ハリーポッターと何も知らない転生者   作:シャケナベイベー

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密告

 ザ・クィブラーの内容は瞬く間に生徒達の知るところとなった。クィブラーの新刊は無いのか、売ってくれないのかと詰め寄られたラブグッドは嬉しい悲鳴を上げたようだ。

 

「ミスター・アーデル? 申し訳ないのだけど鞄の中身を見せていただけるかしら?」

「えぇ、構いませんよ」

 

 そんな中、闇の魔術に対する防衛術の教室へと向かっていた俺はアンブリッジに呼び止められた。

 

 アンブリッジはどうやらハリーを擁護するザ・クィブラーが気に入らないらしく、尋問官特権(?)とやらを使ってザ・クィブラーを所持する者は退学処分にするという独裁者もビックリの校則を打ち立て、こうして道行く生徒の鞄の中身をチェックしていた。

 

 鞄をひっくり返し、落ちた教科書などを確認し終えたアンブリッジはにこやかな笑みを浮かべて俺に教科書を返却してきた。

 

「ご協力ありがとう。貴方があのような低俗な雑誌を持っていないと知れて安心したわ」

「ハハハ。それじゃ僕は授業があるので」

「えぇ。引き止めてごめんなさいね」

 

 にこやかに別れを告げたアンブリッジが角を曲がり姿を消したところで盛大に舌打ちを溢した。

 

 

 そもそもあんな校則を立てた時点でアンブリッジに良い印象を抱いていない生徒はそれに反目してクィブラーを購入し、雑誌に魔法を掛けて絶対に見破れないよう細工を施している。

 恐らくザ・クィブラーはホグワーツ生徒の殆どに行き渡っているだろう。新聞部が買い付けて売り捌いていたのを見掛けたし、俺もそれに協力したことがある。

 

 

 

 

 

「それじゃ、今日はとある治癒魔法を皆に実践してもらおう」

 

 サロウ先生がスリザリン生を見渡して告げる。治癒魔法? と多くの者が首を傾げる中で、先生は一枚の赤いインクが付いた羊皮紙を取り出して机に置くとインクをなぞるように杖を滑らせながら呪文を囁いた。

 

ヴァルネラ・サネントゥール(傷よ癒えよ)

 

 唄うようにして唱えられた呪文によって赤インクはみるみる内に消えていき、遂には真っ白な羊皮紙が残るだけとなった。

 

「この呪文は数ある治癒魔法の中でも最上位に位置する魔法と言っていい。だからこの呪文を習得できれば大抵の傷は防げるけど、それだけだと傷跡が残るから医務室に連れていくこと。いくらなんでも仲間が傷付いたままじゃ寝覚めが悪いだろ?」

 

 サロウ先生の言葉に全員が頷く。先生は先程の赤インクの線が描かれた羊皮紙を一人一人に配ると改めて説明を再開した。

 

「さて、さっきも使ったこの羊皮紙だが、これは人間の血そっくりに作り上げたインクでな。これを使えば治癒魔法の練習になる。成功すればインクは完全に消えるし、筋が良ければインクが薄くなる。流石に誰かに傷を付けて治す練習をする訳にもいかないだろ? さ、皆もやってみようか」

 

 先生の指示に従い、あちこちで『ヴァルネラ・サネントゥール』と唱える声が聞こえてくる。

 俺も例に漏れず『ヴァルネラ・サネントゥール』と唱えるが、中々上手くいかない。最上位に位置するだけあって習得の難しさも一入と言ったところだろう。

 

「上手くいかないな……」

「お前がか。珍しいな」

「リオンって言えば大抵の呪文はそつなくこなすイメージあるもんな」

「そんなことないぞ。俺にだって苦手な呪文くらいある」

「へぇ? 例えば?」

「……コウモリ鼻くその呪いとか」

「なんだそれ」

 

 両隣のセオドールとブレーズと会話しながらも杖を振る手は止めない。

 すると、少し前の方がざわつくのが聞こえた。

 何だと目を向けてみれば、そこにはダフネを褒め称える先生の姿があった。

 

「ブラボー! 流石だミス・グリーングラス。こんな短時間でインクを消し切るなんて実に素晴らしい! スリザリンに二点あげよう」

「ありがとうございます先生」

 

 どうやらダフネが治癒魔法を成功させたらしい。周りのスリザリン女子──特にダフネと仲が良いパーキンソンとブルストロード、デイビス──がダフネを揉みくちゃにした。

 本人も冷静を装ってはいるものの、やはり成功できたのが嬉しいのか頬が緩んでいた。

 

「おい、グリーングラスの奴が成功させたぞ」

「あぁ。僕らも負けてられないし、何より恋人として恥ずかしいところは見せられないだろリオン?」

「当然」

 

 さて、その様子を見せられて黙っていられる俺でもない。先程より集中して呪文の習得に取り組んだ。

 

 

 結果として俺、セオドール、ブレーズ、ドラコがダフネに続いて成功させ、殆どの生徒もある程度インクが薄まりクラップとゴイルもインクが薄くなり始めたところで授業は終了となった。 

 

「今日はここまで! 身に付けられなかった子は一度は成功した子に教えを乞うと良い。同じスリザリン生なら打算無しに助け合えるだろう? ここに今回使った物と同じ羊皮紙を置いていくからもし良ければ今後の練習用に使ってくれ」

 

 その言葉にこの授業を受けた全員が数枚ずつ紙を取って教室を出ていく。俺も羊皮紙を数枚手に持って教室を後にした。

 

 

 

◆ ◆ ◆

 

 

 

「明らかに度を越えてるような気がするがなぁ……」

 

 溜め息と共に吐き出された呟きは周囲のざわめきに掻き消される。

 今日の授業も終わり、行きたくないと駄々を捏ねるハリーをスネイプ教授のいる地下室へ放り込み──「あの廊下の先にあるのは神秘部だって分かったんだから良いじゃないか!」と言ってた。夢の内容分かったんだな──大広間で夕食を食べている最中に何やら玄関ホールの方から不愉快な声が聞こえた。

 

 俺としては興味も無かったのだが何やら曲線に触れたらしいブレーズとランスが結託して俺とマークとセオドールを引っ張って玄関ホールにまでやって来てしまったのだ。

 

「あなたには適性がありませんの。何が偉大な予言者の子孫ですか。ただの詐欺師でしょう」

 

 そう言って立つのは親愛なるドローレス・アンブリッジ。そんな女に詰め寄られているのは占い学担当のシビル・トレローニー先生だ。

 あのさんざんっぱらカリカリとペンを走らせてボードに記入していたのは教師としての適正検査だったらしく、残念なことにトレローニー先生はアンブリッジによって相応しくないと見なされたようだった。

 

 俺は占い学を選考していないので詳しくは知らないが、トレローニー先生の授業は評判が悪く魔法史とどっこいどっこいらしい。

 言っている内容も殆どが当てずっぽうの妄想で、ごく稀に本当の予言をするらしいが──事実三年生の時はペティグリューが戻ることを予言していた──それを除けば教師としては不適切と言わざるを得ないだろう。

 

 ともかく教師として不適切な彼女を追い出すというのは理に適ってはいる。問題なのはそれをこんな衆人環視の場でやる必要もないだろうということと、あのクソ女にそんな権限があるのかということだ。

 

「そんな……ここは、私の家で……」

 

 近付いてくるアンブリッジから遠ざかるトレローニーだが、服はヨレヨレ、眼鏡もずり落ち酒臭いとまぁ教師に向いてない要素だらけではある。

 

「こうなることも予見出来なかったのかしら? カッサンドラ・トレローニーの子孫なのでしょう?」

 

 唇を震わせながらアンブリッジが言う。怒りな訳がなく、あれは単に喜びを隠しきれていないだけだ。

 

「……楽しい夕食の時間に、何をしとるのかねアンブリッジ先生」

 

 と、大広間の方からダンブルドアがやって来る。そんなダンブルドアの冷ややかな声にもアンブリッジは動じず──鈍感すぎて気付いてないだけだ。実に憐れ──冷静に言い返した。

 

「理事会の承認もあり、トレローニー教授をホグワーツから追放しようと──」

「やるだけやってみるが宜しかろう」

 

 アンブリッジの言葉にダンブルドアがぶっきらぼうに返す。そんなダンブルドアを何人かが驚きの表情で見つめる中、アンブリッジは嬉々として書類にサインしようとして───固まった。

 

「な……何故? 何故署名できないのです? それに、それに理事会のサインまで消えていくではないですか!!」

「だから言ったじゃろう、『やるだけやってみるが宜しかろう』とな」

 

 ヒステリックに叫ぶアンブリッジをダンブルドアは変わらず冷ややかな目で見下ろす。アンブリッジもようやくダンブルドアの態度に気付いたのかいよいよ焦り始めた。

 

「何故……高等尋問官である私と理事会の承認があって追放出来ないのです……?」

「確かに尋問官と理事会にはこのホグワーツに対してとても強い効力を発揮できるじゃろう。それこそ好き勝手に校則を作ったりのう。しかし、こと教師の任命、及び退職についてはホグワーツ校長の許可が無ければ行えん。いくら理事会の承認があったところで無意味じゃよ」

「な……な……」

 

 ダンブルドアの宣言にアンブリッジは最早唇をワナワナと震わせることしか出来なかった。そして、追い討ちをかけるようにダンブルドアがたった今思い出したと言わんばかりに口を開いた。

 

「おお、そういえば新しく教師を雇おうかと思っておってのう」

「ふざけ───」

「占い学のフィレンツェ先生じゃ」

 

 

 

 

「ざまぁみろ教師の風上にも置けんクズが!! ダンブルドアに伝えられたときのあの女の顔と来たら傑作だ!!」

 

 部屋に戻ると開口一番にセオドールが叫ぶ。よほどアンブリッジに鬱憤が溜まっていたらしい。かくいう俺とブレーズもアンブリッジの醜態を目撃できたので小躍りしていた。

 

「俺、しばらくはどんなことでも笑って許せそうだ」

「いやまったく。あのガマガエルには困らせられてたからな。あの間抜け面を日刊予言者新聞の一面に飾ってみたかったな」

 

 これで多少は胸も空くだろう───そう思っていたのだが───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ステューピファイ」

 

 廊下の陰から数名のスリザリン生に向けて失神呪文を放つ。失神呪文を喰らったスリザリン生は仲良く廊下に倒れ伏した。

 

「出ると思ってたけども……」

 

 本当に出るとは思わなんだ密告者。呟いて溜め息を落とす。

 DAのメンバーの一人がアンブリッジに情報を漏らし、アンブリッジ達が必要の部屋に向かっていることをドビーが伝えに来たことで慌てて隠し通路を使って部屋から脱出。

 

 俺の場合はバレると折角の媚びへつらってきた努力が無に帰すので、物陰からアンブリッジ親衛隊と名乗る馬鹿なスリザリン生を闇討ちしてメンバーが逃げ切るまでの時間稼ぎに終始することにした。

 

「さて、と。ここら辺にはもう居ないか───引っ張り込んで悪いなネビル、アボット」

「僕たちは大丈夫」

「迷惑掛けてごめんねリオン」

「大丈夫だ。俺の方こそ馬鹿で間抜けな自寮の生徒がすまないな」

 

 物陰に身を潜めていたネビルとアボットが出てきて俺に申し訳なさそうにしてくる。

 

「……で、二人はいつまで手を繋いでるんだ?」

「え……? あ! ご、ごめんねハンナ!? い、嫌だったよね……?」

「う、ううん……わ、私は大丈夫だから……むしろもっと握っててくれても……

「え? 何か言った?」

「ううん。何でもないわ」

 

 何だろう、目の前でイチャつくの止めてもらって良い? なんて言えたら良かったのだが二人の間に流れる空気的にそんなことを言えるわけもなく、なるべく温かい目で見守ることにした。

 

「二人とも。今度ホグズミードに行くなら三本の箒でバタービールでも飲んで過ごすことを勧めるよ」

「~~ッ!! ち、違うったらリオン!!」

「そ、そうだよ! 僕なんかがハンナと一緒なんて……」

 

 あーマジで良い。俺とダフネを見るマーク達はこんな感じだったのだろうか。

 

 と、そんなことを考えていると倒れた数人のスリザリン生の内の一人から「うっ……」と呻き声がした。そろそろ目を覚ましそうだ。

 

「あ、目を覚まして一々こっちの事を言い触らされても面倒だし───オブリビエイト」

 

 杖から光が溢れて倒れるスリザリン生達を包む。さらに記憶改竄呪文も使って『ダンブルドア軍団のメンバーを追ったが姿を見つけられなかった』という感じに記憶を修正した。

 

「よし、こんなもんか」

「リオンってさ、時々えげつないことするよね……」

 

 ネビルが苦笑混じりに言い、隣のアボットもウンウンと頷いた。失礼な、こんなこと滅多にしないぞと言おうとして、奥の方からマークとランスが走ってくるのが見えた。

 

「マークとランスか。二人とも撒けたのか?」

「あたぼうよ。そっちは……伸したんだな」

「リオンがやったんだよ。物陰から失神呪文を当てて、さっきなんて忘却呪文と記憶改竄呪文も使ってた」

「うわ……リオンって意外とアクティブだね……」

「アクティブで済ましていいのかな……?」

 

 なんてことだ、友人達にはこのやり方は不評らしい。それもそうか。

 と、ランスが「おっといけね。大事なことを伝え忘れてた」と呟いて俺に近寄ってきた。

 

「どうしたよ?」

「あー……実はハリーが捕まってな。ドラコに」

「……ハァ。分かった。ちょっと行ってくる」

 

 思わず今日何度目かの溜め息が漏れた。相変わらずトラブルの渦中にいるハリーに同情すればいいのか……。

 

 とりあえずネビルとアボットを二人に任せ、俺は隠し通路なども使用して最短距離かつ全力疾走で校長室に向かう。

 ガーゴイル像に矢継ぎ早に合言葉を告げれば、心なしかいつもより早く像が飛び退いた。

 

 そして校長室に飛び込んだ俺が目にしたのは、床に倒れるアンブリッジと密告者たるマリエッタ・エッジコム──密告したことで出来た顔の出来物が実にチャーミングだ──父さんの友人であり騎士団員でもあるキングズリーに一度だけ顔を合わせたことがあるジョン・ドーリッシュさん、目を白黒させるハリーとマクゴナガル先生と相変わらず涼しげな顔のダンブルドアだった。

 

「……これはまた派手にやりましたね」

「キングズリーとドーリッシュには後で謝らねばのう。アンブリッジ女史に無理やり付き合わされたそうじゃ。実に嫌そうな顔をしておったよ」

「でしょうね」

 

 いくらなんでもこんな女にこき使われるなどごめん被りたいものだ。

 

「どうやらアンブリッジ女史はコーネリウスまで動かそうとしたようじゃが」

「天性の馬鹿ですかコイツ」

「無論コーネリウスは断っとったよ。意味がないと言ってのう」

 

 流石我らが魔法大臣、実に懸命な判断だ。

 ふとダンブルドアの皴だらけの手がフォークスに伸びる。空間転移を使うつもりだろうか。

 

「いい加減監視されるのも面倒での。しばらく姿をくらまそうと思う。リオンよ、すまぬが色々と任せることになる」

「俺は大丈夫です。最近なんてアンブリッジの醜態続きでコイツの下に潜り込むのもなんだか楽しくなってきましたしね」

 

 ダンブルドアは微笑み、壁際のマクゴナガル先生とハリーに視線を向けた。

 

「今言った通りじゃ。ミネルバ、わしが留守の間ホグワーツを頼む。ハリー、しっかりと閉心術を学ぶように。ではの」

 

 その言葉と共にダンブルドアが炎に包まれ、次の瞬間には校長室からダンブルドアの姿は消えていた。


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