夏向きのお酒、しかもそれが季節限定と言われると、どうしても「キワモノ」「企画モノ」という印象を受けてしまいます。もう少し良く言えば「遊び心」といいますか。とにかく「本流ではない」という印象です。
日本酒の銘柄をたくさん置いていて日本酒好きが集まる店であれば、その日飲む何杯かのうちの一杯でそれを飲むのは簡単にイメージできます。遊び心に付き合って、バリエーションのひとつとして楽しむ感じですね。でもここで問題にしているのはそういう世界の話ではないですよね。
日本酒メインではないお店では、メインでないからこそ王道的なものをしっかり売りたいと考えます。日本酒が夏向きとしていくら爽やかなものであったとしても、もともと止渇性飲料でもあるビールにはかないっこありません。上掲の設計はどこかサワーからの置き換えを意図しているようにも見えますが、だからと言って1杯目のサワーがそれに置き換わることはないでしょう。ビールやサワー、あるいはハイボールと、「勝負」しようとしてはいけないのではないでしょうか。
少なくともそういうお店では、日本酒は途中から飲むものだと思います。その時点で、夏とは言え喉の渇きは既に癒えており、体もクーラーで冷えています。そこでわざわざ爽やかさを求めて変わり種の日本酒を飲もうとはなかなか思わないのではないでしょうか。
夏にだけ作られる夏向きのお酒です、と言われるよりは、このお酒はいつ飲んでもおいしいけど夏に飲むと特においしいんです、とか、夏の食材と相性がいいんです、と言われる方がグッと来ます。あるいはふだんぬる燗でお勧めしているような濃醇なお酒が、実はロックにすると意外なおいしさなんです、みたいなのもストーリーに厚みがあって嬉しくなります。
日本酒ってかつては好きでも嫌いでも必ず飲む(飲まされる)ものでしたが、今や極めて趣味性の高いお酒になってますよね。だから日本酒をその「趣味」として捉える個人を増やすことが作り手・売り手の使命なのでしょう。だから、最初は飲みやすさが入り口として大事であるにせよ、まずは王道から入ってもらうことが有効なのではないかと僕は思います。
夏だけのお酒はそれはそれでマニアのための遊びとして価値が高いとは思います。しかし普及や啓蒙という意味なら、一年中ある定番の中で夏向きのイメージ、ストーリーが作り出しやすいものをこの時期特に勧める、ということの方が良いような気がします。