ハリーポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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汝、死の癒し手なり

「こんにちはオリバンダーさん。リオン・アーデルです」

「あぁ、こんにちはアーデルさん。無事に届いたようじゃな」

 

 扉を開け、オリバンダー杖店に入る。中では店主のギャリック・オリバンダーさんが待っていてやって来た俺を歓迎してくれた。

 

「セストラルの尾毛を使った杖が完成したと聞いたんですけど」

「えぇえぇ出来ましたとも。しばしお待ちを」

 

 さっさと奥に引っ込んでいくオリバンダーさんを見送り、俺は腰に下げている自分の杖を撫でた。

 

「爺ちゃんのも含めると三本目の杖か。いくらなんでも持ち過ぎな気がするけどなぁ……」

 

 ベルトに下げる杖が三本だと色々とややこしくなりそうだなと考えていると、細長い箱を持ったオリバンダーさんが出てきた。

 

「こちらを」

 

 箱を開けてオリバンダーさんが杖を差し出してくる。純白の、いっそ剥き出しの骨とさえ思わせる白さの杖を手に取り、軽く振ってみる。

 

 ふわり、と魔力が頬を撫でる。積み上がっていた無数の箱が一寸のはみ出しもない綺麗な状態で積まれていく。

 

「合っておられるようじゃな」

「はい。もしかすると一本目の杖以上かも……これ、芯はセストラルの尾毛だっていうのは知ってるんですけど、木材は何を?」

「スネークウッドですよ」

 

 返ってきた答えに目を丸くする。スネークウッドと言えばそこらの宝石の何倍も価値がある樹で、杖として使われることは非常に稀であると本で見たことがある。

 

「しかもただのスネークウッドではありません。欧米の、アメリカにあるイルヴァーモーニー魔法魔術学校の敷地にある由緒正しい樹が使われているのです」

「イルヴァーモーニーのスネークウッド……? あれ、でもその樹って確か……」

 

 切り倒せないのでは? 聞こうとして手で制される。どうやらまだ話し終えていなかったらしい。

 

「そう、切り落とすことは出来ず、それ故に杖として扱うことも出来ない。しかしどういう訳か、ある日に意思を持っているかのように樹の枝の一部が落ちてきたそうです。その時のイルヴァーモーニーは大騒ぎだったそうですが、巡り巡ってそれが私の下に届いたのです。

 とはいえ私もスネークウッドなど取り扱ったことがありませんでしたから、長らく倉庫の奥で眠っていました。そして貴方から受け取ったセストラルの尾毛に合う木材を探していた時、この樹が目の前に落ちたのです。自分を使えと言うようにね」

「なんともまぁ不思議な話ですね」

 

 イルヴァーモーニーのスネークウッドには強力な薬効があるとクロードが言ってたっけか。

 それに死を纏うセストラルの尾毛が組み合わさるなどどんな偶然だろう。

 

「死を運ぶ尾毛と癒しをもたらすスネークウッド……なんともチグハグな組み合わせですね」

「えぇ。ですが、だからこそ杖作りは奥深いのですよ」

 

 そう言って笑うオリバンダーさんに俺もそうですねと納得した。

 

 

 

 オリバンダーさんが拉致される一日前のことだった。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「先生。僕らはどこに向かってるんですか?」

 

 プリペッド通りを歩く俺の横でハリーがダンブルドアに問う。

 どうも、この勇猛果敢なグリフィンドールたる我が友人はダーズリー夫妻の家を予想よりずっと早く出ることが出来て嬉しいらしく、今にもスキップをしかねない程だった。

 

 そんなご機嫌なハリーの問いにダンブルドアは冷静に答える。

 

「バドリー・ババートンという村じゃよ。また一人先生が足りなくなってそれを補おうと思っての」

「じゃあそこにいる人を教師として雇おうと考えてるんですか?」

「そうとも」

 

 言い終え、ダンブルドアが俺達に手を差し出してくる。『付き添い姿くらまし』をするつもりだろう。早速手を取った俺とは対照的にハリーはその意味を図りかねているようだった。

 

「付き添い姿くらましをするだけだ。危険じゃないよ」

 

 俺の言葉に頷いたハリーが手を取る。すると景色が反転し、次の瞬間には俺たちは見知らぬ村に佇んでいた。

 

 人気の無い村だ。今が深夜だからというのもあるだろうが、それにしたって気配が無さすぎる。

 

「では早速向かおうかの……ところでハリー。近頃傷は痛むかな?」

「いえ。僕はヴォルデモートがより強大になったのだから、もっと焼けるように痛むだろうと思ってました」

「わしは寧ろその逆を考えておったよ。君とヴォルデモート卿との間にあった繋がりの危険性に奴もようやっと気付いたのだろう。閉心術を使い、君に心を読まれまいとしておるはずじゃ」

「なら僕は文句ありません」

 

 ハリーとダンブルドアの会話の中、俺はダンブルドアの左腕に目をやる。黒く萎び、何か強力な呪いに蝕まれているだろうことは察知できた。

 そうして三人で歩いている内に一軒の家に辿り着いた。

 

「先生、ここが?」

「そうじゃ。わしが教師として雇おうと考えている人の家じゃよ」

 

 予想以上にボロボロになっている扉を開き中に足を踏み入れる。

 杖に光を灯して中を進む。外観から予想できないほど内装は荒れていた。

 

 引き倒され、中身が溢れたグランドファーザークロックに横倒しになって鍵盤がばら撒かれたピアノ。粉々になったシャンデリア。壁には血痕らしきものが飛び散っている。はめ込まれたガラスに大きく蜘蛛の巣が張っているキャビネットは、元は小洒落たものだったのだろう。今は見る影もなくなっている。

 

 まるで何かの戦闘の後のような荒らされ具合に思わず眉間にシワが寄る。俺と同じ考えに至ったらしいハリーもダンブルドアに訊ねた。

 

「先生、ここで争いがあったのでは───その人が連れ去られたという可能性は?」

「いや、それはなかろう」

「ではその人は──」

「まだ近くにいるとな? その通りじゃよ」

 

 ダンブルドアが近くのソファを杖で小突く。するとソファの形が崩れ、一人の老人の姿に変わった──いや、この場合は戻ったと言うべきだろう。

 

「痛い!」

「こんばんは、ホラス」

 

 額を押さえる老人にダンブルドアがにこやかに告げる。老人は立ち上がってダンブルドアを恨めしげに見つめた。

 

「そんなに強く杖で突くことなかろう……なんで分かった?」

「親愛なるホラスよ、本当に死喰い人が君を訊ねたのなら天井に闇の印が出ているはずじゃ」

「闇の印か、何か足りんと思った……まぁ良いわ」

 

 溜め息を吐いた老人───ホラス・スラグホーンとダンブルドアが杖を振ると瞬く間に部屋が元通りになる。

 そして杖を仕舞ったスラグホーンさんはダンブルドアの隣に佇むハリーに気付くと目を見開いた。それを目敏く察知したダンブルドアがハリーの肩に手を置き、スラグホーンさんに紹介した。

 

「ホラス、彼はハリー・ポッター。ハリー、彼はホラス・スラグホーンと言ってわしの友人で同僚だった人じゃ」

「それじゃあ、その手で私を説得しようと考えたわけだ? それなら答えはノーだアルバス……おや」

 

 言葉を切ったスラグホーンさんの目が俺を捉える。みるみる内にその顔が驚きで染まり、一歩二歩と後ろに後退した。

 

「え、エドワード・アーデル……?」

「よく言われますよ……初めまして。リオン・アーデルと言います。エドワードは俺の祖父ですよ」

「あ、あぁ……そうか、そうだな。彼が生きていれば君のように若い筈がないか……」

 

 俺が発言したことで冷静さを取り戻したらしいスラグホーンさんは肩を竦めて申し訳なさそうな顔になった。

 そしてダンブルドアの一杯どうかという提案にスラグホーンさんは一瞬躊躇ったものの、「良かろう。一杯だけだ」と無愛想に告げた。

 

 

 

 各々椅子に座り、やがて紅茶が差し出される。

 俺は紅茶を啜りながらダンブルドアとスラグホーンさんの舌戦を眺めていたが、ハリーは時折不安げな顔で俺を見てくる。

 しかし話題がアンブリッジのことに切り替わり、「愚かしい女め、あいつは好かん」とスラグホーンさんが切り捨てるのを見てハリーはクスリと笑みを溢した。

 

「すみません。でも───僕もあの人が嫌いでした」

「あれを好きになる奴なんていない──いや親衛隊がいたか」

 

 俺とハリーがアンブリッジについて所感を述べると、突然ダンブルドアが立ち上がった。それに目を輝かせ、「帰るのか?」とスラグホーンさんが尋ねる。

 

「いや、手洗い場を拝借したくての」

「あぁ……廊下の左手二番目」

 

 明らかに落胆した声音だった。

 ダンブルドアが出ていくと部屋はすっかり沈黙に包まれる。スラグホーンさんはどうしていいのか分からず目線をさ迷わせていたが、やがて立ち上がって暖炉の側に寄った。

 

「アルバスがなぜ君を連れてきたのか、分からんわけではないぞ」

 

 スラグホーンさんがハリーの目を見て言う。

 

「君は父親そっくりだ。だが目の色だけが違う。君の目は──」

「えぇ。母のものです」

「そうだろうとも……教師として勿論依怙贔屓などあってはならないが、それでも彼女は図抜けて優秀だった。何度か私の寮に来ないかと誘ったが、その度に悪戯っぽく言い返されたものだ」

「どの寮だったんですか?」

「私はスリザリンの寮監だった」

 

 ハリーが眉をギュッと寄せる。ハリーにとってスリザリンの寮監はスネイプ教授だからあまり良い印象が無いのだろう。

 しかし、それに心外そうにスラグホーンさんは眉をひそめた。

 

「それそれ、そのことで私を責めるんじゃない! 君は彼女と同じくグリフィンドールなのだろう、普通は家系で決まる。必ずしもそうではないが。シリウス・ブラックの名を聞いたことがあるか? 彼は学校で、君の父親の大親友だった。ブラック家は全員私の寮だったが、シリウスはグリフィンドールだったな……残念だ、能力ある子だったのに。弟のレギュラスは獲得したのだが、出来れば一揃い欲しかった」

 

 ハリーは少し嫌そうに眉を寄せた。蒐集家のような彼の表現が嫌だったのかもしれない。

 

「君の母親がマグル生まれだと知ったときには信じられなかったね。絶対に純血だと思った、それほど優秀だった」

「僕の友達にもマグル生まれが一人います。しかも学年で一番の女性です」

 

 ハリーが嫌悪感を露わにして言う。スラグホーンさんはそれに気付いたようだ。

 

「私が偏見を持っているなどと思ってはいかんぞ! 君の母親は今まで一番気に入った生徒の一人だったと、たった今言ったはずだ……」

 

 そう言いながら、スラグホーンさんはドレッサーの上に並べられた写真立てを指差した。

 

「全部昔の生徒だ。サイン入りの。バーナバス・カッフは『日刊預言者新聞』の編集長で、毎日のニュースに関する私の解釈に常に関心を持っている。アンブロシウス・フルームはハニーデュークスの菓子を誕生日のたびに送ってくる――私がシセロン・ハーキスに紹介してやったおかげで最初の仕事に就けたからだ! それに――」

「では、祖父の写真も?」

 

 スラグホーンさんの話を遮り、僅かに身を乗り出して聞く。彼は驚いたようだったが、「エドワードの写真か……さてどこにあったかな……」と積み上げられたアルバムを手に取って捲り始めた。

 

「おぉ。あったあった。彼が卒業したときに撮った物でね。ほらこれだ」

 

 スラグホーンさんがとあるページを開いて俺に差し出す。ハリーも気になるのか身を乗り出してアルバムを覗き込んだ。

 

 写真の中で数人の男女がこちらに笑みを見せて手を振っている。

 

「エドワード・アーデル、ユスティア・グリンデルバルド、ジェラルド・カリアン、セオドール・ノットシニア、バーテミウス・クラウチ、アルファード・ブラック、ユーフェミア・ロウル、フリーモントとチャールズのポッター兄弟にドレア・ブラック───そしてトム・リドル。皆私の大切な教え子達だ」

 

 トム・リドルの名前が出た瞬間、俺とハリーの顔が強張るが、何とか平静を装った。

 そしてスラグホーンさんがアルバムを元に戻すのを見計らい、ハリーが声を掛けた。

 

「それじゃ、この人たちはみんなあなたの居場所を知っていて、いろいろな物を送ってくるのですか?」

 

 スラグホーン先生の顔から笑みが消えた。

 

「無論違う」

 

 そして、一拍置いて続けた。

 

「一年間誰とも連絡を取っていない。しかし……賢明な魔法使いは、こういうときに大人しくしているものだ。今このときにホグワーツに職を得るのは、公に『不死鳥の騎士団』への忠誠を表明するに等しい……騎士団員は皆、間違いなくあっぱれで勇敢で、立派な者達だろうが私個人としてはあの死亡率はいただけない───」

「ホグワーツで教えても『不死鳥の騎士団』に入る必要はありません」

 

 ハリーの口調にはありありと嘲りの色が見えた。それを見た俺は余計な口を挟まないことに決めた。

 

「大多数の先生は団員ではありませんし、それに誰も殺されていません───あぁ、クィレルは別ですが。あんな風にヴォルデモートと組んで仕事をしていたのですから、当然の報いを受けたんです」

 

 スラグホーンさんは身震いをして口を開きかけたが、ハリーは無視して言葉を続けた。

 

「ダンブルドアが校長でいる限り、教職員は他の大多数の人より安全だと思います。ダンブルドアは、ヴォルデモートが恐れたただ一人の魔法使いのはずです。そうでしょう?」

 

 スラグホーン先生はハリーの言葉を反芻していたようだったが、やがて観念したように呟いた。

 

「確かに『名前を呼んではいけないあの人』はダンブルドアとは決して戦おうとはしなかった……それに私が死喰い人に加わらなかった以上、『名前を呼んではいけないあの人』が私を友と見做すとは到底思えない、とも言える……その場合は私はアルバスともう少し近しい方が安全かもしれん……」

 

 スラグホーンさんがそこまで言ったところでダンブルドアが戻ってくる。

 ダンブルドアが部屋に戻ってきたことにスラグホーンさんは飛び跳ねて驚いていた。

 

「あぁ。いたのかアルバス。随分長かったな、腹でも壊したか?」

「いや、マグルの雑誌を読んでいただけじゃ。編み物のパターンが大好きでな。さてハリー、リオン。ホラスのご好意に長々と甘えさせてもろうた。暇する時間じゃ」

 

 ハリーはパッと立ち上がった。俺も同じく小さく息を吐いてそれに従う。下手なことは言わないに限る。

 

「行くのか?」

 

 スラグホーンさんは、明らかに躊躇っている雰囲気だった。

 ダンブルドアは「勝算のないものは、見ればそうと分かるものじゃ」と朗らかに言った。

 

「勝算がない……?」

「さて、ホラス、君が教職を望まんのは残念じゃ。ホグワーツは君が再び戻れば喜んだであろうがのう。我々の安全対策は大いに増強されてはおるが、君の訪問ならいつでも歓迎しましょうぞ。君がそう望むなら、じゃが」

「ああ……まぁ……ご親切にどうも……」

 

 なるほど、ダンブルドアは何とも狡猾に立ち回ったものだ。その動きに思わず舌を巻く。

 

「分かった、分かった。引き受ける!」

 

 追い詰められたようにスラグホーンさんが叫んだ。ダンブルドアは振り返ると、ゆったりと尋ねる。

 

「引退生活から出てくるのかね?」

「そうだ。馬鹿なことに違いない。しかしそうだ」

「素晴らしいことじゃ。ではホラス、九月一日にお会いしましょうぞ」

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「先生。先生が僕らをここに連れてきたのはこの為だったのですか?」

「先程まではそうじゃ。しかし、次はまた別の用事じゃよ」

 

 スラグホーンさんの家を後にしてバドリー・ババートンの町中を歩くハリーの問いかけにダンブルドアが静かに微笑んだ。

 

「ホラスを説得させるためにハリー、君を連れてきた訳じゃが、では次の用事で誰が必要になるのか? 予想がつくのではないかな?」

「俺……ですか」

 

 ダンブルドアが茶目っ気たっぷりにウィンクするのを見て、面倒なことになりそうだなと肩を落とす。

 そして再び差し出されたダンブルドアの手を取った俺とハリーは『付き添い姿くらまし』で村を後にした。

 

 

 

 

 

 

「それで。ここが目的の場所ですか?」

「そうじゃよ」

 

 次にやって来たのはどこかの森だった。月明かりが僅かに差し込むだけで、視界は最悪と言っていい。

 

「禁じられた森じゃないでしょうね?」

「流石にそんなところに君たちと共に『姿くらまし』をする勇気はわしには無いとも」

 

 よく言うよ、先生なら禁じられた森に行ったところで帰ってこれるだろうに。そんなことを心の中で思いつつ、改めて辺りを見回す。

 そして、ある違和感に気付いた。

 

「……ん?」

「気付いたかの?」

「リオン?」

 

 訝しげな声を上げた俺にハリーが困惑した声を出し、ダンブルドアは静かに微笑んだ。

 

「風が吹いていないのに木々が揺れてる……魔力の流れ?」

「正解じゃ」

「では、ここに誰かいると? もしくは魔法使いの家があるとか」

 

 俺の言葉にダンブルドアは頷くと、さっさと歩き出した。未だに何がなんだか分かっていないらしいハリーを引っ張って俺も後を追った。

 

「せ、先生。先生は誰かに会われるおつもりですか?」

 

 足をもつれさせながらもハリーが聞くとダンブルドアは「違う」と首を横に振った。

 

「今から向かうのは、かつてとある魔法使いの一族が暮らしていた館じゃ───おぉ見えてきたの」

 

 ダンブルドアの視線の先、鬱蒼と生い茂る木々の拓けた場所にその館は鎮座していた。

 

「これが家? 城ではなく?」

「とんでもない名家だな……ブラック邸と同じかそれ以上じゃないか?」

 

 ポツンと佇む城と見紛うほどの巨大な館に俺もハリーも揃って目を丸くする。

 

「ここはスコットランドにある森の奥深くじゃ。ここにはとある魔法使いの一族が住んでおった。既に打ち棄てられておるがの」

「棄てられたにしては随分と綺麗ですね……」

 

 棄てられたという表現が似つかわしくないほど、目の前の白亜の館はその威厳を示すかのように月明かりに照らされていた。

 所々に苔が生えているものの、さっさと掃除すれば問題はないだろう。

 

「それで、ここに住んでたのはどんな魔法使いだったんですか? これ程の館を所有しているなんてよっぽどの名家でもない限り……」

「ここは、かつてとある魔女が逃げ延び、そして隠れるようにして建てたとされる館じゃ。その魔女の死後も彼女の子孫が代々暮らしておった」

 

 ダンブルドアが館に近付き、やがて扉を開く。そうして露になった館の内装はスラグホーンさんの家の惨状よりさらに荒れ果てていた。

 ダンブルドアの後に続いてハリーが踏み入れ、俺もそれに従う。

 

 その瞬間、俺は何か声が聞こえたような気がして足を止めた。

 

「この館を所有していた一族はかつてとても栄えていたが、やがて衰退し別の場所へと居を移すことになった」

「誰なんですか? その一族って?」

 

 ハリーがダンブルドアに聞く。どうやら二人には先程の声は聞こえていないらしい。

 ダンブルドアは俺に目をやるとその一族の名前を口に出した。

 

 

 

 

 

 

 

「聖二十八一族───ゴーント家。彼らこそがこの館の持ち主であった人達じゃ」

 

 ダンブルドアが一族の名を告げる。しかし、俺はそれ以上に先程の声が気になっていた。

 聞き間違いでなければ、それは女性の声だった。囁くように、唄うように、惑わすようにしてそれは俺に告げたのだ。

 

 

 

 

 

 

 いらっしゃいアーデルの子、と。


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