愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者 作:だんご大家族
〈一方、その頃のニノちゃん〉
「というわけで、織崎家次期当主は見事予想を的中させた藤乃に決定だ。はい拍手」
『……』ペチペチペチ
「お爺様……さらっとし過ぎでは? 見てください、本来、三人からは睨まれるはずなのにジト目になってますからね。拍手も拍手じゃありませんし」
悠が壱護を連れて嵐のように会場から立ち去った後、仙左衛門がどうにか場を収め、閉会を宣言してから程なくして。
審査員席の近くで見ていたニノは、仙左衛門とえりなの二人とその場で別れ、麟之助と共に開催前に通された部屋に戻ってた。部屋には寡黙殿こと織崎麟承のみで、他の二人は好きなように移動して観戦していたようだ。
少ししてチャラ男こと布施一輝と舞鶴紗耶香も部屋に戻ってくる。全員が集まったところで、先の言葉が麟之助から伝えられるのだった。
まあ、ジト目になるのも仕方ないだろう。当主の言葉を抜きにしても、悠の料理は異質過ぎた。
とはいえそれだけではないのだが。
「ってか、情報出さなかったまであるし……兄貴、帰りにナンパしに行きません?」
「わたくしだってほとんど知りませんでしたよ。神に……いえ、アイちゃんに誓って」
「藤乃がB小町アイに誓うなら間違いなさそうだな。ナンパには付き合わんが街には繰り出そうか。関東の菓子は気になる。──菓子類は俺の一、二ランク下……俺が、の間違いだったのでは?」
「……。……同等、と言わせてください。はい」
「ぶっちゃけ勝敗はどうでもええんやけど、藤乃はん。悠はん紹介してくれへん? 家柄も申し分あらへんし」
「紹介しません。というか皆さん、終わった途端に我欲に
『だってやること終わったし。あとお前が言うな』
「うぐぅ」
──というように、次期当主が決まった途端、好き放題し始める織崎一族の面々。
ニノだけが自由気ままだと思った? 残念、織崎一族はだいたい同じだ。身内相手でも冷徹に対応するが、それは真面目な時だけで、緩い時はとことん緩い。
織崎麟承。
名門大学を首席で卒業したが、寝ても覚めても和菓子のことしか考えていない生粋の和菓子馬鹿。でも『にしき』本店のNo.2。No.1は当主なので実質『にしき』の和菓子職の頂点に位置している。
布施一輝。
海外の大学を飛び級で卒業した、ナンパが趣味の最年少プロゲーマー。ちなみに好きなタイプは人妻。ナンパ成功率は0%。なのに同年代や幼い様相の子にはモテる。でも本人は嫌そうに邪険に扱う。贅沢な奴めモゲロ。
舞鶴紗耶香。
『にしき』の広報部を纏める才女。優秀だが、唯一出会いがないのが悩み。何度もお見合いし、ゴールイン手前まで来るも破局。だって重度のショタ好きの性癖が何故かいつもバレるから。
そしてニノこと織崎藤乃。
アイドルグループB小町の一員で、見た目はたおやかな美少女。ただし中身は同グループの一人、アイに妬みや嫉妬といった負の感情を向けながら、アイに魅了されて焦げ堕ちているというクソ重感情持ちのアイ限定のドルオタ。ちなみにB小町人気No.4。最も最近の人気投票で「私に投票? アイちゃんに入れなさい(真顔)」を言ってのけた最近アイドルとして本当にヤベー奴。
おかしいな、次期当主候補にまともな奴がいないゾ?
「んじゃ、面倒なことも終わったし、解散でいいスか? ご当主。あ、ナンパついでにゲーセンよりたいんで帰るの明日か明後日になりますわ。あ、ふじのん次期当主決定おめ~」
「俺も市場調査のために残る。未成年の一輝は俺が付き添おう。え、店? ……俺がいなくてもなんとかなるだろ。お前のおかげで和菓子作りに没頭できる、感謝するぞ次期当主殿」
「……あ、もしもし聡子? 確かあんた明日、銀座の婚活パーティ行く言うとったよね? それ飛び入り参加できる? 今からでも間に合う、じゃあウチも参加するわ! はいはい、じゃあまたねー。……ちゅうわけやさかい、ウチも予定入ったさかいホテル取らしてもらうわ~。ところで藤乃はん、次期当主権限でええ人紹介……あ、無理。ちぇ~」
「うむ。一週間後に次期当主決定の宴を行う。それに間に合うようであれば、好きにせよ。羽目を外し過ぎるでないぞ」
麟之助は特に咎めることなく、見送る。
ニノは溜息をこぼしながら、パンパンと手を叩き、注目を集めさせる。
「はいはい、帰る前に一つだけ連絡させてくださいな。──お爺様、早速ですが我が儘を言わせてもらいますね」
「む? よかろう、なんだ?」
「わたくしはアイドルを卒業後、織崎家当主を継ぎますが……“にしき”は継ぎません」
「なに……?」
意表を突いたような宣言に、麟之助どころか麟承たちも驚く。“にしき”を名乗らないと宣言したのは当主の歴史を遡っても前例を聞いたことがなかった。
「元々“にしき”は日本一の菓子職として与えられた称号です。時代の流れで当主が名乗るようになりましたが、精々が趣味程度の腕しかないわたくしはそれを良しとしません」
「“にしき”と名乗らず当主を継ぐ……では“にしき”はどうすると申す」
「無論、最も腕が立つ菓子職が名乗るのが相応しい」
「……」
「ここで指名してもいいでしょうが、それでは本人も他の者も納得しないでしょう。そこで、我ら織崎家も食戟をするのはどうでしょう。頂点に立った菓子職が一年あるいは数年“にしき”を名乗るのです。もちろん、細かいルールは必要でしょうが」
ニノの提案に麟之助は考え込む。
「ふむ……麟承、どう思う?」
「……悪くない案だ。職人たちの士気向上にもなるし、見習いから良い原石が発見できるかもしれない」
「紗耶香」
「規模によるけど遠月のように開催すれば集客は望めそうどすなぁ。期間限定で参加者の品を販売したら、売り上げの貢献にもなる。広報部としても議題として取り上げてええかと」
「一輝」
「俺も? ……いいんじゃない? ゲーマーの俺はそこまで関係ないけど、ネット経由で宣伝とか中継ぐらいの伝手はあるよ」
それぞれが己の分野から冷静に判断する。そこに先のような我欲に塗れた印象は微塵もない。
「よろしい。最後に候補者だった者たちに問う。織崎藤乃を次期当主として認めるか否か」
「織崎麟承は認める。変化の風が舞い込んできそうだ」
「布施一輝も認める。アイドルの次の職が当主なんて面白そうだしさ」
「気に食わないこともありますが、舞鶴紗耶香も認めます」
「では──織崎家次期当主は織崎藤乃とする!! 異論は認めぬ。良いな!!」
『仰せのままに』
麟之助の宣言に元候補者たちはニノに向け頭を下げる。
ニノも受け入れ、ここに次代の織崎家の継承者が誕生することになった。
「……では、改めて解散だ。長い期間、ご苦労だった」
「ホントだよ。あー長かったぁ」
「……行くか、一輝」
「うぃーっス」
「さて、ウチも明日の準備せんとなぁ」
次の瞬間には研ぎ澄まされた空気は霧散し、だらだらと部屋を出て行く。
この空気差よ。
「じゃあわたくしも久し振りに……」
「おっと。藤乃は儂と家に帰るからの」
部屋を出ようとするニノの襟を掴む麟之助。
「はぇ? え、何でです!? たった今解散と言ったじゃありませんか!?」
「一週間後の宴の準備に決まっておろう。次期当主に決定した以上、やることは山積みだぞ」
「い~や~で~す~、いい加減アイちゃん成分補給したいで~す~」
「ええい、ジタバタするでない。宴が済めば会えるのだから我慢せい。それに事務所に戻ったところで、目的の少女とは会えぬではないか」
「やっぱり知ってましたか……はあ。わかりました。けど、流石に今日だけはこちらにいさせてください。預けたものとか預かり品の返却、復帰の時期とか話しておきたいですし」
「よかろう。では行こうかの」
ドナドナされる気分でニノは、麟之助と共に部屋を出て行くのだった。
☆☆☆☆
〈一方、その日の苺プロダクション〉
「──そ、そういうことだから! あとは任せたぞミヤコ!」
今日の苺プロはアイドルもスタッフも穏やかな一日を過ごせるはずだった。
薙切家の者と名乗る黒服が事務所に来るまでは。
物腰は穏やかに苺プロの社長、つまり壱護に同行をお願いしてきた。有無を言わせぬ迫力で普通の一般人であれば頷くしかできなかっただろうが、小さいながらも事務所の長であり大手相手でも上手く切り抜けてきた壱護は、どうにか仕事の引き継ぎの時間だけもらい、そんな台詞を残して、黒服に囲まれながら黒塗りの車に乗せられ、どこかへ連れ去られた。
事務所が契約しているビルの入り口でミヤコと数人のスタッフ、ミネとナベは突然のことに呆然とし、ただ見送ることしかできなかった。復帰できたのは壱護を乗せた車が見えなくなってから。
「って、社長連れ去られちゃいましたけど、大丈夫なんですかアレ!?」
「お、落ち着いてちょうだい……薙切家なら大丈夫……な、はず?」
「最後疑問形になってるじゃないですか! うわぁ、というか薙切家相手に何やったんだよ社長」
「……壱護が、というより悠なのよねぇ……」
「え……、名桐くんですか?」
「ぁ──まあ、直接あの家が接触してきたのなら、もう言っちゃってもいいかもしれないわね」
これまでは薙切家と関わることがないため徒に広める必要はないと判断したため情報を公開することはなかった。しかし、薙切家から関わってきた以上はスタッフには公開しておかないと、妙な憶測からよくない噂が流されるかもしれない。
そう考えたミヤコは、このあとスタッフを集めて薙切家と悠の関りを話すことを決めた。
パンパンと手を叩いてスタッフを事務所へ戻るよう指示を出す。
「ミネ、ナベ。二人も戻りなさい」
「はいはーい」
「……黒服って実際にいるのね。ウチ、初めて見たわ」
「あたしだってそうよ。あれ、でも確かニノの実家もあの『にしき』で金持ちだったわよね? あの子が黒服連れてるとこ見たことないんだけど」
「……言われてみれば」
事務所へ戻る最中、二人の疑問には壱護から聞いていたミヤコが答えた。
「私服で警護してるらしいわ。ほら、前に連れてきた小鳥遊さんも黒服じゃなかったでしょ。それに織崎家は基本的に一般人として生活させるみたいだし」
「いっ、般人……?」
「あのキャラでそれは無理でしょ」
わりと酷いこと言われている気がするが、あながち間違いではない。そもそも壱護がアイドルとしてスカウトした以上、一般人とは言えないだろう。
そんなことを話しながら事務所へ戻り、そこでミヤコはスタッフ全員に悠と薙切家の関係を話した。悠が薙切家の当主の孫にあたる人物で、壱護はその関係で連れていかれたのだろうと。
流石に冗談と思ったスタッフもいたが、大半はすんなりと納得していた。
「僕、親戚が飲食店やってるんで薙切家……というより薙切家が経営している遠月学園のことはよく聞くんです。名桐くんが差し入れてくれた料理はどれも美味しかったですからね。薙切家の血筋なら納得ですよ」
なんて言うスタッフもいた。
悠と薙切家が関りを持ち始めたのはここ一年以内なので少し的外れなものだが、追及されるのを防ぐためミヤコは特に訂正することもなかった。
加えてしばらくしてから壱護から問題ないとメールが送られてきたので、それ以降は誰も社長の心配することなくいつもと変わらない業務に専念するのだった。もう少し心配してあげて。
数時間が経過し、新曲の練習を終えたミネとナベが、スタッフとは別室で仕事をしているミヤコの近くでゴロゴロして帰宅時間まで過ごしていると、
「ただいま戻れましたよ~」
事務所にニノが帰ってきた。
「ニノ!? 久し振りね……いやホント久し振りよね。何か月? 半年ぶり?」
「だいたい一年以内ですね。本当にこんなに時間が掛かるとは思いませんでしたよ」
やれやれと首を振り、ミネとナベが差し出した手とハイタッチを交わし空いてる場所に座る。
「お疲れ様です、ニノさん。実家の方は終わったんですね」
「ひとまずですね。わたくしが次期当主に決まりましたが、そのせいで色々やることが増えたのであと半月ほどは戻れません。アイちゃんが帰ってくるまでには帰れると思いますが」
やれやれ、と扇子を取り出して仰ぐ。
ふーん、と返していたが、ふと気付き、ミネは聞き返す。
「え、次の当主になったの? アンタが!?」
「アイ狂いのニノが当主なんて、千年続いた家もついに没落ね……」
「二人とも酷すぎません? まあ、わたくしも次期当主になれると思いませんでしたよ。それもこれもお兄さんのおかげ……いえ、お兄さんのせいですね」
「ん? なんでそこで名桐が出てくんのよ」
「それは……ところでミヤコさん。お兄さんと社長は?」
「まだ帰ってきてないわよ。悠はこっちに戻ってるの?」
「…………あの暴走ノータリンが」
ミヤコの問いに、吐き捨てるように言い放ちすぐにスマホを取り出し、どこかへ電話を掛ける。
突然の暴言にミネとナベ、そしてミヤコも目を丸くしている。
数コールほどして通話が繋がり、
『ニノ! この馬鹿何とか、だから止まれ悠! もうどこも今日は……ああもう! 何でもいいから助けてくれニノォ!!』
スピーカー越しに壱護の悲鳴が聞こえてきた。
その音量は少し離れたミヤコにも聞こえるほど。
何やってんの? アイツ。ミネが呟くのを無視し、ニノはスマホを、耳に当てながらメモ代わりの裏紙に文字を書いてミヤコに見せる。
「『十時着までの宮崎行きの予約を』……? わ、わかったわ」
「落ち着いてください社長。スマホを彼の耳に当てられますか?」
『わ、わかった! ──』
「今向かうより明日の飛行機で飛んだ方が早く会えますよ馬鹿」
『……──そうなのか?』
返ってきた言葉。遠くから「ぐえっ」とカエルが潰れた音が聞こえたが、悠は気にも留めない。
不憫すぎる。
「当たり前でしょうが。そもそも今から徒歩で何日掛けるつもりですか」
『全力出せば二、三時間で着く』
「……仮に着いたとして、面会時間は終わってます。ましてやあの子も消耗してるのです。余計な負担を負わせるつもりですか? ブチ転がしますよ?」
『……』
「わかったらさっさと事務所に帰ってきなさいノータリン。当然、社長も無事に届けるように」
『……わかった』
通話が切れて、部屋の中に静寂が訪れる。
ふぅ、と溜め息を吐いたニノはミヤコに話し掛ける。
「ミヤコさん。予約は取れましたか?」
「えっ、ええ、どうにか二人分取れたわ」
「結構。それと確か小道具ってそこの物入れでしたよね?」
突然の質問に首を傾げながら頷くミヤコに、ニノは礼を言うと物入れを開けて中を物色し始める。これは持ちやすい、こっちの方が硬いか、なんて少し物騒だ。
恐る恐るミネが声を掛ける。ニノは背を向けたまま答えた。
「あ~……ニノ?」
「これは小振りすぎ──なんですか?」
「何探してるのかしら?」
「お兄さんをぶん殴れる物を探してます」
「ぶん殴る……えーっと、なんで?」
「……まあ、早いか遅いかですね。──それっ」
少し考えたが、すぐにスマホを取り出してミネに向かって放る。受け取ったミネはそのスマホがニノの物ではないと気付いた。
誰のと聞き、お兄さんの、と答える。
メッセージアプリを見てくださいな、と言われ、言われた通りアプリを開く。後ろからナベとミヤコも覗き込む。
最新のメッセージ相手はアイ。
そして見てしまった。出産を終えたアイと腕に抱かれた双子の写真を。
「うぇえええ!? こ、こここれ! この写真って!!」
「無事に生まれたのね。双子ってのは聞いてないけど……うん、可愛いじゃん」
「よかった……母子共に大丈夫そうね。ああ、そう……ニノさん、だから?」
「ええ。この写真見てお兄さんが暴走してるんですよ」
それに、と付け加える。
「お兄さん、自分の人生賭けて祖父と勝負してたんですよ」
出来るかぎり簡潔に今日あったことを説明する。
簡潔と言っても一言二言で済ませられる話ではないのだが。
それでもミヤコたち三人が理解できるように説明し終えると、ミネとナベはニノの隣でごそごそと小道具を漁り始めた。
ミヤコは仕方ないと言わんばかりに肩を竦め、仕事に戻った。
しばらくして部屋の扉が開けられる。
死んだように疲れ切った壱護を小脇に抱えた悠を出迎えたのは、
「戻ったぞ」
「氏ね」 「殴ッ血KILL」 「ヤローブッコロシアー」
「それが終わったら正座しなさいな」
それぞれが選び抜いた小道具を持った歌姫たちだったとさ。
もちろん、その裏には笑顔で怒っているミヤコが控えているのだった。
斎藤社長? ミヤコさんが説教中にミネたちにソファに寝かされ看病されてるよ。