新型「トヨタ・クラウン エステート」の発売時期はどうして延期されたのか?

2024.03.14 デイリーコラム 佐野 弘宗

新型「クラウン」の最後を飾るバリエーション

当初2023年度内(2024年3月まで)とされていた新型「クラウン エステート」の発売が延期された。日本経済新聞が、この事態を最初に報じたのが2024年2月9日。現在は公式ウェブサイトにも「2024年央以降、発売予定」とある。“年央”とあるが、もう少し具体的には、6月下旬以降になる見込みらしい。

その理由について、トヨタ自動車広報部は「お客さまへより良い商品をお届けできるよう、さらなる車両のつくり込みを行っております。今しばらくお待ちいただきますよう、よろしくお願い申し上げます」と説明する。これを言葉どおりに解釈すれば、車両開発の最終仕上げに想定以上に時間がかかっており、品質最優先で市場投入を先延ばしにするということだ。

ご承知の向きも多いように、新型クラウン エステートとは、先代までの4ドアセダン一択から4機種をそろえるファミリーブランドへと変革した新型クラウンの、ひとまず最後を飾るバリエーションである。

もっとも、歴史を振り返ると、クラウンが4ドアセダンという単一車形のラインナップだったのは、1955年に発売された初代と、2012年発売の先々代(14代目)、そして2018年の先代(15代目)という3世代のみ。それ以外のクラウンには「ステーションワゴン」や「バン」、さらに「クーペ」があったり、同じ4ドアでも、サッシュレスドアのハードトップとサッシュドアのセダンの2種類、あるいは「マジェスタ」を加えた3種類を用意したりといった時代もあった。

エステートを名乗るクラウンにしても、今回発売延期された新型が初めてではない。

「洗練と余裕の大人の雰囲気を併せ持ち、後席のフルフラットデッキと共に、機能的なSUVとしてアクティブライフを楽しめる、ワゴンとSUVの融合」と紹介されるトヨタの新型「クラウン エステート」。当初、発売は2023年度内とされていた。
「洗練と余裕の大人の雰囲気を併せ持ち、後席のフルフラットデッキと共に、機能的なSUVとしてアクティブライフを楽しめる、ワゴンとSUVの融合」と紹介されるトヨタの新型「クラウン エステート」。当初、発売は2023年度内とされていた。拡大
2022年7月15日に千葉・幕張メッセで行われた16代目「トヨタ・クラウン」発表イベントの様子。トヨタ自動車の豊田章男社長(当時)が「徳川幕府の江戸時代も、15代で幕を閉じております。16代目のクラウン。日本の歴史に重ね合わせれば、それは明治維新です」とスピーチした後、「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の車型が異なる4モデルが同時に披露された。
2022年7月15日に千葉・幕張メッセで行われた16代目「トヨタ・クラウン」発表イベントの様子。トヨタ自動車の豊田章男社長(当時)が「徳川幕府の江戸時代も、15代で幕を閉じております。16代目のクラウン。日本の歴史に重ね合わせれば、それは明治維新です」とスピーチした後、「クロスオーバー」「スポーツ」「セダン」「エステート」の車型が異なる4モデルが同時に披露された。拡大
トヨタが「アクティブライフを楽しむワゴンとSUVのクロスオーバー」と紹介する「クラウン エステート」。公式ウェブサイトでも「2024年央以降、発売予定」とアナウンスされている。
トヨタが「アクティブライフを楽しむワゴンとSUVのクロスオーバー」と紹介する「クラウン エステート」。公式ウェブサイトでも「2024年央以降、発売予定」とアナウンスされている。拡大
「クラウン エステート」のリアビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4930×1880×1620mmで、ホイールベースは2850mm。(数値はいずれも開発目標値)
「クラウン エステート」のリアビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4930×1880×1620mmで、ホイールベースは2850mm。(数値はいずれも開発目標値)拡大
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17年ぶりにエステートが復活

クラウンのステーションワゴンは1962年発売の2代目で「カスタム」の名で初登場。1967年発売の3代目から1995年発売の10代目までは同じ車体で商用車登録のバンもあった。ちなみに9~10代目クラウン時代のステーションワゴン/バンは、8代目にマイナーチェンジや化粧直しを施しながら1999年末まで販売された。

そんなクラウンのワゴンが、おりからのステーションワゴンブームを背景に12年3世代ぶりにフルモデルチェンジされたのが1999年12月。最新の11代目クラウンをベースに、あらためて国産最高級ステーションワゴンとして開発された。そのときに従来のワゴンと一線を画して、また高級なイメージもある“エステート”という名前がクラウンで初めて与えられたのだった。しかし、その後は国内のステーションワゴンブームも急速に落ち着いて、エステートもフルモデルチェンジされることなく放置。2007年6月(当時の4ドアは12代目)にひっそりと生産終了となった。

というわけで、新型クラウン エステートは厳密には2代目だが、初代のような背低ステーションワゴンではなく、いわゆるSUVである。用意されるパワートレインは「クラウン スポーツ」同様の2.5リッターハイブリッドと同プラグインハイブリッドの2種類。1620mmという全高は新型クラウンではもっとも大きく、SUVとしては背が低めだが、クラウン スポーツよりは明らかに高い実用性や居住性をイメージさせる。さらに4930mmという全長は、トヨタ/レクサスのモノコック構造の乗用車設計SUVではもっとも大きい。

そんなクルマに、往年のバンやワゴンを始祖とするクラウン エステートという車名を与えた意図をうかがわせるのは、荷室の機能だ。クラウン エステートのプロトタイプ画像を見ると、ていねいにカーペットが張られた巨大な荷室空間が目につく。さらに後席を倒すと見事なフラット空間となり、しかも前席シートバックとのすき間を埋める収納ボードのようなものも用意されていることも分かる。

1999年12月に登場した「クラウン エステート」。11代目「クラウン」をベースに、最高級ステーションワゴンとして開発された。クラウンで初めてエステートの名称が用いられたのがこのモデルだ。4ドアのクラウンが12代目にフルモデルチェンジした後も11代目ベースのままラインナップされ、2007年6月に生産終了となった。
1999年12月に登場した「クラウン エステート」。11代目「クラウン」をベースに、最高級ステーションワゴンとして開発された。クラウンで初めてエステートの名称が用いられたのがこのモデルだ。4ドアのクラウンが12代目にフルモデルチェンジした後も11代目ベースのままラインナップされ、2007年6月に生産終了となった。拡大
「クラウン エステート」のサイドビュー。ワゴンとSUVのクロスオーバーとうたわれるだけあって、高めに設定された車高と最低地上高、そしてボディー後端にまでまっすぐ伸びたルーフラインが特徴だ。
「クラウン エステート」のサイドビュー。ワゴンとSUVのクロスオーバーとうたわれるだけあって、高めに設定された車高と最低地上高、そしてボディー後端にまでまっすぐ伸びたルーフラインが特徴だ。拡大
「クラウン クロスオーバー」のサイドビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4930×1840×1540mmで、ホイールベースは2850mm。流麗なルーフラインやホイールハウス周辺のアーチモールなどが目を引く。
「クラウン クロスオーバー」のサイドビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4930×1840×1540mmで、ホイールベースは2850mm。流麗なルーフラインやホイールハウス周辺のアーチモールなどが目を引く。拡大
新型「クラウン」シリーズの第2弾モデルとして登場した「クラウン スポーツ」のサイドビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4720×1880×1565mmで、ホイールベースは2770mmと、シリーズで全長とホイールベースが一番短い。スポーティーで躍動的、ひと目見ればワクワクするような美しい造形を目指したという。
新型「クラウン」シリーズの第2弾モデルとして登場した「クラウン スポーツ」のサイドビュー。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4720×1880×1565mmで、ホイールベースは2770mmと、シリーズで全長とホイールベースが一番短い。スポーティーで躍動的、ひと目見ればワクワクするような美しい造形を目指したという。拡大

グループの認証不正問題と関係が?

新型クラウン エステートの詳細な諸元は明らかではない。ただ、その北米仕様と思われる「クラウン シグニア」の後席を倒したときの最大荷室長は6.5フィート(≒198cm)と公表されているから、国内向けクラウン エステートも2m近い荷室長を誇る“使える高級SUV”となっていることが期待できる。

さて、今回のように開発時間を確保するために発売延期される例は、トヨタにかぎらず、ときどきあることではある。しかし、2023年末のクラウン セダン発売時にもエステートの発売予定はそのままだった。なのに、年明け2月という、なんならすでに発売されていてもおかしくないくらいギリギリのタイミングでの延期発表には、違和感がなくもない。

ここ最近でトヨタに起こった事件といえば、ダイハツや豊田自動織機など、トヨタグループ企業による認証不正問題である。これを受けてトヨタ本体でも開発・認証体制の再点検がおこなわれていても不思議ではなく、その際に“明確な不正ではないが、誤解を招きかねない事象”みたいなものが判明していたりして?……なんて、われわれ無責任な外野はどうしても勘ぐりたくなってしまう。

……といった疑問もトヨタ広報部に素直にぶつけてみたところ、「今回の発売時期変更に関しましては、グループの認証不正問題とは関係ございません。お客さまへより良い商品をお届けするためのさらなるつくり込みの時間です」との回答だった。

ということなら、トヨタ最高級SUVにふさわしい品質をきわめたクラウン エステートの発売を、あらためて期待しながら待ちましょう。

(文=佐野弘宗/写真=トヨタ自動車、webCG/編集=櫻井健一)

日本より一足先に北米で詳細情報が公開された「クラウン シグニア」。新型「クラウン エステート」の北米仕様車といわれ、2024年夏にデリバリーを開始する予定だ。
日本より一足先に北米で詳細情報が公開された「クラウン シグニア」。新型「クラウン エステート」の北米仕様車といわれ、2024年夏にデリバリーを開始する予定だ。拡大
北米では「クロスオーバー」に続く2モデル目の「クラウン」となる「シグニア」。北米で販売する車両も日本の「クラウン エステート」と同様に、愛知・堤工場で生産される。
北米では「クロスオーバー」に続く2モデル目の「クラウン」となる「シグニア」。北米で販売する車両も日本の「クラウン エステート」と同様に、愛知・堤工場で生産される。拡大
「クラウン シグニア」のインテリア。運転席と助手席に8Wayのパワーシートが標準で装備される。「リミテッド」グレードの運転席には、メモリー機能付きオートスライドアウェイを採用している。
「クラウン シグニア」のインテリア。運転席と助手席に8Wayのパワーシートが標準で装備される。「リミテッド」グレードの運転席には、メモリー機能付きオートスライドアウェイを採用している。拡大
「クラウン シグニア」の後席背もたれには60:40の分割可倒機構が備わる。背もたれを前方に倒した状態での最大荷室長は、6.5フィート(≒198cm)と発表されている。
「クラウン シグニア」の後席背もたれには60:40の分割可倒機構が備わる。背もたれを前方に倒した状態での最大荷室長は、6.5フィート(≒198cm)と発表されている。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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