深夜の音楽会が終わった翌週の月曜日。
放課後、僕と喜多とリョウさんは駅前のマックに集まっていた。これからの事を相談する為だ。
喜多は見事に自身の推しであるリョウ先輩に認められ、バンド仲間として加入した――とはならなかった。
理由としては、まず二つある。
一つ目はまずリョウさんの都合だ。
再会した僕達にリョウさんはまずケジメを付けてくると僕らに宣言した。
「私、はむきたすを抜ける時に結構ひどい別れ方をしちゃったんだ。だからまず、ちゃんと謝って、二人とちゃんと決着を付けてくる」
リョウ先輩が所属していた「ざ・はむきたす」。解散した理由は一言で言えば「音楽性の違い」。他人から見ればそう一言でシンプルに片付ける事はできるが、当の本人達から見ればもっと複雑だ。
ざ・はむきたすが求めた物と、リョウさんが求めたロックは違った。
けれど、それはリョウさんが残りの二人を嫌った理由にはならない。したくないとリョウさんは語った。
結果的にどうしようもなく壊れてしまった小さなロックバンド。もう元に戻る事はない、けれどリョウさんにとっては確かに大事な居場所の一つだったのだ。
それとしっかりと決別する。最期の別れを伝えに行く。
「一回ぐらい殴られるかもだけど、それを片付けないで、郁代とバンドを組むのは……私にとって良くない、引きずる物があるから。新しい場所に旅立つならちゃんと荷物は整理していくよ。郁代と憂いなくロックをする為に」
ニヒルに笑いながら言うリョウ先輩を見て、やっぱりこの人ロックンローラーだなと僕は嬉しくなった。
「リ゛ョ゛ウ゛先輩~~~!私、私……う゛ぅ~~~~!」
「おーよしよし。郁代、ありがとう」
喜多なんか感動してぼろぼろ涙を流していた。憧れの先輩が自分の為に動いてくれるのが嬉しいのだろう。慰めるように喜多を抱くリョウさん。何て尊い光景なんだ。
「リョウさん……」
「カズ……」
「この間のピザ代は割り勘にするって話は……」
「…………ごめん、お金ない。立て替えて」
「ビッグマックのセット、僕がたった今立て替えたんですが」
「来月バイト代が入るから。そしたら返す」
これが無ければマジで尊敬できるベーシストだったんだが。ちゃっかりLサイズのポテトとコーラを頼む辺り面の皮が厚過ぎる。ていうか奢られ方に慣れてない?さては結構な頻度で他の誰かにたかってるな?
「失礼な。カズはそこまで私がクズベーシストに見える?」
「受験シーズンの中学生に奢られるピザは美味しかったです?」
「滅茶苦茶美味しかった。また奢って」
「はいはい!私が奢ります!奢らせてください!」
「……やっぱり喜多と組ませるのは間違いなのでは……?」
なんだこのベーシストとボーカル。相性が悪い意味で良すぎて最悪だ。メンヘラ地雷系女子と売れないベーシストぐらいに相性が良すぎて最悪。ナチュラルにクズい部分があるリョウさんと山田リョウ全肯定マシーンの喜多郁代。この二人組を組ませたらどう考えても爛れた関係になりそうで、やはり結束バンドと言うかリョウさんに喜多を預けるのはまずいのではと心配になる。
そんな僕の葛藤は一旦脇に置いておいて、喜多とリョウさんのバンドの設立は一旦保留。それに、バンドを解散してからたった一週間で別のバンドを立ち上げるというのはリョウさんの体裁も良くない。密約があったみたいじゃないか。
それに、たった二人ではバンドとして成り立たせるのも難しい。とりあえず時間を置いて、その間に別のメンバーを見つけようという話になった。
ベースとギターボーカルは既にいる。ならば最優先はドラムだろう。ロックを支える屋台骨、バンドの支柱とも言える重要な存在だ。
「ドラムは一人当てがある。安心して」
リョウさんはそんな風に言ってたけど、正直全然安心できなかった。どうしよう。
一応喜多も「私も学校で探してみます!」と意気込んでたけど正直難しいだろう。僕らの中学校にいるギタリスト達は大体が既に他所でバンドを組んでいるか、軽音部に所属している。ていうかそもそもギターやドラムができる人は多くない。見つけられる可能性は厳しいと言わざるを得ないだろう。
そしてもう一つの理由は単純にしてシンプル。僕達は今受験シーズン中の中学三年生である。忙しすぎてバンドしている場合じゃねえってなる。
正直メンバー探しに専念する余裕はないし、もうすぐ期末テストだ。
仮に最速でギターとドラムが見つかったとしても、バンドとして活動できるのは恐らく夏休みに突入してからだろう。
「はぁ……リョウ先輩に会いたい……早くバンドしたいなぁ……」
「喜多。それもう十回は言ってる」
いつものように僕の家で期末テストの勉強をする喜多は、フラストレーションが溜まっているのかぶつくさと文句を垂れ流している。壊れたラジオみたいだ。質が悪いのが、電源を切る方法がないってところだ。
「あーあ、どこかの幼馴染が、余っているギターを貸してくれてついでに教えてくれたらなぁ……」
「……」
「まあしてくれる訳ないわよね。12年幼馴染やってて……って言っても、一緒にいるようになったのは最近の方だけど。そんな幼馴染にずっと黙ってたんだから教えてくれる訳ないわよね~」
「……勘弁してよ」
ジトッと粘着質な目で、どこか恨めし気にネチネチと僕に当たってくる。多分これ、受験勉強のストレスも僕で発散しているなと呆れながらも、僕はそれを甘んじて受けることにした。
先日、リョウさんをロックの道に引き戻す為に久しぶりに掻き鳴らしたアコスティックギター。喜多はずっと僕がギターを弾けることを隠されていた事に大変ご立腹のようだった。喜多曰く「私がギターをずっとやりたかったの知ってたくせに何も言わなかったなんて!」とのこと。
別に隠した訳じゃない、言わなかっただけだ――とは言わない。それが真実でも余計にこの幼馴染の反感を買うのは明白だ。ていうか、普段から寛容でニコニコの喜多がここまで怒っているのを、僕は初めて見る。どうやったら『男殺しの女王様』のご機嫌を取り戻せるのか、僕には見当もつかない。
大人しくギターを差し出して技術を教えれば機嫌も丸くなるだろうか? でも、それは避けたい。
確かに、音楽大学教授の母の機材部屋にはギター以外にもいろんな楽器がごろごろと置いてある。僕がその中から相棒として選んだのはアコスティックギターだったが、探せば一、二本ぐらい使っていないエレキギターは出てくるだろう。
けれど喜多にそれを黙っていたのは、僕自身やはり結束バンドに強い関わりを持ちたくないという思いがまだある事。その内自然消滅のようにこの関係が解消される事をどこかで願っているのだ。
喜多郁代と関わる処かベーシストの山田リョウとまで関わっておいて今更どの口が言ってるんだと自分でも思うが、僕は悪あがきのように一般モブへジョブチェンジしたいと願ってしまうのだ……。
「それにー。私が知らない間に、リョウ先輩を家に上げてるみたいだしー?」
「勝手に上がり込んでくるだけだし。本当に勘弁してくれません?」
あの人とのトークは楽しいけど夕飯をたかろうとしてくるのはマジで勘弁してほしい。この間なんか勝手にCDコンポ使って「SUSHI食べたい」とか流してたからな。欲望が明け透けすぎてびっくりしたよ。ハイエンドスピーカーで無駄に高音質な電波ソングを垂れ流して夕飯をリクエストするんじゃあない。
ちなみに「奢られたいなら喜多の所に行けばいいじゃないですか」と文句を付けたら。
「カズ、後輩にたかるのは良くない」
「なーに言ってるんですか」
リョウさん曰く
終いには「おなかのへるうた〜デトロイトロックシティー」を無駄にいい顔といい声で熱唱してくるので、スーパーのパック寿司コーナー……に置いてあるわさびとガリを持ってきてやった。怒られた。後でウーバーイーツで寿司を取らされた。
まぁそれは置いといて……ここ最近の放課後は喜多が不機嫌なせいで空気が悪い。喜多は僕にちょっかいはかけて来ても、嫌がらせみたいなことはしてこない。けれど「自分は怒ってますよ」と遠回しに語ってくる。喜多が音楽鑑賞会の為に家にやってくると、必ずと言っていいほど一曲目にレクイエム「怒りの日」を掛けてくる程だ。誰が見ても彼女は僕に対して怒っている。なのに、この音楽鑑賞会をやめようとはしない。僕と関わるのを止めようとしてくれなかった。
音楽には感情がついてくると言ったのは誰だったか。鬱憤を晴らすがの如く、最近彼女が借りてくCDはハードロックばかりだ。Sum41とかRefusedとか、どこで知ったんだ。いや僕のCDラックだ…。最近は遠慮と言う物が殆ど消えて、無断でCDを借りていく事が多い。
まだほっぺたを膨らませて文句言ってきてくれた方が楽だった。
普段だったら次の日にはCDの感想を嬉々として語ってくるのに、喜多はじっと僕を責めるように見てくるだけで、何も言わない。居心地が悪いってレベルの話じゃなかった。
「――潮時、かな」
ちょうどいい頃だろう。僕もそろそろ、夢から覚めるべきだ。二度目の人生で、推しのボーカルが歌うロックを聴くことができたんだ。ロックの神様だって羨む体験をしたんだ。もう満足していいだろ。
そう考えていると僕のスマホに通知が入った。それと同じタイミングで、喜多のスマホにも。待受画面には山田リョウと表示されている。
「リョウさんから?」
「そっちも先輩からLINE来たの?」
どうやら同じタイミングで送信してきたらしい。
アプリを開くと、つい先日に連絡先を交換したLINEがメッセージの通知を自己主張していた。
タップしてその用件を見ると、僕と喜多は思わず顔を見合わせた。
<山田リョウ>
・ドラマーが見つかった
・次の土曜日、STARRYに来て
不機嫌だった喜多の顔が、ぱっと花開く様に笑顔になった。
7月の中旬。
全ての学生の敵と言っても過言ではない期末テストが終了し、夏休みも目前。受験生にとっては勉強の根詰めをする季節ではあるが、それでも中学最後の夏休みにクラスメイト達も心を躍らせている。中学最後の夏休みは、誰にとってもきっと大切な物だ。それは二度とやってこない最後の夏だと皆が知っている。来年には皆それぞれの進路に向かうから、本当に最後の夏なのだ。
翌週に終業式を控えた土曜日、僕と喜多は以前リョウさんに案内されたライブハウスSTARRYへと足を向けていた。
喜多はこの日ばかりはご機嫌で、ふんふんと「歓喜の歌」を鼻歌で歌いながらるんるんスキップで歩いている。
何故僕まで呼ばれたんだ、と思ったが喜多とリョウさんを二人きりにさせると何が起こるか予測ができない為、今回も付いて行くことにした。
下北沢は東京の中心、渋谷だって近くにあるけどどこかアングラな雰囲気が漂っている。昭和時代と平成時代の中間に生まれたような背が低いビルが建ち並んで、どこか時代から少し取り残されたような町だ。
階段を下りてまだ『準備中』の札が掛けられたSTARRYの扉を潜ると、いつぞやの店長とばったり出くわした。
「お前らはこの間の……」
「あ、て、店長さん!こんにちは、私達今日リョウ先輩にお呼ばれして……」
「あー、話は聞いてる。虹夏もリョウも奥で待ってるから。さっさと行きな」
「ありがとうございます!」
僕と喜多はぺこりと頭を下げてそのまま奥へ進むと、店長は僕に「オイ」とぶっきらぼうに声を掛けられた。足を止めて振り向くと、店長はこちらを見ないまま、小さなボリュームで言ってきた。
「…………今度は客として来い」
「ア、ハイ」
なんだろう。何か言いたそうだったが濁された感じがする。でも見た目に反していい人そうな気がした。
前回ここに来た時に座ったホールへ向かうと、そこにはリョウさんと――!?
「あ、やっと来た」
「リョウ先輩!お待たせしましたー!あ、その人が……」
「そう、私の幼馴染」
「初めまして!高校一年の伊地知虹夏です!担当はドラムス、よろしくね!」
僕はついに、結束バンドの支柱とも言えるドラムス担当の伊地知虹夏と遭遇したのだった。
ていうか前ここに来た時の店長の妹さんじゃん。すれ違った時に気付けよ僕。
赤いリボンと黄色いサイドテールが特徴的な虹夏先輩は、喜多に負けず劣らずの社交的な女の子だった。
「君がカズ君と喜多ちゃんだね?リョウから話は聞いてるよ!落ち込んでた自分をロックでぶん殴ってきた二人だって!珍しく落ち込んでたリョウが元気になったのは二人のおかげだって聞いたから、ちゃんと会っておきたかったんだ。リョウってば、前のバンドが解散してからすんごーくうじうじしてどう励まそうかなって私も悩んでたから、二人が元気にしてくれたおかげで手間が省けたよ!本当にありがとね」
虹夏先輩は僕達二人に感謝を伝えるように両手を握ってぶんぶんと振り回しながらお礼を言ってくれた。
「おお……」
「ん?」
「普通の人だ……」
「いきなり失礼だっ!?」
初対面で分かる。この人いい人だと(確信)
良かった。
僕は安堵の息を吐いて虹夏先輩の手を握り返す。
「うちのイロモノを何卒よろしくお願いします……」
「イロモノって何!? 一体何を押し付ける気なのっ!?」
「カズ君!?イロモノって何、ひょっとしなくても私の事!?」
そうだよ(無慈悲)
喜多は僕がどれだけ気を揉んだかちょっとは知って欲しい。
まあそれは置いて、僕達も改めて自己紹介する。
「中学三年の井上和正です」
「よろしくね、あっ、今更だけどカズ君でいい?」
「大丈夫ですよ」
「同じく中学三年の喜多郁代です!」
「……なんか下の名前だけ上手く聞き取れなかったような」
「私の名前は喜多喜多です」
「なんて?」
なんでだろうね?
ひょっとしてその自己紹介、初対面の奴全員にするつもりなのだろうか。
どちらにせよリョウさんが喜多の事を郁代呼びするんだから、直ぐにバレるだろうに。
「私の事は虹夏でいいよ。苗字呼び難いし、お姉ちゃんと被って紛らわしいから」
「ここでは店長と呼べ」
カウンター席でノートパソコンをいじっていた店長がぶっきらぼうに言ってくる。僕らの話はばっちり聞いていたらしい。
……すげえちらちらこっち見てくるじゃん。仕事してるフリしながら。
多分これあれだ。妹の様子を陰ながら見守ってるんだ。何だあの人、怖い人かと思ったらただのシスコンか。
「郁代。こっち来て」
すると、リョウさんは椅子に立て掛けていた黒いギターケースを喜多に差し出した。
「これって……」
喜多はそれを驚きながらも受け取った。客用の丸テーブルの上に置いてそっとケースを開くと、中には水色カラーのギターが眠っていた。まだあまり使われてないのか、使用感が薄いギブソンのレスポールジュニアだ。
昔ながらのクラシックなデザイン。それでいて珍しい水色のカラー。老舗メーカーのギブソンが送り出す名シリーズ『レスポールジュニア』。それは僕が前世で見たアルバムジャケットで、喜多郁代が使っていたギターそのままの姿で、今僕の目の前にある。
「わぁ!」
喜多は目を輝かせながら、興奮を抑えきれないように手を叩いてる。
「こ、これ!つけてみて良いですか!?」
「ん」
リョウさんが頷くと、喜多は待ちきれなかったと言わんばかりに飛びつき、落とさないようにそろそろと丁寧にギターのストラップを肩に掛けて、構えた。
「ど、どうですか!」
まだギターの重さに慣れていない喜多は、少しその感覚に振り回されながらもこっちを見て聴いてきた。
僕はその時幻視した。大勢の観客の前でギターを構える喜多郁代の姿を。誰かにロックンロールを響かすギターの甲高い音を。瞬きするとその幻想はすぐに消えたが、僕は確信に近い予感があった。
このギターは、喜多郁代の為に造られた物なんだって。
「良く似合ってる」
「喜多ちゃん映えるねぇ!一人前のロックンローラーみたいだよ!」
「えへへっ」
やはり私のチョイスに狂いはなかったとばかりに玄人感を出して頷くリョウさんと、ぱちぱちと楽しそうに拍手している虹夏先輩。僕も少し感慨深さを感じながら小さく拍手を送った。新たなロックンローラーの誕生を、僕達は祝福する。よく見ると店長さんとスタッフさん……多分PAエンジニアの人かな。その人達もささやかな拍手を喜多に送ってくれている。
「リョウ先輩、これって」
「うん。郁代の為のギター。私が一時期使ってたけど、しばらくお飾りになっていたからちょうどいいと思って」
「そんな!こんな高価な物、受け取れませんって!」
「気にしなくていい。これは、私のお礼も含んでるから」
「お礼?」
「私をロックに引き戻してくれたお礼と、郁代のこれからの成長に期待した先行投資。これからの郁代に期待してる」
「リョウ先輩……!」
感極まって今にも泣き出しそうな喜多に、リョウさんは少し微笑んで言った。
「5万でいい」
「「金取るのかよ!」」
虹夏先輩と僕のツッコミが虚しくハモった。
本当にこういう所が無ければ最高に尊敬できるベーシストなんだが。虹夏先輩と同時に吐き出した溜息は薄暗いライブハウスの中に溶けるように消えていった。
幸い、喜多は先日多弦ベースを返品した時に返ってきた予算があった。元々、今日リョウさんと一緒にギターショップに行って買ってくるつもりだったらしいが、憧れのリョウさんから買わせてもらったという事実がより一層ギターに愛着を湧かせている。渡りに船というわけだ。
「これ、絶対絶対に大切にしますね!」
そう言いながらイソスタに挙げる為の写真をスマホでパシャパシャ撮っている。もちろん肩にかけて自撮りした写真も。撮影の合間に時々ピックで弦を弾いては「わぁ……!」と感動を隠し切れないようにはしゃいでいる。クラスの連中は喜多がバンドを組みたがってたのを知っているので、きっとたくさんのいいねが付くだろう。それにしても初めてのギターを手にした喜多は本当に楽しそうだ。ただ中古のギターを売ってもらったのではなく、彼女にとっては数百万以上の価値ある宝物を譲ってもらったように感じているのだろう。
実際、リョウさんからもらったあのレスポールジュニアは十万以上はする代物だろうから、喜多はかなり得している。まだギター弾き始めてもないのにあんないい物を使ったら今後別のギターを買う時に苦労しそうだな、と僕はなんとなく他人事のように思った。
「これでアンプ付きのコンポに届く……!」
目を輝かせながら諭吉5人分を懐にしまうリョウさんに「マック代とピザ代とこの間の寿司代返してください」って言ったらムンクの叫びみたいな顔された。いやちゃんと返して。
一万円をもぎとりおつりの五千円を押し付けるとリョウさんは少し恨みがましい目で僕をぽこぽこと殴ってくる。
「カズの鬼。鬼畜。悪魔。ルシファー。一生憐れんでやる」
「憐れむべき悪魔*1は多分リョウさんの方ですよ」
金欠の悪魔とか多分そんな感じの悪魔。字面だけでなんか可哀想だし弱そう。誰かチェンソーマンかエクソシスト呼んできて。
「ごめんねーカズ君。リョウったら本当に金遣い荒くて……他に借りてるお金ない?」
「とりあえず大丈夫ですよ」
リョウさんの浪費癖は幼馴染の虹夏先輩も知っていたのだろう。その癖を直すのはとうの昔に無理と悟っているのか、やれやれと言わんばかりに首を振る。どうやら相当苦労してきたらしく、そんな虹夏先輩に初対面のはずの僕は結構好感を持てた。リョウさんの株が落ちれば虹夏先輩の株が上がる。何と言うトレードオフ。
当のリョウさんはいじけて吉田拓郎の『今日までそして明日から』を歌い出していると言うのに。
「【私は今日まで生きてみました 時には誰かに裏切られて~】」
鬱陶しいことこの上なかった。声が無駄に良くて歌が上手いのもちょっと腹立つ。
「前の『はむきたす』の人達にも結構お金借りててさー、揉めてたりしたんだよねー」
「リョウさん、ひょっとしてバンド解散したのってそういう……」
「ちゃ、ちゃうちゃうちゃう!ちゃんと全額返したし喧嘩したのは本当にそういうのじゃない!」
虹夏先輩の証言に珍しく慌てて首をぶんぶん振って否定するリョウさん。普段の無表情が青ざめて額に冷や汗が滲んでいるのが見える。
正直、今も僕が言わなかったら普通に返す前に散財してただろうから信用がない。そう思っていると虹夏先輩は「お金返そうとしなかったらいつでも言ってね?殴ってでも返させるから」と少し凄みのある目で約束してくれた。リョウさんは「ブルータスお前もか」とショックを受けていたが、いざと言う時は頼りにさせていただきます。
「【オイラ世界にたった一人だよ~いつも世界にたった一人だよ~】」
今度は爆弾ジョニーを歌い始めた。もう手が付けられないよこのベーシスト。
「さて!喜多ちゃんはギターをゲットした、リョウもベーシストに戻った!これでいつでもバンドを結成できるね!」
「いよいよですね!私、期末テストの勉強まったく手がつかないぐらい楽しみにしてたんです!」
「いやそこはちゃんと勉強しろ受験生」
僕のツッコミを他所に、虹夏先輩が拳を天井に突き上げて宣言する。
「私達のバンド、『結束バンド』を!」
「おー」
「おー……え?結束バンド?」
喜多は一瞬バンド名にぽかんとしてたが、リョウさんが「可愛くない?」って訊くと「超かわいいです!」と一瞬で肯定した。本当に手の平くるっくるね。
「……やっぱり寒いと思う?」
虹夏さんはそうぼそりと不安そうに僕に尋ねてくる。僕はその不安を否定するように答えた。
「いいと思いますよ、結束バンド。バンド名なんてフィーリングなんですから、女子高生らしく可愛くてシンプルな名前でOKです。それに知ってます?」
「何を?」
「結束バンドって配線ケーブルを束ねるベルトですけど、
僕がそう確かめると、虹夏先輩は嬉しそうに首を振る。
「ならいいと思いますよ。それにまだ結成から1日目なんですから、(仮)とでも付けておけばいいですよ」
「――そうだね!」
虹夏先輩はひまわりを咲かせたように笑って頷いてくれた。
ようやくだ。ようやく結束バンドが結成した。本当に長かったと思う。
転生してから15年目、ようやくあのロックバンドが僕の前に姿を現した。僕が前世で推したロックンローラーが。
まだあと一人のギタリストの姿は見えないが――いつか姿を現し、このバンドを支えてくれる
「それじゃあ新バンド『結束バンド(仮)』のミーティングを始めるよー!」
「おー!」
「おー」
「まずベースはリョウ!」
「うい」
「喜多ちゃんがボーカル兼ギター!」
「はーい!」
「そしてドラマーが私こと伊地知虹夏!あと一応このバンドのリーダーをやります!」
「「わー」」
「そして我らが結束バンドのプロデューサー兼マネージャーの井上和正君!」
「…………え?」
唐突に名前を呼ばれてぽかんとする僕。ナゼ?一体どうして?
ていうかプロデューサー兼マネージャーって何だ。
「ちょ、ちょっと待ってください虹夏先輩!」
「ん?どしたの?」
「……プロデューサー兼マネージャーってなんです?」
「えっ。リョウから訊いてないの?」
「リョウさん……?」
「ん、私がねじ込んでやった」
自慢げに「いい仕事したでしょ?」とサムズアップしてくる。何やってんだ山田ァ!
助けを求める為に喜多の方を向くが彼女もそっぽを向く。さてはお前も共犯か!
「いやいやいや!ガールズバンドに男が入るのはダメでしょ!」
「何がダメなの?」
リョウさんに首を傾げられ、僕も思わず喉に石が詰まったように言葉が出なくなる。
「えっと……公序良俗的に……?」
「公序良俗って(笑)」
虹夏先輩がうろたえる僕に苦笑する。僕も馬鹿な事を言った自覚があり、恥ずかしくなって顔が熱くなるのを感じた。
「大丈夫だよ~。私は気にしてないし、それにリョウから訊いたんだ。筋金入りの聞き専で知識がすごいって!」
「それにこの間カズの家で食べた夕飯美味しかった。今度は弁当作って欲しいし私がポカリ飲みたい時は買って来て欲しい」
それはマネージャーじゃなくてただのパシリなんだよ。
「真面目に言うと、ロックを熟知しているカズの耳と知識は貴重。バンドをしていく上で第三者の意見やサポートは大事」
「うぐっ」
と思ったらこの人意外と考えてる……!
「後、私にとって――ううん、このバンドにとっての
「保険……?」
僕がオウムのように聞き返すとリョウさんは頷く。
「虹夏や郁代がそうなるとは思っていないけど、『はむきたす』の時のようにバンドが、誰も知らない内に良くない方向に転がり落ちる事がある。そうなったら誰かがコントロールする必要があるんだ。バンドのメンバーじゃダメ、外からコントロールできる存在が。実際、私は『はむきたす』が望んでいない方向へと進んでいるのに止める事も戻す事もできなかった。『はむきたす』の解散で、ロックバンドって結構不安定な綱渡りなんだって私は痛感した。個性も考えも違う人間が集まって演奏するんだから、当然と言えば当然なんだけど。だから舵取りをしてくれる人が必要なんだ。灯台の灯りを真っすぐ案内してくれる誰かが必要。この役目は親しくもない人や信頼できない人には任せられない。でもカズなら私達も安心できる」
不安を打ち明けるように告げてくるリョウさんの言葉には、強い説得力があった。それは彼女が、『はむきたす』と言う居場所を失ったからこそ、その喪失感を知っているからこその説得力だった。
確かに、リョウさんの言う通りバンドはちょっとした事で崩れる事もある。恋愛、金銭、音楽性の違い。他人から見れば大した事がないような理由で、星の数ほどのバンドが日の目を見ないまま消えるし、世界一と言える程の頂へと到達したビートルズだって解散してしまった。どんな物にも終わりがあるが、バンド程寿命が不安定でもろい集まりも珍しい。つまりリョウさんが僕に求める役割は
「あんな思い、二度としたくないし虹夏達にさせたくない。でも荒野を歩くには、道を照らす灯が必要だから。夜の海を航海する為には、灯台の灯りが必要なんだ。カズは私達が行きたい方向へ導く、その力になってくれる。実際、迷っていた私をロックの道へと引き戻した。だから私は、カズに居て欲しい。私達が暗闇で迷わないよう、道を示して欲しいんだ」
無表情なリョウ先輩の目に、真剣な光が帯びる。そんなリョウさんの言葉に、喜多も虹夏先輩も少し悲しそうに唇を歪めた。
「よしよし。リョウってば、そんなに真剣に考えてくれてたんだね~」
「リョウ先輩!私達、ずっとずっと一緒ですから!そんな悲しそうな顔しないでください~!」
慰めるようにリョウさんへ抱き着く喜多と虹夏先輩を他所に、僕はどうしようかと頭を悩ませた。
もっと適当な理由で編成されていると思ってた。こうも買われているとうまく断りにくい。ていうか、ここまで言われると少し嬉しくて照れと戸惑いが来てしまう。
僕はただ、喜多がバンドを組めるようにブラインドフェイスを弾いただけだ。それだけでここまで買われてしまっても僕は困って、照れ臭くなって、口を蓋されたように何も言えなくなる。
「に、虹夏先輩はどう思ってるんです?」
僕は逃げるように虹夏先輩の方に問いかけた。
落ち着け。とりあえず水を飲みながら虹夏先輩に意見を訊いてみよう。
「私も初対面だけど、今日会ってみて改めてやっていけそうだなーって思ったから大丈夫!それにカズ君って、喜多ちゃんの声、好きなんでしょ?」
虹夏先輩がにやにやと揶揄うように笑いながら僕に問いかけてくる。僕はそれを聞いて思わず飲んでいた水を吹き出しそうになった。
「ど、どうしてそのことを」
「私が話した。異性で幼馴染の郁代の声が性癖で合唱コンクールでQueenの『Somebody To Love』を歌わせた事を」
「山田ァ!」
言い方ってもんがあるだろ!
「聞いたし観たよ~。合唱コンクールにフレディをぶっこむなんて、なかなかにロックだよね!しかも自分が女性ボーカルで聴きたいからって言う我儘な願望で喜多ちゃんをボーカルにしたんだって!リョウから発案者がカズ君だって聞いて、思ったの。カズ君のその強引さと型にハマらないアイデアはきっと私達の力になってくれるって!」
「うん。期待してる。だから一緒にやろ?性癖である郁代の歌声もいつでも聴ける」
「だから性癖って言わないでください」
どうしてその理由で僕を加入させようとするんだよ。やったのはただ合唱曲にフレディを選んだだけだぞ?
アコギ上手かったからとかならまだ分かるけど喜多の声が性癖って。ひどい言い方だ。否定はしないが。
「郁代も。黙ってないでなんとか説得して」
するとリョウ先輩が途中から黙りこくってた喜多に声をかけた。喜多はもじもじと言い難そうに僕とリョウさんを交互に見てくる。
「ほーら、愛しの幼馴染からも頼んであげてよ!喜多ちゃんも、カズ君に結束バンドを支えて欲しいってリョウに相談してたらしいし!ね、喜多ちゃん!」
「…………別に、居てくれなくてもいいですけど」
すると、普段の活発な喜多からは連想できない、蝋燭の火が消えるような小さな声でぽつりと言った。
「一番前で聴いてくれないと…やだ」
「おまっ……」
「おおー喜多ちゃんだいたーん!」
「郁代。がんがん押してけ」
いじらしく照れた喜多は、顔が赤くなったのを誤魔化す様にリョウさんと虹夏先輩を振り払って叫んだ。
「もうっ、揶揄わないでください!それでどうするのカズ君!私達のバンドに入るの、入らないの!?」
僕の方をびしりと指差しながら問いかける。なんて声を出せばいいのか、僕は絞り切った雑巾のように口から何も出せなくなった。
そして二十秒程頭から血が噴き出るぐらい悩んだ挙句――
「……保留で」
「日和った」
リョウさんうるさい。こんな空気で断る事なんてできる訳ないじゃないか。情けないのは自分でも分かってる。
ていうか喜多のあの顔なんだよ!あれじゃあまるでっ。
そんな時、頭の中にあの神様の声が響いた。
「百合が男に堕とされるのが好きなのじゃ!嫌われてはおるが、それだって一つのジャンルのはずじゃ!」
ファッキュー神様! ホーリーシット神のビチグソ!
「それじゃあチキンだったカズ君は仮加入としまーす」
「チキン、焼きそばパン買ってきて」
「リョウさん、チキンはパシリの代名詞じゃないんですよ」
あの後「ええ、マジかこいつ」みたいにチクチクとリョウさんと虹夏先輩にたっぷりといじられた後、ミーティングが再開した。
リョウさんと虹夏先輩には「真剣に考えて欲しい」とお願いされたけど、喜多は昨日の機嫌を更に三倍ぐらい不機嫌にさせてしまって、僕とはほとんど口も利いてくれなくなった。
「優柔不断なカス君なんか放って置いて、ミーティングしましょ、先輩!」
「カス君ってなんだよ。いじめか?」
「何?優柔不断でチキンなカス君」
「なんでもないです」
こんな扱いである。距離もなんか拳3つ分ぐらい空いた。さっきまで隣の椅子に並んで座ってたのに。露骨に避けられると年甲斐もなくちょっと傷つく。
「それで結局、結束バンドはスリーピースバンド*2でやるんですか?」
僕の記憶では、あともう一人結束バンドのメンバーがいずれ加わるはずだが。
その疑問にはリョウ先輩が答えてくれた。
「ううん。あと一人、リードギターが欲しい。郁代の歌は上手なのは知ってるけど、まだギターは始めてもいない。これから上達する事を加味しても、もう一人ギターが必要」
「リョウと私で相談しててね。一人ギターが増えるだけで音の厚みも違うし、できる事も増える。だから絶対4人でやろうって決めてたの!でもごめんね喜多ちゃん、色々探したんだけどまだギターは見つからなくって」
「郁代が超絶初心者である事を前提にすると、リードギターはどうしても上級者であって欲しいから。しばらくこの3人でやる事になる」
「だから当面は、喜多ちゃんにちょっと負担が大きいと思う!でも、私もリョウもサポートしていくから頑張っていこ!」
「うう、私頑張りますね!」
僕はその言葉にちょっと安心する。よかった、結束バンドのもう一人の枠はまだ空いたままだ。このまま良く知らないモブが入ってたりしたら……僕はどうすればよかったのか。
「私はカズにやってもらいたかったけど……嫌なんでしょ」
「はい」
「即答~……あはは」
「カズが筋金入りの聴き専なのは分かってた。でも代理やセッションでぐらい、一緒に演って欲しい。カズのブラインドフェイス、上手だったから。一緒にやりたい」
リョウさんがストレートに僕を勧誘してくれたが、僕は上手く答える事ができず、曖昧に笑って流した。心の中に沸き立つ何かに無理やり蓋をして押さえつけながら。
「りょ、リョウ先輩!私、音楽キチのカズ君より絶対に上手くなりますから!だからそんなの放って置いちゃっていいですよ!私、最高のギタリストになってみせますから!」
「音楽キチって(笑)ひどい言い様だねぇ」
「うん。最終的には郁代にはMr.Bigの『Colorado Bulldog』のイントロを弾けるようになって欲しい」
「え゛っ。あのめちゃくちゃカッコいいですけどめちゃくちゃなイントロをですか……?」
「郁代ならできるって私は信じてる」
「こらこら、そんなプレッシャーかけないの。あんな難しいイントロ、ギター始めたばかりの喜多ちゃんには酷……」
「先輩…そんなに私のことを買ってくれて…」
「あれ。私が想像してたリアクションと違うぞー?」
「虹夏先輩、喜多のあれには早く慣れた方がいいですよ」
「平常運転なのアレ!?」
「残念なことに…」
「君も結構苦労してるんだね!?」
だが僕も忘れていた。喜多は筋金入りの熱血派でプレッシャーをかけると持ち前のプラス思考でそれを乗り越えようとすることを。
「なら私、一生懸命頑張りますねっ!!」(キターン!!)
「ぐぉっ眩しっ!?目が潰れる……!まるで直射日光を眼球で浴びたような……がぁぁ!」
「なんか前よりキタサンオーラが強化されてる……!?何故!?」
疑問に思っているといつの間にかサングラスを掛けていたリョウさんが言う。
「多分カズのせい」
「何故!?」
ひどい濡れ衣を見た。
「それはさておいてね、今後の活動方針としては当面コピーバンドとして活動していこうと思うの」
宇宙侵略者キターン星人のキタサンオーラからなんとか視力を回復させた虹夏先輩は改めてそう宣言した。
「コピーですか?てっきりオリジナル曲をやるもんだと僕は思ってました」
確か前世でも結束バンドがカバーした曲はアジカン*3ぐらいで、あとはオリジナル曲だったはずだ。
「いずれはやりたい。でも、今はタイミングが悪い」
「タイミング?」
リョウさんの言葉にこてんと首を傾げる喜多に、虹夏先輩は若干呆れながら言った。
「喜多ちゃん、忘れてるでしょ。喜多ちゃん今は受験生なんだよ?」
「あっ……」
「すっぽり頭から抜けてたって顔だね」
「よっぽどバンド組むの楽しみだったんだねぇ~よしよし」
「ううっ!」
はしゃぐ子供を見守るように虹夏先輩が喜多の頭をよしよしと撫で始めた。これがママ味か……本当にひとつ違いか?母性がすごい。
虹夏先輩の言う通り、実際ここ数日の喜多は結構はしゃいでたと言うか、今日の事を楽しみにしていたのだ。期末テスト期間だと言うのに心ここにあらずと言う場面を僕は目撃している。あと一学期の中間に比べて点数が少し落ちていた事も。
「郁代はギターをこれから始める超絶初心者。いきなりオリジナル曲を練習するよりも、郁代の好きな曲を演奏して、ギターの楽しさを味わってほしいんだ。それに、コピー曲を練習するのは私や虹夏の引き出しを増やす練習にもなる。だから、『自分が初心者だから』って言う引け目を感じる必要はない」
「なるほど……私の為だけと言う訳じゃないんですね」
「そう。だから郁代が中学卒業するまでは、郁代と虹夏のスキルアップに時間を使いたい。技術と、あとは音楽の楽しさを知って欲しい。オリジナル曲を作るのは郁代の受験が終わる頃か、高校生になってからで大丈夫。虹夏もお世辞にもドラムスが上手い訳じゃないから、ちょうどいい」
「くぅ~……リョウに言われるとなんか悔しいなぁ!まだ下手だって自覚があるだけに!」
唸りながら虹夏先輩がリョウさんを睨みつけると、リョウさんは挑発的に鼻で笑った。
「来いよ虹夏……ロックンローラーの高みへ」
「リョウさんは何目線なんだよ」
「四皇って程じゃないでしょ」
「気分はポール・マッカートニー*4」
「身の程を知らなさ過ぎるこのベーシスト!」
「その溢れる自信の源は一体どこなの?」
一体どこからそんな自信が涌き出てくるんだ。世界スターのベーシストと肩を並べてる気になれるその度胸が知りたい。
「リョウ先輩……カッコいい……一生推せる!」
対して喜多はいつも通りである。
そんな二人を見てやや疲れた顔をした虹夏先輩が、縋るように僕に頼んできた。
「ねえ、やっぱりカズ君入ってよ。私だけじゃツッコミ足らないよ」
「すいません、お笑い事務所には興味ないんで……」
「ロックバンドだよ!?」
虹夏先輩の苦労は察して余りあるが、それはそれ、これはこれだ。自分からわざわざ火の中に飛び込む事はしたくない。これからは虹夏先輩が支えてくんですよ。お前が結束バンドの柱になれ。
「と言う訳で当面の私達がする事は、身内でのセッションで技術を身に着けつつ、郁代にギターを演奏する楽しさを知ってもらう事。でも身内だけで閉じこもる演奏だけだとつまらないから、時々……そうだね。一か月に1回は誰か他人の前で演奏して『人の前で演奏する』メンタルを身に着ける。場慣れしていけば、ライブハウスで演奏する時も緊張する事は少なくなるから」
「おぉ……リョウにしてはすごいマトモだ」
「リョウ先輩……!私の為にそこまで考えてくれたんですかっ!嬉しいです!」
感動に打ち震える喜多に、リョウさんは首を小さく振った。
「違う。これ、昨日カズが郁代の為にほとんど考えた」
「え?」
「あ、バラしやがった」
「あれカズ、バラしちゃダメだった?」
「いや別に……悪くはないんですが」
別に悪くはないけど、良くもない。特に僕にとって。なんか気恥ずかしかった。
「カズがほとんど郁代の為に考えた。私も少し意見したけどカズは『デビューよりもまず音楽を楽しむ事から知って欲しい』って。それに受験生だから、郁代が無理して身体を壊さないようにハードルを低めにしようって言ってた」
「あー、やっぱりリョウじゃなかったか。そうだよね、リョウにしては気が利きすぎるって思ったもん」
「虹夏、失礼。私がそんなクズベーシストに見える?」
「普段の言動を省みなって。そういう所を見せてけば少しは見直せるのに」
「って言ってもちゃんと喜多の事考えてる辺り、面倒見はいいんだなって思いますよリョウさんは」
「カズ君だーめ。誉めるとすぐ調子乗るから」
「えへへ。でも筋は通っているしやっぱりカズはプロデューサー兼マネージャーの才能がある」
プロデューサーはともかくマネージャーの才能って何?まあ実際、自分に懐いている喜多の為に「どういう風に郁代に教えて上げたらいい?」ってわざわざ僕にLINEで訊いてきたんだから、なんだかんだ喜多の事を可愛い後輩だと思っているんだろう。普段のクズっぷりにはちょっと辟易するが、こういう尊敬できるところがあるから素直に嫌いになれないのだ。
「カズの意見には私も同感だったし、何よりまずギターで演奏する事を好きになって欲しいから――郁代?」
「…………」
「あーダメだ。喜多の奴フリーズしちゃってる。コンセント抜きます?一回シャットダウンしなきゃ」
「そんな壊れかけのパソコンみたいな処置するのっ!?」
時々突拍子もなくこうなるんだよなぁ喜多は。おーい、おっきろー。
「ねぇ、リョウ。薄々分かってたけどひょっとして喜多ちゃんって……」
「虹夏のお察しの通り。ゾッコン」
「あらー……罪な男だねえ、カズ君は。喜多ちゃんは気付いてるのかな?今すっごく女の顔してるって」
「多分自分が片思いしていることに気付いていない。きっと初恋。リミッターが付いていない感情がオーバーヒートして郁代を思考停止させてる。カズは気付いているか分からないけど、あえてスルーしてるっぽい」
「あらら。なんだか複雑そう……そりゃますます苦労するなぁ」
「そういえばこのバンドって恋愛OKにするの?」
「あの顔見せられて今更『恋愛禁止ですー』なんて言えないよ。おーい喜多ちゃーん。そろそろ戻ってきてー」
喜多をなんとか再起動し、ミーティング再開。
メモリが吹っ飛んでいたのかここ数分間の会話は喜多の記憶から消えてしまっていたらしい。パソコンの電源を無理に落とすとハードディスクにダメージが行くから……やめようね!
「と言う訳で、これから結束バンドで練習していく曲を決めます!」
虹夏先輩の宣言に、おぉー、と僕らはぱちぱちと拍手を送る。
「一応カズ君と相談して候補曲は絞るけど、さっきも言った通り初めてのギターをする喜多ちゃんのリクエストが最優先!」
「そういう訳で、郁代は弾きたい曲はある?」
メンバーとしての初の練習曲。ただの練習曲と言っても、やはり結束バンドのメンバーで初めて演奏する曲だ。最初の曲は、やっぱり思い入れ深い曲になるし、場合によってはバンドのこれからの方向性にもなる。リョウさんも虹夏さんもそれが分かっているのだろう。どこか期待するように喜多に視線を送っている。
「えー、えー!弾きたい曲ですか?たくさんあるんですよ!」
喜多は戸惑いながらも嬉しそうに身体をくねらせた。彼女もやはり、ギターを持ったら演奏したい曲は頭の中で考えていたんだろう。先日のセッションはリョウ先輩と僕がずっとアコギを弾いていたし、実質今回の選ぶ曲が喜多のギタリストとしての一歩目となる。
「おー、どんなのどんなの?教えて!」
「まずAC/DCの『Back in Black』は絶対ですよね!」
「えっ」
まさかのチョイスに虹夏先輩が固まる。そんな先輩の動揺に気付かず、喜多は次々と自分が演奏したい曲を挙げていく。
「あと、Kansasの『Carry on My Wayward Son』も弾きたいです! 海外ドラマの主題歌*5らしいんですけど、カッコよくて私はまっちゃって!ギター始めたら絶対歌ってみたいって思ってたんです!それとQueen!全部歌ってみたいですけど、今のイチ推しは『Don't Stop Me Now』で……でもピアノが入ってるから難しいですか?あとはJourneyの『Any Way You Want it』とか大好きなんですよ!他にもThe Whoの『Baba O'Riley』とか、あそうだ、『Video Killed The Radio Star』も弾いてみたいです!いろんな人がカバーしていて、大人気の曲なんですよね!あと、そうだ!バラードでよかったら、Led Zeppelinの『Stairway To Heaven』も弾いてみたいんです!あの切なくて重い音が続く曲をギターで弾きながら歌えたらッて、ずっと憧れてて!でもそれならEaglesの『Hotel California』も……大人っぽい歌詞で聴いてて憧れちゃってて!どうやったらあんな歌詞書けるのかしら?あ、でも邦ロックも弾いてみたいんです!ちょっと古いんですけど、『歌うたいのバラッド』とか『エイリアンズ』とか……ああ~たくさんあって決めきれないわ!どうしたら……ってあれ、リョウ先輩、虹夏先輩、どうしたんですか?」
ようやく自分が引かれていることにようやく気付いたらしい。オタク特有の早口で語っていた喜多は言葉を止め、戸惑った顔で僕らの顔をきょろきょろと見回した。
「Oh……喜多ちゃん、マニアだねぇ。どうしよう、私が知らない曲もいくつかあったよ」
「虹夏はジャパニーズパンクとメロコアが中心だったから、知らなくても仕方ない。これはカズの英才教育の賜物。ちゃんと教育が行き届いている。郁代、その辺りの曲を最初に弾きたがるとはかなり渋くていいセンスだよ」
どこかご満悦な表情でサムズアップするリョウさんの言葉に、ようやく喜多も自分のチョイスが変だった事を理解し始めたらしい。
「えっ、え!?この曲ってメジャーなんじゃないんですか!? ロックンローラーはこれぐらい毎日ヘビロテするってカズ君が……」
「それ多分嘘だよ。喜多ちゃんに自分の好きな曲押し付けただけだよ」
「少なくとも今時の女子中学生がチョイスする曲じゃない」
「……ガハッ!?」
「喜多ちゃ―――ん!?」
あ、喜多が倒れた。これは効果抜群だな。喜多に対して「今時じゃない」とか「古い」とか「遅れてる」は彼女の精神にクリティカルヒットするNGワードである。受験生に対する「落ちる」よりも大ダメージを与えるNGワード。
「メジャーではあるけど日本だと知名度ないし、ほとんど私達が生まれるより前のロックだよ。当時のロック全盛期の曲だけど、海の向こうの人達が聴いたら『懐メロ』って言うと思う。私達が昭和や平成の曲を『懐かしい』とか『古い』って感じるように、向こうの若者が聴いたら古いって毒吐くんじゃないかな」
「カズ君~~~!どういうことなのよ~~~!?」
「記憶にございません」
僕や喜多が所属する中学のクラスメイト達は、合唱コンクールの影響でロックブームが起こっていた。さすがに半年過ぎる頃にはそのブームも鎮火しているが、そのブームの名残で今もロックを好んで聴く者も多く、喜多がカラオケでKansasやThe Whoを歌っても誰も違和感を持たなかったのだ。故の落とし穴。古い曲を歌っているのに誰もそれを指摘しないから自分が今流行りの曲を歌っているといつの間にか喜多の脳はバグっていたのである。
しかし借りてたCDのリリース年も見落としていたとは、余程ロックに夢中になっていたんだな。
「えっ、えっ、じゃあOasisは?オリビア*6は!?コトリンゴは!?フランツ・フェルディナンドは!?私『This Fire』を歌って町を燃やそうって決めてるんです!!」
「物騒な事考えてるね喜多ちゃん。実はストレス抱えてる?」
動揺を隠せず訳の分からない事を喚いている喜多に、リョウさんはそっと近づいて肩をぽんと叩いた。
「郁代……」
「リョウ先輩……」
「それ全部古い。オアシスはともかく、ツェッペリンやイーグルスは50年ぐらい前だよ」
「いやああああああああああ!!」
「最近のバンドがちょっと混ざってて気付きにくくなってたんだね喜多ちゃん」
「巧妙な迷彩。古いロックンロールだけでなく、あえて近代のバンドの曲を混ぜて聴かせる事であたかも最近の曲を聴いていると脳が誤解した。そもそも洋楽は日本人の耳には馴染みがないから、ロック初心者だった郁代に見破れるはずも……いや聴き破れるはずもない。なんという嫌らしいトリック」
「嫌らしいって……言い方」
僕は簡単に説明する。
リョウさんの言う通り、音楽鑑賞会であえて僕は最近の曲とオールディーズを4:6の割合で喜多に聴かせていた。いきなり昔のロックを聴かせても、『Somebody To Love』のような誰でも好きになれる名曲じゃない限り耳に馴染まないと思ったからだ。だが一緒に音楽を聴き始めて一か月程で喜多の好みはオールディーズ側に寄り始め、それに気づいた僕はそれ以降あまり最近の曲を掛けなくなった、と言う訳だ。最近だとクラシック曲の方にも手を出し始めた為、僕としてはかなり嬉しかったりする。
まあ一年前まで流行りのJ-POPしか聴かず、ロックにほとんど触れてこなかった喜多に現代のロックと昔のロックを聴き分けるのは難しかったのかもしれない。
「いや、ひょっとしたら心のどこかで気付いていたのかもしれない。だが流行りを栄養として摂取しているような喜多の事だから、自分がすこっている曲が半世紀前の曲だなんて分からないよう、脳が防衛本能で情報を受け付けずシャットアウトしたのかもしれない」
「何それ怖っ」
僕も怖いと思うよ虹夏先輩。
「知ってたけど!フレディが古いバンドだというのはカズ君が言ってたし流すロックはなんとなく古いんだろうなーって思ってたけど!他のロックまで全部そこまで古い曲だなんて知らなかった!なんでカズ君教えてくれなかったの!?50年前って!私令和の中学3年生なのに!」
「教えてたら音楽鑑賞会に『今の流行りはこれよ!』とか言ってヒットチャートの曲連打してくるだろうから。それはうっとおしいから黙ってた」
「でしょうね!!私も多分そうしてる!!」
ありありと想像できる。土日にショッピングモールに拉致って「今の流行りはこれよ!」とか言って僕を着せ替え人形にする喜多の姿がダブって見える。オススメの曲よ!とか言って僕のコンポにアオハルな曲を流してくる喜多の姿が。アオハルな曲自体は別にいいんだがその日の気分で聴くジャンルは決めてるから、急に他のジャンルをぶち込まれると耳が受け付けるのを拒否するのだ。端的に言うと萎える。例えるならラーメンを食べてる最中に急に丼にケーキをぶちこまれるような。夕食は焼肉と決めているのに蕎麦屋に連れていかれるような。そんな気分。
「ていうか喜多」
「な、何……」
「君が去年教室でノリノリで歌ってたトーキングヘッズの『サイコキラー』なんて確か1977年の歌だよ」
「―――――カヒゅッ」
「喜多ちゃ―――ん!?」
「私……クラスメイトの前で……40年以上前の曲をノリノリでカラオケしてたの……しかもそれをお昼の放送にリクエストして……カハッ」
「大変息をして!?死なないで喜多ちゃ―――ん!!」
「えぇ……トーキングヘッズを中二で……?ハードロックが過ぎる……」
「リョウが珍しく引いてる!?」
当然の反応ではあると思う。
「ていうかちょっと調べれば気付いただろうに。なんで分からなかったの?」
僕が素朴な疑問を尋ねると。
「カズ君が選ぶ曲全部素敵で気にならなかったのよ!!」
「ありがとうございますっ!?」
逆ギレしながら殴られた。ひどい。
「うわー。喜多ちゃんのプレイリストすっご」
「中3女子のプレイリストか……?これが……」
興味本位で喜多のスマホのミュージックアプリを覗き込んだ虹夏先輩とリョウさんが感心したように声を漏らした。
プレイリストに並ぶ曲はQueenを中心としたロックの名曲達。ビートルズ、トーキングヘッズ、レッド・ツェッペリン。ジャーニーがずらりと並んでいる。所々にJ-POPも入ってはいるが、それでも10年以上前の曲がほとんどだった。
「最新のアーティストは何があるの虹夏」
「一番新しいのは……これだ」
「なんだ、最近のバンドじゃん」
「そうですよね、割と最近のバンドですよ」
「お前ら本気かー?これ20年前のヒットチャートだぞー」
リョウさんと僕の感想に虹夏先輩がジトッとした目で睨みながらツッコミを入れる。
「最近でしょ虹夏先輩。レッドツェッペリン*7に比べれれば」
「そりゃツェッペリンと比べたらなんだってそうでしょカズ君」
「年代の感覚バグるよね。ツェッペリンとか古いバンドが現代でも通用するせいで余計に」
どれだけの時が流れようともロックは色褪せない。50年と言う月日が流れてもロックは良い文明。リリンが生み出した文化の極みだよってカヲル君も言ってた。
「カズ君聞いてた通り本当に通だねぇ。ここまでとは思わなかったよ。リョウと張り合えるってだけですごいんだろうなーって思ってたけど、ツェッペリンを語れるなら私も仲良くできそうだよ」
少し苦笑が混じっていたが、どこか嬉しそうに虹夏先輩は肩を叩いてくる。
「虹夏先輩もツェッペリンとか昔のバンド分かるんですか?」
「有名所はね。お姉ちゃんに「ドラムの勉強になるから」って色々聴かされたんだ。ジョン・ボーナム*8とかニール・パート*9を聴いてお前がドラマーの魂を受け継ぐんだとか言われてさ。お姉ちゃんギタリストなのにドラマーの魂ってなんだよって思ったけど。まあ私はあんまり耳に合わなかったから、リョウみたいにその世代の曲をずっと聴いてた訳じゃないんだけど、勉強になるところが多くて偶にアルバムを通しで聴いてるんだ。あんな風に叩けたらなぁって思うんだけど、なかなかね」
ニール・パートやジョーン・ボーナムはロックを、特にドラムを嗜む人なら必ず一度は彼等を目指すと言われる程の伝説的なドラマーだ。現在の売れているドラマー達のほとんどが彼等の演奏技術に影響されていると言われる程だから、その影響力は推して知るべし。
彼らがすごいと言われるのは、現役を引退、もしくはすでに天国への階段を登った後も、彼等を越えるドラマーが未だ誕生していないと言う事実だろう。それ程彼らが人を惹きつけるドラムを叩き続けたと言う証拠だ。だからこそ、現在も彼らを越えようと多くのドラマーが日夜ドラムを叩きまくっている。
「ニールパートみたいになるなら、まず虹夏は腕を最低でも後4本生やさなきゃダメ」
「私はタコか!ってツッコミたい所だけど、それぐらいしないとできないよね……」
「あの人達はマジドラムの神様みたいな存在ですからね。本人のセンスもあるんでしょうけど、どんだけ練習すればああなるのかよく分かりませんし」
「ねー。本当に尊敬できるよ。あ、Rushの『Fly By Night』は特に好きなんだ。今でもたまに聴いてるよ」
「お、その曲僕も好きです。ドラムもすごいですけど、はきはきとして力強い歌詞で聴いてて気持ちいいんですよね」
「さすがカズ君、良く知ってるね! イエーイ、私も同志~」
「「イエーイ」」
リョウさんと虹夏さんと僕と3人でハイタッチ。イエーイ楽しい~。
「うそ……私以外みんな知ってるの?ニールパートって誰……全然ついてけない……何この疎外感……」
対して喜多はかつてない疎外感を感じていた。本当に、普段はコミュ力つよつよで誰とでもコミュニケーションを取るのが得意な喜多がハブられているの、マジで珍しくて面白い。身体にキノコでも生やしそうなじめじめとしたオーラを漂わせ始めた喜多に気付いた虹夏先輩は慌てて駆け寄る。
「ご、ごめんね喜多ちゃん置いてけぼりにしちゃって!じゃ、じゃあ日本のロックバンドで何か弾きたい曲とかあるかな?」
「え、えっと、そうですね……ゆらゆら帝国とかどうでしょう?」
「郁代。そのバンド、コアなファンは多いけどそれでも知名度低い。しかもゆらゆら帝国はサイケロック。マニアが好むロックのバンドだよ」
「か、カズ君~~~~~!!」
「今のままではいけない、だからこそ今のままではいけないと思ってる」
「意味わかんないわよ!!」
恨めし気にこっちを見てくる喜多を見なかった事にしながらすっとぼける。
試しに「サイケ聴かせたらどうなるかな……」と言う好奇心で流したらまさかハマるとは。喜多がリクエストする曲が一週間ぐらいずっとサイケだった程のサイケブームがあった。つくづく人の琴線ってどこに触れるか分からない物だ。
「喜多ちゃん守備範囲意外と広いねぇ……」
「まさか郁代もサイケロックが行けるとは。同好の志が増えるのは良い事」
「あー、リョウ好きだもんねぇサイケ」
「いつかSICKHACKのライブ連れていきたい。きっと気に入る」
SICKHACKは新宿を中心に活動しているインディーズバンドらしい。らしいというのはリョウさんに教えて貰っただけで僕は聴いたことがないからだ。リョウさん曰く、かなりイカれたロックバンドだがテクニックが凄まじく目標の一人にしているベーシストがいるとのこと。
リョウさんが推すんだからすごい
「でも意外だなー。喜多ちゃんの印象的に、Mrs.GREEN APPLE*10の曲とか出されると思ったのに」
「分かる。『青と夏』とか郁代の好みのドンピシャだと思ってたから。でもジャニーズとか出されなくてよかった。アイドル系の曲は私達も知らないから」
「だねぇ。……って、喜多ちゃんどうしたの?」
虹夏先輩が眼を丸くしている喜多に違和感を感じたらしい。流行の最先端とも言えるような曲名を聴いてぴんと来ていないようだが……まさか。
「えっと……誰ですか、そのバンド。私知らないです。また古いロックバンドですか?」
僕の悪い予感は当たったらしく、きょとんとする喜多はそう答えた。
まさかの返答にリョウさんと虹夏先輩は思わず絶句する。
「えっ。郁代知らないの?」
「ゑ?」
「カズは知ってる?」
「知ってますよ。自分の趣味じゃないですけど、良い曲書いてくれますよね。まさに青春って感じの曲で」
「喜多ちゃん絶対知ってると思ってた。今のJ-POPのヒットチャートだよ?オリコンにも載ってるし」
「ゑ」
本当に事態が飲み込めていないようで、喜多は壊れたブリキのロボットみたいに、ぎぎぎ、と首を回してこっちを見てきた。いや知らんて。僕のせいじゃないし。その目怖いからこっち見ないで。ちゃんとハイライト点けて。
「あー……昔のバンドにハマると、芋づる式でその辺りの時代の曲を漁るからヒットチャートの方にあまり目が行かなくなるんだよねぇ」
喜多の様子に思い当たる節があるのか、しみじみと懐かしむように虹夏先輩は語る。
「ロックマニアあるある。昔の曲をこすり続けて最新のヒットチャートに矢印が向かなくなる現象。カズ、どうしてこうなるまで放っておいた」
「放っておいたも何も、別に喜多の好みに僕はそんなに干渉してませんし」
「嘘つき。どう考えても郁代のプレイリストはカズの影響でしょ」
「否定はできないですけど……僕は僕でヒットチャートはチェックしてましたし。喜多は喜多で好みの曲を追ってるんだと勝手に思ってました」
「なるほどー、カズ君の影響か。そりゃ最新の曲名言ってもぴんと来ない訳だ!」
虹夏先輩はどこか嬉しそうに笑った。リョウさんも心なしか嬉しそう。そして僕も。
「カズ嬉しそうだね」
「すごい悪役の顔だよ。夜神月みたい」
「計画通り……って訳じゃないんですけどね。やっぱ嬉しいですよ。布教が成功して沼に突き落とすのは楽しい」
「沼とか言うな」
何も知らない人間を自分が肩まで漬かっている底なし沼に引きずり込むのは本当に楽しい。お前もこっちに来るんだよ!
「分かる。まだ何も知らない無垢な子供を趣味と言う沼に突き落とす快感は何物にも代えがたい。同志よよくやった」
「イエーイ」
「ハイタッチイエーイ」
「そこの悪役二人!悪い顔でハイタッチしない!」
「虹夏もこっちの同類であり、同好の志でしょ?」
「そうだけどさぁ……喜多ちゃん見てよ。目が死んでるよ」
僕含めて3人とも流行りの曲を常に追い続けるタイプじゃない。ヒットチャートは最低限、テレビやネットでチェックして聴く程度だ。最新を追うより好きなバンドの好きな曲を何回もリピートして聴き続けるのが僕やリョウさん達のスタンスだ。
対して喜多は、一年ほど前までとにかく最新のオリコンランキングに載ってそうな曲を乱雑に聞きまくるのが彼女のスタンスだった。それはクラスの話題に付いて行く為の彼女の処世術の一種。陽キャにとって、流行りに乗る事は死活問題。付いて行けないならば突き落としてそのまま置いて行かれる船に彼女は乗っているのである。
しかし今現在の喜多のスマホを覗いてみると、なんということでしょう。一年ほど前まではヒットチャートのJ-POPがびっしり並んだプレイリストばかりだったが、今だとQUEENやビートルズ、レッドツェッペリンのアルバムジャケットが顔を並べております。これにはマニアも納得のラインナップ(ご満悦)
「でも、初対面だと最新の流行を追い続けてそうな今時の子だーって思ったのに、まさかのロックマニアだなんて!びっくりしたよー。最初はちょっぴり警戒してたけど私も仲良くできそう!」
「陽キャの郁代が私達も舌を巻くロックオタクになってるのすごい。本人の素質もあったんだろうけど、カズに毒されすぎているのは火を見るよりも明らか……郁代?」
「……あひゅう」
ぺたりと、全身から骨を抜き取ったように力が抜けた喜多は、そのままライブハウスの床に背中から倒れ込んだ。
「き、喜多ちゃん!?」
「私は……流行に乗り遅れたかび臭い古女キタイクヨ…………1960年は昭和……私は昭和の女……あはは……あはっ、あはははっ」
「喜多ちゃ―――ん!!」
喜多ちゃん、壊れちゃった……まあ、いい奴だったよ。新しいボーカル探さないとな。
「陽キャの郁代にとって流行に遅れると言うのはまさしく死と同義……自分がすこった曲が流行りとは真逆の古典ロックで、流行りに乗る所か時代を遡っていると知って精神が耐え切れなくなってしまった……さらば郁代、安らかに眠れ……南無南無」
「こらこら殺すな殺すな!喜多ちゃん起きて!ショックなのは分かるけど結成日初日からボーカルがリタイアなんて洒落にならないってば!」
「どうして……どうして喜多がこんな目に!くそっ、一体だれが犯人なんだ!」
僕のすっとぼけた言葉に、虹夏先輩とリョウ先輩は顔を合わせて言った。
「「カズ(君)が犯人だよ」」
いやまあ僕のせいですね、はい。
この後、虹夏先輩が『青と夏』を聴かせた事でなんとか喜多は復活した。
話が大脱線して大事故が起こったが、事故は起きる物さ。事故が起きたら直せばいいじゃないと言う事で、ミーティング再開。
何の話をしてたっけ……?ああ、喜多の練習曲の事だった。
「郁代がさっきチョイスした曲は、お世辞にも初心者がすぐに弾ける難易度じゃない。だから私が独断で選んできたオススメ初心者向けのロックを持ってきました」
「おぉー」
リョウさんがギターケースから取り出したのは、ファイルに綴じられた
僕達はそれを吟味するようにぱらぱらと捲っていく。見覚えのある曲がいくつもあり、中には一人で練習できる簡単な曲もあった。
これなら受験勉強の合間に練習していく事もできるだろう。
「おー。でも洋楽ばかりだね」
「郁代は英語の発音が上手だし、本人も洋楽が好きみたいだから。ギターを上手になるには、好きな曲を練習するのが一番。それに英語の歌詞を歌えるのは強みになる」
「強み……ですか?」
「そうだよ喜多ちゃん。あんまりぴんと来ないかもしれないけどJ-POPってあんまり海外だと聴かれないんだよ」
「そうなの?カズ君」
「うん。J-POPが悪いんじゃなく、J-POPは日本人を客層として想定した曲がほとんどだから。そもそもの前提として海外の人達にウケるようデザインはされてないんだ。向こうで受け入れられる日本人アーティストは余程卓越した歌唱力を持つ人か、独創的なアーティストばかりだよ。喜多だって、僕が教えるまで海外の人達が歌ってきたロックを聴こうとはしなかったでしょ?それと同じ」
「なるほど……向こうの人達には伝わり難いのね」
僕の考えに納得したのか、喜多はこくりと頷いた。
リョウさんが補足するように喜多に説明する。
「外人にとって日本語は難解言語のひとつだからと言うのもあると思う。でも世界で最も喋られている英語で歌えれば、海外の人達も耳を傾けてくれる可能性がある。それにJ-POPにも英語の単語が混ざっているなんてザラだし、活舌よくはっきりと発音できるのはボーカルとして大きな強み。英語の歌詞と日本語の歌詞、それぞれを使い分けて歌えば海外と日本、それぞれにファンを作る事もできるかもしれない」
「まあ気が早いかもしれないけど、英語が上手なのは喜多ちゃんの武器になるよ! だから自信持って」
「ボーカルとしての……武器」
実感が湧かないのか、喜多はどこか不安そうに拳を握りしめる。
「やっぱり、ロックバンドするなら海外デビューしたいよね!だから英語の歌詞も日本語の歌詞もどんどん練習してどんどん演奏していこー!」
「ええっ、海外デビューですか?さすがに夢が大きすぎて……まだ実感湧かないです」
前世での結束バンドは海外で知名度を持っていた訳じゃない。原作も結局どんな結末を辿ったのか僕は知りもしない。ただ、4人の少女が歌ったロックを、僕が愛していたと言うだけだ。
でも、この世界での彼女達はどこまでも自由だ。作者や読者に結末を操られない、どこまでも自由な存在。日本と言う小さな島国に巣を作るか、それとも世界へと羽ばたくのか。そんな彼女達がどんな選択をして、それを乗り越えていくのか。
僕はそれが楽しみなんだ。
「いいじゃん、喜多ちゃん。それに、せっかくだし夢ならでっかく語って行こうよ。ほら、バンドマンならこう歌わなきゃ。『僕はアメリカでヒットする為に生まれたんだ!』――ってね」
ぱちりとウィンクする虹夏先輩に、リョウさんは同感だというように笑った。
『HIT IN THE USA』だ。日本のロックバンド『BEAT CRUSADERS』の名曲。彼らはライブ以外はお面を着けてメディアに登場し、後に多くの覆面バンドの先駆けとして名を響かせている。ギターの強い音を重点的に演奏するメロコアと呼ばれるジャンルで活躍し、英語歌詞で歌い続けたにも関わらず、耳に親しみやすいリズムと音で多くの若者を魅了し続けた。印象に残りやすくそしてノリやすくネイティブでもない日本人でも歌いやすい――誰でも楽しめるロックを何曲も生み出し、アニメや映画の主題歌として何曲も選出された名バンドだ。
そんな彼等の願望だと誰が見てもストレートに伝わり、それでいてロックの神様がそれを叶えたかのようにその曲は彼等の最初のヒット曲となった。『
「I was made Hit in America――うん、いいね」
ぼそりと噛みしめるようにリョウさんが呟く。
「――うん、私も大きくやりたい。夢はメジャー、世界ツアー、ハリウッドデビュー。大きく持とうよ。そして大金持ち。一生遊んでロックして暮らしたい」
リョウさんの言葉に嬉しそうに笑った虹夏先輩は、突如手拍子を始めた。
そのどこか聞き覚えのある手拍子を叩きながら、肩を上下にリズムに乗せて、虹夏先輩が歌う。それは『HIT IN THE USA』の代表的なフレーズだった。
「【
リョウ先輩も意図を察したのか、虹夏先輩の後を追うように手拍子しながら歌う。
「【
そして、喜多の方へ二人が視線を向け――喜多はすぐに嬉しそうに手拍子を始めて歌い始めた。彼女はこの曲を知らないだろうに、一瞬で音を掴んで、歌い上げた。
「【
3人の笑顔が更に暖かくなり、それにヒートアップするように彼女達はサビの2周目を歌い始めた。
それは本当に楽しそうで――彼女達3人以外の人達は、その歌を聴き始めてしまった。
3人の手拍子で刻まれるロック。小さな少女達に似合わない壮大な夢。ちっぽけな島国で生まれたちっぽけな少女達が、アメリカでヒットする為に生まれたんだと高らかに歌った。
バンドのミーティングをしていた女子達がこっちをじっと見て、足だけが反射的にリズムを動かしていた。
PAがにこにこと頭を揺らしながら歌を口ずさんでいる。
店長さんが嬉しそうに妹を見守って頭を揺らしていた。
ギターやドラムが無くたって、私達が歌えばロックンロール。
それを体現するかのように、彼女達は楽しそうに歌う。
「【
リョウさんが呪文を唱えるように歌う。
「【
虹夏さんが朗らかに手拍子をしながらリズム良く歌う。
「【
そして喜多が、まるで今日の為に生きてきたんだと言わんばかりの笑顔で歌う。
手拍子は途切れない。歌も途切れない。3人が順番に「アメリカでヒットするために生まれたんだ」と歌う。その歌は、これからの未来で自分達がアメリカに乗り込むんだと意気揚々に宣伝しているみたいだった。サビがループする度に、彼女達は自分がライブハウスに居る事も忘れて、自然と声のボリュームが吊り上がっていく。
けれどずっと続く様に思えた歌は止まった。
サビが5周半ぐらいループした辺りだろうか、突如ぴたりと歌が止まった。誰もBパートへの続きを歌い出さない事に気付いたらしい。
ぽかんとした空白が落ちて来て、「って、誰も続き歌わんのかーい!」と思わず虹夏先輩が突っ込むと、噴き出す様に三人の笑い声が零れる。
「あはは!リョウ先輩続き歌ってくださいよ!」
「歌詞忘れた。てへっ」
「しっかりしろーい!」
「虹夏が二番を歌うべき。そっちが手拍子し始めたんだから」
「うぐっ、それは私もちょっと自信がなかったと言うか……あんまり音取るの得意じゃなくてね?」
「ふふっ、あははっ、やっぱりロックって素敵ですね!虹夏先輩も歌上手で素敵でしたっ」
「えー?私は下手だよ!歌うのは嫌いじゃないんだけどね」
「私は上手い」
「隙あらばマウント取ってくるなこの幼馴染。喜多ちゃんはリョウから聞いてた通り英語上手だったね。いやーいいボーカルが来てくれて私も嬉しいよ!」
「ありがとうございます!じゃあ今度は一緒にカラオケでこれを歌いましょうよ。他にも皆で歌いたい曲ありますし!」
「えー。私カラオケそんな好きじゃ……」
「いーね喜多ちゃん、そうしよー!リョウも、結束力を下げるようなこと言わないっ」
「お前らうるさい。ここはカラオケじゃねーんだぞ」
「もう!お姉ちゃんだってノリノリで聴いてたでしょ!」
「一発ゲンコツくれてやろうか?」
「ごめんなさい」
笑い声が響く。僕が前世で愛したガールズバンドの笑い声が。そうだ、ここにいる三人はまだ学生で、まだ世界を知らない少女達。夢を無限に見ることを許された子供なんだと痛感する。
それは見ている人も、聞いている人も笑顔にする、優しい風景だ。
ああ、だからこそ。僕はここに居ちゃいけないんだ。
僕は諦めのような渇いた悲しみを感じながら、声を出した。
「虹夏先輩、リョウさん、喜多」
3人の名前を呼ぶと、3人が僕の方を認識してくれる。
「ん、どうしたのーカズ君。顔暗いよ?」
虹夏先輩の言葉に、僕は喉を絞るように告げた。
「――あの、やっぱり僕、結束バンドに入れません」
けれど3人は冗談だと思ったのか、くすくすと笑いながら返す。
「もー、ノリ悪いよカズ君。観念して入りなよー」
「往生際が悪い。とっとと私達のマネージャーになるべき」
「そうよカズ君!観念して私達と一緒に――」
「違うんだ、喜多」
「え?」
息をちゃんとできているのか、不安になる。でもダメなんだよ。
「僕、留学するんだ。来年の、高1の秋に。アメリカへ」
「――え、なん、で」
喜多やリョウさん、虹夏先輩の顔から色が抜け落ちる。さっきまで笑いながら歌っていたのが嘘みたいだった。
本当に、ごめんなさい。でも今言わないと。僕はずっとここに居たいと願ってしまうから。
「両親が、離婚するんだ、それで、アメリカにいる親父と暮らす。だから」
楽しい夢は、覚める。
舞台は終わり、エンドロールを迎える。
「――僕、あと一年ちょっとしかここにいられない。だから結束バンドに入れない」
そろそろ、観客席に戻らないといけないんだ。
作中に登場したバンド名
Sum41
Refused
ASIAN KUNG-FU GENERATION
Oasis
オリビア・ニュートン・ジョン
コトリンゴ
ゆらゆら帝国
作中に登場した曲
ORANGE RANGE - SUSHI食べたいfeat.ソイソース
グッチ裕三とグッチーズ - おなかのへるうた〜デトロイトロックシティー
ヴェルディ - レクイエム「怒りの日」
ベートーヴェン - 交響曲第9番「歓喜の歌」
The Rolling Stones - Sympathy For The Devil
吉田拓郎 - 今日までそして明日から
爆弾ジョニー - 唯一人
Mr.Big - Colorado Bulldog
AC/DC - Back In Black
Kansas - Carry on My Wayward Son
Queen - Don't Stop Me Now
Journey - Any Way You Want it
The Who - Baba O'Riley
The Buggles - Video Killed The Radio Star
Led Zeppelin - Stairway To Heaven
Eagles - Hotel California
斉藤和義 - 歌うたいのバラッド
キリンジ - エイリアンズ
Franz Ferdinand - This Fire(正しい表記名はThis Fffire)
Rush - Fly By Night
Mrs.GREEN APPLE - 青と夏
BEAT CRUSADERS - HIT IN THE USA
終わりまでぶっ通しで書こうとしたら5万字を越えそうなので途中でぶった切りました。
今回はぼざろ特有のギャグましましにしております。喜多ちゃんがぼっちちゃんみたいになっちゃった。でも自分がすこっている曲が古すぎてやべー曲だって気付いてショックを受けている喜多ちゃん、可愛いね。
次回はカズ君がロックでぶん殴られます。
たくさんの高評価、感想、ありがとうございます。低評価した人は【不適切な発言】。
この小説を読んで「Queen聴きました!」「洋楽聴き始めました」と言う嬉しい声が届いております。本当に嬉しいです。
今回、感想欄でBECKと言う音楽漫画のタイトルが上がり、検索してみたらアニメ化されていたので試しに視聴してみたらOPで懐かしきビークルが出て来て、久しぶりにヘビロテしてたと思ったらタイトル変えてHIT IN THE USAを喜多ちゃん達に歌わせてました。
最初この小説を書くに当たって「タイトルは洋楽縛り」とか「喜多ちゃんに歌わせるのは洋楽オンリー。アニメの主題歌に取り上げられた曲は使わない。私は硬派な音楽小説を書くんだ」とかぼっちちゃんみたいな事を考えてましたが、BEAT CRUSADERSに殴られた結果こんなことになりました。だってロックはいいもん。日本とかアメリカとか関係ない。仕方ないよ、皆に聴いて欲しいし。
他にも活動報告や感想欄にたくさんたくさんの推しバンドや曲を書いてもらって、中には書いている人も知らないロックがありました。それをAppleMusicで毎晩漁っているのですが、最近寝不足です。
リクエストを書いてくださった方、ありがとうございます。
近いうちに、リクエスト曲をまとめた項目を活動報告かこの小説の末に置いておこうと思うのでよろしくお願いします。