その日の夜、もちろんウパパロンを避け続けた私は、自分の部屋に戻って一息つく。
多分誰も入っていないだろうと洗面所の扉を開けた時、先客がいた。
ウパパロンはお風呂上りなのか、髪の毛が濡れていた。
自分の部屋に帰ろうと背中を向けた時だった。
差し出されたのはドライヤー。
「ん。」じゃねぇよ、「ん。」じゃ。
とか思いながらも押し返す。
完全にこれは負けたなと思った。
私ってもしかしてウパパロン相手には弱いのかな。
だってこんなデレデレのウパパロン初めてだし、甘えられるのはうれしいし……。
なんとなく悔しさを感じながらもドライヤーのスイッチを入れた。
ブォーッ_____
ドライヤーが大きく音を立てて、熱風を出した。
なんだかんだ言って私達はまだ2人っきりで遊んだりとかはしていない。
ドライヤーの音が大きくて聞こえなかったが、まぁいっかと適当に返事をしておいた。
それにしてもウパパロンの髪の毛は本当に柔らかいなぁ。
まるで猫の毛みたい。
女子の私よりも手入れしてるとかショックだし、なんかムカつく。
そろそろ乾いてきたからドライヤーのスイッチを切った。
さっきよりも丁寧に一通り乾かして、再びドライヤーを止めた。
怒るような言葉も出なかった。
なんでこの生物はこんなに素直なんだ…?
ウパパロンは突然立ち上がり、洗面台へ向かった。
あー、なんとなく嫌な予感するなぁとも思った。
次の瞬間、水を頭からかぶっていた。
水がぽたぽたと垂れるほど浴びたその髪の毛は、今までせっかく乾かした私の努力を水の泡に……
私は少し不貞腐れながら洗面所を出た。
そしてキッチンに向かい、「ウパパロン」と書いてある付箋が貼られた15個入りのアイスの箱を出す。
先週、ウパパロンがるんるん気分で買ってきたアイス。
いろんな味があって、「一人で食べるんだぁー。」とか言ってた気がする。
律儀に食べられないように名前まで書いっちゃって。
アイスの匂いを嗅ぎつけてきた他の人達が集まってくる。
みんなの楽しそうな笑い声が家中に響いた。
今日もめめ村は平和です。
みんなでわいわいと勝手に食べたアイスはとても甘かった。
けれどそれ以上に、洗面所で貴方と過ごしたあの一時の方が甘かったよ。
だなんて、素直に言える日が来たらいいのにな。
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編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。