早乙女の桜並木、100年の歴史に幕 「とちぎの景勝百選」
栃木県さくら市の旧喜連川町の玄関口で、100年近く時代を見つめてきた「早乙女の桜並木」が最期の時を迎えている。「とちぎの景勝百選」として愛された名所も、近年は衰えが目立っており、県道の拡幅工事に合わせて市が片側ずつ伐採する。その後に別の品種が植えられ、2026年春までに新たな桜並木が生まれる予定という。
県道・佐久山喜連川線の両側約400メートルにわたり、ソメイヨシノ約100本が並ぶ。市によると1925(大正14)年に地元青年団が、奉仕活動で植樹した若木が成長した。戦時下は戦地に向かう若者らを、戦後は進学や就職で町外へ旅立つ人々を、見送ってきた。
最盛期は枝が屋根のように県道を覆って咲き誇り、喜連川温泉を訪れる人を楽しませた。とちぎの景勝百選にも選ばれた。2005年の合併で新市名を公募した際、さくら市と名づけられる由縁となった名所の一つでもある。
しかし、車両の通行に伴う振動や排ガスなどが響き、15年ほど前から衰えが見え始めた。市が06年に回復に向け手当てをしたが、のり面に立っているため根の再生など根本的な処置ができなかったという。折れた枝が落ちたり、木が倒れたりする危険も高まった。
そんな折、県が、県道を拡張して通学用歩道を設ける計画を進めることになった。そこで市は、この工事に合わせて老桜を伐採し、県がつくる「植樹帯」に「ジンダイアケボノ(神代曙)」を植えて桜並木を「再生」することにした。
県によると、1月から先行工事が始まった。今冬、まずは西側から伐採し、その後、植樹に取りかかる。東側も同じように伐採し植樹する。市は「片側ずつ伐採し、片側ずつ植樹する。遅れる可能性もあるが、完全に桜が見られなくならないように進める」。早ければ2026年春までに桜並木の再生を目指す。
神代曙はソメイヨシノ系の品種。開花時期もほぼ同じで病気に強い。ソメイヨシノの寿命は60~80年とされるが、国内の名所は敗戦後に植えられた場所が多く、衰えや枯れが進む場所が増えている。神代曙は、その後継品種として全国的に注目されているという。
市内の桜を保護する「桜守」を務める手塚良作さん(79)は「早乙女の桜並木」の往時、花見のため通行止めになった県道で「喜連川公方太鼓」を打ち鳴らしたことが忘れられない。昨春、東京五輪の聖火走者が並木道を駆け抜けた光景を思い出し、「桜にとってはあれが最後の晴れ舞台だったのかな」と懐かしむ。
「四季の移ろいを感じさせた桜並木も限界だった。道路そばの過酷な環境にしては長生きしたと思う」とねぎらい、「新しい桜が育って並木を受け継ぎ、町の人を楽しませてくれれば」と話した。(中村尚徳)