朝日新聞福島総局長の捏造疑惑炎上ではっきりした「不安な空気」を創っては拡散する「風評加害者」の正体
捏造を疑われる記事内容
朝日新聞の4月21日付記事、アナザーノート『「総代で卒業の被災者」その注目がつらい 茶番に苦しんだ子どもたち』において、捏造を疑われるなど多数の問題が指摘される報道があった(記事は現在、公開当初の内容から一部が修正されている)。
主な問題点をまとめると、次の5点に集約される
・論点の大前提・根幹となる情報が事実に反する嘘だった(誤報の原因追及と再発防止に対する説明責任)
・「」付で書かれた発言の裏取りが不明(取材の欠如と手法の正当性に対する疑念)
・実態と乖離した、不自然な当事者の論調(取材対象の偏向や恣意的な結論への誘導や印象操作に対する疑念)
・「注目がつらい」と訴える当事者を矢面に立たせ注目させたことの是非(報道被害への無配慮)
・問題解決に向けた、社会における理解と合意形成に逆行する(マッチポンプ・クレイム、利益相反行為に対する疑念)
以下、具体的に指摘していこう。
当該記事は大熊町出身の若者の視点と共に、5年前に行われた福島高専学生と大熊町住民による復興住宅のイベントを取り上げた。『イベントは町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催しだった』『除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた』と書いていた。
ここで書かれた「除染土」とは何か。簡単な解説を加えておく。
東京電力福島第一原子力発電所事故からの復興に伴う除染作業により、大量の土壌が中間貯蔵施設に運ばれた。これらは中間貯蔵・環境安全事業株式会社法により、「30年以内に福島県外で最終処分を完了するために必要な措置を講ずる」ことが国の責務として明記されている。
ただし、「一刻も早い安全と住民の安心確保」すなわち迅速な復興を第一に各地で集められた土壌には、汚染の度合いが極めて低い土も大量に混ざっている。半減期の影響もあり、今や貯蔵全体の7割以上は一般土壌とリスクがほぼ変わらないと言えるのが実情である。
最終処分工程では減容化が必須となる上、まとまった土壌は本来的には土木工事などにおいて有用な資材にもなる。仮にこれらまで一絡げに全て放射性廃棄物扱いで最終処分しようとすれば、「福島県外」に広大な最終処分場及び国民一人ひとりに跳ね返ってくる莫大な費用負担が追加で必要となる。
そのため、明らかに汚染が少ないフレコンバッグ(大型土のう)については一度解体し分別した上で化学処理や熱処理を施し、更に安全な状態に整えて再利用する。既に鉢植えの土として首相官邸や自民党本部、公明党本部、各省庁などに利用実績があり、当然ながら何ら問題も生じていない(詳しくは環境省の中間貯蔵施設情報サイトにあるので、参照して頂きたい)。
朝日新聞が書いた「除染土」とは文脈上、この土を指すのだろう。ただし、朝日新聞の表記では未処理あるいは不十分な処理の土壌がそのまま使われるかのように誤読される恐れも否定できない。
事実、朝日新聞はALPS処理水の報道の際、処理途上にある水がそのまま海洋放出されるかのような記事を書いた前科もある。同社には差別的な「汚染水」呼ばわりを執拗に繰り返す記者も沢山いた。これらが多くの人を誤解させ、社会問題をより解決困難に導いてきた。
参照)
・『原発処理水を「汚染水」と呼ぶのは誰のためか…?「風評加害」を繰り返す日本の「異常なジャーナリズム」に抗議する』(現代ビジネス 2022.12.12)
・『野放しの「風評加害」、ポピュリズムが招いた犠牲と失費』(IEEI 福島レポート)
もし朝日新聞に処理水報道への反省があるのなら、「処理土」あるいは「再生土」などの表記がより適切かつ誠実な報道姿勢だったと言えるだろう。それとも、ALPS処理水の二番煎じで処理土の社会問題化を図りたかったのだろうか。
話を戻そう。記事に書かれた『町内の復興住宅の花壇に、放射性物質をできるだけ取り除いた除染土を用い、花を植える催し』では、福島高専の先生が若者に『除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしい』と依頼した上で、『大熊町の出身として、町の人が再利用に合意するようにがんばってほしい』とまで言ったという。
それに対し、『結局、地元が合意するという結論があって、それに自分達が利用されていた。気持ち悪かった』『「茶番」に気付いた。それ以来、除染土の再利用にまつわる催しは、出演依頼があっても断っている』という若者の想いの記述が続いた。
記事の大前提・根幹そのものが嘘だった
ところが、このイベントに「処理土」は使われていなかった。
福島県、大熊町、環境省、福島高専などの関係者に確認したところ、いずれからも同様の回答が得られている。大仰に「茶番に苦しんだ子どもたち」とまで題した記事における最大の根幹であったはずの、「除染土の再利用にまつわる催し」という前提が嘘だった。これこそ「茶番」そのものだろう。
なぜ、どのような原因でこのような虚報が生じたのか。朝日新聞には当然、説明責任がある。
ちなみに、2024/1/1~2024/5/22の期間に全国の新聞社説を対象に「説明責任」の語で検索した調査結果を見ると、朝日新聞は他者に対し日本一説明責任を求めてきた新聞であることが判る。
参照)新聞は他人にどれだけ「説明責任」を求めてきたか(晴川雨読 2024年05月22日)
そもそも処理土が使われていないイベントにもかかわらず、福島高専の先生から『除染土の再利用を進める大熊町の催しに参加してほしい』と依頼された事実、そして『大熊町の出身として、町の人が再利用に合意するようにがんばってほしい』との言葉も本当にあったのか。
こちらも事実確認したところ、該当する可能性が高い人物は既に退職しており、依頼や発言の有無に対する確認が取れなかった。一方で、「」付の台詞まで掲載した朝日新聞は、いかなる取材方法で退職者に連絡を取り、事実関係の裏付けをとったのか。これも同様に虚偽、あるいは捏造ではなかったのか。
実在する関係者の名誉にも関わる問題である。当然ながら、事実であるかのように書き報じた責任は朝日新聞及び執筆者の大月規義福島総局長にある。「取材源の秘匿」「一般女性の主観や記憶違いを伝聞しただけ」などといったおためごかしや他責では済まされない。ここにも説明責任が強く求められる。
また、記事に書かれた「処理土再利用の理解と合意を強引に求められる地元」のような対立構図も極めて不自然である。なぜならば、中間貯蔵施設の地元首長及び議会は一刻も早い最終処分、すなわち除染土の減容化と県外持ち出しを繰り返し要望してきた側だからだ。
多くの福島県民、双葉郡の住民も同様の意向であることが複数の調査から判っている。つまり、処理土再利用に対する理解と合意が求められているのは「持ち出される側」の地元ではない。
ところが、朝日新聞は『除染土の再利用は福島県内でも疑問の声が上がっていた』などと敢えて一部少数派にばかりスポットを当て、地元の主流世論や現状との整合性が取れない「高専の先生」の台詞と共に、地元出身の学生に(実在しない)除染土の再利用を進めるためのイベントに参加・協力依頼をする陰謀があったかのように書いた。
吉田調書問題などは象徴的だが、東電原発事故には虚偽であるのみならず、復興に尽力した関係者や専門家の名誉が不当に貶められた言説や報道も少なからずあった。今回の記事も被災地及び福島高専などの関係者、本来の地元世論や求められる課題に対する全国からの誤解を招き、復興を阻害する結果にさえ繋がりかねない。「誰のため」「何が目的」か。偏向報道ではなかったか。「説明責任」が求められる。
捏造記事が当事者にもたらす3つのリスク
この記事の問題は、「極めて基礎的な事実確認を怠り、報道が守るべき最低限の公平性・公益性を無視した」のみに留まらない。「被災者として注目されることを避けたいと願う」と訴える、当時子どもだった一般女性を敢えて矢面に立たせ「被災者として注目させた」のは何故か。
これは当事者にとって主に3つのリスクや不利益をもたらす。
まず1つ目は、若年者・被災当事者のトラウマをさらに深める報道被害及び人権侵害の恐れが否定できないこと。記事中で強調された、「止まらない涙」という本人の状況を鑑みれば猶更のことである。
2つ目は、当事者性が何らかの政治的主張や社会運動から盾や錦の御旗、あるいは人質や尖兵のように利用されてしまうリスク。批判や反論の矢面に立たされたり、学者公職者マスメディアなどが内心言いたいが自らは立場上言えない過激あるいはデマなどの事実に基づかない主張を、腹話術のように代弁させられてしまうケースもある。
たとえばALPS処理水問題報道では、毎日新聞が過去に水俣で発生した公害病被害者団体の口を借りることで、「当事者の言葉を紹介しただけ」とばかりに非科学的な思い込みに注釈すら付けず、そのまま紙面に書き広めていた。誤解や偏見を広める「情報汚染」の垂れ流しこそ、報道災害・情報災害と呼ぶべき現代の公害をもたらすにもかかわらずだ。
参照)『水俣病患者9団体、処理水放出に反対 「同じ過ち繰り返す」声明』(毎日新聞 2021/4/19)
3つ目は、中立的な第三者を装いつつ世論や関係者の理解と合意形成を自ら困難に導き問題を深刻にさせておきながら、それら理解と合意形成の困難そのものを新たな記事や社会問題にすることで更なる利益を得ようとするマスメディア・学者・活動家などによるマッチポンプ・クレイム、いわゆる「利益相反行為」に自覚・無自覚にかかわらず協力させられてしまうリスクだ。
たとえ本人が善意の動機であっても問題解決の遅延や妨害に加担する結果をもたらし、当事者同士の分断や対立の一因ともなる。いずれのケースも、場合によっては当事者の人生を長期かつ不可逆的に縛り付けたり、生涯付き纏うデジタルタトゥーにさえなりかねない。
朝日新聞記事の記述には、
『「子どもたちのため」「社会のため」にと、大人が子どもの語りを誘導することもある、と指摘する。それは、報道機関にも当てはまる』
『震災をテーマにする限り、視聴者が理解しやすい「子どもたちの像」が必要なのかもしれない』
『子どもの側も、報道機関の発信に協力したり、発信を見聞きしたりしながら、「像」をつくっていった』
『結論があって、それに自分達が利用されていた。気持ち悪かった』
『茶番に苦しんだ子どもたち』
などとあったが、これらの言葉は朝日新聞の記事にこそ当てはまるのではないか。報道倫理上の問題について、朝日新聞は自社のコンプライアンスとの整合性の中でいかに捉えているのか。
誰が「不安な空気」を作ってきたのか
この記事を書いた朝日新聞大月規義福島総局長は、実は2021年にも処理土の再利用に関する記事を書いていた。
・『除染には3兆円もかかり、やっと中間貯蔵施設で集中管理できるようになった。それをなぜ外に広げるのか?』
・『安全だとしても身近な道路や堤防などに使われると、その地域が「風評被害」にさらされる恐れがある。』
・『環境省は再生利用する土砂を安全と説明するが、原子炉規制法で決められた再利用の基準(1キロ当たり100ベクレル以下)を用いているのではなく、福島の事故で特別につくられた緩い基準(同8千ベクレル以下)を当てはめている』
などの主張が書かれた記事内容からは、『「風評加害者」って誰? 汚染土利用に漂う不安な空気』という記事タイトルも含め、処理土再利用を阻害しようとする強い意図が伝わってくる。今回の記事は、こうした記者の主張を代弁・正当化し共感を広めるために当事者が利用されたケースではないのか。
大月総局長が書いた「それをなぜ外に広げるのか?」は前述した法的根拠に基づいているに過ぎないし、「風評被害にさらされる恐れ」の原因は、まさに「汚染土利用に漂う不安な空気」などと報じてきたマスメディア自身にある。
現にこの記事がSNS(X)で公開された2021年には、「風評加害者って誰?」と問うタイトルに対し、「お前だ」「鏡を見ろ」などの多くの反応(返信が624件、引用コメントも含めたリポストが1532件)が殺到し大炎上していた。ところが朝日新聞はこれまで、それら批判を無視し続けている。
処理土の基準値(8000Bq/kg以下)についても、たとえ上限で見積もったところで作業者が年1000時間扱う想定で年間追加被曝線量が1mSv以下になるよう逆算して設定されている。実際に使われる土は基準値上限より遥かに低いものばかりである上に、追加で覆土処置まで行う。環境や健康への影響など起こり得るはずもない。
「不安な空気」を創り広めている「風評加害者」は、多くの人が指摘したように朝日新聞自身ではないのか。
著者は、これまで書いてきた疑問と問題点について質問書という形にまとめ、対応をSNSや記事、書籍や論文などで一般公開することを予め伝えた上で5月4日に朝日新聞に送った。後編記事『日本で一番「説明責任」を求め続ける朝日新聞から「回答期限4分前」に届いた「捏造疑惑記事への説明」の中身』では、具体的な質問内容と得られた対応について記していく。