付き合ったばかりの恋人とキスをしてから、約半日。
翌日の朝になってもずっと浮かれていた。
土曜日にこれから部活に行くというのに、明らかにテンションが高いのは自分でもよくわかった。
だってやっと恋人らしいことができたのだ。
他の人がなにか言いたそうだったけれど、そんなのお構いなし。
その時は本当にそう簡単に思ってた。
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そうして部活が始まって早々、部長のめめさんの言葉にげんなりする。
今日は金管は申し訳ないけど廊下で練習ね!
あそこ暑いし、狭いし、音が聞こえにくいし。
なにより、
渋々廊下でトロンボーンを吹くことにした。
昨日のラテの表情と言葉を思い出して、にやにやしてしまう。
この胸を満たす幸福感をどうにかしたくて、手に力を込めた。
この時、調子に乗って、トロンボーンのスライド管を思いっ切り伸ばしたりなんてしていなければ……
『そんなに浮かれてると、いつか痛い目に遭うよ。』
どうやら恋人の言っていたことは正しかったようだ。
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Latte side
後輩の声が廊下に大きく響いた。
たしか譜面台持ってきてって頼んだんだけど、なにかあったのかな?
声のした方向を見ると、床に倒れ込んで目のあたりを抑えて泣きじゃくる私の後輩と、楽器を持ったままうろたえるウパパロンの姿が。
私は真っ直ぐ駆け寄って後輩を起き上がらせる。
もしかして、ウパパロンのトロンボーンのスライドが……
そんなこと思いたくなかった。
だってウパパロンは何よりもトロンボーンを大切にしていて、粗末に扱うだなんて信じられない。
そして何よりも後輩を怪我させてしまうなんて信じたくなかった。
そう、嫌な予感がした。
万が一には失明だってしかねない。
ウパパロンを睨みながら私は言った。
ウパパロンは掠れた小さな声でそう言ったきりだった。
後輩を保健室に連れて行く時、私はウパパロンの顔を見ることができなかった。
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あの後、後輩を保健室へ連れて行って、保健室の先生に診てもらったら特に大きな怪我はないとのこと。
ただ後輩の目のすぐ横には痛々しい痣が残った。
突然の声に扉の方を見ると、ウパパロンが立っていた。
ウパパロンは完全に反省している様子で、朝とのテンションの落差がすごかった。
だから痛い目見るよって言ったのに。
後輩は出て行ってしまい、ウパパロンと2人きりになった。
ウパパロンの悲しみの叫び声が響いた。
編集部コメント
主人公は鈍感で口下手ではあるものの『コミュ障』というほどではないので、キャラの作り込みに関しては一考の余地があるものの、楽曲テーマ、オーディオドラマ前提、登場人物の数などの制約が多いコンテストにおいて、条件内できちんと可愛らしくまとまっているお話でした!<br />転校生、幼馴染、親友といった王道ポジションのキャラたちがストーリーの中でそれぞれの役割を果たし、ハッピーな読後感に仕上がっています。