今回はその中でも蛍光発光、それも元素による発光に焦点を当てて解説していきます。ある元素による蛍光発光の中心波長(色)に関しては、花火をイメージするとわかりやすいです。花火の赤はストロンチウム化合物、黄色はナトリウム化合物など材料によって色が変わるので、様々な材料の火薬を花火の玉に敷き詰めることで色とりどりの花火を実現しています。
このように材料によって中心波長(色)が決まるのは何故なのかについて、単純化のために元素単体で考えていきます。
元素は分子で、分子は原子でできています。そしてさらに、原子は原子核と電子に分けることができます。電子は原子番号が大きくなると比例して数が増えますが、同じ軌道に入れる数は決まっており、図で描くと次のようになります。
原子核周辺の電子軌道(左:水素、右:ナトリウム)
ここで、外部からエネルギーが何らかの形で投入された場合を考えます。この時、最も外側の軌道にある電子がエネルギーを受け取り、一つ以上外側の軌道に遷移します。しかし、本来の軌道よりも外側にある電子は状態が不安定なので、元の軌道に戻ってきます。その際に戻った分のエネルギーに相当する波長で電磁波を発するため、その電磁波を光として見ることができます。
発光の仕組み
このように電子の軌道遷移による発光は元素によってエネルギーの差がはっきりと分かっています。そのうちのいくつかを表にまとめると次のようになります。
元素と各殻間のエネルギー
外側からK殻への遷移はK系列(水素の場合はライマン系列)、L殻への遷移はL系列(同じくバルマー系列)、M殻への遷移はM系列(同じくパッシェン系列)など、名前が付けられています。そしてL殻からK殻へはKα(水素の場合はライマンα)、M殻からK殻へはKβ(同じくライマンβ)というように、系列名の後にαから順番に名前が付けられています。
面白いのは元素周期表で隣り合う元素で、同じK系列の電子の遷移であっても発せられる光の波長が異なっていることです。例えば、ナトリウムの発光の中心波長は1.1909nmですが、一つ原子番号が大きいマグネシウムの発光の中心波長は0.9889nmです。ナトリウムよりも原子番号が大きいマグネシウムの方が中心波長が短い(エネルギーが高い)のは、マグネシウムの原子核の方が質量数が大きいことによって、殻の軌道が影響を受けているからです。
本来ならば元素ごとに電子の軌道はきっちりと決まっているので、全ての発光が理論値通りの中心波長で起こるならば半値幅はほぼ0になります。しかし、実際の光は半値幅を持っており、それは、理論値とは異なる波長の光が発せられているということを意味します。
この中心波長の理論値からのずれは、発光している原子が移動していることによって起こっています。ドップラー効果という名前を聞いたことはないでしょうか。ドップラー効果は、近づいてくるサイレンの音は(波長が短くなっているため)高く、遠ざかるサイレンの音は(波長が長くなっているため)低く聞こえるというものです。光でも音と同じことが起こります。我々観測者から遠ざかる光源からの光は本来の波長よりも長くなり、逆に近づいてくる光源からの光は波長が短くなります。
原子の移動による波長の変化
原子は静止しているわけではありません。特に発光に用いる原子は光源機器などの容器の中で気体状態になっている場合が多く、気体は容器の中を縦横無尽に飛び回っています。そのため、原子の移動に起因した中心波長のずれが発生します。
半値幅の違いは原子や分子の運動の激しさに起因します。一般的に、原子や分子は温度が高くなればなるほど運動は激しくなります。例えば摂氏100度の水素よりも、摂氏200度の水素の方が激しく運動しています。運動が激しくなると、速度の速い原子や分子の数が増えますので、中心波長からずれる光を出す原子や分子の数も増えます。これをグラフにすると、中心波長のピークが低くなり山が平たくなるわけですから、半値幅が大きくなることを意味します。
当然のことながら、温度を低くすることで半値幅を小さくできるのですが、温度が低いと電子を励起させるためのエネルギーも少なくなるので、明るさが下がってしまう場合があります。
半値幅は、一概に広ければ良い、狭ければ良いというものでもありません。用途に応じた半値幅の光源を用意するのが重要です。ここでは、半値幅が広い場合、狭い場合の用途や注意点について解説します。
半値幅が広い光源は、1つの光源で幅広い波長帯をカバーできます。例えば、鉱物などの(何が含まれているかわからない)試料の特性を調べる分光分析や、照明機器として使われる太陽光に近いような光源として使用する場合に向いています。
ただし、励起エネルギーを大きくして半値幅を広げた場合には以下のような点に注意が必要です。
機器の温度自体が上がりすぎると劣化が早く進行する場合があります。
中心波長のみが必要で、他の波長にはフィルターをかける場合は、必要な明るさを得るために無駄なエネルギーを注ぎ込んでいることになる可能性があります。
半値幅が狭い光源は同じ強度の明るさを得るのに必要なエネルギーが少なくて済みます。よって、レーザーが使われる通信やレーザー加工機、そして使用する波長が決まっている蛍光観察などの用途には、半値幅の狭い光源が向いています。主に紫外線を利用するブラックライトなども、半値幅の狭い光源の方が向いています。もちろん必要な波長をしっかりとカバーしていることは重要です。
光源を選択する場合には、中心波長や半値幅を意識しながら、どの波長でどの程度の明るさが出るのかを把握することが大切です。
光源の寿命
光源の波長特性(中心波長と半値幅)
光源の波長特性(光源スペクトル)
KLV大学光源コース