愛が欲しい一番星と愛を知りたい転生者   作:だんご大家族

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 書きたい話の流れを思いついたので、書き直しのため次話の投稿が少し遅くなります。


十三話

 開始の宣言と共にお兄さんは、

 

「……動かない?」

「いえ、動かないというより、モニターを見ていますね」

 

 その場で動かずにジッとモニターを見続けていた。参加人数が増えたことで一つ一つのカメラの視点が調理台からではなく、元々設置されていたカメラと追加で設置された天井からのカメラの視点になっている。部屋に備え付けられたモニターと違い、数台のモニターが食戟中の彼らの姿をしっかりと捉えていた。

 部屋に備え付きのモニターに映るカメラを切り替えていき、お兄さんが映るカメラのとこで止める。モニターを見つめるお兄さんの瞳が忙しなく動いていた。ちょっと気持ち悪い。

 

「対戦相手の調理を見てる……?」

「アイツ、まさかとは思うが相手の料理を参考にして料理を作るつもりとかじゃねぇだろうな」

「確かに食材は同じ物を使うことが今回の食戟の条件に入ってるので可能ですが……あの人数ですよ。一人二人が限界のはずです」

 

 社長が予想を呟くが、側近が否定する。

 二十分、三十分と経過していき、ついには対戦相手の生徒の一人が動かないお兄さんに詰め寄っていく。他の生徒は意識をわずかに向けながらも調理を続けている。

 

『おい! いい加減にしろよテメェ!』

『……』

『総帥の血縁だかなんだか知らねぇが、さっさと調理に入れよ!』

『……』

 

「す、清々しいまでのスルー……」

「意識の一欠片も向けてませんね、あれ」

 

 耳栓でもしているのではないかと思うほど、お兄さんは男子生徒を無視し続ける。無視というか、道端に転がっている小石が如く無関心だ。流石に男子生徒が憐れ、とは思わない。これが社長のように知り合いだったらそう思えるが、優秀なんでしょうけど名前も知らない相手なのだ。

 まあ、男子生徒は無視され続け、ついにキレたみたいだ。掴みかかろうと手を伸ばす。

 

『……だいたいわかった』

 

 それさえもお兄さんは反応しない。呟くと、手が届く前に動き出し、男子生徒をかわした、とも思ってないのでしょうね。トレイを持って超大型の冷蔵庫の方へ向かう。冷蔵庫を開き、使う食材を片っ端からトレイに乗せていく。

 ここまでくると男子生徒も怒りや羞恥で顔を真っ赤に染めていき──次第に呆けていった。

 何故か。お兄さんがトレイに乗せた食材の量にだ。漫画やアニメに出てきそうな、山になるまで食材を乗せたトレイを、

 

『よっと』

 

 軽々と持ち上げて調理台に戻っていく。というかあのトレイ、総重量は何キロ、いえ何十キロです? トレイや底にある食材が潰れたりしてません?

 その途中、男子生徒の横を通り過ぎる際、

 

『────、────』

『は……!?』

『──。────』

『な、なんでっ……!』

『────、──、──────』

 

 モニター越しでは聞こえない何かを囁き、男子生徒の呆けた表情を今度は驚きに変えた。いえ、驚きというより──恐怖でしょうか。怯えたように自分の調理台へ戻っていく男子生徒を既に無い物として扱い、お兄さんは食材を手に取り、

 

「……え?」

 

 隣でえりなさんの呟きが聞こえる。

 それもそうでしょう。1st BOUTでは見える速度で調理していたが、今のお兄さんは、食材を切っている姿がほとんど見えないのだから。切り終わった、と判断できるのは、食材を手にした姿と切り終えた食材が次々とトレイに並べられているからこそ。加えて、出汁の準備、合わせ調味料の配合等、他の調理工程も同時並行で済ませていく。時々、何度もモニターに視線を向けて相手の調理を見ているが、それでも動きに迷いは見られず一切の無駄がない。

 

「……うそ」

「な、何なのですか、あの調理技術は……!?」

 

 えりなさんと側近が絶句しているが、わたくしだって食義という今でもよくわかっていない技術を知っていても、この調理速度には驚きを隠せない。

 調理している生徒もお兄さんの調理速度に目を見開いているが、そこは遠月の生徒。驚きつつも調理する手は止めず、調理のミスは犯していない。

 

 調理時間も終盤に差し掛かった頃、料理を完成させた一人の生徒が審査員へと給仕する。同時に調理を続けていたお兄さんが片手を止めフィンガースナップ──指を鳴らす。

 なにを、と思ったが、すぐに理由がわかった。入り口近くで待機していた黒服が一人、お兄さんに近づいていったのだ。

 

「花邑……」

 

 花邑。確か、その名前は以前、調べた時に見たことがあった。お兄さんの母、薙切未那様の元側付き。現在はえりなさんの側近が育つまでの仮の側付きだったはず。

 調理する手を止めることなく呟いた言葉に、花邑殿は頷きクロッシュ(フタ)に隠された皿を手に取り、審査員の方へ持っていく。どうやら給仕役は彼にやらせるみたいだ。

 審査員が生徒の料理を食べ、評価を下す。饒舌に解説しているので好評だったみたいだ。

 

『それでは薙切選手の品の審査をお願いします!』

 

 合図とともに花邑殿がフタを持ち上げる。

 中から出てきたのは──は?

 

「対戦相手と同じ料理?」

『今井選手と同じ料理……?』

 

 わたくしと進行役の言葉が重なる。

 フタの中から現れた料理は形状、盛り付け方などが異なるが、どう見ても先に出した対戦相手と同じ料理だった。

 

『偶然……いや、そんなはずはない! 十七番のお題はパスタだ! ラビオリが重なるなんて……』

『ら、ラビオリが重なったのは偶然でしょう。きっと中身は……同じ、海老とほうれん草のクリームソース……!?』

 

 観客はもちろん審査員も動揺が隠せずにいる。外側のラビオリ*1だけなら偶然と言い張れる。しかし、本来盛り付けた料理にかけるソースをとろみを強めラビオリの中に詰めているのさえ同じなのは偶然とは言い切れない。

 そんな、でもどうやって?

 その答えは、審査員の叫びにも似た質問に応えた、未だ調理中のお兄さんだった。

 

『モニターに映った食材、調味料、調理している姿から直観で作る料理を予想した』

『は……?』

『遠月生徒が作る見事なフレンチなんて今世じゃ作ったことがなかったからな。色々と参考にさせてもらった』

『はあああっ!!?』

 

 お兄さんの言葉を信じるなら、つまりあれか。モニターに映った相手の食材や調理手順を三十分ほどの短時間、調理の光景を見ただけで何を作るか予測し、寸分違わずとは言わないが料理を模倣したと。しかも、

 

『模倣……それも他の料理と同時並行して余裕すらないはずなのに、どうしてこちらの方が美味だと感じるんだ……!』

『弾むような海老のぷりっとした食感に濃厚なほうれん草と生クリームのソースが合わさって……ダメ、ソースを泳ぐ海老に抱かれ溺れちゃう……っ!』

 

 どの審査員もお兄さんの出した模倣料理の方が美味だと感じている。女性の審査員なんて快楽をその身に味わうようにビクビクと感じてしまっている体を自分で抱きしめている。

 

 なんですか、それ。かつて、数日掛けて覚えたことをアイちゃんが一日で覚えてしまったことを引き合いに出したことがありましたが、お兄さんがやっていることはその比じゃない。

 例えるなら──そう考えた時にふと思い出した。

 以前、暇つぶしにたまたま見た動画投稿サイトで、ルービックキューブの六面揃えの世界記録を出した短い動画。それと似ていると。

 料理とルービックキューブなんて例え話としておかしいと思う。ですが、まさにそれだ。

 配置(調理)を観察し、手順を予測し、最速で組み上げる(調理する)

 言ってることはおかしいかもしれないが、今まさにそれを実践しているのだ。

 

 そして──模倣したのは一品だけでなく、十五品全て。

 奇しくも、社長の予想が当たってしまう珍事に言葉を失う。流石にあんなのは知らない。お兄さんの直感が当たりやすいのは知ってるが、そこまで予測できるなんて思いもしない。

 

『せ、2nd BOUT、勝者──な、薙切悠……』

 

『じゅ、十五品全てを模倣し、模倣した料理を軽々と上回った……だと!?』

『ありない……あんなの、あんなの人間技じゃないわ……!』

『パ──本物を越えた模倣(パーフェクト・トレース)……!!』

 

 観客の大きすぎるざわめきがモニター越しでも伝わってくる。お爺様は目を見開き、仙左衛門様は椅子から立ち上がりかけている。

 司会役が震える声で進行を進める中、今度こそお兄さんは口を挟むことなく出入り口へ向かい、

 

『次は残りの一般生徒全員出しといてくれ。学園総帥殿』

 

 なんて、挑発染みた発言を残し、控え室に戻っていく。

 休憩時間は一時間。しっかりと休んでもらいたいが、同時に言いたいことも山ほどある。

 椅子から立ち上がり、えりなさんにお願いする。

 

「えりなさん。申し訳ありませんが、悠さんの控え室へ案内してもらえますか?」

「は、はい。緋沙子、花邑に連絡してちょうだい」

「か、かしこまりました。少々お待ちください」

「お、俺も行くぞ」

 

 慌てて立ち上がる社長。ですが、わたくしは首を横に振り、部屋の隅に引っ張る。

 

「社長は次の休憩で来てください。今は別でお願いしたいことが」

「……もしかして、あっちの様子か」

 

 ──本当にこの方は。

 普段は情けない姿が多いのに、どうしてこう必要な時は察しも良く、頼りがいのある大人になるんでしょうか。もう少しこの状態が多ければミヤコさんももっと素直になるでしょうに。

 

「だったらすぐに連絡して、そのまま悠に伝えれば……」

「あちらはわかりませんが、お兄さんに伝えるのは慎重に行った方がいいです。ないとは思いますが、もし伝えてお兄さんがこの場を投げ出してしまったら、全てが水の泡です」

「……ありうるな。わかった、あのバカは任せた」

「お願いします」

 

 頭を下げて、えりなさんと側近と共に部屋を出る。先導してくれる側近の後に続き廊下を歩き、数分もしない内に先程お兄さんの給仕をしていた花邑殿が扉の前で門番のように立つ部屋に到着した。

 

「お待ちしておりました、えりなお嬢様。織崎藤乃様」

「悠お兄様は?」

「部屋に。許可は頂いておりますので、どうぞ」

 

 横にズレて扉の前から離れる。えりなさんが頷き、わたくしに先を譲ってくれる。

 お礼を言って、わたくしはノックもせずに扉を開いた。後にえりなさんも続く。

 

「ヤベーことしてる変態はここですね?」

「のっけから変なこと言ってるお前の方がヤベーよ」

 

 部屋にいたお兄さんに反論される。案外普通に言い返されたが、当のお兄さんはソファに力なくもたれているという珍しい姿を見せていた。

 

「……いや、よく考えたらお前は元々ヤベー奴だったわ」

「失礼な。わたくしがヤベー奴なら、お兄さんはもっとヤベー奴です」

「……お兄さん?」

「んなわけ……。…………なんでお前が遠月(ここ)にいる? ニノ」

 

 いつもと変わらない会話の応酬の途中で、お兄さんがようやく気付いたように聞いてくる。これはだいぶ消耗していますね。普段であれば、一言目で聞いてくるはずですから。

 

「よく見ればえりなちゃんも……」

「お久し振りです。悠お兄様」

「久し振り。ああ、まだアイのサインは描いてもらってないんだ。ごめんな」

 

 普段では信じられない程優しい声音でえりなさんと接している。

 ひとまず、わたくしがここにいる理由だけ伝え、元々の話題に話を戻す。

 

「それで? 一体どうして、こんな大舞台で、非人間技を披露してるんでしょうか?」

「非人間技とは失礼な……別に、権力って奴が欲しくなっただけだ」

「それがどうして食戟なんかを……」

「有無を言わせない実力で黙らせるためだ」

「…………ああ、そういう」

 

 お兄さんの言葉に少し考え込み、すぐに思い至る。一応、確認のためにえりなさんに「反対する者が多いのですね」と聞けば、視線を逸らして頷く。やはり家の規模が大きいほど厄介になるのは下の連中というのは、どこの名家でも変わりませんね。

 ですが──浅慮。あまりにも浅慮が過ぎる。

 

「他に遣りようはあったと思いますが?」

「あっただろうな。楽な選択がこれしか思い浮かばなかっただけで」

「楽? 五十戦もの食戟を楽と言いますか」

「料理の腕が何よりの薙切家相手なら、一番楽な選択だろ」

「どこがっ、一番楽な選択と言えますか!」

「楽だろう。疲労はするが、ただ料理をするだけなんだから」

「だから、お兄さんが──名桐悠が疲労しているではありませんか!」

「自分の疲労など二の次に決まってるだろう」

 

 何言ってるんだ、と返してくる。その顔は疲労が浮かんではいるがいつもと変わらぬ表情で。

 ミシリ、と手元で嫌な音が聞こえる。ああ、この男は本当に……。

 

ふざけるなよ下郎

「……あ?

己が消耗が二の次だと? わたくしの前でよくも吠えたな

 

 怒ることは多々あれど、プッツンときてしまったのは本当に久し振りだった。普段絶対言わない喋り方と圧に、お兄さんも反射的に出した声が低くなる。睨みつけられ、若干圧を感じるが、そんなことで動じるわたくしではない。わたくしを怖がらせたければ、それ以上の殺気を出してきなさい。

 

わたくしに説いた己が言葉を忘れたか

「……どれだ」

「──紅丹朱緋」

「……ああ、あの時か。そういえば、言ったな」

あの時と違い、立場は逆転している。だからこそ今度はわたくしが言ってやる

 

 扇子をしまい、空いた手でお兄さんの胸倉を掴んで引き寄せる。お兄さんの力であれば振りほどくことなど造作もないはずだが、何もせず至近距離で互いを見つめ合う。

 

「自己犠牲はやめよ。もう貴様の命は、貴様自身でさえ軽んじて良いものではない」

 

 人には言っておいて、自分の命は軽く見過ぎている。見ず知らずの人間に動くことは決してないが、身内に対しては絶対動いてくれる。そんな状況は見たことなかったが、今の状況を見て確信した。この人は身内が傷つくぐらいなら、自分が傷つけばいいという思考の持ち主だ。

 だけど、そんなことは絶対に許さない。

 社長が、ミヤコさんが、ミネちゃんやナベちゃん、わたくしが。

 何よりもアイちゃんが、アイちゃんが命を懸けて産もうとする子どもが──

 

「わかるか? ──お兄さんの命はもう、わたくしたちにとって喪うことができない大切なものなんですから」

「──」

 

 呆けた顔を向けるお兄さん。初めて見ましたね、そんな顔。

 胸元を掴んでいる手首をお兄さんが叩き、力を緩める。ドサリとソファにもたれこんだお兄さんは天井を見上げ、

 

「彼女にも言われた言葉……薙切家に来てる時はすっかり忘れてたな」

「いつもは覚えてるんじゃないですか」

「それと、ミネにも似たような言葉で釘を刺されていたのを思い出した」

「忘れないでくださいよ……ああ、誤解なきよう言っておきますが、大切というのは友人・仲間という意味ですからね。勘違いしないでください」

「するかよ。しないが……いや、ああ、もう忘れない」

「約束ですよ。破ったら、アイちゃんがどうなるかわかりませんからね」

「おいばかやめろ」

 

 穏やかな口調で自分に言い聞かせるような言葉。

 これなら大丈夫でしょう。けれど、たったこれだけのはずなのにかなり疲れました。対面のソファに座り込む。

 立ちっぱなしのえりなさんに手で招き寄せる。隣に座ったえりなさんを引き寄せ、頭を優しく撫でる。

 

「ごめんなさいねえりなさん。歳上の言い争いなんて戯言、怖かったでしょう」

「ふぇぇ……い、いえ……慣れていますので」

「……慣れてはいけないものに慣れてしまうのは名家の欠点であり宿命ですからね。薙切に入るなら、妹分は甘やかしてあげてくださいね。得意でしょ、悠お・に・い・さ・ま?」

「うっざ……言われなくてもそうするさ」

「あうあう……あ、あの……どうしてニノさんが悠お兄様のことをお兄さんって?」

 

 どうにかわたくしの手から逃れようとしているえりなさんが聞いてくる。

 

「どうしてだ?」

「ああ、猫被ってた時の慣れです。当時は歳上相手はお兄さんって言ってた方が人気が出ていたのでそのキャラ付けの名残ですね。それに呼び分けって大事ですし?」

「……えりなちゃんは参考にするなよ。こいつの猫被りは異常だから」

「あ~……そうですね。イメチェン事変は見ました」

 

 何故か遠い目をして思い出すえりなさん。

 ところでえりなさん。あなた一体いつからB小町好きなんです?

 

「ところでお兄さん? 何故、あんなケンカ腰でやっているんですか」

「プライドの高い奴らばっかだから挑発すればやりやすいと思った。あとは……ちょっとした八つ当たりだ」

「八つ当たりって……ああ、そっちですか。二十年越しかつ当人の意思を無視した八つ当たりは如何なものかと思いますが?」

「知るか。物理的な八つ当たりじゃないだけマシだろ」

「物理的ってなんですか。流石に直接の被害は出さないでしょうし……もしかして校舎の一画でも壊すつもりでしたか? なんて……」

「……」

「……え、できませんよね? いくらお兄さんでも無理ですよね? 目、逸らさないでくれます?」

「というかお前もなんだ、さっきの喋り方。どこぞの女王様か?」

「わかりやすいほど話を逸らしますね。ただの黒歴史ですよ、ああ思い出すだけで痛い痛い」

 

 なんて。

 他愛のない話題で盛り上がり、時間が経つのも忘れていると。

 ノックの音が部屋に響く。

 

『悠様。ご歓談中のところ申し訳ありませんが……』

「ああ、時間か。すぐに行く」

 

 花邑殿の声に応え、お兄さんは立ち上がる。その様子はだいぶ回復したようだが実際どうだろうか。中身までは流石に把握できない。

 

「悠お兄様……」

「わかってると思いますがお兄さん」

「無茶はもうしないさ。──えりなちゃんも心配してくれてありがとうな」

 

 最後に心配そうに見つめるえりなさんの頭を撫でて、振り返らずに部屋を出て行く。

 わたくしたちもそれに合わせて外で待機してくれていた側近と共に観戦していた部屋に戻る。部屋では社長が落ち着きのない様子で座っている。

 

「お、おお。戻ったか」

「はい。──そちらはどうでしたか」

「ああ、あっちは……」

 

 そこまで言って口ごもる。何を言おうか迷っているような感じだ。

 結局、迷いの末に諦めたのか、

 

「悠はどうだった?」

 

 と、聞いてきたので、一応問題はないと答える。

 

「そうか」

「……そちらは問題でもありましたか?」

「い、いや問題はない……いや、そうだな。まずは次の休息で悠に会わせてくれ。それから話す」

「……? わかりました」

「ただ……」

「ただ?」

 

 

「正直、悠がどう反応するかわからないから、伝えるのが怖いがな」

*1
二枚のパスタ生地の間に、挽き肉やみじん切りにした野菜等の食材を詰め、四角に切り分けたパスタ




Tips『本物を越えた模倣(パーフェクト・トレース)』:
 他人が準備した食材や材料、調理する姿から食義と直感で何を作るか予測し、だいたい同じ料理を作る。だいたいと付いているのは、あくまで食義や直観による予測であるため、原作『周到なる追跡(パーフェクト・トレース)』のように相手を分析して完璧に真似ることはできないため。ただし食義や直観による技術や「こうした方が美味い」という頭に浮かぶアレンジで旨味は倍増している。
 品数が増え『名桐悠』の料理ではないが、模倣元から美味な品が昇華され更に美味となり十五品全てで3―0という評価で突破した。あと二十人と十人。

 名称は会場で誰かが呟いた言葉が広がったことにより、命名。なお悠は命名を知らないし、興味もない。そんな風に呼ばれていることを知れば、
「本来の持ち主の彼に悪いな。もうあまり人物のことは覚えてないけど、割と好きなんだよ彼。外道部分以外は」
 なんて思ってたり。
 食義+原作の直観+元々持つ自身の直観という自分の能力全部使って出来ることをしただけ。
 ただ、流石にコレばかりはズルいやり方だと思っている。文句を言われても仕方ない。
 それでも何を言われようと、後の食戟は普通の料理と模倣した料理の二種類で勝ち続けるのみ。

 ――ただし、現代の人間の限界を超えている肉体はともかく、ミスは許されない状況下での精神面や普段以上に酷使し、常に調理の最適解を食義と直観で思考し導き出している脳への負担は非常に大きい。2nd BOUT後に疲労していたのはそのため。

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