か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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20:魔王と言う存在は、大抵奥の手を隠し持っている。

『流れ切った文字の後、ひとり続きを~、待った~♪』

 

「ふぁ~……」

 

 眠気眼を擦りながらスマホのアラームを切る。

 まだ朝の5時か……。って違う! そろそろタマエの結界が解けてしまう!

 なので、隣で可愛い寝顔でスヤスヤ寝てるタマエを揺すって起こす事にした。

 

「タマエ起きろ~、二度寝していいから起きてくれ~」

 

「むにゃむにゃ……あるじ様……ちゅー……」

 

 なんか変な寝言を言っている……。あざとい、寝言があざと過ぎる。

 これより俺が過去に考案した対ロリ小町オペレーションを開始します!

 

「そうか、タマエは起きてくれないか~、残念だな~。折角来月モントで開催されるクリスマスガチャを引かせてあげようと思ったんだけどな~、これはお兄ちゃんが引くしかないな~」

 

「……!!」

 

 ご褒美をちらつかせた途端にタマエがピシッと起き出した。

 

「あるじ様おはようございます! クリスマスガチャ楽しみですね!」

 

 ほら、この通り作戦成功だ。小さい子供は欲求を刺激してやれば直ぐに素直になるからな。小さい頃の小町なんてお菓子を買ってあげればいい子にしててくれたしな。お陰で少年八幡の財布は毎月カッツカツだったよ。待てよ、あれは小町の策略だったのかもしれないぞ。マジかよ小町ぃ……。まあ小町だし、妹だし、可愛かったし、もう何でも良いっか。

 取り敢えずオーブを200個は貯めておこう。

 

 結界の貼り直しをさせると、タマエは二度寝に入った。あ、寝袋からケモミミだけがはみ出てる。可愛いから写メ撮っちゃお!

 家族写真を増やした俺はテントから外に出て、朝食の準備をする。準備と言っても予め家で作ったサンドイッチをBBQ用テーブルに置いただけだが。

 

 ムッキールーティンでもするか。

 日々のルーティンを絶やさない為にも腕立て伏せを開始。

 

「108……109……うぅ……ひゃく……10!」

 

 腕立て伏せ自己ベスト記録更新! 感じるぜ幸福感(セロトニン)

 よし、次は腹筋運動!

 

 最初の頃はダンジョンを歩き回るだけで物凄い倦怠感に襲われてた。筋トレの影響か、レベルがもたらす補正値の影響か、或いは両方の影響かは知らないが、最近はダンジョン内を走り周っても大して疲れない。健全な精神は健全な肉体に宿る、という言葉は本当なのもしれないな。

 

「ダンジョンの中でも朝から鍛練ですの。うむ、偉いですわマスター」

 

 ルーメリアが感心した様子で、腹筋運動をする俺を見下ろしていた。

 ヴァンパイアの癖して、コイツって意外と早起きだよな。早起きしてる理由が朝のスイーツ特集を見る為なんだけどな。いやどこのOLだよ。

 

「暇ならお前も筋トレしたらどうだ?」

 

「大丈夫ですわ、わたくしは既に絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ)の免許皆伝ですもの」

 

 アンチブレイヴァーアーツって何だよ。俺の中の中二病が再燃するぐらいにはカッコイイネーミングだぞ。多分だが異界語を俺に分かり易い様に訳したのかもしれない。ニュアンス的には対勇者用の流派か? 

 そう言えば雪ノ下も合気道を習ってたっけ。俺も探索者である以上、何かしらの武術を習った方がいいのかもしれない。なら見せて貰うか、異世界の流派とやらを。

 

「へぇ……是非とも偉大なる魔王様に異界の流派をご教授願いたいものだな」

 

「ふふん、良いですわ。か弱いマスターに絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ)の一端を見せてあげますわ」

 

 俺が媚びながらお願いすると、ルーメリアが得意気な表情を浮かべ、武術らしき構えをやりだした。

 おー構えがカッコイイ! 結構本格的な武術なんだな。

 

 興味深々な眼差しで眺めてると、ルーメリアはレクチャーを始める。

 

「いいですかマスター、絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ)とは魔なる者達が長い年月を掛けて聖なる者達に対抗する為に編み出した流派ですの。詰まる所、チートスキルを持つ勇者や聖女たる強敵を確実に葬り去る為の流派ですわ」

 

 勇者って本当にチートスキルを持ってんだな。俺が見てきたラノベでも勇者って大概チート性能だったしな。

 

「先ずは絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ)の基本、魔力燃開!」

 

 ルーメリアの全身から蒸気みたいなモノが溢れ出す。

 燃開とか言われても全く分かんなねぇよ。なにコレ、なんて言う卍解? なんならギアセカンドだよ!

 

「魔力燃開とは内なる魔力を燃やし、純然たる闘気に変換える闘法。魔力燃開してる間は全てのスペックを倍増させる事ができますわ」

 

 瞬きをした瞬間、突如とルーメリアが目の前から消え去った。元々立っていた所の地面が抉れている。

 はっ!? 一体どこに消えた!?

 

「ここですわマスター」

 

 背後から声が聞こえた。振り向くとそこにはルーメリアがいる。

 いやいや、どんだけ高速で動いてんだよ!

 

「今のは足に闘気を集中させましたのよ。次は作った闘気を100%手に集中させますわ」

 

 ルーメリアの掲げた右拳が輝きを増し始める。

 まさかこれは! リアルゴッドフィンガー見れるのか!

 岩壁を前に、ルーメリアは握りを拳を作った右腕を大きく後ろに引く。

 

「更に向こうへ! スマァァァァアアッシュ!!!」

 

「そっちかよ!」

 

 放たれた強力な一撃は、巨大な岩壁を轟音と共に木っ端微塵に消し飛ばした。

 

 ゴッドフィンガーみたいなのを期待してたら、オールマイトバリのスマッシュだったよ。充分凄いんだけどね。

 もうアニメ禁止しようかな、なんかよろしくない影響与えてるし。でも配信的にな幼女が技名を叫んだ方が盛り上がるのかもしれない。取れ高を考える辺り、俺は最早プロのダンジョン配信者なのかもしれないな。

 いや待て、今までルーメリアが何かヤラかす度に駄王とかマダオってバカにしてきたが、次は俺があの岩壁みたく木端微塵にされるかもしれないのか……。

 

「どうしたんですのマスター? 今までの行いを後悔してる様な顔になってますわよ」

 

「お前は頼むからピンポイントで思考を読まないでくれ……」

 

「マスターが顔に出やすいだけだと思いますわよ」

 

 この際、俺が顔に出やすいってのは一旦置いとく。

 ルーメリアは何故この技を普段から使わなかったんだ。考えられるのは何かしらのデメリットがある事。大体のバトル漫画では自己バフにはデメリットが付き物だからな。思い付く所で言うと、悟空の界王拳、クラピカのエンペラータイム辺りか。

 

「……なぁルーメリア。純粋な疑問なんだが、何で今までの探索で使わなかったんだ?」 

 

「良くぞ聞きました、ここでマスターに問題ですわ。ダンジョン探索に一番必要なのは何だと思いますの?」

 

 普通に答えるなら純粋な戦闘力だが、俺の経験上ダンジョン探索において最も必要なのは、必要物資を如何に適切な量を運搬するかだ。物資が少な過ぎればパフォーマンスが下がるし、多く運び過ぎればドロップ品をあんまり回収出来ない上に移動速度が低下する。

 言うなれば……

 

「如何に長時間戦うか……継戦能力か?」

 

「そう、当たりですわ。絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ)は対勇者を想定してる性質上、長時間戦う事に向いて無いんですのよ。今のわたくしの魔力量では持って3分が限界ですわね」

 

 成程、敵ボスと一対一の短期決戦に持ち込むのが前提の流派か。

 

「そうか……でも凄いよな。その流派で数々の勇者を倒してきたって事だろ? 相当凄い流派なんだな」

 

「いいえ、正直勇者相手にこの奥の手を使ったのは、108人中10人ぐらいですわよ」

 

 返って来たのは予想外の回答だった。じゃあ98人はどうやって倒したんだよ……。

 

「あれか、俺の想像より勇者が弱いんだな……」

 

「勇者の倒した方で最もポピュラーなのは冒険に出たての勇者が寝てる宿屋を長遠距離砲撃魔法で宿屋ごと消し飛ばす事ですわ。次に勇者の食べ物に毒を盛る事。適当なか弱い農民に大金を握らせて後ろから刺させるって事もやりましたわ。まだ有りますわ……」

 

 ルーメリアは生々しい勇者の暗殺法を嬉々として語り出す。数々の暗殺法でエグイと思ったのは、勇者に適当な売春婦を当てがって快楽を与えながら暗殺する方法と勇者の幼馴染や家族の脳みそを洗脳の魔道具で弄くって勇者を絶望させながら殺す方法。

 エグイ! エグ過ぎる! 勇者との熱いバトル展開が本当に無いよ! しかも冒険に出たての勇者とかほぼパンピーじゃねぇか。ゲームで例えると始まりの村で魔王とエンカウントする様なモンだぞ。勇者サイドからしたらマジなクソゲーだな。

 だが逆に言えば、魔王ルーメリアの権謀術数を搔い潜ったのが10人もいるのか……。うん、拍手を送ってやりたい。

 

「マスター? 何でモンスターブックを出してるんですの?」

 

 何でだろう、嬉々として『誰でも安心!勇者の楽で楽しい殺し方☆』を語りだす奴をのさばらせちゃイケないと思ったら、自然とモンスターブックを呼んでしまった。

 

「なんて言うか……今ここでお前を封印した方が良い気がして……な?」

 

「な?じゃないですわ!! 勘違いしてる様だから言いますけど、わたくしは何度も人間側の王に平和協定の提案をしましたわ! でも返って来る返事はいつも『おのれ魔王め!貴様の策略には乗らんぞ!人類の存亡を賭けて魔族と戦争だ!』でしたのよ!」

 

 あー何て言うか、どっちもどっちな気がするわ。人間側は魔族に変な偏見持ってるし、ルーメリアはルーメリアで勇者を惨い形で殺すのが良く無いわ。まぁ、あくまでも異世界の世界情勢を知らない俺の感想だけど。

 

「セイセイセイ、勝手に決めつけて悪かったって。頼むからそう怒らないでくれ、コレやるから」

 

「ふんっ、分かって頂けて何よりですわ」

 

 ご機嫌斜めになった膨れっ面のルーメリアは、俺の手からマッ缶をふんだくる。

 機嫌を直してくれて良かったわ。ぶっちゃけ異世界で起きた魔王の愉快な殺戮(ハッピー)ファンタジーなんて俺には関係ないけどね。現にルーメリアは、この世界では甘い物とアニメが好きなだけの我儘ヴァンパイアだしな。正直な所、最初の頃よりルーメリアに対してそこまで危機感が無いってのが本音だ。

 

「あるじ様、煩くて起きちゃいました……」

 

「ニャ~」「ゴブ~」「プルプル」

 

 従魔達が轟音のせいで起きてしまった様だ。少し早いが朝食にするか。

 にしても絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ)か、興味深い。今後の為にも体得した方が良さそうだ。魔族専用の流派みたいだから人間が体得出来るかは知らんが。

 

♢ ♢ ♢

 

 朝食を食べ終わった後は、1時間程ゆったりしてから八階層へ下ってダンジョン探索を再開。ある程度予想してたが、九階層への下り通路をすぐに見つける事が出来たので進んだ。

 流石に九階層に出てくる魔物は強かった。ゴブリンの派生進化形であるゴブリンソードであったり、頭が二つ生えた虎であるツインタイガーヘッドとかな。

 

「「ギャエン!!」」

 

 またもやツインタイガーヘッドにエンカウントした。ツインタイガーヘッドはカマクラの方に目を遣ると、

 

「「フッ」」

 

 鼻でカマクラを笑った。またこのパターンか……。何故か二頭虎はカマクラを鼻で笑うのだ。多分だが、カマクラが猫だからナメられてるのかもしれない。

 

「二ァ、二ァッ二ァッ!!」

訳:ドサンピン野郎共、ぶっ殺す!!

 

 次の瞬間には二頭虎の首が二つ宙を舞い、散って逝った。

 いやカマクラさん、ドサンピンなんてガラの悪い言葉どこで習ったんですか。この前俺が偶々TVで見てた任侠ドラマのせいかな。って、思いっきし原因が俺じゃねえか。

 

「本当はこんな簡単に勝てる魔物じゃないんだけどな……」  

 

 ツインタイガーヘッドの脅威度はB+であり、正直言って俺一人なら全力で逃げるぐらいには危険な魔物だ。

 ドロップ品である頭蓋骨を空間収納に入れ終え、探索を進める。

 

「カマクラおじ様凄いですね~♪」

 

「流石はカマクラさんですわ! わたくしが元の力を取り戻した暁には、魔王軍四天王筆頭にして差し上げますわ」

 

「にゃ~♪」

 

 幼女達に褒められて満更でもないカマクラが機嫌を直し始めた。

 チョッロ! ウチの猫ちょろいですわ!

 それとルーメリア、お前は魔王軍再建を目論まないでくれ。

 

「ゴブ……」

訳:九階層に入ってから活躍してない……

 

 まぁツインタイガーヘッドのせいでブチキレタカマクラが憂さ晴らしに暴れ回ったからな……。

 

「何言ってんだ、暇なのはいい事だぞ。働かないで食う飯は凄く美味いからな」

 

「ゴブゴブ」

訳:旦那は良くそれでダンジョン探索者になりましたね

 

「うっせ、サラリーマンと天秤にかけた結果だ」

 

 もう組織で消耗品みたく扱われるのはウンザリだ。ダンジョン探索者は命を賭けてるが、何も悪い事ばかりでは無い。好きな時に休む事が出来るのが一番のメリットだ。目標は十年以内に億単位の資産を築く事。何不自由の無い悠々自堕落な老後生活を送ってやる!

 

「プルプル」

訳:マスターはいつも家事してるから働いてるよ

 

 俺の頭の上でポヨンポヨン跳ねるソフィー。

 流石はソフィー、世の主夫の苦労を理解していらっしゃる。そんなソフィーには高級なコップでも買ってあげようではないか。

 

 マッピングタブレットに記入しながら、従魔達と和気あいあいと進んでたら10階層へと続く竪穴を見つけた。 

 

「見つけてしまった……」

 

 とうとう此処まで来たぞ……。ネット情報で分かったのは、最終階層にいるのはボス一体のみ。探索者協会の指針だと、ダンジョンボスに挑む場合はAランク探索者を2人以上はパーティー入れるのが推奨されてる。この事からダンジョンボスは費用対効果が悪い。挑む奴はよっぽどの命知らずか、相当腕に自信がある奴だけだ。

 

「ルーメリア、最終確認だ。お前の経験上、本当に俺たちでもダンジョンボスに勝てるんだな?」

 

 此処までのマッピングも済んだし、今ならまだ引き返せる。何も費用対効果の悪いダンジョンボスに命を賭ける必要は無いんだ。と言うか行きたくない。女子に告って振られた翌日の学校並みに行きたくない!

 

「絶対に問題無いですわ。むしろダンジョンボスが可哀想なくらいですわよ」

 

 ルーメリアは当たり前の様に言う。蟻を恐れる意味が分からない、そんな表情をしている。

 

「お前が言うんなら本当に大丈夫なんだろうな……。よ、よし、お前達行くぞ」

 

 俺達は竪穴に入り奥を目指して進み続ける。

 うぅ、やっぱ怖いよ、小町に会いたい。そう言えば遺言とか何も残してねえわ。俺が死んだとき用に『ノートパソコンだけは見ないで破棄してくれ』とか、『雪ノ下に愛してると伝えてくれ』ぐらいは残しておくべきだったかもしれない……。戦地に赴く兵士の気持ちってこんな感じなんだな。知りたくなかったよ。

 いや待て、大丈夫だ。きっと大丈夫だ。そうだ、俺には愛すべき頼もしい従魔達がいるから大丈夫だ!

 

「お前ら! 生きて帰れたら宴だ! 好きな物を何でも食わせてやるぞ!」

 

「ニャッ!?」「ゴブ!」「プルプル!」

 

「マジですの!!」「キツネうどん!!」

 

 自分を奮い立たせるべく放った言葉は、従魔達の士気は最高潮にまで押し上げた。

 こうなれば大盤振る舞いだ。和牛、大トロ、トリュフ、カニ、キツネうどん、マジで何でも食わせてやる! 次いでに俺も朝まで飲み食いしてやるからな!

 

 最高潮に達した士気で、俺達は荘厳な扉の前に辿り着いた。

 

「いいかお前達、今からボスとの戦闘だ。俺が撤退って言ったら即撤退だからな!」

 

 注意事項を言い渡すが、従魔達はハイハイと言いたげな様子である。なんかコイツら見てると、ビビってる自分がアホらしくなってくるな……。ええい! さっさと終わらせて宴だ!

 

 ヤケクソな思いで扉をあけると、そこには……

 

「ウオォォォォォォォオオオッ!!!」

 

 推定4mもあるゴリゴリの赤い巨人が金棒を持ち上げ、こちらに充分な恐怖を刻み込む程の咆哮を響き渡らせた。

 もう帰りたいんですけど!! 何ならチビッちゃったよっ!!

 

「ひ、ヒッ!」

 

 このボスは確か……レッドオーガスだっけか? オーガがパワー特化で進化した種族だった気がする。

 

「レッドオーガス、相手にとって不足は無いですのよ!! マスター、絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ)の続きを見せてあげますわ! 魔力燃開!」

 

 ルーメリアは全身か蒸気を発すると、目の前から消え去った。

 このパターン……敵の背後か!

 

「戦血魔法・暴血(ブラッドエクスプロージョン)!」

 

「え……」

 

 吹き飛んだ。ルーメリアが何をしたのかは知らないが、レッドオーガスの胸部右側が吹き飛んだのだ。

 

「ウオ……オオ……」

 

 レッドオーガスは右胸を抑えながら倒れ、うつ伏せで悶え苦しんでいる。

 本当にダンジョンボスが可哀想な姿になっているよ……。

 

「あら、間違いましたわ。オーガスの心臓はもう少し左寄りでしたわね」

 

 ルーメリアは苦しむオーガスの前で、虫けら見つめる様に佇む。レッドオーガスのその姿は正に、魔王にひれ伏す哀れな村人だ。

 そしてルーメリアは首だけをこちらに向け、不敵に笑う。

 

「さぁ皆様、一緒に踊りましょう」

 

 この後に起きた事は語るまでも無い。従魔達が無力化されたレッドオーガスを囲んでリンチしただけだ。自慢じゃないが、トドメは俺が刺した。いやうん、本当に自慢にならないな。バットでケツを叩いただけだし。

 ドロップ品は大きな金棒とサッカーボールサイズの魔石。ちょっとこの金棒はサイズ的に俺には扱えないかな……。

 

「いって……あ、レベルアップしたっぽいわ……」

 

 身体中に僅かな痛みが走った。レッドオーガスに止めをさしからか、個人レベルがアップしたわ。

 それより頑張った魔王様に褒美を渡さなきゃな。

 

 地面で胡坐をかいてる女子力の無い魔王様に声を掛ける。

 

「ほらルーメリア、MVP褒賞だ。お前のお陰でかなり楽できた、ありがとうな」

 

 レッドオーガスの魔石をルーメリアに差し出す。

 

「マスターに感謝されると寒気がしますわね……」

 

「おい、俺は常に俺以外の存在に感謝の気持ちを抱いてるぞ。そうしとけば女性が好む、良い人って奴になれるって聞いたからな」

 

「それ、ただの良い人に止まるだけで、女性に選ばれないですわよ……」

 

 知ってる知ってる。だから社会人になってからはどんな無茶な仕事でもやる、従順な良い人を目指したんだよ。お陰で後輩からはナメられっぱなしだったけどな。

 

「ほら、いらないのか? いらないなら売るぞ」

 

「貰いますわ。それとマスター、クリスマスプレゼントはアップルとやらのスマホが欲しいですわ♡」

 

 レッドオーガスの魔石を受け取ると、クリスマスプレゼントまで強請ってきやがった。しかもiPhoneかよ! 高級ブランドスマホじゃねえか。俺じゃなくてサンタに強請ってほしいわ。

 

「分かった分かった、考えとくわ。それより立て、今日で七階層まで戻るぞ」

 

 ルーメリアに手を貸すが、立つ気配が無い。どうしたんだよコイツ……。

 

「マスター、わたくし魔力燃開を使ったせいで倦怠感が凄くて」

 

 ──だから立てません、って。凄く頑張ってくれたし今日は特別に甘やかしてやるか。

 

「はぁ~、おぶってやるから乗れ」

 

 しょうがないので、背中を貸してやる事にした。

 

「な、ななな何ですの!? 疲れてる今のわたくしなら攻略難易度が低いって思ったら大間違いですわ!」 

 

 いや攻略難易度ってなんだよ。俺はギャルゲーで魔王ルートを選ぶ様な恐れ知らずじゃないぞ。

 

「そうか? ちょっと待てろ、ゴブタニ呼んd」

 

「仕方ないですわ! マスターの背中で我慢してあげますわ!」

 

 コイツも中々素直じゃないよな……。

 ルーメリアがちゃんと乗ったのを確認し、足をガッチリホールドする。

 

「マスター。わたくし、ヴァンパイアのお姫様ですのよ」

 

「…………お姫様抱っこなんかしないからな。カマクラかゴブタニにして貰え」

 

 さっきまでのツンデレムーヴはどうなったんだよ。

 

「む~、マスターにはロマンが足りないんですのよ」

 

「生憎ロマンとはほぼ無縁の人生だったからな」

 

 俺はロマンを高校時代に使い果たしたと言っても過言ではない。と言うよりアラサーでロマンを持って生きてる奴のが少数だ。

 

「あ!ルーお姉ちゃんとあるじ様がイチャイチャしてる!」

 

 俺におんぶされてるルーメリアを見て、羨ましいのかタマエはぷくーっと頬を膨らませる。

 

「そうですわタマエ。これはマスターが背中を使ってわたくしとセック……」

 

「おい、デザート抜きにされたくないならそれ以上は言うな」

 

 油断も隙もねぇなこの魔王。見張っておかないとタマエに変な性知識を吹込みそうで怖いわ。

 

「あるじ様あるじ様、私もおんぶ!」

 

「任せろタマエ! 帰ったらお姫様抱っこしてやる!」

 

 サービス宣言をすると、何故か後ろから首に圧力が加わって来た。

 うぅ、苦しい! 駄王の仕業か!

 

「うぎゃ、ひゃ、ひゃなせ!」

 

「わたくしとタマエの扱いが違いますわ!」

 

「わきゃったから、きゃえったらしゅるから!」

 

 ルーメリアの手を叩きながら降伏してやると、「分かれば良いんですのよ」と言いながら首から手を離してくれた。危なくレッドオーガス君みたいに土ペロするとこだったわ。 

 

 こうして俺達は最終階層から、七階層を目指した。

 

 って、おいこらルーメリア! 俺の首から吸血するな! あー!キスマークみたいなのが付いちまったじゃねえか!

 

♢ ♢ ♢

 

 いま目の前でルーメリアが光を帯びて輝いてる。

 七階層の比較的安全な場所辿り着いたから野営準備を済まして、全員で晩飯を食べ終えた。その後にルーメリアがデザートとして、レッドオーガス君の魔石を食べたら輝き出したのだ。

 普通なら魔王が進化するとか、絶望しかないが。この魔王はライトサイドだから問題無い。本当に問題無いよね? 八幡ちょっと自信ないよ。

 

 光が収束すると、ルーメリアの姿が顕わになった。

 

「おお、成長したな」

 

 幼女だったのが、中学生ぐらいの少女になった。容姿も可愛いから綺麗寄りになり、最初出会った頃の幻想的な美しさに近づきつつある。因みにどこがとは言わないが、発育も少女にしてはそれなりに良い。

 

ネーム:ルーメリアLv10(亜成体)

種族:トゥルーヴァンパイアプリンセス

スキル

【異世界言語】

【操血魔法】

【魔力感知】

【状態異常無効】

【マジックドレイン】

 

称号

【戦血の魔王】【勇者殺し】【神殺し】

 

ステータス

生命力:1300/1300

魔力量:1300/1300

筋力 :+1300

耐久力:+1300

敏捷力:+1300

知力 :+1300

 

 モンスターブックを呼び寄せ、確認する。

 なんだろうな……。もう世界征服しちゃって下さいって感じだわ。

 マジックドレインとか魔力量が半永久的じゃねえか。

 

「どうですかマスター? この美しさには流石のマスターもイ・チ・コ・ロ♡」

 

 なんかコイツ、俺をチョロインと勘違いしてないか? めっちゃ可愛いぐらいじゃ惚れないんだからね!

 

「ルーお姉ちゃん凄く可愛い!」

 

「プルプル」

訳:魔王様可愛い

 

「ゴブ……」

訳:お嬢が余計に調子に乗りそうだ……

 

 大丈夫だゴブタニ、俺もお前と同じ気持ちだ。

 にしてもルーメリアの奴、チヤホヤされて嬉しそうだな。つけ上がらないように心を鬼ぃちゃんにすべきかもしれないな。

 

「進化おめでとうさん。これからは風呂には俺抜きで入れよ」

 

「は?」

 

「は?」

 

 驚き過ぎてついルーメリアに、そのまま同じ反応を返してしまった。

 待て待て、俺が間違ってるのか? 小町が同じぐらいの背丈の時なんか、俺と一緒に風呂入るぐらいなら死んでやるとか言ってたぞ。因みに俺が入った後のお湯もわざわざ変えるまでがセットな。あの時は流石の俺も枕を涙で濡らしたぞ。思春期の妹マジで容赦ねぇ。

 

「誰がわたくしの髪を洗うんですの!」

 

「知らねえよ。大体、今のお前と入ると目のやり場に困りそうだから嫌なんだよ」

 

「ほほぉ、わたくしに欲情して、そのまま浴室でお互いを獣の如く貪り合うのを恐れてるんですのね。なんてハレンチな!」

 

 ハレンチなのはお前の残念な妄想力だよ。

 

「ハイハイ、ハレンチハレンチ。兎に角、今後は一人で入るか、タマエと一緒に入れよ」

 

「イヤですのイヤですのイヤですのイヤですの! マスターに洗って欲しいんですの!」

 

 ルーメリアが俺の袖を引っ張りながら駄々をこねるせいで、他の従魔達の目が痛い。そんな目で見るなよお前ら、つい世界を滅ぼしたくなるだろ。良く今まで闇墜ちせずに済んだな俺。まあリストラされて富津に田舎墜ちしたんですけどね。待てよ、墜ちた筈なのに家族は若返るし、新しい家族も沢山出来たぞ。なるほど、田舎墜ちは幸せへの伏線だったのか!

 

「ダ・メ・だ。そもそも何で俺が洗わなきゃイケねえんだよ……」

 

「ふふん、マスターにわたくしの髪を洗わせる事で、わたくしの征服欲が満たされるんですのよ」

 

「…………はい解散解散」

 

「待って下さい! 軽いヴァンパイアジョークですわ! これからも一緒に仲良く入りましょうお兄様♡」

 

お兄様……お兄様……お兄様……。

しまった! 頭の中でお兄様呼びが反響するぐらいには、お兄ちゃんグッときちゃいました! まさかルーメリアの奴、俺の攻略パターンを分析済みなのか。ルーメリアなんて恐ろしい子!

 

「分かったよ、考えとくからもう寝かせてくれ」

 

 まさか俺が折れる羽目になるとはな。改めて一緒に入らない為の言い訳を考えなくてはな。

 

 二つある内の青い方のテントに入って寝袋に潜る。

 もう今日は精神的に疲れた。マジでレッドオーガス君怖かったわ。魔王のせいで土ペロしてけどな。

 次第に眠気が襲ってくる中、明日の予定が脳によぎる。

 明日には我が家に帰れるぜヒャッホー!

 

♢ ♢ ♢

 

「タマエ、そいつを結界術で囲ってくれ! ソフィーは【粘性液】で動きを止めてやれ!」

 

「結界術・堅牢陣!」「プルプル!」

 

「ギミ!? ギミィギミィ!」

 

 跳ね回っていた宝箱型モンスターが、結界に閉じ込められた上に【粘性液】で身動き出来ない状態に陥った。

 いま二階層で取り押さえた相手は宝箱型モンスターのミミック。帰り道の途中でコイツに出会えたのは僥倖であった。色違いの伝説ポケモンと遭遇するより遥かに確率が低いと言われてるぐらいだからな。多分だが、カマクラのスキル【招福】のお陰だと思われる。

 それに、ミミックは倒すと確実にレアアイテムをドロップするとも言われてるらしい。

 

「捕まえたか、タマエは結界を解いてくれ。ルーメリア、念の為に血の鎖でグルグル巻きにしてやれ」

 

「ブラッドチェーン!」

 

 結界が解かれたので近づく。本来なら倒してレアアイテムを狙うのがセオリー。だが、俺はレアアイテムなんかより欲しい物がある。

 

「あるじ様、倒さないんですか……?」

 

「いや、俺はコイツをテイムする」

 

「正気ですの? 噛み付きしか能のない魔物ですわよ?」

 

「良いんだ。レアモンスターを前にしたらテイムしたくなるのが従魔士ってモンだろ」

 

 空間収納から魔石を二個取り出し、魔力を流し込む。

 うちの従魔達が戦闘だけじゃなく、捕獲にも優れてるのは新たな発見だったわ。

 

「手荒な真似して悪かったな。お詫びに魔石食うか?」

 

 目の前に魔石を置いてやると鎖の隙間から舌を伸ばして、魔石を絡め取って飲み込んだ。

 舌めっちゃ伸びるなコイツ。ちょっとキモイ。

 もう一つ追加で置くと、先程と同様に飲み込んでくれた。

 

「ようこそ世界一の鎌谷幕府(ホワイトカンパニー)へ。【テイム】!!」

 

 ミミックは一瞬ピクッとすると直ぐに落ち着いた。ルーメリアに鎖を解くように指示して、手を伸ばして撫でてみる。

 

「一緒に付いてきてくれるか?」

 

「ミィ~」

 

 返事代わりに顔を思いきっし舐められた。どうやら仲間になってくれたようだ。

 名前はどうするか。宝箱だから、トレジャー? うーん安直だな。宝ってワードから連想してみるか。

 宝と言ったら黄金……。そうか、黄金だ!

 

「よろしくな、エルラン」

 

名前の由来は南アメリカにある伝説上の黄金郷(エルドラド)

 

「ミィ、ミィ!」

 

 跳ね回り始めた。

 どうやら気に入ってくれたようだ。どれ、モンスターブックで確認してみるか。

 

ネーム:エルランLv2

種族:ミミック(ボックスタイプ)

スキル

【パラライズバイト】

 

ステータス

生命力:140/140

魔力量:70/70

筋力 :+110 

耐久力:+310

敏捷力:+220

知力 :+80

 

 頑丈さが売りのようだ。【パラライズバイト】は嚙み付く時に麻痺を付与するようだな。

 確認をしてると、脳に情報が走った。

 

 従魔士Lv6→従魔士Lv7。

 【モンスターズシフト】

 

 お、来たぞ俺の新スキル!

 えーと、視界に入ってる従魔二体を対象に位置を入れ替えるのか。

 

「モンスターズシフト!」

 

「ニャ?」「プル?」

 

 試しにカマクラとソフィーの位置を入れ替えてみた。

 これは中々に悪さが出来そうなスキルだな、ククッ

 

「なら次はルーメリアとタマエを対象に、シャンブルズ」

 

「「……」」

 

 やはり何も起きないか。なんかタマエとルーメリアからの視線が痛いんですけど……。

 うん、分かってたよ、シャンブルズって言ってみたかっただけだから。ちょっとカッコつけたって良いだろう!

 

 内心悶えてると背中を軽く叩かれた。

 

「ゴブゴブ」

訳:旦那もそう言うお年頃なんすね

 

 この野郎、ニヤニヤしやがって。

 

「…………お前にあげたグラビアアイドルの写真集は没収な」

 

「ゴブ!?」

訳:噓だろ!?

 

 こうして人生に新たな黒歴史を作った俺は帰路についた。

 

♢ ♢ ♢

 

 愛しの我が家に着いた俺は、スマホを見ながら戸惑っている。

 着信件数が六件も溜まっているのだ。六件の内三件は小町。後の三件は知らない番号だ。

 シラ番は推察するに、俺と小町の共通の知人の可能性が高い。なので総武高関係者に違いない。

 実は社会人一年目の新入社員研修の時に俺のスマホは壊れてしまっている。

 新入社員研修は人里離れた研修所に10日間も缶詰にされた。

 先ずは同期の前で大声で社訓を読まされる。この際、誰か一人が読み間違えると連帯責任で全員やり直しになる。

 朝早くから、ほふく前進もさせられた。このほふく前進のせいでポケットに入ってたスマホがシャカったのだ。今の時代にほふく前進する意味が全く分からなかったぞ。やはりブラック企業は滅びた方が良いな。

 何が言いたいかと言うとだな、高校の頃の知人の連絡先が全部飛んでしまったんだ。

 

 かけ直すべきか否か、と考えてる時だった、

 

『必ず〜出会うから〜♪』

 

 タイムリーに掛かって来ちゃったよ! 知らない奴だったら切れば良いか。 

 

「もしm……」

 

『あ、やっと出た! やっはろーヒッキー、久しぶり!』

 

 この声、このアホみたいの挨拶……

 

「お前、由比ヶ浜か……?」

 

『え、そうだよ。あたし高校の頃、ヒッキーと電話番号交換しなかったっけ?』

 

「ちょっと色々あってな……。てか大学ぶりだな。小町から聞いたぞ、結婚おめでとうさん」

 

『ありがとうヒッキー!凄く嬉しい!』

 

「お、おう。で、何か用があるのか? 惚気話だけなら呪うぞ」

 

『もー呪うとか、ヒッキー相変わらず物騒だよ』

 

 物騒とは失礼な、俺の呪いは相手をぼっちにするだけだ。ぼっちは良いぞ、誰とも関わらないから毎日が平和だ。どうだ、凄く平和的な呪いだろ。

  

『でさでさ、小町ちゃんから聞いたんだけど、ヒッキーって魔物に詳しいんだよね?』

 

 小町の奴、何を吹き込んだ……。

 

「……なぁ由比ヶ浜、小町から何て聞いたんだ?」

 

『なんか、ヒッキーが魔物博士になったって聞いたよ』

 

 妹よ、従魔士は魔物博士じゃないぞ……。あと俺は魔生物に関して全く詳しくない。俺の知識レベルなんか、そこら辺にいる探索者と一緒だ。

 

「それ以外は何か聞いたか?」

 

『うん? 特に何も。そもそも小町ちゃんとちょっとしか電話してないし』

 

 配信の事は言って無さそうで良かったわ。同級生に嫁ニキとか呼ばれてる配信を見られたら、うっかり死にたくなりそだ。

 

「オーケー、魔物に関して何が知りたいんだ? 力になれるかは分からないが、相談ぐらいなら乗るぞ」

 

『ヒッキーありがとう! えーとね、信じて貰えるか分からないけど──』

 

──サブレが若返って家で暴れだしたの

 

「は? 今なんて言った!?」

 

『だからね! サブレがいきなり若返って暴れだしたの!』

 

orz……。なんて事だ、身に覚えのある現象じゃねえか。これは本格的に俺が動いた方が良さそうだな。何よりサブローが元気そうで良かったよ!

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
この話で第一章・従魔邂逅編が終わりました

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