か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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23:ダンジョン配信の日は、比企谷八幡にとって胃が痛い日である。

 もう何度目になるか分からない月曜日──配信の日が来てしまった。

 ハイハイ、嫁ニキ嫁ニキとか言われる日だよ。もっとこう、体操のお兄さんみたく、爽やかな呼び方とか無いのか? 従魔士のお兄さんとかさ。そもそも、ニキとかネキとか呼ばれてる奴は、ネット民の玩具にされてる傾向がある。

 良い風に考えれば、親近感が天元突破してるんだろうけど。

 あらいやだ、俺って超フレンドリーキャラじゃん! なんならフレンドリーファイヤーされちゃうまである!

 

「サブレ、初配信だけど大丈夫そうか?」

 

「ワンワン!」

 

 サブレは全身を発火させて、血気盛んだ。よしよし、メインのサブレは大丈夫そうだ。今日は由比ヶ浜も見に来るだろうし、元気な姿を見せないとな。

 てか、同級生だった女性に見られるんだよな……。しかも、過去にコクってきた女性。

 ヤッベ、途端に恥ずかしくなってきましたわ! 

 

「今日は紹介も兼ねて、サブレをメインにする。ルーメリアはいつも通り実況頼むわ。他はルーメリアに攻撃が行かないようにガード宜しくな」

 

 引き籠りのエルランを除く、従魔全員に役割を言い渡すと、ルーメリアが疑問を口にしてきた。

 

「マスターは何するんですの? サボるんですの?」

 

 サボる訳無いだろ。窓際社員が、トイレ掃除で働いてる風を装うが如く、ドロップ品を拾うんだよ俺は。

 

「バカお前、俺はドロップ品を拾と言う重大な役目があんだよ。あと、俺が出るとリスナーの目が汚れんだろ」

 

「あるじ様が卑屈……」

 

「違うぞタマエ、お兄ちゃんは卑屈じゃなくて傲慢なんだ。リスナー共を、暇な金蔓としか見てないからな」

 

「あるじ様最低です!」

 

 タマエに続いて、他の従魔達からコイツ最低だ、みたない視線が飛んでくる。

 コレは不味い、奉仕部にいた時みたいなノリでクズ発言をしてしまった。タマエに嫌われたら八幡生きて行けない!

 

「リスナーダイスキ、ハチマンウソツカナイ」 

 

「メッ!」

 

 心に無い事を言うと、タマエから愛のメッを貰ってしまった。これだよコレ、ご馳走さまです。

 と言っても、これ以上タマエにデレデレしてると、ルーメリアが煩そうだな。現に周りに血の矢が、俺へと向きながら展開されてるし……。

 

「HAHA……よし、て事で諸君。今日はお金を沢山貰って、魔石を食べよう!」

 

 俺の微妙な掛け声でダンジョンに入り、三階層を目指す事となった。

 

・・・・

・・・

・・

 

#狛犬? #デカ猫 #ヴァンパイア少女

 

 前回の配信から変わった事を、リスナーに分かり易くハッシュタグに書き込む。カマクラの進化、ルーメリアの進化、サブレとエルランの加入が主に、ここ最近の鎌谷幕府に起きた変化だからな。

 ただ今回、エルランは家でお留守番だ。なんなら一生お留守番しそうな勢いである。俺も来世はミミックになりたい。

 

「配信を開始するぞ」

 

 従魔達に開始の合図を送り、配信キューブの上面をポチッと押す。

 

:嫁ニキさんちぃーすww

:この日を待ち侘びたぜ!

:今日も修羅場配信を期待してます! ¥500

:また凄いのを従魔にした疑惑

:狛犬ってマッ!?

:今日の嫁ニキさんのヤラかしは何かな何かな ¥500

:またヴァンパイアの女性を捕まえた感じ?

 

YY:頼朝さんまだかしら ¥5000

ゆいゆい:やっはろー、ニッキー(^O^)/

お米小町:経ちゃん頑張ってね! ¥500

etcetc……

 

 もうYYさんが高額スパチャしようが、俺は驚かないぞ。幸せは人それぞれだ、本人が猫に貢いで幸せなら、こっちは何も言うまい。

 うん? このやっはろーってコメント……。これ由比ヶ浜だろ、ゆいゆいって書いてあるしな。てか、ニッキーってなんだよ。嫁ニキだからニッキー? いや、ヒッキーって書かれるよりはマシだけども!

 あと小町、いちいちスパチャしなくていいぞ。妹がスパチャするのが、クセになってそうで怖いわ。

 

「……スパチャあざっす。まずは新メンバーの紹介からさせて下さい」

 

 サブレを手招きして、カメラの前に呼び寄せると、嬉しそうにワンワン鳴きながら寄ってきた。

 

:マジなファンタジー犬キタ━(゚∀゚)━!!

:ガチな狛犬じゃんwww

:【速報】嫁ニキが狛犬をGET

:赤い文様がカッコ良すぎる ¥1000

:これは拝みたくなる

:メッチャ可愛い!一千万で売って!

:狛犬の御利益にあやかろう ¥500

:何の犬系モンスターから進化したんですか? ¥2000

:あの!犬を紹介してるYouTubeチャンネルの運営をしてます!出演して下さい!

:ワンちゃんの飯代 ¥2000

:嫁ニキの飯代 ¥300

 

お米小町:あ!解決したんだ!良かった!

ゆいゆい:あたしもご飯代! ¥5000

YY:犬はちょっと……

etcetc……

 

 御利益を信じてるのか、スパチャが多いな……。

 サブレは狛犬じゃない、なんなら犬ですら無い。照狼って種類の狼型のモンスターだ。

 故に御利益なんか無いんだよ。なんかスピリチュアル系の詐欺師になった気分だな。

 いつも思うが、何で俺の飯代は300円なんだよ。サイゼでミラノ風ドリアしか頼めねじゃねえか。せめてドリンク代も寄越せよ。

 

 へー、YYさんは犬が苦手か。なんかこの人、妙に雪ノ下と被るんだよな……。

 まあ雪ノ下が月曜から配信なんて見る訳無いか。アイツなら「そんなモノを見る暇があるなら仕事よ」とか言うに違いない。

 あと由比ヶ浜、対抗して飯代なんか投げなくて良いぞ。つーか、5000って……。0を多く押し間違えてない? 心配だ。

 

「こちらが新メンバーのサブ、」

 

 俺は寸前の所で思い留まって、言葉を切る。待てよ、俺と違って由比ヶ浜は友人が多い。

 即ち、サブレと触れ合った事のある人間が多いって事だ。

 サブレは昔と違って、白いし、赤い文様があるしで、由比ヶ浜と関連付けるのは難しい。でも、万が一ってのがある。迂闊にサブレって呼ぶのは危険だ。

 

「ゴホッゴホッ、新メンバーのさ、サブレーヌ君……です。因みに、スタードッグから進化しました」

 

「クゥーン……」

 

 やめろサブレ。僕はそんな名前じゃないよー、みたいな顔を向けないでくれ。お菓子繋がりで、マドレーヌを連想したんだから仕方無いだろ。

 なので、サブレを持ち上げて、耳元で「今日は焼き鳥をいっぱい食わせてやる」と囁いてやった。

 

「ワンワン!」

訳:僕サブレーヌ!

 

 チョロいなサブレ。てことで今日の晩飯は焼き鳥丼でも作るか。

 

ゆいゆい:あはは……イイナマエダネー

 

 なんか、由比ヶ浜の冷え切ったコメントが目に付いた気がするが、きっと気の所為だ。

 

「あと、ルーメリアファンの方々に朗報です。ルーメリアこっちへ」

 

 呼んでやると、いつもより気合の入った真紅と白色のドレスアーマーを纏ったルーメリアが、ランウェイを歩く様な足取りでやって来る。

 

「改めましてリスナーの方々、最近進化を果たしましたルーメリアですわ。これよりは司会進行をワタクシが務めさせて頂きます」

 

 鮮やかなカーテシーを披露する。

 うちの生意気なヴァンパイア幼女がこんなに立派な少女に成長するとは。お兄ちゃん嬉しいよ。シクシク

 

:可愛いぃぃぃぃぃいい! ¥10000

:俺が今まで見てきた可愛いとは何だったんだ!?  ¥5000

:幼女より少女派の俺氏大歓喜 ¥10000

:ちょっとヴァンパイアモノのア◯ルトDVD探してくるわ

:おい嫁ニキそろそろテンプレ発言しろよ

:嫁ニキの育成が凄いのかヴァンパイアが凄いのか分からん

:羨ましさが天元突破しそうだ ¥5000

:嫁ニキクタバレ!もってけチクショッ! ¥10000

:僕の血を全部吸って下さいルー様! ¥30000

:ルー様愛してます! ¥10000

:もう芸能人を見ても可愛いとは思えないわ

 

お米小町:わーお、ルーちゃん早く甥っ子プリーズ! ¥1000

ゆいゆい:メリメリ、今度ご飯行こうね(*´∀`*)

etcetc……

 

 万札を投げる狂信者が多いな……。

 小町、頼むから甥っ子とか訳の分から無い事を書かないでくれ! ヤバイ、胃が痛くなってきた。まさか最愛の妹が画面越しから、胃にダメージを与えてくるとはな。

 だが、四度目の配信ともなれば、俺の胃だって少しは強くなるし、エンタメと言うモノを少しは理解してきたつもりだ。

 なので俺は、仮面の上から頬を掻きながら、求められてるノリの良い発言をしてやる事にした。

 

「あれれ……皆さん驚いてますけど、またオレ何かやっちゃいました?」

 

:ウゼェwww

:ヤラかしてる自覚あるのがまたウゼェwww

:わざとらしすぎてウゼェwww

:なろう系のテンプレ発言キタ━(゚∀゚)━!!

:凄いのは従魔定期

:今さら無自覚系は無理あるだろwww

:嫁ニキ決闘しようぜ、渋谷のダンジョンに来いよ

:お前絶対なろう系転生者だろwww

:リアルで言われるとこんなムカつくんだなwww

:可愛くて都合の良い幼馴染はいますか?

 etcetc……

 

 ククッ、少しは萌え豚共にストレスを与えられたようだな。

 とは言え、何だかんだコイツらとは長い付き合いになりそうだ。

 ちょっとしたウケ狙いを果たした俺は、カメラの前から退いて、あとをルーメリアに任せる。

 

「前回の配信で進化した頼朝さんですわ」

 即座にルーメリアの腰巾着であるゴブタニが、配信キューブの位置を調整して、カマクラにカメラを向ける。

 当然、真っ先に反応したのは、猫好き大好きフリスキーのYYさんである。

 

YY:私は頼朝さんと出会う為に生まれてきたんだわ ¥50000

 

 この通り、コメント一発で5万円だ。しかも、カマクラとの出会いを必然の運命だと言い出す始末。

 いやもう、その金で本物の猫を買えよ、と言ってやりたい。それを言った所で、頼朝さんだから良いのよって返ってきそうだがな。

 

 ルーメリアに実況を任せて、サブレことサブレーヌ君をメインに俺達は探索を開始。三階層なんて探索し尽くしてるんだけどね。

 

「サブレーヌ君、敵を焼き払うんだ!」

 

「ワオーン!!」

 

 サブレの前に無数の赤き魔法陣が出現し、槍状の光り輝く聖炎が発射される。

 敵は絶え間無く降り注ぐ炎の槍に刺されて、燃え盛りながら粒子となって消えてゆく。

 

「マスター、左からも湧いてきますわ!」

 

 ッチ、今日はやけに敵の数が多いな。

 

「タマエ、結界を張ってくれ!」

 

 指示を出すと、俺達は結界──堅牢陣に包まれる。次の瞬間には結界に大量の石が、ガンガンと音を立てながら衝突してきた。

 この攻撃は、石を投げるリス共か。

 

「タマエは結界を解いていいぞ。ソフィーは酸削弾、サブレーヌ君は聖炎魔法を乱射しろ!」

 

 結界が解けた瞬間、待ってましたと言わんばかりに、こちらの攻撃が敵を襲う。2分も掛からない内に、敵は気持ち良く全滅してくれた。もうこのダンジョンで我が軍に敵うヤツなんていない。

 

:もはや戦いってより蹂躙www

:ダンジョンでコメントを返す余裕があるパーティーなんて鎌谷幕府ぐらいだろ ¥500

:年収800万出すんでウチのクランにきませんか? ¥2000

:ウチは1200万出すぞ! ¥3000

:キモい(褒めてる) ¥500

:やっぱり夜明けに入って頂く事は出来ないでしょうか?再度のご検討をお願いします。 ¥10000

 

ゆいゆい:サブレーヌ強い(*´∀`*) でも無理しないでね!

 

 うざったい、勧誘が鬱陶しい。てか、夜明けだか何だか知らないが、似たようなクラン名から前にも、何回かXアカウント宛に勧誘のメッセが来た気がする。

 よし、もうここで明言しとくか。

 

「ここでリスナー諸君に改めてハッキリと伝えておく。俺は組織ってモノにトラウマがあるんだ。何十億、何百億を積まれようが、クランだとかの組織に入るつもりは毛頭無い。ああそれと、夜明け? 白夜? 何だか知らないが、これ以上勧誘のメッセを送ってくるなら、ブロックするぞ」

 

:コイツ夜明けをアッサリ蹴りやがったwww

:嫁ニキさんww夜明けがどんだけ凄いクランか知ってる?www

:夜明けを迷惑扱いするなんて日本で嫁ニキぐらいだろwww

:ここまで無知だと逆にカッコイイわ ¥1000

:むしろ嫁ニキには今後もクランとかのしがらみに囚われて欲しく無いわ ¥500

:良く言ったぞ嫁ニキ!見直した! ¥10000

:ヤッバwww夜明けにブロック宣告とかwww

:これは流石の夜明けも涙目www

 etcetc……

 

 凄いかなんて知るか、俺は家族との平穏な暮しを守る。それだけだ。

 

「ワンワン!」

 

 サブレが頑張ったから褒めて、と言ってきた。ここはもっと、サブレの元気な姿を由比ヶ浜に見せるか。

 俺はサブレを両手で抱えて、カメラに手を振る様に指示すると、サブレは元気良くカメラに手を振った。

 案の定、ゆいゆいさんから『ありがとうニッキー(^o^)/』と千円付きでコメントが来た。

 

 サブレを降ろして、ドロップ回収の作業に取り掛かる。その間のリスナーとの触れ合いはルーメリアの先導の元、従魔達に任せる。やっぱりカメラを前にして喋るよりかは、こっちのが性に合うわ俺。

 

「はい、あるじ様♡」

 

 おやおや、タマエが手伝ってくれるようだ。俺はタマエが渡してきたドロップ品を受け取って空間収納にしまう。

 

「タマエはいいのか? あっちのがお喋り出来て楽しいぞ?」

 

「私はあるじ様のお側に居たいんです」

 

 あれか、カメラ越しに多くの人に見られるのが恥ずかしいのか? まあ気持ちは良く分かる。俺も配信なんて陽キャじみた仕事は苦手だからな。

 

「それに……あるじ様は未来の旦那様ですから♡」

 

 DA☆N☆NA! ヤバイ、これは人生の確定演出が来たんじゃいなか? このままタマエルの聖天使ルートに入りそうだよ!

 まあ子供の戯言かもしれないが、お兄ちゃん的にはポイントがカンストですよ!

 

「愛してるぞタマエ、病める時も健やかなる時もな」

 

:かーなーしーみのー♪

:嫁ニキ!後ろ!

:タマエちゃんと愛を誓い合ってる場合じゃないぞ!

:嫁ニキが今日死ぬに100ペリカ ¥100

:まさか配信で、殺人現場を見る羽目になるとはwww

:あばよロリコン野郎

:【速報】死亡十秒前【修羅場】

:2週続けて放送事故www

:早く逃げて嫁ニキさん!

:かーなーしーみのー♪

:ルーちゃんのハイライトが消えてる!

:これが殺し愛

:かーなーしーみのー♪

:おい嫁ニキ周りに血の槍が展開されてるぞ

:ルーちゃんが嫁ニキの頭を抱えながら船に乗ってエンド

:かーなーしーみのー♪

 

お米小町:これだからごみぃちゃんは……

ゆいゆい:多分ニッキーが悪い……

YY:本当にロリコンなのね……

etcetc……

 

 なんだ? やけにコメント欄が騒がしいな。

 敵が近くに居るなら、索敵役のルーメリアか、ゴブタニが知らせてくれる筈なんだが。

 しかも、リスナーがやたらと憂鬱な恋愛アニメに使われたエンディング曲の歌詞を、書き込んでくる……。

 ははん、分かったぞ。リスナーの奴ら、俺とタマエが仲良いのに嫉妬したんだな。家族の触れ合いに嫉妬するとか、しょうもない奴らだな。

 

「よし、タマエ。家に帰ったら夫婦ごっこでもする、」

 

 言い切る前に、頬を何かが掠った。

 

「ひ、ヒィッ!?」

 

 そして、地面に赤い槍が刺さっていた。

 みっともなく尻もちを着く俺は、壊れたブリキ人形の様に顔を後方へと向けた。

 

「死ぬ時も来世も一緒ですわ、マ・ス・ター♡」

 

 目から消えている、ハイライトが。

 これはアレだ、かーなーしーみのーってヤツだ。

 ふざけんなっ! 首チョンパされんじゃねえか俺!?

 

「ま、まま待てルーメリア!? 子供の遊びに付き合っただけだろ!」

 

 そして、思いっきし握られる感じで、後ろから肩に圧力が加わってきた。

 

「アルジサマ、ワタシアソビジャナイヨ、ホンキダヨ。アルジサマハ、ホンキジャナイノ? アルジサマノ、ウソツキウソツキウソツキetc……」

 

 背後から大量の呪詛が聞こえくる。

 誰か特級術師を呼んで! タマエルに特級呪霊が憑いてるぅ!

 俺は最後の希望を視線に乗せて、最強の相棒であるカマクラに助けを求めたが、

 

「にゃ〜」

 

 俺の事なんか気に掛けずに、カメラの前で招き猫ポーズをしたり、自慢の爪で岩を切ったりとリスナーを楽しませていた。

 いやいや、仕事してくれるのは嬉しいが、そうじゃない。助けてくれよ相棒!

 

「「マスター♡(アルジサマ♡)」」

 

「あ、嗚呼……」

 

 助けてぇぇぇぇぇ小町ぃぃぃぃぃ!!

 

 

 

 この後に起きた事は、語るには余りに恐ろし過ぎた。と言うか、恐ろしさの余り記憶が所々、抜けてしまっている。

 強いて言うなら、人間が生きてる内に絶対に経験しない恐怖を、経験した気がする。

 

 余談だが、YouTubeも運営的にも相当トラウマ映像だったようだ。有り難い事に運営が勝手に、その部分の映像をカットしてくれたよ。そして俺は目が覚めたら、家のソファーで寝ていた。

 どうしてこうなった……。

 

♢ ♢ ♢

 

side由比ヶ浜

 

 千葉市の某所、とあるカフェにてあたしは、ある人物を待っている。

 昨日のヒッキーの配信を思い出しながら、抹茶ラテを口へと運ぶ。

 サブレが元気そうで良かったー。でも、本当は寂しい。せっかく若返ったのに遠くにいっちゃうんだもんサブレ。それでも、ヒッキーの所に居るって事が、あたしを安心感を与えてくれる。

 ヒッキーに懐き過ぎなのがちょっと嫉妬しちゃうんだけどね。可愛い弟を取られたみたいな感じ。

 

 あのヒッキーが探索者になってて、配信者か…………。

 ふと、目を閉じて昔のヒッキーを思い浮かべてみる事にした。

 

『内輪もめは好きだ、なぜなら俺は内輪にいないからな』

 

『皆がぼっちになれば、争いも揉め事も起きない』

 

『みんなって誰だよ、かーちゃんに『みんな持ってるよぉ!』って物ねだるときに言うみんなかよ。誰だよそいつら。友達いないから、そんな言い訳使えたことねぇよ』

 

『いきなり気安くすんなよ、友達なのかと思っちゃうだろ』

 

『お化け屋敷の幽霊なんて怖くないだろ、怖いのは人間だ』

 

 うん、やっぱりヒッキー出会った頃より変わったと思う。昔より素直で前向きになってた。なんならヒッキーじゃなくてムッキーだった。

 あと見た感じ、ダンジョンにいる時のが活き活きしてる。

 凄いよねー、ダンジョンに入るなんて。あたしには絶対無理。

 

 それに、メリメリやタマエちゃん、ジュウマ?に囲まれてて楽しそう。

 でも、しゅらばだっけ? ああ言うの良くないと思う。人の気持ちに敏感なヒッキーなら、2人の気持ちに絶対気づいてそうなのに……。見ててもどかしいけど、今更あたしがヒッキーの色恋に口を出すのは、違う気がするしね。

 

「それでも面白かったんだけどね♪」

 

 昨日の配信を思い出すと、自然と笑っちゃう。

 メリメリとタマエちゃんは、バレてても気にしてないんだろうな〜って感じに見える。

 最後のヒッキーがお仕置きされるのは、ちょっと……いや、かなりヤバかったけど……。

 うん、あれは忘れよう。ヒッキーもショック過ぎて覚えてないだろうし。

 

 一旦スマホで時間を確認してみる。やっぱり、待ち合わせ時間より早く着いっちゃったなぁ。久々に会うからって、気合い入れ過ぎちゃったみたい。

 そうだ! ヒッキーの違う動画でも見おっと。

 イヤホンを付けてYouTubeを開くと、鎌谷幕府のアーカイブには昨日の動画を含めて四本の動画があった。

 意外と少ないんだ。でも週一だけの活動って言ってたし、こんなもんかもね。

 

 一番最初の動画をタップして、見る事にした。

 へぇ〜最初はカマクラとゴブリン(ゴブタニだっけ?)だけだったんだ。

 なんかヒッキーのゴブリンってノリが、とべっちに似てる。

 とべっち元気かな、元気だよね。だって元気じゃないとべっちとか想像出来ないもん。そう言えば、とべっちもユーチューバーだった。

 

「へー、メリメリってヒッキーの血貰ってるんだ」

 

 ってヒッキーが動画で慌てながら解説してた。

 なんか想像するとエロい。ヴァンパイア?吸血鬼?だし、普通なのかもしれないけど、ちょっとイケない感じがする。ヒッキーが通報されなきゃ良いけど……。

 動画を見て楽しんでると、待ち合わせ時間の10分前になったので、視線をカフェの入口に向けてみる。

 あ! 来た!

 綺麗な黒髪に、昔と変わらずにすらっとした体系。そして、出会った頃の冷たい印象が和らいだあたしの親友。

 

「おーい、ゆきのーん、こっちこっち」

 

 手を上げながら、昔馴染みの愛称で呼ぶと、親友と目が合う。

 ゆきのんは笑顔で、あたしのいる席までくると、お互いに久しぶりの挨拶を交わす。

 

「久しぶりね、由比ヶ浜さん」

 

 そう言うと、ゆきのんは席に座る。

 

「うん! ゆきのんも久しぶり、超会いたかった」

 

「大袈裟ね。2ヶ月前にも会ったばかりじゃない」

 

 二ヶ月って随分前な筈だけど……。でも、ゆきのんっていつもこんな感じだし、気にしても仕方無いか。

 

「でさでさゆきのん。なんか良い事あったの?」

 

 ゆきのんは何回か目をパチパチすると、バツが悪そうな表情をする。

 これは絶対になんかあった! 

 

「良い事? 何でそんな事を聞くのかしら」

 

「え、だって、珍しくゆきのんの方から茶しようってあたしを誘うから、なんか良い事あったのかな〜って。あと、前会った時より顔が明るい」

 

 ヒッキーと別れてからのゆきのんの顔は、いつもどこか暗かった。でも今日は昔のように明るい。

 まさかこれは……恋の予感がするよ!

 

「そ、そんな筈無いわ。顔が明るいのは化粧の乗りがたまたま良いからよ。それに、私の方から由比ヶ浜さんを遊びに誘った事だって……ある筈」

 

 自信がないのか、最後の言葉はギリギリに取れるぐらいに小さかった。

 うーん、有るにはあったかもけど、いつも理由ありきだった気がする。こんな会いたいから会お、みたいなのはあんまり記憶に無いなー。

 

「ゆきのん、まさか好きな人が出来たとか?」

 

 女性が明るく変わるなんて恋しかないよね!

 

「べ、べ別に好きとかじゃないわ。なんかロリコン気味だし私はどちらかと言うと猫の方が気になるだけよ」

 

 ロリコン? 猫? 

 猫好きでロリコンな男の人?

 あんまり言いたくないけど、ゆきのんにはロリコンじゃない人を好きになって欲しいかな……。

 でも、ここまで聞ければ成功。後は話を強引に進めれば、押しに弱いゆきのんは話してくれる筈!

 

「へー、やっぱ気になる人いるんだ。ロリコン以外はどんな人なの?」

 

「……気になるとかじゃないわ。それと、会った事も無い、声が男ってだけで、本当に男かどうかも怪しいのよ」

 

 え、会った事ない? いま話題のマッチングアプリってやつなのかな? 電話だけはした事あるって感じ? それなら声しか知らないのも理解できる。

 でもなんか、ゆきのんがマッチングアプリを使ってるイメージが全く沸かない。

 

「何してる人なの?」

 

「そうね、知ってる範囲だとダンジョン探索者をやっているわ」

 

 はいぃ!? ダンジョン探索者!?

 

「へ、へぇ……」

 

 あたしが意外そうな表情をしてるせいなのか、どうしたの? ってゆきのんが圧を掛けてきた。

 

「意外っていうか……ゆきのんって不安定な仕事してる人でもOKなんだな〜って……」

 

「そう言う事ね。由比ヶ浜さん、私を見くびらないで頂戴」 

 

 別に見くびっては無いけど……。なんなら昔から尊敬してるし。

 

「私、相手が多少捻くれてようが、専業主夫志望のシスコンだろうが、それを受け止めるぐらいの、寛容の心を持ってるつもりよ」

 

 それヒッキーの事だよね……。例えに見せかけて好みのタイプを言ってるだけだよねゆきのん。

 

「あー、でも良いと思う、探索者の人。ガッチシしてる男らしい人が多いって聞くし」

 

「そうね、直接会った事は無いけれど、筋肉は有る方だと思うわ」

 

 ゆきのんが意味が分かんない事言ってる。会った事無いのに、何で筋肉があるって分かるの? 自撮りを送ってくるとか? 

 だとしたら、ゆきのんってナルシストが好きなの? あーでも、ゆきのんも自信家な所あるし、案外気が合うのかも……?

 

 あたしが混乱してると、ゆきのんは悪戯が成功した子供のように笑った。

 ゆきのんのこんな表情、久しぶりに見たかも……。

 

「ごめなさいね由比ヶ浜さん。好きな人が出来た訳では無いのよ。でも、確かに違う意味で気になる人には出会った。親友の貴女にはちゃんと言うわ」

 

 ちゃんと話してくれるらしい。うんうん! ガールズトークなんだから、そうこなくっちゃっねっ! ゆいゆいワクワク。

 

「推し活と言うのかしら? 最近それにハマッたのよ」

 

 なるほどね、良いよね推し活。あたしも昔は友達と好きなアーティストのライブとか行ったな〜。

 でも、探索者の推し活って何? ニュースに良く出てくる夜明けってチームにいるSランク探索者の応援でもしてるのかな?

 

「何だっけ……神奈川叶人って人?」

 

「有名な人ね。でもその人じゃないわ」

 

 違ったみたい。あたしも詳しくないけど、日本のSランク探索者だったら後二人しかいない。どっちだろう?

 

「鎌谷幕府って知ってるかしら? 頼朝さんが凄く可愛いのよ」

 

「…………」

 

 乙女の様な顔で語り出したゆきのんの言葉に、あたしの思考が止まった。

 あれれ〜なんか最近どこかで聞いた単語が聞こえて来た気がするなー。

 

「由比ヶ浜さん?」

 

「ッハ!? ゆきのんって鎌倉幕府好きなんだ! 源頼朝とか超良いよね! うん、マジ将軍って感じだよね!」

 

 誤魔化す様に慌てて声を出すと、ゆきのんは溜息を吐きながら、頭が痛いみたいなポーズを取った。

 前から思ってたけど、そのポーズちょっとムカつく!

 

「鎌倉幕府を知ってるなんて関心したわ。成長したわね由比ヶ浜さん」

 

「なんか褒められた!?」

 

 てかなんも嬉しくない!

 

「でも私が言ってるのは、鎌倉幕府では無く鎌谷幕府よ」

 

 やっぱりそっちだったぁぁぁぁあああっ!!

 

「由比ヶ浜さん、汗が出てるわよ? 大丈夫かしら?」

 

「うん、あ、あー、今日ちょっと厚着し過ぎたかも……HAHA」

 

 どうしよヒッキー!? 覆面探索者の正体がヒッキーだなんて言えないよ! しかもあの熊みたいな猫はカマクラだし!

 

「所で由比ヶ浜さん、サブレさんは元気かしら? もう結構な年齢だったと思うのだけれど」

 

 え、何で犬嫌いのゆきのんの口からサブレの名前が出てくるの? ヒッキーと会ったのがバレた? 

 やましい事なんてしてないからバレても問題無いけど、言ったらニッキーがヒッキーだってバレちゃう気がする……。

 

「げ、元気だよ。歳を感じさせないぐらいには元気かな……」

 

 若返って、白い狼になっちゃったけどね……。

 

「てかさ、ゆきのんがサブレを気に掛けるって珍しくない? 犬嫌いなのに」

 

「そう、元気なら良かった。それと別に嫌いじゃないわ、苦手なだけよ」

 

 ゆきのんが強がりだした。こう言う所は相変わらずでホッとしちゃう。

 

「鎌谷幕府を見ていたら、たまたま貴女の犬を思い出して気になったのよ」

 

「あー、まあサブレーヌだしね」

 

 ここであたしはミスをしてしまった。

 

「あら、貴女もリスナーなの?」

 

 ヤバイ、つい話しに乗っかっちゃった!

 

「え、う、うんうん、そうそう、あたしもたまーに従魔達が可愛くて見るんだよね〜、ゆきのんと趣味が同じだなんてビックリダナー、HAHA……」

 

 乾いた笑いで誤魔化してると、ゆきのんは嬉しいそうに微笑んだ。

 

「私も嬉しいわ。やっと貴女と共通の趣味が持てたわね」

 

 なんか今まで共通の趣味が無かったみたいな言い方されちゃった!

 

「所で由比ヶ浜さん、貴女は誰を推してるの?」

 

 ゆきのんの目が真剣過ぎて怖いんだけど。これ、あっぱく面接みたいだよ。

 あたし、にわかだしどうしよ……。

 

「あー、サブレーヌかな。なんかサブレと名前似てて親近感って言うのかな?が沸くし」

 

 本物のサブレなんだけどね!

 

「あと、メリメリとタマエちゃんも可愛いくて良いよねー。メリメリなんて昔の優美子とどっか重なるし」

 

「そう、ヴァンパイアが……。あのヴァンパイア……ちょっと苦手だわ」

 

「デスヨネー」

 

 なんとなくそんな気がしてた。メリメリとゆきのんを混ぜたら危険な感じしかしない。ヒッキーが修羅場になってるのが簡単に想像ついちゃうもん。

 

「一応聞くけど、ゆきのんは誰推し?」

 

 多分カマクラだよね。

 

「頼朝さんね、あれこそ猫の中の猫よ。頼朝さんを知ってしまうと、他の猫さんでは満足出来ないわ。もう私は頼朝さん無しでは生きて行けなくなってしまったのよ」

 

 なんか怖い。ゆきのんがホストにハマった女の子にみたいになってるよ。

 

「気づけば、合計で三十万近く投げてしまったわ。少し自重した方がいいかもしれないわね」

 

「さ、三十万!?」

 

 ヒッキーのバカッ! でもゆきのんが一番のバカッ! 早くゆきのんをどうにかしないと!

 

「由比ヶ浜さん、何を驚いてるかのしら? 推し活と言うのは、これぐらい当たり前でしょ」

 

「当たり前じゃないよ! グッズを買うとかなら分かるけど、配信でそんなバンバン投げるとかおかしいよゆきのん!」

 

「バンバン投げて無いわ。20分おきに基本一発一万円よ」

 

「思ってたより酷いし!?」

 

 あたしは机の下でスマホを開いて、ゆきのんにバレないようにヒッキー宛にメッセージを高速入力する。

 

『何でも良いからカマクラのグッズを作って! あとサブレのもよろしく!』

 これでヒッキーに送信っと。

 

「由比ヶ浜さん、なら貴女はいくら投げてるの?」

 

「えーと全部で六千円ぐらいかな? サブレーヌのご飯代で」

 

 そう言うと、ゆきのんは心底意外そうな顔をする。

 え、六千円って普通だよね? そこそこのドッグフードが買えると思うんだけど……。

 

「甘いわね由比ヶ浜さん。犬じゃなくて、犬型の魔物よ? 犬より食べるに決まってるじゃない」

 

 確かにそうだけど……。それでも三十万は投げ過ぎ。

 

「か……じゃなくて頼朝以外に推してる子はいないの?」

 

「他で言うと、タマエさんは耳と尻尾がモフモフしてて凄く可愛いと思うわ。でも、やっぱり一番は頼朝さんね」

 

 ダメだ、ゆきのんが完全にカマクラの信者になってるよ……。

 

「あと、推しては無いけど義経さんが気になるのよね──」

 

──どことなく彼に似ていて

 

「…………」

 

「それに、頼朝さんも彼の飼い猫のカマクラさんにどこか似ていて、ほっとけないのよ」

 

「…………」

 

 似てるどころか、カマクラとヒッキー本人だよ!

 あたしには運命の赤い糸が見えてるんだけど、なんでこの二人って寄りを戻さないの? 

 大学時代の事は聞いてる。でも、ちょっとした口喧嘩じゃん。どこのカップルでもしちゃう事じゃん。

 確かに二人が感情的になって喧嘩するのは珍しかった。でも、お互いを避ける程の事だったの?

 

「ね、ゆきのん。その……」

 

 でも、言葉が続かない。

 ヒッキーの事を言おと思ったけど、ヒッキーには誰にも言わないって約束しちゃったから。

 それにヒッキーは多分、ゆきのんに一番現状を知られたく無いんだと思う。

 

『マスタ~』『あるじ様~』

 

 ヒッキーの従魔である二人の顔が思い浮かんだ。そうだよね、やっぱヒッキーにはヒッキーの今の生活があるんだよね。

 あたしがゆきのんに、今のヒッキーの状況を教えて、それでヒッキーの生活がメチャクチャになる可能性だってある。

 高校の頃なら、最初から最後までお節介したかもしれないけど、あたしにも旦那さんとの生活があるから、それは出来ない。

 

「由比ヶ浜さん? どうしたのかしら、急に黙って」

 

 決めた、あたしは見守るだけにする。だから頑張ってねゆきのん。陰ながら応援してるから!

 

「あ、えーと、ゆきのんって今どこに住んでるんだっけ? 確か、もう千葉市じゃないんだよね? 今後もゆきのんと会って鎌谷幕府の話しとかしたいし……」

 

 変に思われないように、それらしい話題を振る。親友に隠し事してるみたいで心が凄く痛い。

 

「そう言う事ね。私、今は君津市に住んでるわ。雪ノ下ホールディングスの製品開発本部長として、会社が所有してる工場の方に出社してるのよ」

 

 うん? 君津ってどこだっけ? 確か千葉の下の方だった気がする。

 あれ? ヒッキーも下の方に住んでなかったっけ? 確か、富津だった気がする。

 胸騒ぎがしたから、スマホのグーグルマップで確認してみる事にした。

 

「由比ヶ浜さん、貴女はスマホで確認しないと千葉県の市町村が分からないのかしら? 久しぶりに私が勉強を教えてあげるべきね」

 

 ゆきのんがなんか言ってるけど、ほとんど聞き逃した。

 だって、富津と君津が隣なんだけどぉぉぉぉぉぉおおっ!?

 

「富津が……と、なり……」

 

「富津? ええ、確かに位置的には隣ね。それがどうしたのかしら?」

 

 あたしは確信した。やっぱりこの二人って、運命の赤い糸で結ばれてるよね!!

 

「…………昔仲良かった友達が住んでるのを……思い出したから、つい……」

 

「そうなの? 何も無い富津に住むなんて……なんて言うか、随分と奇特な友人ね……」

 

 奇特ってより、特殊(ヒッキー)だけどね。

 

「う、うん……凄く……変わった友達なんだ……HAHA」

 

 あんまりこんな事思っちゃイケないけど、この先が凄く面白くなりそう!




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